IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第97話 山代くんからお手紙着いた

簪へ

 

 機体のことと、将来のことで大事な話がある。

 ちょっと人前では話しづらい内容だけど、聞いて欲しい。

 放課後、18時に俺達が初めて会った場所に来てくれ。

 

                                     紅也

 

 

 

 

 

 

 『打鉄弐式』の調整をしながら眠っていた私がそのメールに気付いたのは、朝食を食べ終わった直後だった。

 このタイミングで良かった。

 もし食事中に見てたら、行儀悪く吹き出してたかもしれない。

 だって、こんな内容……紅也くんが送ってくるなんて信じられなかったから。

 あ、でも、嫌な内容って訳じゃなくて……嬉しいというか……緊張するというか……恥ずかしいというか……。

 

 将来のことって何だろう?何で人前じゃ駄目なの?

 いや、分かってる。内容に見当は付く。

 でも、やっぱり信じられない。

 紅也くんと二人っきりで話すような時間なんて、最近は無かったし。

 紅也くんの周りには、葵さんとか箒さんとかセシリアさんとか鈴音さんとか……いっぱい可愛い子がいるし。

 私なんて可愛くないし、おっぱいも小さいし、地味だし、眼鏡だし……何で?

 

 でもでも、もちろんそれでも私を選んでくれるなら嬉しいし……。

 そういえば、前の臨海学校でも私のことを『特別な存在』って言ってくれたし……。

 私が困ってるときに助けてくれた、私にとっての……

 

 ……ダメダメ!これ以上考えちゃ!

 恥ずかしくて、紅也くんと顔を合わせられなくなっちゃう!

 うう……。今の私、絶対顔が赤くなってる。

 なんだか、みんなに見られてるような気もするし……。

 きっと、変な子だって思われてるよね?こんなところ、紅也くんに見られたら……!

 

 ……と、とにかくっ、今は部屋に戻る!!

 

 

 

 

 

 

〈side:織斑 一夏〉

 

 ん?今食堂から出ていったのは簪か?

 なんだか真っ赤な顔になってたけど……熱でもあるのか?

 

 それにしても、慣れないな。こうやって、食堂に入るたびに注目されるのは……。

 

「一夏。何を立ち止まっているのだ。後ろがつかえてるぞ」

「そうよ!早くしないと、時間が無くなっちゃうじゃない!」

「あ、ああ、悪いな」

 

 箒と鈴にせっつかれ、慌てて食堂の中へと入る。

 箒の態度はいつも通りだけど、鈴の態度はどこか刺々しい。

 ……まあ、原因は分かってるんだけどな。昨日は楯無先輩に乗せられて生徒会室へ直行。そのまま決闘して、負けて、情けないことに気絶して。

 かと思えば第三アリーナに直行して、セシリアとシャルの動きを見てたら、二人に怒られて、箒まで乱入して、気がついたら朝になってた。

 

 ――そう。鈴と一緒に訓練するという約束を、完全に放置して。

 

 言い訳はしたいけど、俺、前にも鈴との約束を破ってるからな……。そんなに強くは出られない。

 代わりに何でもする!と申し出たところ、「じゃあ、今日は三食おごりなさい!」とのこと。まあ、そのくらいなら問題は無い。それに、この時点では鈴の機嫌は良かったはずなんだ。

 だけど……途中で箒と合流して、一緒に食事することになったら、急に不機嫌になった。二人とも、喧嘩でもしたのか?うーん、謎だ。

 まあ、考えても仕方がない。さっさと朝メシ食って、余裕を持って教室に行かねぇとな。千冬姉に怒られちまう。

 

「で、一夏。昨日のことについての言い訳はある?あたし、あんたを探してあちこち回るハメになったんだけど」

 

 各自料理を持って着席すると、いきなり鈴が口火を切った。

 うーん、怒ってたのは昨日とは別の理由のような気がしてたんだけど……思い違いだったか。

 

「本当に悪かった!楯無先輩に問答無用で連れまわされて、倒れるまで訓練させられたんだ!わざと約束を破ったわけじゃない!」

「ふぅん、『楯無』先輩ね……。いつの間に名前で呼ぶほど仲良くなっちゃったのかしら?」

「へっ!?いや、その、成り行きでだな……」

「成り行き?アンタはいつもそうね!あたしとの約束より、初対面の先輩の方が大事なの!?夏休みのことといい……ほんっと信じらんない!」

 

 うわっ、やばい。鈴の奴、本気で怒ってる。

 どうにかしてくれ、箒!……って箒さん!?何で「我関せず」のスタンスなんだ?

 頼むから、俺を一人にしないでくれ!

 

「とにかくごめん!あのときは、他に方法が無かったんだ!」

「はぁ?方法って、一体何の……」

「一夏は、強制入部の件について生徒会長に文句を言いに行ったんだ。なあ、一夏」

「そ、そうだ!それで色々あって勝負することになって、鈴に連絡する時間が無かったんだ」

 

 おお、助かるぜ、箒!

 鈴も、さっきまでの変なオーラが薄くなった気がする。もう一息だ!

 

「……ま、そういうことならいいわ。その代わり、今日こそ訓練に来なさいよ!」

「あー……それなんだけどな……。その勝負に負けた条件として、俺は楯無先輩の指導を受けることになったから……お前と一緒に特訓するのは無理になった。ゴメン!」

 

 両手を合わせ、鈴に頭を下げる。

 二日続けて約束を破るわけだから、心から申し訳ないけど、しょうがないんだ!

 

「………………………………なら、文句無いでしょ」

「へ?今、何て言ったんだ?」

「だから!あたしも一緒に訓練受けるなら、問題ないでしょ!」

「あ、ああ!先輩に聞いてみないと分からないけど、多分……」

「決まりね!じゃ、あたしは先に行くから、また昼に会いましょ!」

「鈴!……って、行っちまった」

 

 元気になったのは良かったけど、食べるの速すぎだろ……。せっかく作ってもらったんだから、もうちょっと味わって食べないともったいないだろうが。

 

「箒も、悪いな。今日はお前と訓練する番だったのに」

「確かに残念だが……気にするな。あの先輩に逆らえないのはよく分かる。私は紅也たちと練習するから、一夏も頑張ってくれ」

「え?あ、ああ……」

 

 箒は、なんかすんなり納得してくれたな……。

 昨日の顛末を知ってるからか?素直に納得してくれたのはありがたいけど、箒って、こんなに柔軟なやつだったっけ?

 

「……一夏。何か失礼なことを考えてないか?」

「な、何でもない!」

 

 

 

 

 

 

〈side:山代 紅也〉

 

「紅也。昨日は道場で何をやっていたのだ?」

「生徒会長殿と勝負してたんだよ。俺が勝利条件を満たせば、昨日の発言を撤回するっていう条件付きでな」

「そうだったのか。良かった」

「『良かった』?何がだ?」

「な、なんでもない!」

 

 良かった、はこっちのセリフだよ……。

 目を覚ました、って葵に聞いてたからよかったものの、あのときのお前はマジでヤバかったぜ、ラウラ。しかも、都合よく記憶が消えてるし、気絶した理由は出席簿で殴られたからだと思い込んでるし……。

 まあ、これで箒とラウラが対立することはないだろう。今日もまた、学園の平和は守られた!……なんてな。

 

「……で、どうだったの?勝負。生徒会長って、学園で一番強い人なんでしょ?」

「一応勝ったぞ」

「どんな手を使って?」

「……ルールの範囲で、できること全てを。」

《そもそも、勝利条件が『相手を床に倒すこと』で、ルール無制限。それも一夏が挑んだ直後に仕掛けたんだ。今のコイツなら、負ける要素が無い》

「こら、8!」

「やっぱり搦め手だよね……」

「だが、何が何でも勝利する、というのも大事なことだ」

 

 ぬう、シャル子め。聞かなくてもいいことを……。

 そもそも、正攻法がそんなに上等か?俺はカーパルスに帰ってくるノブリス・オブリージュに正面からコジマキャノンを撃ちこむような男だぜ?

 暗闇だってASミサイルには関係ねーぜ!

 ……コホン。話が逸れた。

 

「へっ。もしあの話を撤回させなければ、今頃俺は穴だらけだ。勝たなきゃいけなかったんだよ。……それに、会長の本命は一夏だったようだし……」

「えっ!?一夏が本命、って……どういうことなの、紅也!説明して!」

 

 不用意に『本命』などと口にしたのが悪かったのか、シャル子は血相変えて俺の両肩を掴み、がっくんがっくん揺さぶってきやがった!

 ちょっ、おまっ、目が……うおぉぉ……。

 

「みなさん、御機嫌よ……な!何をしてらっしゃいますの!?」

「セシリア……助け……」

「だらしがないぞ、嫁よ」

「ねえ、紅也!どういうことなの!?教えてよ!」

「『どういうこと』がどういうことなんですの!?」

混沌(カオス)だな……》

 

 その後、一夏と箒が揃って教室に来るまで、シャル子による俺への尋問は続いた。

 ……覚えておけよ、シャル子?明日あたりに模擬戦で勝負だ。

 

 

 

 

 

 

 昼休みは特に変わりなく、いつものメンバーで食事を取った。

 せっかくだから簪も誘おうかと思ったんだけど、教室にはいなかった。クラスメートに話を聞いてみると、どうも朝から様子がおかしかったらしい。……俺のメールのせいか?そこまで身構える内容じゃなかったはずだけどな。

 

 ちなみに、警戒してた更識先輩の襲撃も無かった。

 まあ、昨日の今日で問題を起こす人物じゃないのは分かってる。そもそも、接触する理由もねぇし。途中で近寄ってきた布仏さんは……まあ、関係無いだろうな。平常運転だったし。……でも、俺の方を見てニヤニヤしてたのは何でだ?

 

 で、授業は割愛して、放課後。

 俺はメールに書いたとおり、IS整備室で簪を待っていた。

 そういや、あのときはレッドフレームが壊れて、それを直しに来たんだっけ。奇しくも、現在レッドフレームは修理中。状況まであのときと同じってわけだ。……いつ直るんだろうなぁ。直るといいんだけど……。

 

《……ん、来たぞ》

「オーケィ。ビーム発信機の設計図、スタンバイしておいてくれ」

 

 ほどなくして、整備室のドアが開く。そこにいたのは、8が予告した通り……更識簪その人だ。

 

「よっ、簪。待ってたぜ」

「う……うん!ま、待たせて……ゴメン!」

「ちょっ、ちょっと待て!そんなに本気で謝られても……。そこまで待ってねぇから気にするな!本当は今来たとこだ」

 

 俺の挨拶に対し、本気で頭を下げた簪を見て、俺は思わず慌ててしまう。

 いや……元々気弱な娘だけど、ここまでひどかったか!?

 

「ほ……本当、に……?良かった……」

「ああ!だから落ちつけ。そして、話を聞いてくれ」

「!? は……話!そ、それって……メールに書いてた、あの……?」

「そうだ、まずは機体の話だな。……簪。お前、モルゲンレーテがビーム発振器の技術を公表してから、あんまり寝てないだろ」

「……うん。でも……何、で……」

「目の下のクマ。それから、放課後会わなかったから……かな」

 

 そう指摘された簪は、恥ずかしそうに顔を伏せる。……慌てたり、テンパったり、忙しいなぁ。まあ、無理もないか。いよいよ専用機が完成するんだ。興奮しないはずがない。

 

「忘れたのか?今の俺は簪のための技術者。……だから、一人でやるなよ。俺を誘えって」

「え……?でも、あのとき……モルゲンレーテの技術は、使えない……って」

「状況が変わった。ビームは、もうモルゲンレーテの独占技術じゃねぇ。つまり、俺がここで手を貸しても、それは契約の範囲内だ。……作ろうぜ、荷電粒子砲」

「……うん」

 

 うつむき、はにかむ簪の手を取り、がっちりと握る。

 ……こいつは、なんでも一人でやることにこだわりがあるのかねぇ。更識先輩絡み、ってことは前に聞いた気がするけど、今日はそのへんも詳しく聞いてみるかな。

 

「まあ、ビーム発振器は俺が安価で仕入れるから、当面の問題は出力だな。粒子のスピードを上げるか、種類を変えるか……。そうだ!いっそのこと陽電子砲にするか?」

「それは……駄目。大気への、影響が……心配」

「……ですよね」

「……そもそも、荷電粒子砲……なんだから、普通に荷電粒子を……撃ち出すべき……」

「そうだな。それなら、発振器の調節だけでどうにかできそうだ」

「……後は、砲の本体……も……」

「もちろんだ。デザインは二人で考えようぜ。

 そしたら、俺が設計するから、倉持技研に発注してくれ。……これで、『打鉄弐式』は完成だ。」

「……分かった。……ちょっと、寂しい……ね」

「そうだな……」

 

 そのまま二人、立ったまま沈黙する。

 簪と会って、初めて機体製作を依頼されて、クリムゾンを開発して。

 そこで中座してた、打鉄弐式の開発。

 そのままの状態で福音との戦いに出撃して、マルチロックが使えることも確認して。

 そして今。最後の武装……荷電粒子砲の完成の目処が立った。

 ……そりゃ、感慨深くもなるか。初めて手掛けた機体がロールアウトするんだ。娘を送り出す父親の気持ちってのは、こういうもんなのかねぇ……。

 

 まあ、完成はもうちょい先だ。しんみりした考え方を振り払うかのように頭を左右に軽く振り、コホン!と咳払いを一つ。

 簪がこちらを向いた。

 俺も、簪を見つめる。

 ……ここからが本題だ。多分、簪にとっては話しにくいことを聞くことになる。

 

 すー。はー。

 

 息を整える。同時に、覚悟を決める。

 その様子にただならぬものを感じたのか、簪も真剣な表情になった。

 

「なあ、簪。俺は――」




エネミー・オブ・アメリカとか、すれ違い系のネタが好きな作者です。
二人の逢引は次回に続きます。

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