IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第86話 お昼休みはウキウキウォッチン♪

「……と、いうわけで」

 

 ユニオンのフラッグファイター先輩を見送った後、俺は空気を変えるために咳払いをし、一夏たちの方へ向き直った。

 

「IS学園よ!私は帰って来た!

 ……みんな、ただいま。不肖山代紅也、地獄の淵から帰って来たぜ」

 

 そう言って、バッ!と両手を広げる。

 

 ……広げた。

 

 ……………。

 

 ………………おかしいな?

 

「――って、アレ?ここは『紅也!お前、生きてたのか!』とか『ホントに、ホントに、幽霊じゃないんだな!?』とか『バッカやろう!心配かけさせやがってぇっ!』とか言って、みんなにもみくちゃにされるシーンじゃないか?普通」

 

 同意を求めてみんなを見ると、ほぼ全員が白い目で見てる。

 

「いや、だって、なあ……」

「最後に会ったときは、普通に元気そうでしたし」

「葵も『大丈夫』って言ってたし」

「僕に至っては本社で会ったし」

「諜報部が無事を確認していたからな」

「……そもそも、そういうセリフは……『敵機の自爆に巻き込まれて死んだと思われていた味方のパイロットが、仲間のピンチに天から颯爽と表れて敵を不殺。そのまま安全圏まで退避してヘルメットを脱いだ後』……に、かけられる、言葉……」

「ええー……」

 

 あーあ。帰ってきて早々滑ったのか、俺。

 池袋の紀田くんじゃないんだから、まったくもう……。

 後、簪。ゴメン、せっかく長台詞をクーガー兄貴ばりの早口で噛まずに言いきったのに、聞きとれなかったぜ。

 

 ……それにしても。

 

「箒?お前のつっこみだけまだ終わってないぞ。どうした?」

 

 箒は、さっきから一言も発していない。

 やばいな。まだ、この間俺が言ったことを引きずってんのか?

 

「……無事なんだな?」

「へ?あ、ああ。見ての通りだ」

「もう、無理はしてないのだな?」

「あ、ああ。昨日まではちょっと大変だったけど、もう命の危険は……」

 

 そこまで言うと、突然箒は俺に向かって駆け寄ってきて――

 

 唐突に。

 そう、本当に唐突に。

 俺に抱きついてきた。

 

「……へ?」

 

 あまりの事態に俺は、そんな間抜けな声を上げるしか出来ない。

 が、そんな俺の戸惑いをよそに、箒はそのまま俺の腕やら脚やらに触り始めた!

 

「腕もある、脚もある、身体もある……。……幽霊じゃ、ないんだな?」

「も、もちろん。幽霊じゃ……ナイヨー?」

 

 その気になればそれっぽいことができる、というのは隠しておこう。

 まだ、身体が無くなっても生きていられるかどうかまでは分からないし。

 

「そうか……。本当に、戻ったんだな……。良かった……!」

 

 抱きついた姿勢のまま、すすり泣きを始める箒。

 その様子を間近で見せられた俺は、昔葵にやっていたように、ポンポンと頭を軽く撫でる。

 

「ほーら、泣くな。泣くな」

「うう……グスッ……」

「泣くなー。泣くなー」

 

 子供をあやすように頭を撫でながら、ふっと顔を上げると……

 

「「「「「「「……………」」」」」」」

 

 そこには、生温かい目でこちらを見守る三人と、憤怒の形相を浮かべる四人の姿が。

 

「怒るなー。怒るなー……」

 

 撫でる手を止め、箒から離れ、「まあまあ」と両手を前に突き出す。

 

「紅也さん?いきなり見せつけてくれますわねぇ」

「浮気は許さんぞ」

「……紅也、くん?」

「……弁解は?」

 

 うわあ。みんな、いい笑顔。

 これで額に井形が浮かんでなければ、最高のシチュエーションなんだけどね。

 

「……いやあ、こういう流れだと、ああするのが一番自然……」

「……みんな、判決は?」

「「「Guilty(有罪)!」」」」

 

 葵の問いに対し、セシリア、ラウラ、簪が審判を下す。

 するとラウラと葵は、一瞬だけ足に力を溜め――爆発的な加速力で俺の胸に飛び込んできた!

 

「Shit!」

 

 とっさに後方に飛んで相対速度を減少させるも、葵の方が一枚上手だった。

 なんと、ラウラを踏み台にして更なる加速をかけてきたのだ。

 

「なんだか、この光景……」

「デジャヴ、ですわね……」

 

 鈴音とセシリアが何か言ってるが、気にしてる余裕はない!

 葵の手を傷めないように右腕でガードし、その勢いでさらに後方へ。

 そして体勢を立て直すべく、俺は左腕を地面につき――そのまま跳んだ。

 

「は……?」

「え?どうなってるの!?」

 

 どうなってるもなにも、普通じゃない力を使って、普通に跳ねただけだ。

 空中で身体を起こし、右手で体育館の突起を掴む。

 そして地上を見下ろしてみると、そこには憮然とした葵の姿と、唖然とする他のみんなの姿が。

 

「こ、紅也さんって……あんなに力がありましたっけ?」

「分からない……。でも、あたしが同じことやろうとしても、難しいと思う」

「……ただの、技術者?あれで……?」

「馬鹿な……あり得ん!」

「そうか……。今度は、大丈夫なんだな」

 

 セシリア、鈴音、簪、ラウラ、箒が、それぞれ思ったことを口にする。

 

「ま、長い休みを経て俺も成長したってことで。じゃ、話は後で!早くいかないと遅刻するぜ!」

 

 ひょい、っと手を離し、俺はそのまま着地する。

 そして拡張領域にしまってあるスケボーを取り出し、そのまま教室へと急いだ。

 

「げっ!もうこんな時間だ!」

「次の授業、誰だっけ?」

「山田先生ですわ!」

「教官でないなら、まだマシだ!」

「よし、急ごう!」

「……ま、待っ……」

「……簪、お先」

 

 後方から聞こえる、怨嗟とも焦りともとれる声を無視しながら。

 俺は久々に、校舎内に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

「……と、いうわけで……ただいま!山代紅也、帰ってきたぜ!」

「「「「おかえりー!山代くーん!!」」」」

 

 教室に戻り、挨拶を終えた俺を待っていたのは、相も変わらずノリの言いクラスメートと、そんな彼女らに気圧された副担任、山田麻耶であった。

 先生、授業潰してごめんなさい。

 

「やまぴー、何かワイルドになったね~」

「ホントホント!前はもっと白かったのに」

「完治しやがったのか?おめでてえな」

「あの、みなさん……」

「日焼けしただけだよ。俺、オーストラリア出身だから」

「なるほどなるほどね!」

 

 いきなり浴びせられた質問に答えてる間に、専用機持ち達も教室に入って来た。

間にあって良かったな、みんな。

 

「ねえねえ!あのIS、なに?モルゲンレーテの新型?」

「授業を……」

「どうして量産機を提供したの?」

「私の話を……」

「検査の結果、どうだった?」

「ストーーーップ!そろそろ山田先生泣きそうだよ!

 質問は休み時間に聞くから、今は待ってくれよ。な?」

「「「「はーーーい!!」」」」

 

 俺がそう言うと、ようやく騒ぎは収まった。

 それを見計らい、俺は山田先生に声をかける。

 

「すみませんね山田先生。では、授業を始めてください」

「うう……何で?私、先生なのに……」

 

 あれ?せっかく騒ぎを押さえたのに、何で残念そうな顔をしてるんだろう。山田先生は。

 そういう表情してると、本当に子供みたいですよ。

 

 

 

 

 

 

「では、これより『第一回!コウヤにおまかせ!』のコーナーを始めます!」

「「「「イエーーーイ!!」」」」

 

 授業も半分終わって昼休み。

 宣言通り俺は、みんなからの質問を受け付けることにしていた。

 

「紅!あんた、やけにテンション高いわね」

「そりゃそうだ。一か所に留まってても狙われない。食事に毒も入ってない。水が飲める。

 こんな環境に戻れたら、誰だってテンション上がるって!」

「……ホントに、何があったのよ……」

 

 この会話で分かるように、今や一年一組には、クラス内外問わず多くの人が集まっていた。

 

「はいはーい、新聞部でーす。帰って来た男性IS操縦者、山代紅也君にインタビューに来ました~!」

「おっ、質問ですか?何でも聞いてください!」

「じゃ、まずは一つ目~。篠ノ之さんと抱き合った感想は?」

 

 ピシリ……。

 

 空気が、凍った。

 

「だ、抱き合ったって……どういうこと?」

「どういう意味?ねえ、どういう意味?」

「それは……もちろん男女の……」

「きゃーーっ!聞きたくない聞きたくない!」

 

「……あーあ。みんな誤解してますよ。どう収拾つけてくれるんですか、これ」

 

 騒ぎだす妄想女子(ガールズ)を無視し、俺は黛先輩に問いかける。

 しかし、彼女は相変わらずニコニコ――いや、ニタニタした笑顔。

 くそう!謀りおって!

 

「質問に答えたらいいんじゃない?感触も、感想も、ありのままを、全部!さあさあ!」

 

 くっ……。何故だ!

 押されている!?この俺が?

 ……!なんだ、あれは!奴の頭にメカっぽいウサミミが見える!

 馬鹿な。天災が乗り移ったとでもいうのか?

 

「……いえ、とっさに抱きとめてあやしただけなんで、よく覚えてませんよ」

「ちぇっ、つれないなー」

「まあ、箒は紅也の姿を見て安心したんだろ。だから抱きついただけですって」

「……ホントにそうかなあ?」

 

 俺の弁明と、一夏の援護によって、とりあえずこの質問は流れた。

 黛先輩もこれ以上聞く気が無いみたいだし……良かった。

 

「まあ、いいや。

 じゃ、第二問!夏休みに何やってたの?ひょっとしてぼっちだったとか?」

「夏休み……?」

 

 そう言われて、俺はひと月前の出来事(入院編第1~8話)を思い出す。

 えーと、確かしばらくは検査で、面会も全部断ってたな。

 だから友人と駄弁ったり、葵と電話したり、仕事したりしてたけど……。

 

 そういや、シャル子と箒以外はほぼ身内としか会ってねぇな。

 モルゲンレーテの関係者たちは……話すのがダルいから拒否ってたな。

 

 ……あれ?つまり、俺ひとりぼっちだった?

 

「あれ……?ひょっとして図星だったとか……?」

 

 いや、そんなことはない。

 思い出せ、あの後を。

 父さんが地球に下りてきて、俺の抱えていた問題が解決して、それから……。

 

 それから……。

 

「うあぁぁぁぁぁぁっ!!忘れてえーーーーっ!!」

「え?ヤバッ、私地雷踏んじゃった?

 ゴメン、山代君!ジョークのつもりだったの!ゴメンね~!!」

 

 いやだ……。

 もうあんな町、二度と行きたくねえ。

 そもそも、奴に狙われたのに無事に帰ってこれたのが奇跡だったんだ。

 「ザ・ロスト」の奴らや、ユセフに助けてもらえなかったら、俺はとっくに……。

 

「じゃ、じゃあ最後の質問!

 山代君が操縦してたあのIS。アレは一体なに?」

「よくぞ聞いてくれました!」

「きゃあっ!」

 

 どこからか技術関連の質問が飛び出たため、俺のライフはディアン・ケトを使ったかのように回復した。

 いきなり身体を起こしたため、心配して寄って来たとおぼしきセシリアを相当驚かせちまったようだが……そんなの関係ねぇ!

 

「アレは我がモルゲンレーテが開発した次世代高機動試験型のIS!その最大の特徴は……」

「紅椿以上の加速力だろう?」

 

 横から茶々入れてきた箒をジト目で睨む。

 すると箒は小さく「うっ……」という呻き声を上げた後、黙ってしまった。

 

「へえ。それ、新型じゃなかったんだ。前にそっちに行ったときは無かった機体だから、てっきり紅也のために造られた物だと思ってたよ」

「何!?シャルロットは嫁の家に行ったことがあるのか!?」

「な、なんですって!?」

「ちょっとラウラ、セシリア!近い!顔が近いって!!」

 

 騒ぐ三人はさておき。

 

「加速力もそうだけどな。コイツは、実際に宇宙で活動してた機体なんだ」

「え!?モルゲンレーテって、そんなことまでやってたの?」

 

 俺の言葉に大きく反応したのは、鈴音だ。

 

「てっきり、IS開発のみの企業だと思ってたんだけど」

「それもあるけど、ISってのは元々、宇宙開発のために造られたものだろ?

 その理念を追い続けてる部門だってあるんだよ」

「ふーん。なんか、珍しいわね」

「……それだけISってモノの存在理由が歪んじまったんだよ」

 

 鈴音の認識は、正しい。

 でも、それゆえに、現在の世界はISという存在を誤解しているのだ。

 ただの兵器に、意志はいらない。

 なのに、ISコアには意識が宿る。その理由を、誰一人として考えない。

 

 ……まあ、これは「彼女」の受け売りなんだけどさ。

 

「で。そろそろ質問に答えてくれない?」

「ああ、そうでしたね。

 あの機体の名称はデルタアストレイ。三機の試作機の後にASTRAYの名を与えられた、四番目のASTRAY(王道から逸れた者)です。最大の特徴は、なんといってもあの光の翼!元々は単騎で月まで行くための機体だったので、その加速性能は折り紙つきですよ!」

「へえ。それはずいぶんと面白いね。……で、何で月なの?月に何かあるの?」

「いえ。月まで行けたらすごいなーって。そんなノリで作られた機体ですから」

「………………」

 

 俺は開発者から聞いたコメントを思い出し、黛先輩に伝える。

 そのあんまりな内容に、さすがのうるさい先輩も沈黙してしまった。

 

「……まあ、男には例え無意味と分かっていてもやらなきゃいけないことがあるんですよ」

「それ、今言うべきセリフじゃないよね……。もっといい場面で使うべきだよね」

 

 ん?うまくまとめたつもりだったんだけど……まあ、いっか。

 

「はーい!じゃあ質問タイムは終了!俺もそろそろメシ食いたいから、ここは解散ね!」

「ちぇーっ」

「まあ、いっか」

「私達もご飯にしよ」

「私私、ハンバーグ!」

「子供か、アンタは!」

 

 俺の言葉で、集まっていたみんながぞろぞろと解散する。

 うん、このノリの良さこそIS学園だ。

 

 ようやく「帰って来た」と実感しながら、俺も専用機持ちを伴って食堂へと向かうのだった……。

 


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