IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第131話 葵、戦闘の天才

 エネルギー残量17、右腕損傷甚大、スラスター破損。

 デルタの状態は満身創痍。あと一発でも攻撃を受けたらアウトだ。

 

 だが……それがどうした?

 

 レッドフレームを使ってたときも、生身の部分に攻撃を喰らったら即死亡だったんだ。この程度、逆境でも何でもない。

 狙いは、赤い機体の右足だ。生身の部分にガーベラを当てれば、絶対防御が発動してエネルギー切れになる。

 そうでなくても、敵の機体は非PS装甲機。上手く当てれば、一撃で戦闘不能にすることだってできる。

 

 ……やって、やろうじゃねぇの。

 

 

 

 

 

 

 時間は少しだけ遡る。

 

〈side:山代 葵〉

 

 目の前に立つデュエルが、全ての火器を一斉に発射する。

 まずはレールガン。直撃狙いだったのか、ブルーフレームの胴体を狙ったコースだ。

 もちろん、真っ直ぐ飛ぶだけのレールガンなんて、発射前に銃身の向きを見てれば回避できる。ビームを避けるよりよっぽど楽。

 それとほぼ同じタイミングで、脚部装甲に外付けされたミサイルポッド――あれって、確かN.G.I製第二世代IS、ジンが装備してる奴よね?――から6つのミサイルが放たれた。

 そのうち2基は、レールガンを回避した私を追尾する直撃コース。残りは、私の逃げ道を塞ぐように広域に展開している。

 さらに、左肩の5連装ミサイルポッドからも牽制用のミサイルが到着する。同じミサイルだけど、こっちの方が弾速が速いわね。改良したのかしら?

 

 さて、このミサイルのカーテン。どうやって避ければいいかというと、答えは単純。

 避けるんじゃなくて、当たりそうなものだけ落とせばいい。

 頭部に装着された小型の対空機銃から小粒の弾丸をばらまく。

 元々私を狙ってるんだから、細かい照準をつける必要はない。首を軽く振るだけで、私狙いの二基は爆散。同時に、想定よりも多くの煙が噴き出し、私の視界も黒く染まる。

 ブルーフレームのハイパーセンサーも機能不全。これは……ただのミサイルじゃない。

 やられた!これは全部、ジャミング用の弾頭だ!

 

 同時に、正面から飛んでくる、隠す気のない大きな敵意。私はとっさにタクティカルアームズをソードフォームにすると、姿の見えない敵意に向けて、思い切りよく剣を振り抜いた。

 力任せの一撃は風を巻き起こし、煙を斬り裂く。

 そして現れたのは、両手にビームサーベルを握ったまま突撃してくるデュエルの姿。

 ……やっぱり、勘で振っただけじゃ当たらないか。でも、視界を取り戻せたから、今はこれだけで十分ね。

 剣を振り抜いた姿勢のまま、タクティカルアームズの右手側のブースターを起動。回転により加速をつけ、接近するデュエルに対し勢いよく剣を振り下ろす。

 対するデュエルは、二本のビームサーベルを重ねることで刃を受け止め、拮抗する。

 ビームサーベルの出力を上げているのか、ビームの刀身はかき消されることなく存在し、私の一撃を完全に受け止めた。

 膠着状態、と悟るや否や、足を動かしたのもほぼ同時。互いのISの膝が激突し、甲高い金属音を鳴り響かせる。

 でも、その拮抗も一瞬で崩れた。

 デュエルの足に装着された追加装甲から炎が噴き出し、ブルーフレームを押し返したのだ。

 

 追加装甲には、バーニアが内蔵されていた。

 崩れた体勢を立て直す一瞬で、デュエルはタクティカルアームズを弾き、ビームサーベルをブルーフレームの頭部目掛けて突き立てる。

 でも、この程度でやられるなら、私は代表候補生になんてなってない。

 両肩のフィンスラスターを断続的に、角度を変えて起動することで姿勢を動かし、逆に腕より内側に潜り込む。

 

 アーマーシュナイダーを握る時間はない。私はデュエルの装甲を殴りつけ、隙を見せた相手の脇をすり抜けて間合いから脱出した。

 

 ここまでの攻防でも、互いに装甲を傷つけただけ。ダメージは一切通ってない。

 特に、自分の間合いに入っても逃げるしかできなかった、というのは屈辱的だ。相手の格闘センスは、間違いなく私と同レベルだ。

 

 唯一の収穫は、敵の武装の正体。

 拳をぶつけた箇所は凹んだことから、追加装甲はPS装甲じゃない。

 足に装着された追加ブースター、脚部にマウントしたミサイルポッド、それから右肩の装甲にあるハードポイント。これらはすべてジン用の装甲強化パッケージ〈アサルトシュラウド〉に存在する特徴だ。

 おそらく、既存の技術であるアサルトシュラウドをデュエル専用に改造したのがあの装備。……ということは、まだ気をつけなきゃいけない武器が残ってる。

 

「ヒャハハ!いいねぇいいねぇ、最高だッ!」

 

 敵IS――デュエルアサルトは弾頭を吐きだし終えた脚部装甲を排除し、私に躍りかかる。

 狂ったように叫ぶエッジだけど、自分の得意な戦法は分かり切ってるらしい。先程と同様、出力を上げたビームサーベルを使って私と斬り結ぶつもりだ。

 タクティカルアームズを受け止められた以上、臨海学校のときみたいにサーベル本体を破壊することはできない。ならナイフに持ち替えるよりも、このままソードフォームを使い続けた方がいいでしょうね。

 

 両手で大剣を握りしめ、脇を引き締めて敵を睨む。

 剣を使った斬り合いとなれば、パワーはこちらの方が上だ。打ち合いで体勢を崩させ、そのまま畳みかければ勝ちは揺るがない。

 

「来なさい!」

「面白れェ!!」

 

 先手を取ったのはデュエルアサルト。左手のビームサーベルを振り下ろす……と思いきや、サーベルの刃が急に伸びて、私の頭を直接狙ってきた!

 

 とっさにタクティカルアームズのスラスターを使い、剣を強引に割り込ませる。

 剣の表面にビームが当たり、エネルギーの衝突により火花が散る。同時に、瞬時加速を使って一気に距離を詰めてきたデュエルが右手のビームサーベルを使い、今度は突きを放つ。

 一撃で仕留めるつもりなのか、極大のエネルギーが注ぎ込まれたビームサーベルは紅く発光し、禍々しさを増している。

 狙いは、無防備な私の胴体。

 ……だけど、そんなのは想定済みよ!

 

 両肩のスラスターを使い、機体ごと横回転して伸ばしたビームサーベルを弾き飛ばす。さらに遠心力を利用して蹴りを放ち、つま先に仕込んだアーマーシュナイダーで敵の左手を串刺しにする。

 堅いIS装甲を切断するために造られた刃は、敵の手の甲を突き破り、握られたビームサーベルの柄を貫いた。過剰なエネルギーと物理的ダメージにより想定外の負荷がかかったビームサーベルは、バチバチとスパークを発生させる。

 

 そして、巻き起こる大爆発。

 

 煙が吹き飛んだ後に残ったのは、左腕の肘から先が吹き飛んだデュエルアサルトと、右足首から下が吹き飛んだ私のブルーフレーム。

 ……しまった。ビームサーベルの爆発が、アサルトシュラウド内部のグレネードに引火したみたいだ。要らぬ怪我を負ったわね……。

 

 頭の片隅でダメージチェックを行いながら、回転の勢いを乗せたタクティカルアームズで敵の脚部を狙う。

 この速度で、しかも意識の外から放たれた刃を受け止める術はない。

 私が命中を確信した瞬間、デュエルアサルトは両足と背部のスラスターを使い、まるで空中でダンスを踊るかのように剣の一振りを回避してみせた。

 ちょうど、私が両肩のスラスターで不規則な回避をするみたいに。持ち技を真似され、少々イラッとする。

 

 でも、それ以上に敵の動きは綺麗だった。

 左脚を振り上げ、次いでハイキックを放つかの如く右脚を振り、機体に勢いをつける。そして、背中の追加装備である大型スラスターを使って、空中宙返り。必殺の刃はデュエルアサルトの背中を潜り抜け、宙を斬る。

 刃を飛び越えたデュエルアサルトは、左脚を伸ばして何かを足でからめ捕る。そのままこちらを向いた敵の右肩には、溢れんばかりの光の奔流が渦巻いていた。

 

 至近距離から放たれたレールガンはブルーフレームの左肩に着弾し、フィンスラスターを吹き飛ばす。同時に、何かが私のわき腹に突き刺さり、絶対防御が発動する。

 

 その正体は、先程弾き飛ばしたビームサーベル。手から離れても数秒間はエネルギーを保持し続けるそれを、デュエルはうまくつま先に乗せ、宙返りの後に蹴り飛ばしてきたのだ。

 幸い、ビームはすぐに消失したためダメージは最低限。とはいえ、ブルーフレームに傷をつけられたという事実が、私の心に突き刺さる。

 第二形態移行したこの機体を傷つけ、絶対防御まで発動させたのは紅也に続いて二人目。

 紅也は良かった。デルタアストレイは高機動力を売りにした機体だし、紅也には私と同じだけの潜在能力がある。

 でも、デュエルアサルトの操縦者は別だ。私は一度こいつに勝ってるし、そのときよりもっとずっと強くなってる。機体性能も、こっちの方が上のはず。

 

 ……なのに。

 

 なのに、私の機体を傷つけられた。

 

 紅也が作ってくれた、私の機体を……?

 

 

 

 ――許せない。

 

 

 

「――許さない!!」

 

 感情が高ぶる。

 胸が熱くなる。

 

 頭に血が上ってる筈なのに、思考は恐ろしくクリアになっていく。

 目の前の敵の存在だけがクローズアップされて、それ以外の全ての情報が消えていく。

 

 ――来た!

 

 この感覚は間違いない!この子が、私に力を貸してくれてる!

 

「行くわよ、ブルー!」

 

 胸部が輝き、『1』という数字が刻まれた緑色の蛇の紋章が現れる。

 燐光が機体を包み込み、私の感覚の全てを極限まで研ぎ澄ます。

 

 瞬間、世界が遅延する。

 デュエルアサルトが、伸びきった足をゆっくりと戻している。まずはその足を狙って、タクティカルアームズを力任せに振り抜いた。

 刃が敵の左脚に命中し、そのまま装甲内に侵入する。一瞬抵抗を感じたけど、勢いの乗った刃は難なく脚部を切断した。

 

 足がPICのサポートを失い、重力に囚われて落下するよりも早く、私は次の一撃を放つ。

 タクティカルアームズ基部のスラスターを全力で稼働させ、剣を振りながら無理やり突きを放ったのだ。狙いは、無防備にさらされたデュエルアサルトの胴体。確かにアサルトシュラウドのお陰で防御力は上がってるだろうけど、IS一機を動かすだけの出力で押し出された突きをくらえば、たとえPS装甲でもただでは済まない。まして、ただの金属装甲である今のデュエルでは、何をかいわんや。

 

 放たれた突きが、ゆっくりとデュエルに吸い込まれていくその一瞬。

 突如左手側で爆発が起こり、剣先がわずかに左に逸れた。

 

 軌道を修正する間も無かった。刃は胸部を逸れ、左の脇のあたりに大きな傷を残す。

 同時にタクティカルアームズの剣先が開き、緑色の弾丸が次々と虚空へ吐き出されていった。

 でも、それだけ。装甲表面は斬り裂いたけど、操縦者には当たらなかった。

 

 私は、デュエルアサルトの操縦者――エッジが、戦闘の天才であるということを思い知らされた。

 エッジはいつの間にか……多分、私がワンオフ・アビリティを起動した瞬間に、迷いなく右腕のグレネードを爆破したんだ。……私が、最後は必ず胴体を狙うと予想して。

 結果としてデュエルアサルトの右腕はバラバラになったけど、私の必殺の一撃は軌道を逸らされた。

 

 反撃は終わらない。

 無事だった右側の胸部装甲が開いて、アサルトシュラウドに内蔵されたグレネードが顔を出す。

 剣が刺さってるおかげで左側装甲の展開は防げたけど、この距離でのグレネードはたとえ一発だけでもマズい。

 慌ててタクティカルアームズを離して、敵機から距離を取ろうとしたけど、もう遅い。

 

 妙にゆっくりと進むグレネードは、しかし私の離脱よりも遥かに速く胸に飛び込んできて――大爆発を起こした。




このアサルトシュラウドは、SEED原作よりもジンアサルトに装備された元々のアサルトシュラウドに近い性能です。

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