さて、何とか畑を維持して育てた作物をキャメロットに総取りされながらも、蛮族を見つけ次第皆殺しにして素材に変換し、領地経営のための書類仕事をしつつ、二日おきに世界の裏側に潜ってモンハンする生活が続く中、唐突にモードレットはキャメロットへの呼び出しを受けた。
はて、指定された税はきっちり納めている筈だが…。
そう思いつつ、急ぎと書状にあったため、鎧の機能を生かして飛行したモードレッドは最速でキャメロットへと向かった。
だが……
「ん?よっと!」
キャメロットの方角から、唐突にカマイタチの様な実体の無い刃が音速で飛来してきたのだ。
それもかなりの精度で連射する形で。
モードレットはそれを手からガンドを放って迎撃し、その余波と反動で多少揺れたものの、飛行に支障の無い範囲で収めた。
やがてキャメロット上空に到達すると中庭に着陸しようと急減速、そのまま真下へと重力降下し、魔力放出で降下速度を殺しながら着陸した。
だが、着陸した当の中庭はというと、多くの騎士達によって殺気立っていた。
「皆、どうかしたのですか?」
「いや、これは卿が原因だろう。」
殺気立った騎士達に割り込む様に現れたのは円卓の双璧たる湖の騎士、NTRで有名なランスロット卿だった。
「突然城目掛けて正体不明の存在が飛んできたら、誰だって迎撃します。だから私は悪くない。」
ポロローンと無駄無しの弓ことフェイルノートを弾きながら現れたのは、先程見事な地対空狙撃を披露してみせた円卓のNTR騎士その2ことトリスタン卿だ。
「あぁ!先程の見事な狙撃はトリスタン卿でしたか!こちらこそ驚かせてしまい申し訳ありません。急に王よりキャメロットへ帰参せよと書状を受け取り、こうして急いできたのです。他の方々も申し訳ありません。ですが、今はどうか王への謁見を優先させて頂きたく存じます。」
「そのために私が来たのです。さぁモードレッド卿、王がお待ちです。」
こうして、モードレッドの飛行鎧の初のお披露目は徒らに多くの騎士達を刺激する形で終わった。
………………
急遽召集されたモードレッドだが、その会合はあっという間に終わってしまった。
と言うのも、モードレッドがやらかした?からだ。
「大規模な蛮族の軍勢が迫っています。○○のルートから…」
「あ、すいませんベディヴィエール卿。それさっき蹴散らしてきました。」
王の執事役を務める円卓一の良心たる女顔の隻腕の騎士の説明を、しかし最年少のNew兜の騎士がとんでもない言葉でぶった切ってきやがった。
「モードレッド卿、それはどういう意味か?」
「ここに来る途中、蛮族の群れと遭遇したため、見逃す訳にもいかず、これを撃滅しました。」
報告が遅れてしまい、申し訳ありませんと頭を下げるモードレッドに、謝罪とか良いからとアグラヴェインが報告をせっつくと、トンでもない内容が飛び出てきた。
曰く、一々切り結ぶのも面倒な数だったため、雲の高さから自身を矢弾として加速し、ぶつかっていったのだ、と。
如何に異常な生命力と物量、そして敵を殺すためなら喜んで死ぬと言う死生観を持った蛮族と言えど、隕石に等しいモードレッドの突撃に対抗する術は無かった。
しかも、一度だけなら多少数が減るだけだが、それが幾度も自力で再上昇し、また落ちてくるとなればもうどうしようもない。
着弾点で待ち構えようにも、それ即ち隕石の衝突を直に食らう事であり、辛うじて被害範囲の外から攻撃しようにも、余程の素早さかつ膂力を併せ持たねば、下手な竜種よりも遥かに頑丈な今のモードレッドに有効打を与える事は出来ない。
しかも、鎧も肉体も時間経過と共に回復する鬼畜仕様だ。
蛮族達にも聖剣の様な対軍・対城宝具があればワンチャンあったかもしれないが、そんな都合の良いものがある筈も無い。
そう言う訳で、ブリテンに襲来する筈の蛮族の大規模攻勢は頓挫したのだった。
「…………事情は分かりました。モードレッド卿、貴方には後日然るべき恩賞を与えるので、今日の所は部屋の居室に下がっていてください。」
「は!それでは下がらせて頂きます!」
部屋の空気を読まず、否、読んだからこそモードレッドは直ぐに円卓の間から立ち去った。
その後、騎士王は呆然とした円卓の騎士の面々を前にして、困惑を表に出した顔で問うた。
「…それでは、今後どうするべきか意見を募りましょう。」
如何に騎士王でも、今まで自分達が散々梃子摺ってきた相手があっさりとたった一人に壊滅させられると、吉報であるにも関わらず、困惑を隠す事は出来なかった。
……………
丸々一晩程の会議の結果、モードレッドは幾つかの尋問を挟んだ後、騎士だけでなく貴族としての号を正式に送られ、また今後一年の減税及び所領の拡大(無人の荒野のみ)、そして領民(壊滅した村の生き残りや身寄りを無くした老人や子供、戦傷者等)を預かる事となった。
もしモードレッド麾下の者達が一人でもここにいれば罵声を浴びせていた事だろうが、それ以上におかしいのは最大の戦功者に対して尋問を行った事である。
そう、捕虜等に行う尋問だ。
無論、武装解除等はせず、貴賓室でそういった事の得意なアグラヴェインがモードレッドに問い、モードレッドも特に隠し立てなく答えたために特に問題が起きる事も無かった。
しかし、これから内政に注力していくに辺り、モードレッドが最大の武功を上げた事は大きな問題に発展する可能性があった。
と言うのも、モードレッドはモルガンに近すぎる。
モードレッドの影響力の拡大=モルガンの影響力拡大であり、今まで虎視眈々と王位簒奪(モルガンからすれば奪還だが)を目論んで来た相手の勢力が増す等、騎士王とその忠義の者達にとっては問題にしかならない。
本人達に既にそんな気が無いとしても、騎士王側としては警戒しなければならない事案だった。
そのため、この様な褒賞とはとてもではないが言えない様な中身の無い所かマイナスなものとなったのだった。
正直、ここまでしたら刺されても文句は言えないと思う。
だがしかし、このモードレッドは正史のそれではなく、ニューアーマードモーさんである。
「は!了解しました!今後も忠勤に励みます!」
そんな理不尽な事を言い渡されても、それだけ言ってあっさりと引き下がったため、寧ろそんな対応をした騎士王に疑念の視線を向ける騎士達も多くいた。
今後を見据えてのものとは言え、騎士王は論功行賞を怠った。
それ即ち、他の騎士達にも「自分達にもまともな報酬が与えられないのではないか?」と言う疑念を植え付ける事となった。
この疑念は後に、ランスロットと王妃の不倫の際に盛大に爆発する事となる。
……………
さて、さくっと褒賞(と言う名の嫌がらせ)を受けたモードレッドは事の次第を全て気の許せる者達に話した。
結果は、静かなものだった。
兵士や従者達の中から既に騎士王とブリテンへの忠義は失われており、褒賞等何所吹く風で、既にキャメロットに対して何の期待も抱いていなかった。
そして、モルガンはもっと酷かった。
完全な能面、無表情で、静かにモードレッドに事実確認をした後、漏れ出る怒気にビビリあがったモードレッドを下がらせた。
で、下がらせたと同時に、モードレッドが生まれてから今まで控えていたブリテン滅亡計画を本格的に再始動する事を決意した。
そんなブリテン滅亡フラグがビンビンに乱立し始める中、モードレッドは領主としての仕事、即ち領民を食わせるために仕事を始めた。
新しい領民達が来るにはまだ時間があり、幸いにも減税によって多少の余裕が出来たので、モードレッドはこれを機に肉体が神代の真エーテルに慣れてきた兵士達を連れて世界の裏側へと狩りに出かける事を決意した。
そうでもしないと領民らを食わせる事は出来ないと判断したのだ。
蛮族もほぼ駆逐されたので、最低限の治安維持・領地防衛の出来る面々を残して総出で狩りに出、農作業は新しく来る民達に任せる予定だ。
なお、事務仕事の出来る人員は増えていないので、従者らは暫くデスマーチになる予定だ。
さて、世界の裏側に潜るに辺り、兵士達の装備の更新を行う事となった。
現状の装備のままでは行っても死ぬだけだからだ。
先ず、外道ホバーバイクは今までの蛮族製ではなく、装甲を下位の竜種(ワイバーンやレッサードラゴン)の素材を用いたものに交換、外部の神秘を吸収する機能も神代に合わせて調整した。
また、一人を操縦手、一人を射手として二人乗りにしたニケツ仕様も作成し、用途を広めた。
兵達の鎧も下位の竜種の鱗を用いたスケイルアーマーに更新し、兜はフルフェイスのガスマスク型になった。
これには勿論訳があり、竜の因子を持つモードレッド程には彼らは真エーテルへの適応性を持っていない。
そのため、それを少しでも補うために呼吸する際に吸ってしまう真エーテルを少しでも減らすための礼装がこのガスマスク型兜なのだ。
また、ちょっとした趣味として全体的なカラーリングは森林迷彩だが、隊長のみ右肩が赤く塗られ、兜に通信機能が追加されている。
武器の方も竜の牙や幻想種の角等を用いた投槍や弓矢、大型の弩等を用意し、攻撃力を大きく上昇させている。
そして、モードレッドも取り敢えずの間に合わせとして、巨龍の角から削り出した大剣を担ぎ、準備は整った。
「よし、全員揃ったな。これから我々は世界の裏側、神秘の息づく幻想世界へと足を運ぶ!」
今日、これからモードレッド率いる兵士達は遂に世界の裏側へと突入する。
「向こうではどんな不調が起きるか分からん!何かあれば即座に報告せよ!良いか、獲物を担いで凱旋するまでが遠征だ!それまではくたばるんじゃないぞ!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」」」」
「よし、しゅっぱーつ!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」」」
こうして、彼らは遂に本格的に幻想薄れ行くブリテンの民から、神秘渦巻く神代の住民へと成ったのだった。
なお、モーさん所の兵士一人につき蛮族10人分に匹敵する模様。