IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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文体が変わっているかもしれないです。


第117話 気付く者

「……どうだった?」

「葵の言うとおりだったよ。あの二年生、写真は別のところで買ったんだって」

 

 客の一人に話を聞いて戻ってきたシャルロットは、私の予想を裏付ける証言を持ってきた。

 

「……ちなみに、どこで?」

「二年二組だって。表ではクイズ大会をやってたけど、こっそり合成写真も売ってたみたい」

 

 二組……三咲さんのクラスだったはず。

 

「最後に一つ。午前中に……彼氏を連れたギャルが来て、写真を取っていかなかった?」

「ああ!あの、恋のおまじないの……」

「『恋』?」

「な、なんでもないよ!う、うん、確かに、来てたよ。間違いない」

 

 ふうん、そっか。

 それで、自分が映っている部分を加工して、別の女の子と合成したのね。

 でも、困った。これだと、せっかく私が紅也のふりをしてるのに、客が来ない。

 

「……しょうがない。シャルロット、一夏に連絡できる?」

 

 

 

 

 

 

〈side:山代紅也〉

 

 ――長い、長い眠りについていた気がする。

 

 何かがあった。何か、衝撃的なことが。

 

 それが夢だったのか、現実だったのか、それは分からない。

 

 ただひとつ言えること。それは……

 

 そろそろ続きを始める時間だ、ってこと。

 

 

 

 

 

 

「はあっ!?」

 

 目を開けて最初に飛び込んできたのは、俺の目を焼かんとギラギラ輝く灼熱の星から届く、熱量を伴う強烈な光。

 次に聞こえたのは、姦しい女の子の声。俺にかけられた声ではなく、周囲で雑談しているような感じ。

 

 そういえば、俺は一夏と五反田兄妹の接客中に、織斑先生の話になって、それから……

 

 それから……どうなったのだろう?

 

 現在時刻を確認。13時をちょっと回ったくらい。

 弓道部での勤務時間は、知らないうちに終了したみたいだ。すると、20分くらいは野外で放置プレイされてた計算になる。

 ひでぇな、みんな。こんな哀れな俺を無視して、弓道喫茶に向かうとは。……あっ、こら、今露骨に目線が合うのを避けやがったな。

 

 ……ともかく。

 

 これでこっちにいる義理は無くなった。そろそろクラスの方に戻らないと、箒あたりにどやされる可能性が高い。

 

 ケツについた土埃を払いながら俺は立ち上がり、ふらふらと一年一組へと向かうのだった……。

 

 

 

 

 

 

〈side:織斑一夏〉

 

 電話をかけてきたのは、シャルだった。

 どうやら、現在紅也が不在で、「一夏を出せ!」という声が高まり、お客さんが溜まり始めてるようだ。

 

「てなわけで、俺はクラスに戻るけど……弾と蘭はどうする?」

「俺は……まあ、しばらくここにいるか。女の子かわいいし」

「もう、お兄!……あの、一夏さん!私も、一緒に行ってもいいですか?」

「ああ、別にいいぜ」

 

 というわけで、弾と鈴をその場に残し、俺は隣のクラスへと急いだ。

 シャルのあの口ぶりだと、相当切羽詰まってるみたいだ。

 俺の抜けた穴は、楯無さんがなんとかしてくれると思ってたけど、当の本人はなぜか三組にいたしなぁ。

 

「悪い、遅くなった!」

「「「「キャーーーーー!織斑くんよ~!」」」」

『一夏、早く着替えてくれ!』

 

 ドアを開けた瞬間に聞こえる歓声と、紅也の小言を無視し、すぐさま『裏』へと引っ込む。すぐにネクタイと上着を身に付けた俺は執事へのジョブチェンジを終え、ボルテージが上がりっぱなしのお客さんが待つフロアへと向かった。

 フロアでは既にメイド服姿のみんなが忙しそうに動き回っており、唯一の男子である紅也もまた、テーブルの間を行ったり来たりしてる。

 

 ここで、ようやく気付いた。

 

 ……シャル、「紅也がいない」って言ってなかったか!?

 じゃあ、何でここに紅也がいるんだよ!

 

「一夏!早く仕事に戻れ!」

「あ、悪い、箒!」

 

 とりあえず導かれるがままにテーブルに向か……おうとしたところで、俺は視線の先にいるのが蘭だということに気付いた。

 

「蘭、悪かったな。結果的に放置することになっちまって」

「い、いえ、全然!あ、あのっ、燕尾服似合ってますね!」

 

 俺の顔を見た蘭は、わたわたと両手を振って答える。

 なんだか顔が赤いけど……風邪か?

 

「あ、あの~一夏さん?この子とお知り合いなのですか?」

 

 さて、接客に移ろう。

 そう考えていたときに、横合いからセシリアが口を挟む。当たり前だけど、二人は初対面なんだよな。ここで紹介しておくか。

 

「ああ、この子が五反田蘭。前に話しただろ?」

「思い出しましたわ。確か、一夏さんと一緒に夏祭りに行ったと記憶しておりますが……」

 

 あごに手を当て、視線を虚空に彷徨わせるセシリア。

 そのまま、ちらり、と俺に目線をよこしたけど……俺はその何気ない動作に、言いようのない寒気を感じた。

 

「で、こっちはセシリア。イギリスの代表候補生で、俺の友達だ」

 

 友達、と言った瞬間に、さくーん!と何かが刺さったような音がした。

 

「と、友達ですか!そうですよね!」

「ああ、そうだ。友達だよ」

 

 な……なんだろう。『友達』と言う度に、セシリアから微妙な視線が送られてるような?

 

「あれ、セシリア。『友達』って言われるの、嫌だったか?」

「嫌じゃないですわ。わたくしたち、お友達ですわよね」

「何で敬語なんだ!?」

 

 なんか、セシリアが変だ。

 

『どうした、一夏』

「セシリア、そろそろ休憩入っても……って、どうしたの?」

 

 俺、何かしたのかな……と考えていた最中に、異変を感じたのか紅也とシャルが来た。

 

「あ、紅也さん。良かった、無事だったんですね」

『……ああ、あのくらい日常茶飯事さ』

「……IS学園って、怖い所なんですね」

 

 ……ん?今の紅也のしゃべり方、なーんか違和感があったような……?

 

「ところで、こちらの方は?」

「ああ、初めまして。僕は……」

『こいつはシャルロット・デュノア。一夏ともすごく仲が良くて、ルームメイトでもあった女子Bだ。ちなみに、Aは箒だ』

「ええっ!?ど、同棲……。い、一夏さん!どういうことなんですか!」

 

 シャルの紹介を聞いて急にテンパり始めた蘭が、俺へと詰め寄る。

 しかし、俺はそんなことよりももっと重大なことに気付き、目の前にいる『紅也』に声をかけた。

 

「紅也、悪い!ちょっとこっちに来てくれ」

「あ、逃げる気ですか!一夏さ~ん!」

「ねえ君、ずいぶん一夏と仲が良さそうだけど……」

「一夏さんの……何なんですの?」

「ぴいっ!?」

 

 後ろで上がった可愛らしい悲鳴を無視し、『紅也』の手を引いたまま俺は裏へと引っ込んだ。

 『紅也』はさっきから一言も発さず、黙ってなすがままにされている。

 

 ……普段なら、軽口の一言でも挟む状況にあるにもかかわらず、だ。

 

 そうして、完全にフロアから姿が見えなくなる場所に辿り着いた俺は、ようやく手を離し、『紅也』の目をじっと見つめる。

 

『……どうした?』

 

 ああ、まただ。

 また、普通の反応。

 いつもの紅也なら、「何だ、一夏。俺の目をじっと見つめて……。ま、まさか、コレなのか!?」とか言って茶化すはずだ。……言ってて、なんであんなやつの友達やってるんだろう、って悲しくなってきた。

 

『一夏?こんなところに俺を連れ込んで……ナニするつもりだ?』

 

 この反応も、不自然だ。

 そんな事実が、俺の脳内で一つの結論を作り出していく。

 

「なあ……何で紅也のフリなんかしてるんだ?……葵」

 

 

 

 

 

 

〈side:山代紅也〉

 

 俺が教室に戻ると、何やら異変が起こっていた。

 席に座っていた女子生徒のほとんどが鼻を抑え、机に突っ伏しているのだ。

 「織斑×山代……」やら、「イケる!これだけで満腹よ!」とか聞こえたのは、全力で無視する。というか一夏、何をした。

 

「むっ、誰だ……と、紅也か。遅かったな」

「ああ、お前の敬愛する織斑教官殿に教育的指導を受けたせいでな」

「どうせ、お前が逆鱗に触れたのだろう」

「否定……したいが、できないな。で、ラウラ。俺は何をすればいい?」

「そのことなんだが……」

 

 そこまで言って、ラウラは言い淀む。

 まるで、何か言いにくいことでもあるかのように……。

 

「嫁の……いや、紅也の仕事は……もう、ないかもしれん」

「…………は?」

 

 仕事がない?

 どういうことだ?

 

「いや、その……な。客はほぼ全員一夏を指名していて……紅也はフリーなんだ」

「なん……だと……」

 

 一夏に指名が集中?

 つまり、俺の人気が一夏に劣るということか?

 それとも、これは誰かの陰謀か?

 誰も扱ったことのないような機体を手に入れた俺に対する、嫌がらせか?

 

「それに、今は……とにかく、ちょっと来てくれ」

 

 そう言うラウラは、手招きしながら裏の方へと歩み始める。

 俺は、とりあえず真相を探るためにも、ラウラの後をついていく。

 

 そこで見たのは……薄暗いロッカールームで密会する、一夏と葵の姿だった。

 

 

 

 

 

 

〈side:山代 葵〉

 

 信じられなかった。

 聞き間違いだと思った。

 でも、彼は確かにこう言った。

 

「なあ……何で紅也のフリなんかしてるんだ?……葵」

 

 葵、と。

 紅也にしか見えないような外見の、私を。

 そう、呼んだのだ。

 

「……どうして」

「いや、だって、体格とか何となく女の子っぽかったし、挙動も紅也と違ったし」

「……そっか」

 

 すごいな、一夏。

 これを見破ったのはエイミーさんだけで、事情を知ってたセシリアでさえ、一瞬素で間違え……いや、セシリアがボケるのは平常運転の証だけど。

 ともかく。

 私が言いたいのは、この変装を初見で見破ったのは、一夏が初めてだってこと。

 

「ふふっ……」

「ん、どうしたんだ?俺、なんか変なこと言ったか?」

 

 不意に笑いだした私を心配して、一夏が私の顔を見る。

 その、瞬間。

 

 私は。

 

 なんだか、顔がかあっと熱くなった。

 

 これは。

 

 あれだ。

 

 そう。

 

 強烈な。

 

 『怒り』――って、あれ?

 

「ちぇりおーーっ!!」

「ぎゃあぁぁぁぁっ!!」

 

 突如、奇怪な叫び声が聞こえたかと思うと、一夏は断末魔を上げて倒れ伏した。

 どうやら、後ろから迫っていた紅也が、空中に飛び上がった瞬間に縦に三回転し、その勢いのままにかかと落としを喰らわせたみたい。

 

「大丈夫か、葵!まったく、この馬鹿は!人の妹になにしてくれとんじゃ!」

 

 ……成程。さっき感じた『怒り』は、紅也の感情だったのね。

 この薄暗い空間で、私と一夏が急接近してたから、暴走したと。

 

「……お、お兄ちゃん、落ち着いて」

「お兄ちゃん!?俺をそう呼ぶってことは……葵、かなり動揺してるな!

 よし、待ってろ!今すぐこの馬鹿殺して解して並べて揃えて晒し……」

「落ちつけ!」

「ごふっ!?」

 

 まるで今から殺人でも始めそうな口調で語る紅也を止められないと悟った私は、とっさに紅也の腹に掌底を打ちこむ。

 常人では目で追えないほどの勢いを載せたその一撃は、無防備すぎる兄の鳩尾へと吸い込まれ、速さと質量から生み出される全ての運動エネルギーをぶちまけた。

 情けない声を上げ、崩れ落ちる紅也。でも、理由もなく一夏を殴ったんだから、このぐらいの罰は甘んじて受けて欲しい。

 

「葵……。何を……」

「……それは、こっちの台詞」

 

 今の一撃を耐えきった紅也は、本気で訳が分からないといった様子で私を見つめるけど、それはこっちも同じ。状況を説明してくれないと、納得できない。

 

「何で、一夏を?」

「そりゃ、だって、葵に迫って狼藉を働こうとしたから落花狼藉を……」

「……一夏に、そんなことができると思う?」

「そりゃ、できないけど……それを天然でやるのが一夏だろ」

 

 ……確かに、全面的に同意。

 言われてみると、さっきはちょっと……その、接近しすぎだと思ったし。

 正直……少し、ドキッとした。

 

「……そろそろいいか?」

「ん、悪いなラウラ。ちょっと気が動転してた」

「だろうな。軍人と言われても納得するような体さばきだったぞ」

「そいつはどうも」

 

 どうやら紅也をここに連れてきたのは、ラウラのようだった。

 何の用だったのかしら?一夏の呼び出し?

 

「いや、そうではない。ちょっと、紅也に事情の説明をな」

「……事情?」

「……そうだ!『仕事が無い』ってどういうことだ?」

 

 さっきまでの怒りはどこへやら、ラウラへと問いかけを始めた紅也。

 二人とも、足下で倒れ伏す一夏は完全無視だ。

 

「実は、何者かが嫁とのツーショット写真を偽造して売りさばいているようでな。そのせいで、写真の価値がガタ落ちしているのだ。……心当たりはないか?」

「……あ!観布子(みふね)さん!俺一人の写真を撮っていったと思ったら……!」

 

 ……やっぱり当たりだ。

 

「……じゃ、私の仕事も終わり?」

「ん?ああ……鷹月に聞いてみよう」

 

 メイド服の裾を翻し、パタパタと駆けていくラウラ。

 ……なんか、結構ノリノリよね。ああいうラウラ、ちょっと可愛いわ。

 

「……はあ。せっかく、弓道部から帰ってきたのに」

「……いいじゃん、休めるんだから」

 

 紅也の贅沢な……というか、ワーカーホリックな発言を聞いて、思わずつっこみを入れる。私なんか、ずっと三組にいたのよ?休みたくても、休めないのに……。

 

「お待たせ!山代さん、お疲れ様。山代君も、少し休んでいいわよ」

「鷹月さん、悪いな。また、後でちゃんと戻ってくるからさ」

「気にしないで。後は、織斑くんに頑張ってもらうから」

 

 ……前言撤回。どうやら、私ももう帰っていいみたい。

 正直、そろそろ胸が(物理的に)苦しかったから、ここで開放されるのは正直助かる。

 

「……ありがと、鷹月さん」

「そんな!お礼を言わなきゃいけないのは、こっちの方なのに……」

 

 ぺこぺこ頭を下げ続ける鷹月さんをしり目に、私はさっさと執事服を脱ぎ去る。

 次いで、コルセットを外す。……ようやく、少し楽になった。

 

「ほい、ブラ。悪いな、結果的に俺の代役をやらせちゃって」

「別に、いい」

 

 紅也から渡された下着を身につけ、少し冷えた制服に袖を通す。

 隠していた髪をあふれさせ、かつらを外せば、それだけで私は葵に戻った。

 

「一緒に、着替え……」

「ん?別に珍しくはないだろ?兄妹だし」

「……………」

 

 周りで二人が何かを話していたようだけど、どうせ大したことじゃないだろう。

 ちょっとした解放感を味わいつつ、私は紅也と鷹月さんと連れだって、更衣室の外へと出ていくのだった。

 

 ……気絶しっぱなしの一夏を忘れて。

 




いちおう言い訳。

別に拳神様から「虚○流」を習ったわけではありません(笑)

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