第三アリーナ、Bピット。
次の試合に備え、俺はここまでやってきた。
「――試合終了。勝者、セシリア・オルコット」
アナウンスが響く。ああ、一夏のやつ、負けたのか。『零落白夜』を使って負けたとしたら、きっと原因はエネルギー切れだろう。あれは、PS装甲以上に燃費が悪かったはずだ。実体ダメージは回復しても、今まで消耗したエネルギーまでは戻らないから、長時間の展開はできなかったはず。
キイィィィィン……
音が大きくなっていく。オルコットがピットに戻ってきたのだろう。
アリーナの方を向き、エルメス――もとい、ブルー・ティアーズに手を振る。すると、それに気付いたのだろうか?オルコットは速度を落とし、俺のそばに着地した。
「よう、オルコット。これで一勝一引き分けだな」
「あんなの、勝ちとは――って、あ、あら、紅也さん。どういたしましたの?……まさか、わたくしを出迎えるために!?」
「『紅也さん』?」
「え!?いえ、あの、別に……」
「そうか……。ようやく、俺が俺だと認めてくれたか。染めた甲斐があったかな?」
「え?か、髪は関係ありません。その……昨日は、ありがとうございましたわ。目が覚めるまで、看病をしていただいたようですし……」
そう言って、顔をそむけるオルコット。……ああ、アレか。敵に情けをかけられて恥ずかしいってか。
「気にするな。あれは、俺がやりたくてやったことだ。それによ、元々俺のせいであんなことになったんだ。人の厚意は、素直に受け取るもんだぜ?」
「こ……好意!?」
「そう、厚意だ。代表候補生だからって、変に肩肘張らずに、たまには人を頼ってもいいんだぜ?俺に出来ることなら、出来る限りやってやるからな」
「で、では!わた、わたくしのことも、その……名前で呼んでいただいてもよろしいですか?」
そんなことでいいのか?「名前で呼んで」って、友達いなかったのかお前。
「……セシリア。これでいいのか?」
「ええ。今は十分です。これで……」
目を閉じ、うつむくセシリア。今のやりとりで何か、感じ取ったものがあったのだろうか。だとすれば、俺が会いに行った意味もあったのだろう。
「じゃあ、俺はそろそろ行くぜ」
「あら、どちらへ行かれますの?」
「決まってんだろ。第三試合だよ。互いに近接型の機体だ、面白い試合になるぜ」
レッドフレームを展開。ガーベラ・ストレートを抜き放ち、両手で正眼に構える。
「では、わたくしも応援しますわ。がんばってくださいね、紅也さん」
「さんきゅ。じゃあ、行ってくるぜ!」
《MBF-P02 レッドフレーム、スタンバイ!!》
機体が浮く。昨日徹夜でメンテしたため、状態は十全だ。
ゲート開放まで、後、3、2、1……
「レッドフレーム、行くぜ!!」
フライトユニットに点火……はせず、そのままアリーナへと降り立つ。
対して一夏は、飛び上がって来ない俺に対し、けげんな表情を浮かべている。
「一夏。連戦だが、大丈夫か?」
「安心しろ、そんなにヤワじゃねぇよ。そっちこそ、早く来いよ。トラブルか?」
「いや。お前の装備はブレオンだって分かってるんだ。だったら、地上の方が断然戦いやすいぜ。近づいてきたら、コイツで一刀両断だ!」
ビシッ、とガーベラを一夏に向ける。そして、試合開始の合図が鳴った。
◆
………。
「どうした、来ないのか?」
「へっ、カウンター狙いの奴に、好き好んで近づくやつがいるかっての!」
「じゃあ、俺からいかせてもらうぜ!!」
ガーベラを右手一本で持ち、地面に刃を向ける。そして、一夏へ向け、切り上げを放つ。
当然、刃は届かない。しかし……
「なっ!?エネルギーが減った!?」
そう、斬撃は届く。それが俺の空破斬だ。そういえば、一夏は初見だったな。おお、何でダメージを受けたか理解できなくて、かなり動揺してるぜ。
「続けていくぜ!その名も、無限・空破斬!!」
連続で空破斬を放つ。不可視の斬撃の群れが一夏を襲い、シールドを食い荒らす。
しかし、やがて斬撃はかわされ、あるいは防御されていく。斬撃そのものは不可視でも、刀は実体であるため、刀を見れば方向が分かるのだ。もし、刀自体が不可視ならば見切りに時間がかかるだろうが、あいにく俺に風王結界は無い。約束された勝利の剣も持ってないし、全て遠き理想郷の代わりはチャチなシールドだ。
「うぉぉおお!!」
一夏が迫る。雪片弐型を構え……レーザー刃を形成。零落白夜だ!
あれはヤバい。シールドエネルギーを奪われた俺を守るのは、この脆弱な装甲のみだ。食らったら、俺は文字通り真っ二つになって死ぬだろう。
……当たれば、な。
(8、フライトユニット
《了解。ついでに、燃料タンクも排出、爆破しておこう》
(ああ、それでいい。じゃあ、スタート!)
バクン!!
背から離れたフライトユニットは、一夏の頭の上へと飛んでいく。
そちらに注意を向ける一夏。降ってきた燃料タンクを、反射的に切り裂いた。
……計画通り。
閃光、爆発。相当なダメージを負い、おそらく視界も失っているであろう一夏を追撃するため、脚部バーニアを点火。ガーベラを上段に構え、一気に振りおろす!!
「これが俺の……」
「何、正面ッ……」
「
遅い。刀が一夏の体に当たり、度を越えたダメージにより絶対防御が発動する。
白式が地に墜ちた。そして無数の白い粒子となって、姿を消していく。
「白式、シールドエネルギーゼロ。試合終了、勝者、山代紅也」
着地し、刀を鞘に納める。フライトユニットを背に戻してから、俺はピットへと戻るのだった。
◆
「見事な試合でしたわ、紅也さん」
「………」
俺を出迎えたのは、まだ残っていたセシリアと、無言でサムズアップする葵だった。
「よう、葵、セシリア。今度は、納得のいく試合をしてきたぜ」
「……『セシリア』?何で、名前?」
「ああ。そう頼まれたし、そっちの方が仲良さげで、いいだろ」
むすっ、と不機嫌な表情になる葵。あれか?嫉妬か?……かわいいやつめ。
「……セシリア・オルコット。表に出ろ」
「なっ、なんですの、いきなり!?山代さん?」
やばい。嫉妬なんてかわいいものじゃないぜ、あれ。目が
このまま第四回戦を始めかねない勢いだ。
「葵。いいじゃないか、名前で呼ぶくらい。そんなことで怒らないでくれよ。お前は、笑顔の方がかわいいんだからよ」
「……。うん、わかった」
自分でも言ってて恥ずかしかったが、これで無用な争いは避けられた。
葵とセシリアに、必要以上の溝を作ってほしくは無い。セシリアも、根はいいやつだからな。葵とも、きっと仲良くできるはずなんだ。
「……妹って、得ですわね」
ぼそっと、セシリアが呟く。こいつも構って欲しかったのか?
「悪いな、セシリア。俺にとって、葵はやっぱり特別なんだよ。でも安心してくれ。俺は、お前のこと、嫌いじゃないぜ」
「へ?え、ええ!ありがとうございますわ!!わたくしも、あなたのことは、その……
ま、前ほど嫌いではありませんわよ」
ぱあっと、笑顔になるセシリア。なにこの可愛い生き物。思わず抱きしめたくなるが……おっと、妹の目線が怖いし、セクハラだし、自重。
「……このお人よし」
言うな、葵。やっぱり、みんな笑顔でいてほしいんだよ。
◆
「で……山代さん」
「……何?」
「さっきの話ですけど、わたくしはいつでも挑戦を受けますわよ?わたくしも、あなたとはもう一度勝負したかったんですの」
「……もう一度?初対面なのに?」
「なっ、初対面!?アナタ、前に一度会ってますでしょう?イギリスで!!」
「あー、葵。ジンの評価試験の時だと」
「……忘れた。雑魚に興味は無い」
「な、なんですってえぇぇぇぇぇ!!!!!」
前はこの直後に過去編「ジン評価試験」を投稿しましたが、今回はどうしようか?外伝は3本まとめて1章終了後に投稿してもいいような気がする。
そういえば、今日からはまた12時更新です。