IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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新年初の投稿です。
読者のみなさん、2016年も本作をよろしくお願いします。


第150話 放たれた矢

 開幕の合図と共に戦闘に躍り出たのは、紅也が駆るターンデルタであった。

 防御と推進力を兼ねた翼を持つこの機体の真骨頂は、先行逃げ切り。背面からの攻撃が届かないのだから、エネルギー切れを気にしないのであれば最も有効な戦術であるのは疑う余地の無い事実だ。

 

「このまま一気に……とは行かねぇか」

 

 こうして記すのであれば万能かのように見えるターンデルタだが、当然弱点は存在する。

 「逃げ切り」という作戦を選んだことから明らかなように、正面からの攻撃を防ぐためにはシールドを使い、きちんと防御する必要があるのだ。

 例えば、進路上に割り込むように攻撃を加えた場合――ダメージを受けるわけにはいかないため、進路の変更や防御といった、ワンアクションを挟む必要がある。そしてそれは、超音速の世界では大きな隙となるものだ。

 

 彼の視界を遮るように放たれたのは、威力よりも貫通力、連射力を重視した荷電粒子の弾丸であった。後方に意識を飛ばして見ると、彼の背中に張り付くように飛翔形態の打鉄弐式が迫っていた。翼を畳んだ鷹を連想させるその機体は、紅也のわずかな減速を感じとるや否や、複数のミサイルをバラ巻き始めた。

 

「くそっ……こちとら非PS装甲機だってのに……!」

「知って、る……でも、止めない」

 

 恩人であるとか、恋焦がれる相手であるとか、そういった事情は一時的に封印する。自分と紅也と、協力してくれた大勢に。そしてこの場に集まった世界中の人々に、完成した打鉄弐式を見せつけるために。簪は一位を目指し、全力で挑んでいた。

 

 しかし、この戦いは、彼ら二人だけのものではない。

 

 

 

 

 

 

 ターンデルタに続き、飛び出した打鉄弐式。その後方では、激しいデッドヒートが繰り広げられていた。

 

 ストライク・ガンナーを装着し、ビットを封印する代わりに多大な加速力を得るブルーティアーズ。

 新開発の高機動パッケージ“(フェン)”を使い、加速と最高速度を大幅に向上させた甲龍。

 系列機である「シュヴァルツェア・ツヴァイク」用の高機動パッケージを用い、自身の能力を存分に生かして駆け抜けるシュヴァルツェア・レーゲン。

 

 英・中・独の威信をかけて開発された第三世代機たちは、互いを牽制し合い、コース上にひとつの“壁”を作っていた。

 そのため本来は打鉄弐式と同程度の加速力を誇る白式弐式や、他の機体の追随を許さない紅椿もまた、最前線に食い込めずにいたのだ。

 

「! 隙あ……うおっ!?」

 

 弾幕の間隙を見つけ、瞬時加速で前に出ようとした一夏は、その場に設置された見えない網(AIC)に絡めとられ、間をおかず衝撃砲の直撃を受ける。

 二人の意識の隙を付き、セシリアが前に出たかと思うと、レールカノンの弾丸に割り込まれ、思うような加速ができない。

 それを好機と見た鈴が突出したかと思いきや、すぐさま体勢を立て直したセシリアがお返しとばかりに大型BTレーザーライフル〈ブルー・ピアス〉を放ち、脚部をわずかに焼き切る。

 ラウラも、二人を相手にしていてはAICをうまく使うことができない。かつて戦ったときと比べて、セシリアと鈴の力は確実にレベルアップしていた。そのうえ、少しでも隙を見せると一夏の白式弐式が今の様な強引な突破を狙ってくるのだ。そちらに気を取られ過ぎれば残りの二機に隙を晒すことになる。

 

 一方、箒の紅椿は攻撃らしい攻撃もせず、不気味な沈黙を保っていた。攻撃の全てを捨て、彼らの観察に専念、そして反撃に移るタイミングを計っているのは、誰の目にも明らかだ。

 第四世代機にして、専用機の中では最大の攻撃力を誇る紅椿。それを無視することができるほど、先を行く三人は能天気ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 彼らから僅かに遅れた機体が二機。

 それは青と橙の装甲を持つ、モルゲンレーテのASTRAY――ブルーフレームと、オレンジフレームであった。

 葵のブルーフレームには大型の、装飾過多とも思える迷彩色のブースターが、シャルのオレンジフレームにはかつてのレッドフレームと同じ、M1シリーズと共通のブースターがそれぞれ装着されていた。

 どちらも直線での加速性能に優れてはいるが、性能としては第三世代装備にはやや劣るものであり、今無理をして先頭に立ったところでコーナーに差し掛かった時点で抜かれてしまうのは自明の理であった。

 彼女たちが勝負をかけるのは、最後の直線コース。そのためこの場ではエネルギーを温存し、静かに勝負の時を待っている――はずがなかった。

 

「さて、見せてもらいましょう!新しいASTRAYの性能とやらを!」

「第一形態だからって、甘く見てもらっちゃ困るよ!基本性能はこっちの方が上なんだから!」

 

 エネルギー消費を抑えるため、互いに実弾をばらまき合い、少しでも互いのエネルギーを削って優位に立とうとする。どちらも全身装甲機であるため1、2発でダメージを受けることはないが、装甲が削れたら身を守る手段は絶対防御しかない。それを知っているからこそ、彼らは威力よりも手数を選んだ。

 

 自由自在に飛び回る〈タクティカルアームズ〉を時に剣として、時に砲台として使い分けるブルーフレームセカンドK。

 両肩のシールドソードに内蔵されたガトリングと、変幻自在な武器を使って弾丸をばらまくオレンジフレーム。

 抜きつ抜かれつを繰り返していた二機は、先頭グループが第一コーナーに侵入するや否や示し合わせたかのように戦闘を中止し、ターゲットを変更した。

 

 

 

 

 

 

 簪に抜かれない程度に減速し、回避は俺、防御はコア、最低限の迎撃を8に任せるという分担で第一コーナーに到達すると、後方から何かが飛んできた。

 最初の一射はレーザーだ。粒子がドリルのように回転しているということは、セシリアのスパイラル・バレットか。今の出力では抜かれる可能性があると判断したのか、ターンデルタのエネルギーの再配分が行われ、本体のエネルギーを消費して翼が密度を増す。

 続いて飛んできたのは、大出力の荷電粒子砲。セシリアの攻撃を予測していた簪が、今までチャージしていた極大の粒子を、一気に解き放ったのだ。指向性を与えられた圧倒的な破壊の渦が、ターンデルタを呑み込もうとする。

 

「が……当たらなければどうということはない!」

 

 左右の出力差を変更し、空を舞うようにくるりと軸をずらし、砲撃から逃れる。

 しかし……砲撃は囮だったようだ。一斉にバラ撒かれた八式弾の嵐が、前後左右あらゆる場所へと降りそそぎ、ターンデルタの装甲を抉っていく。

 

「ちっ……!」

 

 今ので右肩と左脚を吹き飛ばされた。バックパックとカレトヴルッフこそ無事だが、一時的に推力のバランスが大きく崩れる。

 

「やった……!」

 

 体勢を立て直す俺を尻目に、簪が一歩前に躍り出る。

 でも、忘れてないか?今の攻撃をするために、お前もだいぶスピードが落ちてる。それを見逃すほど、専用機持ち達は甘くないぞ?

 

 俺を抜いた、という油断から無防備な側面を晒した簪に撃ちこまれたのは、収束を強めることにより威力と正確性を増したビームだった。はるか後方――ブルーフレームが握るスナイパーライフルから放たれた光の弾丸はウイングスラスターの一基を貫通し、簪本人にも着弾した。

 痛みに呻く簪が機体の制御を手放した一瞬。高速旋回中にスラスターを損傷したことで打鉄弐式は大きく姿勢を崩し、地表へと落下していった。

 

「油断大敵……っ!?」

「ちっ、防がれたか!」

 

 わざわざ後方に攻撃を加えたのは、どうやらラウラであるらしかった。不意をついてのレールガンでの一撃は、葵が咄嗟に呼び寄せたタクティカルアームズにより防がれる。

 しかしこの防御により葵は視界を遮られ、一時的に狙撃が止む。

 

 ――その隙を狙って、真紅の稲妻が駆け抜けた。

 

「はあぁぁぁっ!」

 

 沈黙を保っていた紅椿のスラスターに、爆発的な光が宿る。彼女を阻む三すくみが崩れた今こそが、彼女の勝機。

 

 しかし、隙を窺っていた者は、もう一人存在していた。

 

「今だっ!」

 

 気合の乗った叫びと共に、白式弐式の左腕から放たれたのは荷電粒子砲。箒が飛び込んだコースに勝機を見出したのは、一夏もまた同じであったのだ。

 先程の簪の一撃を見ていたセシリアと鈴音は、同じ倉持技研により開発された白式弐式の一撃に脅威を覚え、回避を選択する。それは、彼女たちの間を強引に突破しようとしていた箒も同じであるかのように思えた。

 

 

 

 

 

 

 迫る一条の光を知覚しながら、篠ノ之箒は考える。

 あのときも、そうだった。放たれた一撃と、それを避けられない自分。そして身代わりとなり、左腕を失った一人の男。

 

 箒は自問する。

 力が足りなかった。力が欲しかった。だから、自分はどうしたのか?

 

 求めたのだ、それを。あと一歩に届くための力を。

 誰かではなく、自分の内に。そうしたら、不思議なことに力が湧いて来た。

 

 あとは、きっかけだけだ。

 あのときと同じ、危機的状況。あの日のトラウマを、今度こそ――!

 

 僅かに湧き上がった恐怖をねじ伏せると同時、紅色の機体が黄金の輝きを宿す。

 それは間違いなく、あの日手にした“力”のカケラだと確信できた。

 

「絢爛……舞踏!」

 

 叫びと同時に、機体にエネルギーが満ちていく。加速により消費したエネルギーが瞬く間に回復し、沈黙した展開装甲に再び命を吹き込んだ。

 

(シフト3……攻撃0、防御8、速度2――敵中突破形態!)

 

 予め組まれたパターンに従い、展開装甲が背面に円形の盾を作り出す。

 砲撃が紅椿に直撃したのは、その直後であった。

 

 

 

 

 

 

「ライトクロフト・プロパルジョンだと!?」

 

 一夏の砲撃に呑み込まれ、あわや脱落かと思われた箒は、なんと背部に“光の盾”を形成し、砲撃を推力に変えて超加速を果たした。

 進路を開けたセシリア、鈴音を抜き去り、直後に飛来したワイヤーブレードが届くより速くラウラから逃げおおせ、シャルの〈MCハンドガン〉から放たれたビームも、箒を捉えることは出来なかった。

 そして、ようやく体勢を立て直した俺をも置き去りにして、紅椿は射線から逃れた。展開装甲が形を変え、本来の速度での加速を行う。

 

(あれはデフォルトだな。攻撃3、防御3、速度4というところか?)

 

 既に十分な速度の乗った紅椿に、これ以上の加速は不要だ。〈雨月〉を後方に突き出し、ビームの散弾を散らして俺を牽制しながらも、見事な姿勢制御を披露する彼女の姿を見て、会場のボルテージは最高潮に達しただろう。

 

 ともかく、第一コーナーは俺の負けだ。逃げ切れると思ったが、それだけでは甘かった。

 なら、ここから先は追い上げるだけだ!

 

 コーナーを抜け、再びの直線。通過順位は一位が箒、二位は俺、三位は一夏とラウラがほぼ同時。その後ろにセシリア、鈴音、シャル子がまとまっており、最後尾に簪と葵。葵は最後の直線に勝負をかける気だろうが、飛翔形態への変形が不可能となった簪がそこから追い上げるのは不可能だろう。その分、後方から攻撃して脱落者を増やそうとするはずだから、かえって注意が必要になりそうだ。

 

 箒を先頭として一列になった俺たち。俺の背面への射撃は無駄だと悟っているのか、後方の7機の攻撃は紅椿に集中しており、俺は回避に専念するだけでも十分そうだった。

 

「あっ、ラウラ、こらっ!」

「おっと、先に行くぞ」

 

 余分なことを考えていたのがいけなかったのか、突如として自由を奪われるターンデルタ。気配を消して巧妙に背後に迫り、俺を風よけに使っていたラウラがAICを発動し、硬直の隙をついて二番手に躍り出たのだ。

 

「なろっ……!」

「遅いぜ、紅也!」

 

 さらにラウラの美尻に張り付いていた一夏による爪の一振りで、ターンデルタはコースラインを大きく逸れる。――こないだの意趣返しか、このヤロウ!

 再び体勢を立て直している間に、後続機が次々に俺の抜けた穴を埋めていく。

 

 レーザー、キャノン、荷電粒子砲など物騒な攻撃が飛び交うトップ争いの中に撃ちこまれる、不可視の弾丸やビームの嵐。最後方から放たれた無数のミサイルが緑色の光に貫かれたと思いきや、爆炎の中から凶悪な爪が飛び出し、日本刀やプラズマの刃と斬り結ぶ。それに紛れて降りそそぐ多種多様な弾丸の雨を抜けた先で、見えない一撃を受け離脱する。

 

 そんな大混戦は収まることを知らず、花火と喧嘩で盛り上がる戦場から、俺だけが取り残さる。

 

 ――そんなの、耐えきれるか?

 

 答えは、当然ノーだ。

 〈カレトヴルッフ〉を収納(クローズ)した俺は、再び先頭集団に殴りこむ(・・・・)ために、新たな部品(パーツ)を呼び出した。

 

 

 

 

 

 

 二度の撃墜により最下位にまで転落した「レッドフレーム・ターンデルタ」が姿勢を立て直したのを、確かに私は見た。

 

 両腕が光に包まれ、新たな腕が構成されていくのも、戦闘しながら確認していた。

 

 そして気がついたら、背部のスラスターを殴られていた。

 

「……ッチ!やっぱPS装甲は抜けねぇか」

 

 そんな捨て台詞を残して飛び去る、光の翼を持つ機体。その動きを確認した直後、私の前で衝撃砲を連射し、シャルロットを狙っていた鈴音が赤い弾丸に弾かれ、大きく高度を下げた。

 

 ……紅也、バッテリーだけじゃなくて本体のエネルギーも〈ヴォワチュール・リュミエール〉に注いでいるわね。不足した攻撃力は、補給パーツ一式の中に含まれてた“あの装備”で補ってるみたい。

 誰よりも速く近付いて、致命的な一撃を加える。まるで、昔の一夏みたいね。

 

 衝撃砲を避けて横にロールしたセシリアを抜き去り、紅也はラウラに追いすがる。一夏や箒と三つ巴の格闘戦を繰り広げながらも周囲を観察していた彼女は、すぐに後方の異変に気付いたみたい。ワイヤーブレードを振りまわして二人を弾き飛ばすと、虚空に向けてプラズマの刃を振りかぶった。

 

「甘い……なぁっ!?」

「動きを読まれた……が、パワーが足りん!」

 

 拮抗は一瞬。ターンデルタの“鉄拳”によりプラズマ手刀はかち上げられ、無防備な胴体に全力の左が打ちこまれる。

 しかしラウラもさるもので、AICと手刀を併用した防御によって、今度こそ拮抗状態を作り出すことに成功した。さらに紅也に押されることで自身も加速を得るなど、非常にちゃっかりとしている。

 

「二度も読まれた!」

「ふっ……こちらにも優秀なサポートが付いているからな!」

 

 今までよりも格段に速度を落としたことで、ようやく全員がターンデルタの異常――否、異形に気付く。

 

「なんだよ、その腕……俺のよりデケェ……」

「AICが押されている……。桁外れの力だな」

「ただ、近付いて……殴るだけ。でも……それで、十分」

「まさか、パワーシリンダー!?もう実用化してたなんて……」

「あんなものまで……。相変わらず、デタラメな企業ですわね!」

 

 従来のレッドフレームを継承し、すらっとしていたターンデルタの両腕。

 それらは今、まるで鍛え抜かれたボディビルダーの筋肉のように膨れ上がっていた。前の腕が枝だとするなら、今の腕はまるで丸太だ。

 

 ――あれは、パワーシリンダー。本来のレッドフレームの最大かつ最強の武装を使用するために開発された、規格外の出力と耐久性を持つ新たな腕。

 

 それらを装備したターンデルタの現在の形態は、通称「パワードレッド・ターンデルタ」。既存ISの常識を越えた出力から生み出される拳の一撃の破壊力もまた、当然の如く規格外。カタログスペック上では、甲龍の両腕をまとめて粉砕できるくらいの力は持っている。

 

 さて、一撃を受け止めたラウラだったけど、本命の右ストレートまでは防ぎきれずあえなく撃沈。巻き添えをくらった一夏もまた、視界からフェードアウトしていく。

 

「もう戻ってきたのか……流石だな、紅也!」

「へん、箒こそ!まさかこの形態(パワードレッド)を解禁することになるとは思わなかったぜ!」

 

 二人を脱落させた紅也が最後に狙ったのは、トップを走る箒だ。

 振り上げた拳が放たれる。しかし箒は展開装甲をマニュアル操作すると、拳のすぐそばに盾を展開。勢いが乗る前の一撃は、エネルギーの膜を貫くことは出来なかった。

 続けて右腕を振りかぶった紅也だったけど、何かを感じ取ったのか突如として左にバレルロールを行う。直後、かつて右腕が存在したその空間を、紅色のレーザーが薙ぎ払った。

 

「これを避けるか!」

「へん!誰かさんとの特訓のお陰でな!」

 

 ……なんか、面白くない。

 

 バックパックから二門のレーザー砲台がせり上がる。同時にスナイパーライフルも構え直し、操作しきれないタクティカルアームズは収納。ワン・インチ・キョリでの戦いを続ける二人に向かって一斉射撃を行った。

 攻撃を防ぐため、二機は防御にエネルギーを回す。レーザーは箒のシールドと紅也の翼に阻まれたけど、このビームは……甘くない。

 

「「なっ!?」」

 

 驚愕の声を上げたのは、直撃コースになかったはずのビームで被弾した箒と、漁夫の利を狙おうと距離を詰めていたセシリアだ。

 二人の驚愕は無理もない。

 

 だって、私のこの装備は。スナイパーパックの一部であるライフルは。

 

 わずかではあるが、ビームを曲げることができるのだから。

 

(……とはいえ、スナイパーライフル単体で呼びだすと排熱がうまくいかないから、連射はできないんだけどね)

 

 思わぬところで「伏せ札」を一枚きってしまったけど、その成果は十二分に発揮された。

 体勢を崩した箒には紅也が、動揺して後方への注意がおろそかになったセシリアにはシャルロットが、それぞれ一撃を当てて二人を下がらせたのだから。

 

 ――これでトップ層はがらりと変わり、紅也、シャルロット、私のASTRAY組が上位を占有する。

 

 私の後ろにはセシリアと箒、その後ろで鈴音と一夏とラウラがしのぎを削り、最後尾に簪が続く。

 

「よおーッ!葵!シャル子も来たのかよ!……はッはッ嬉しいぜ!」

「負けるのがそんなに嬉しいの、紅也!」

「悪いけど一夏の前だし、今日は勝たせて貰うよ!」

 

 私はスナイパーライフルを収納し、代わりに接近戦でも取りまわしやすい二丁拳銃を具現化する。隣を駆けるシャルロットもショットガンとビームサーベル、そして非固定浮遊部位のシールドソードを準備して、インファイトの体勢だ。

 

「ちっ……小回りの利かないコイツじゃ無理か」

 

 紅也もまた一瞬で「ターンデルタ」を元の形態に戻し、ビームサーベルとガーベラストレートの変則的二刀流でこちらの相手をするらしい。ヴォワチュール・リュミエールと本体とのエネルギーラインを閉じて、本来の装備であるビームを解禁したようだ。

 

 三人が、示し合わせたように格闘戦の姿勢を取る。もつれ合うように最終コーナーになだれ込んだ私たちは、各々が握る獲物に力を込めた。

 

 オレンジフレームからガトリングの嵐が巻き起これば、ビームサーベルの刀身を伸ばしたターンデルタがシールドソードを貫く。ターンデルタのバックパックからピンク色の刀身が伸びたら、ブルーフレームがハンドガンで発振器を正確に破壊する。続いて向かってきた散弾と日本刀は、眼前に呼びだしたタクティカルアームズで防ぎ、つま先のナイフでターンデルタの右腕を刺す。

 

 後方から加えられる妨害も防ぎつつ、スタート地点を再び通過したころに、異変は起こった。

 

 ターンデルタが突如として光の翼を広げ、私たちを包んだ。

 直後に私たちの真上――つまり、コースの外から放たれた光が翼と激突し、光の粒となって散る。

 

 ――それを認識したとき、私は迷うことなくバックパックを“変形”させた。


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