ジェス・レポート5
M.B.F-P02――メイン・バトル・フィギュア・プロト02の型番が示す通り、レッドフレームは、のちに開発された第三世代相当量産機『M1アストレイ』の試作機である。予備パーツこそ存在するものの、後に続く量産機の開発という役割を終えたレッドフレームは修復されることなく解体され、歴史の表舞台から姿を消した。
代わってコウヤの専用機となった機体が、現在実用化に向けた研究が進められている次世代推進機構〈ヴォワチュール・リュミエール〉を搭載した実験機、『デルタアストレイ』(※1)であった。在りし日のモルゲンレーテが生み出した
とある筋からの情報によると、この『デルタアストレイ』はISコアを搭載したれっきとしたISであり、この機体を得たことで彼は初めて男性IS操縦者になったという。待機形態の変化や絶対防御の発動、そして単一使用能力の発現など、当時の情報を集めてみると確かにそれは事実であったようだ(カイトに言われて気づいたが、そうでなければ彼はまだ、技術者であり続けたはずだ)。
ISとして当たり前の機能が使えなかったパワードスーツ『レッドフレーム』を長年使い続けた紅也が自然に身に着けた見切りや戦闘センスは、それを生かせるIS『デルタアストレイ』を得たことで開花し、彼を最強クラスの操縦者へと成長させることになる(そもそも彼はあの『天空の皇女』アオイ・ヤマシロの双子の兄であり、出自も特殊だ。成長というよりは、本来の力を発揮した、というのが正確だろう)。
(数行空いているが、消された文章がわずかに読める。だいたい確認されてる男性IS操縦者は、3人とも強すぎるんだよなぁ。単一使用能力まで使ったら、あのブリュンヒルデですら一方的に負けるかも。でもコウヤは、尻に敷かれてる感じだし……)
コウヤの成長を皮切りに、当時のIS学園所属の専用機持ちたちは次々に能力を開花させていき、今では誰もかれもが一流と呼ばれる操縦者になっている。そのきっかけとなったのが、先に述べた一年次の学園祭で起こった襲撃事件だ。どうしようもない挫折の先にあった、突然の別れ。日本では、男子三日会わざれば、という言葉があるが、それは女子でも同じだったようだ。
ところで、前のレポートで触れた、亡国機業の目的について覚えているだろうか?
表ざたにされてはいないが、この事件において彼らは目的の半分——『白式』の強奪を果たしていたのだ。そうなると、次の標的は専用機という守りを失った織斑一夏となるはずであった。
しかし実際は、この事件を機に、彼らの行動方針は明らかに変化を始めていたのだ。
これから語る『キャノンボール・ファスト襲撃事件』において、コウヤはそれを思い知ることになる。
※1 あくまで初期の、というか本来の名称である。改修や形態移行を重ねたこの機体は、現在世界で最も有名なISとして知られている。