IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

14 / 196
第13話 イメージしろ!

 四月の下旬。予告通り半月かけて基礎知識を叩き込まれ、今日からいよいよ実習が始まる。

 クラスに三人だけ(いや、普通は各学年に専用機持ちが1、2人ってのが普通だ。十分多いのか?)の専用機持ちだ。みんなの前で見本を見せたり、めんどくさい仕事が多くなるだろう。

 

「……と、いうわけで俺、今日は休むから」

「却下。働け」

 

 コンマ以下での即答。こういうところって、兄妹(きょうだい)ならではだと思う。

 

「えー、だってさぁ、ウチのクラスって、専用機持ちが三人しかいないんだよ!!」

「三人もいる。私、一人だけ」

「じゃあ逆に、三人もいるんだから、一人くらい楽してもいいんじゃない?」

「……紅也、サボるの?私、出るのに」

 

 ジト目で睨む葵。……目を見なくても分かる。

 「妹に仕事させて、兄は休むのか、鬼畜め」と言いたいんだろう。

 

「ゴメンナサイ。俺も頑張ります」

「…………」

 

 とたんに得意げな表情になる。……ああもう、可愛いなぁ!!

 さて、今日も一日、頑張ろう!!

 

 

 

 

 

 

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、山代。試しに飛んでみせろ」

「え、織斑先生。俺、ホントにこれ以上持ってないっす。勘弁してほしいっす」

 

 素早くISを展開した二人と違い、俺はその場でピョンピョン跳ねていた。

 織斑先生が青筋を浮かべ、出席簿に手を伸ばす。

 

(が……甘い!8、レッドフレーム展開!全速上昇!!)

《了解だ。無茶させやがって》

「誰がカツアゲなんかするか、馬鹿者!!」

 

 ヒュン!Miss!!

 

「はい、飛びましたよ」

 

 なんとか回避したが……風圧でシールドエネルギーが減っている。……ええい、奴は化け物か?

 ―――違う、俺は悪魔だ!!

 

 ……冗談だ。

 

「くっ……。なかなかの展開速度だ。よし、お前ら二人も飛べ」

 

 織斑先生、悔しそうだ。……降りた後が怖いな、こりゃ。

 あ、セシリア、こっちに来た。レッドフレームよりも速いな。まあ、全力出せば負けねぇが。次いで一夏もやってくるが、その速度は、お世辞にも速いとは言えねぇな。カタログスペックを見る限り、白式の潜在能力はもっと高いはずだが。……しょうがない。

 

 フライトユニットに再度点火。いつのまにか並走していたセシリアと一夏に接近、隊列に加わる。

 

「お、紅也。紅也も教えてくれよ。セシリアにも聞いたんだけど、空を飛ぶ感覚自体があやふやなんだよ」

「何で浮いてるか、ってか?そんなの、考える必要はねぇだろ。お前、飛行機に乗ってるときに、なんで飛べるのかわざわざ考えるのか?真面目だな」

「むっ……た、確かに……」

「でも紅也さん、仮にも技術者が、『考える必要ない』っていうのは、ちょっと……」

 

 一夏は納得したが、セシリアは怪訝そう。……みんな、頭が固いなぁ。

 

「だってよぉ、例えば自動車メーカーの技術者が、生物の研究に興味持つか、っていう話だよ。分野が違うんだ」

「紅也さんの専門はISですわよねぇ!?どう考えても守備範囲でしょう?」

「あーもー。飛べてるんだから、それでいいじゃないか。それよりも、飛ぶ感覚の話だろ?」

「お、おう。そうだな」

 

 一拍置いて、今度は真剣な調子で語る。

 

「いいか、イメージするのは常に最強の自分だ。おまえにとって戦う相手とは、自身のイメージに他ならない」

「……いや、俺は、飛ぶ方法を聞きたいんだが」

「だーかーらー、自分が飛んでる様子を思い浮かべるんだよ!どうしても無理なら、セシリアを見ろ!飛んでるだろ?イメージしやすいだろ?」

「わ、わたくしですか!?そ、そんな、一夏さん、恥ずかしいですわ……」

 

 これらの会話をしながらも俺たちは隊列を乱さず飛行中だ。今飛べてるんから、イメージは十分だと思うんだけどな。

 

「一夏さん、よろしければまた放課後に指導してさしあげますわ。紅也さんも、その、付き合っていただけますか?」

「ああ、別にいいぜ。参考になるかは分からんが――」

「一夏っ!いつまでそんなところにいる!早く降りてこい!」

 

 通信回線(オープンチャンネル)から響く怒鳴り声。箒か?

 

《拡大……やはり篠ノ之だ》

(はぁ……。いくら久々に再会した幼馴染とはいえ、独占欲が強すぎだろ)

 

 ソフィアならともかく、葵ならこのぐらい軽く流すだろう。多少不機嫌にはなるが。

 ……最近、箒と葵を比べることが多い気がするな。

 

「全く、箒のやつ……。

 にしても、ISのハイパーセンサーってすごいな。200mも下の様子が見えるなんて」

 

 これは一夏。ちなみに下では、山田先生がインカムを奪われておたおたしている。やり過ぎだ、箒。

 

「ちなみに、これでも機能制限がかかっているんでしてよ。元々ISは宇宙空間での稼働を想定したもの。何万キロと離れた星の光で自分の位置を把握するためですから、この程度の距離は見えて当たり前ですわ」

 

 セシリアも饒舌だな。最初に会ったときとは大違いだ。口調やポーズは直ってないが、ずいぶんと好感が持てる。

 

「……それなのに、宇宙開発は遅々として進まず、ISは地上で兵器として運用される。俺はイヤだね、こんな状況」

「……紅也?」

 

 ……ダメだな。今までのあれやこれを思い出すと、つい感情的になっちまう。

 

「織斑、オルコット、山代、急下降と完全停止をやって見せろ。目標は地表から十センチだ」

「了解です。では一夏さん、紅也さん、お先に」

 

 すぐに降下していくセシリア。その姿はどんどん小さくなり、そして、停止。

 

「うまいもんだなぁ」

「じゃあ、次はどうする?俺が行こうか?」

「……いや、アイツの真似してやってみるよ」

 

 背中の翼にエネルギーを集める一夏。そして、一気に地上へと向かう!それこそ、まるで偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)のように……

 ……翼って、かっこいいよな。俺も、あんなフライトユニットが欲しいな。

 

(8、設計頼めるか?)

《OK。だが、まずは現実を見ろ》

 

 放たれた矢は、その後どうなるか?もちろん空中で停止などせず、どこかに刺さる。

 

 予想通り、一夏は墜落していた。

 浮遊はできてたのに、なまじ飛べたから、墜落することになるんだ。

 お前は浮遊して、ここから俯瞰するのがちょうどよかったんだよ、多分。

 ……俺も下りるか。

 

 

 

 

 

 

「大体だな一夏、お前というやつは昔から――」

「大丈夫ですか、一夏さん?お怪我はなくて?」

「あ、ああ。大丈夫だけど……」

 

 安全第一で地上に下りると、そこでは修羅場が展開されていた。

 一人の男をはさんで争う二人の女……言うまでもなくセシリアと箒だ。

 

「お前が言うか。この猫かぶりめ」

「鬼の皮をかぶっているよりマシですわ」

 

 おっと、この場合の修羅場っていうのは、『修羅が二人いる場』っていう意味だったようだ。君子危うきに近寄らず。こんな争いに武力介入したら、コーラサワーでも死ぬだろう。

 ……が、IS学園にはそれ以上の(つわもの)がいる。

 

 箒とセシリアの頭を押しのけて現れる、阿修羅をも凌駕する存在。

 その名も、グラハm……もとい、織斑千冬といった。

 

「おい、馬鹿者ども。邪魔だ。端っこでやっていろ。

 織斑、武装を展開しろ。それくらいは自在にできるようになっただろう」

「は、はあ」

「返事は『はい』だ」

「は、はいっ」

「よし、では始めろ」

 

 その鬼教官っぷりが、今日ほど頼もしく思えた日は無い。

 一夏が右腕を突き出し、左手で握る。

 

 ――形だけでなく

 ――創造の理念を

 ――制作に及ぶ技術を

 ――成長に至る経験を

 ――蓄積された年月までをも複製し

 ――あらゆる工程を凌駕しつくし――――

 

 ……という手順を踏んだかどうかは知らないが、雪片弐型は出現した。

 ホント、ISってデタラメだな。これを利用すれば、投影魔術師ごっこができる。

 さて、無事に武装展開を終えた一夏だが、「0.5秒で出せ」と怒られていた。

 やはり鬼教官。ビリー隊長も真っ青だ。

 

「次は山代だ。やってみろ」

 

 ひぇぇぇ、こっち来た。

 逃げられるわけもなく、俺は腰を落として右手を左の腰に。居合の構えをとる。

 瞬間、腰に鞘が出現。刀を一気に抜き放ち、両手で正眼に構える。

 

「なるほど、専用機持ちの面目躍如、といったところか。山代、射撃武器を展開しろ」

「え!?……イヤです」

 

 ガキン!シールドエネルギー、減少。

 

「何故だ」

「この武器は機密扱いなんで、むやみやたらと晒すわけには……」

「やれ。いいな?」

 

 一睨み。視線に力があれば、レッドフレームに穴が開きそうだ。

 

「……了解」

 

 ガーベラを収納(クローズ)。右手を突き出し、左腕を下げ、武装を展開(オープン)する。

 

《ASTRAY、通常装備を展開》

 

 8のサポートもあり、そこまで時間はかからない。

 光が像を結び、俺の右手にはビームライフルが、左腕にはシールドが装備された。

 

「よし、合格だ。しかしその武装……モルゲンレーテの量産機、M1アストレイと共通なのだな」

 

 う、やはり見る人が見れば分かるか……。

 

「俺のは、M1の試作機ですから。コイツの正式名称は、アストレイ試作2号機です」

 

 試作2号機といっても、核なバズーカは持ってないが。

 

「ほう、なるほどな。ならば、それはやはりビームライフルか?……いや待て、あれはデータ上の装備。それが手元にあるとなると、時期がおかしい。確か、その型のビームライフル搭載機は先日N.G.Iが公表した5機のみのはず……。それが既に存在していたとなると……」

「織斑千冬。それ以上は、この場で話すことではありません。これは我々の機密事項。いくらあなたといっても、それ以上の詮索は越権行為です」

 

 口調を強くする。この瞬間、俺はIS学園の生徒ではなく、モルゲンレーテのテストパイロットだった。

 

「織斑先生と……。いや、いい。失言だったな」

「……いえ、こちらこそ申し訳ありません。授業を続けて下さい、織斑先生」

 

 頭を下げる。場に張りつめたわずかな緊張感は、ようやく霧散した。

 

「……いや、時間だ。今日の授業はここまでだ。織斑、グラウンドを片付けておけよ」

 

 手伝う気はない。自業自得だとも思うし、これ以上この場にいたくないし、今日は帰らせてもらう。

 ……慣れないな。こういう、仕事モードは。師匠ほど純粋でもいられないし、エリカさんほど黒くはなれない。どちらの蒼にも染まらず漂う白鳥の如く、半端であるが故に傷つく。

 

 俺は誰とも会話せず、寮へと戻る。

 

 




紅也にちょっと違和感を持つかもしれませんが仕事モードの彼はけっこう真面目で堅物です。父親に似たのかな……?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。