徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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オリ主、転生、原作キャラとの恋愛注意。


東方短編 白狼天狗が逝く

 転生した。

 しかも、割と殺伐系な設定で知られる東方世界に。

 しかも、種族的には余り強くない白狼天狗に。

 

 鍛えなきゃ。

 

 そう決意した10歳の頃から、自分を鍛え続けた。 

 始めは辛かった。

 しかし、これも群れに貢献するため、と心配する両親に言って修行に取り組んだ。

 幸いと言うべきか、他の群れの仲間達からは好意的に受け取られ、直ぐに大人達に訓練を付けてもらった。

 その際、上位者である烏天狗の皆さんともお会いする機会もあったのだが…何あれ?

 よく反乱起こされないなって言う位には性根が腐った、或はひん曲がった連中が多かった。

 その時点で、自分にとっての群れの仲間は白狼天狗であり、烏天狗は除外される事となった。

 とは言え、仕事は仕事である。

 自分の好悪で命令に違反する事は無い。

 鍛錬し、仕事をし、休み、鍛錬し、仕事をし、休む。

 そんな日々を何十、何百年と繰り返していく内に、次第に技も肉体も強く成っていった。

 そうそう、程度の能力が自分にもあった。

 その名も「千里を走る程度の能力」。

 未だ生まれていないが、同じ種族の犬走椛の「千里先を見通す程度の能力」とよく似ている。

 自分はこれを単なる速力強化だけでなく、スタミナと脚力の強化も含むものであり、ある程度速度を変えられるとも考えている。

 何せ千里と言う距離は書いてあっても、完走するまでの時間は書いていない。

 つまり、その時間は三日でも一日でも、一秒でも構わないのだ。

 千里=4000kmであり、これを24時間かけて走るとすると、時速約166kmとなる。

 高速道路でも早々見ない様な速度だ。

 そして、これをもし一秒で走ったとするなら時速1440万kmとなる。

 音速が時速1225kmなのだから、理論上瞬間最大速度だが、音を超える事が出来るのだ。

 無論、そんな真似をしたら空気抵抗で一瞬でバラバラになるので、それに耐え得る肉体強度なり装備なりを持たねばならないが。

 ならば、更なる鍛錬を課すのみである。

 何時からか始めた感謝の正拳突きならぬ、感謝の素振り1000回。

 その時間が短縮される毎に、更に1000回増やし、今はもう1万回振っても日は暮れない。

 修行を始めて既に200年、未だ我が剣速は音を置き去りに出来ていない。

 ならばと今度は日に1000回の蹴りを放つ。

 徐々に1000ずつ増やしていき、やはりこちらも何時しか1万回やっても日が暮れなくなった。

 そして、蹴りに関しては何とか音を置き去りに出来るようになった。

 これは恐らく、能力との相性もあったのだろうが、素振りも蹴りも止める事は無かった。

 二つとも終えた後は、やはり瞑想する。

 自分では未だ心の師匠たるネテロに至れないのなら、それ以上の鍛錬を課すしかないからだ。。

 瞑想の最中、思うのは仲間達の事だ。

 同年代の仲間達は戦で死んだ者もいれば、嫁を取り、子供どころか孫までいる者もいる。

 しかし、自分だけは未だ少年の姿で嫁を取っていない。

 無論、嫁を取らないかと言われた事もあるが、こんな自己鍛錬と仕事位しか興味の無い雄に嫁いでくれる者もいる筈もない。

 只管に仕事と鍛錬、そして瞑想。

 娯楽の少ないこの時代(時折見かける人間の服装等から未だ火縄銃のない戦国時代初期か、それ以前の様だ)、それ位しかする事が無かった。

 

 その頃だった。

 天狗が住まう山に鬼がやってきたのは。

 

 「各員、全速で撤退しろ。殿はこちらで引き受ける。」

 「しかし、隊長は!?」

 「足手纏いだ。行け。」

 「ご武運を!」

 

 彼我の戦力差は全員が即座に看破した。

 何せこちらは哨戒天狗が一小隊に対して、鬼達は50近い。

 そして、種族的な性能を加味すれば、比較すら烏滸がましい。

 

 「おいおい、逃がす訳ないだろう?」

 「遅い。」

 

 大将格の鬼が声をかけてくる。

 だが、その動作は余りにも遅く、隙だらけだった。

 轟、とその場で旋回する様に足を振るう。

 それだけで周囲を囲んでいた霧は消え、鬼達は放たれた豪風によって一瞬だが目を瞑り、視界を閉ざす。

 それで十分だった。

 

 「ご、が…ッ!?」

 

 時速にして凡そ100km。

 それだけの加速を付けた状態で、やや大柄な女の鬼を遥か彼方へと蹴り飛ばす。

 これで暫くは戻ってこれない。

 次いで、周囲の鬼達へとやや減速しながらも突撃、その頑丈な首を分厚い鉈の様な剣で刈っていく。

 丸ではなく逆三角形のカイトシールドを構え、時に先端での打撃やシールドバッシュも入れるが、自慢の健脚により捕えられる事は無い。

 

 「この野郎が!」

 

 しかし、流石は日本妖怪の中で最強の種族と言うべきか。

 10秒も経つ頃にはこちらの速さにもある程度対応する者達が出始めた。

 中には口から広範囲に炎を吐く者もおり、仲間への被害なぞ気にしていない様子だ。

 否、その程度の火力では燃えないのか、少し体毛が焦げただけで同士討ちと言う程の被害は出ていない。

 

 「ちと硬いな。」

 

 しかし、その程度の硬さは意味がない。

 炎よりも、風よりも、時には音よりも早く駆ける自分には遅すぎる。

 故に既に刃が欠け始めた剣に代わり、その足で以て心臓を突き抜ける様に蹴りを放つ。

 

 「ごぁ!?」

 

 胸に大穴を開けて、火を噴いた鬼が絶命する。

 その様に、鬼達の表情が明らかに驚きの形になる。

 あぁ、そんな風に硬直してしまえば死ぬだけなのに。

 

 「か」

 「ぺ」

 

 足刀で二体、山の方へ進もうとしていた鬼の首を刈る。

 ポンと飛ぶ様は、退治屋の人間の時と然して変わらなかった。

 

 「……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!」

 

 鬼達を翻弄し、こちらを遠くから見る視線に注意しながら時間を稼いでいると、絶叫と共に最初に遠くに蹴り飛ばした鬼が戻ってきた。

 額に星の印が付いた一本角、金の長髪に女性にしては高い身長と全身の筋肉、そして体操着にも似た上着に丈の長いスカート。

 あぁ、そういえばコイツは星熊勇儀だったか。

 鬼の四天王の一角、「怪力乱神を持つ程度の能力」に剛力と剛体を持った、鬼らしい堂々たる女性だ。

 

 「そいつに手を出すんじゃないよ!アタシの獲物だ!」

 

 うーす、と大将の声に鬼達が従う。

 こちらとしても、あの数相手に駆け回り続けるのはちと辛かったので良しとする。

 それに、一騎打ちの方が時間を稼げる。

 

 「アタシは星熊山の星熊勇儀だ!アンタは強いが、あの程度でやられたと思われちゃ鬼の名折れだ!アタシと仕合ってもらうよ!」

 「是非も無し。お相手しよう。」

 

 そして、先程よりも早く、鋭く、貫く様な蹴りを放った。

 それを勇儀はギリギリの所で視認し、心臓を庇う様に両手を交差させる。

 当然命中するが、しかし根を張った巨木の様に、その姿が揺らぐ事は無い。

 来ると分かっていれば、それは当然防がれる。

 ましてや鬼の大将格、その頑強さは当然ながら凄まじい。

 

 「オラぁ!」

 

 勇儀の拳が振り下ろす様に放たれるが、当然回避する。

 しかし、先程まで自分のいた場所がクレーターになるのを見ると、背筋が寒くなる。

 回避、回避、回避。

 急激なGをかけつつフェイントをかけ、脳を揺らす様に蹴りで顎先を揺らす。

 

 「う、お?」

 

 かくん、と膝を突いた勇儀の顔に、渾身の蹴りを放つ。

 先程まで相手をしていた鬼達なら、三体は一度に首どころか胴を両断される威力。

 それを勇儀は角で受け止めていた。

 身体が動かない?なら首から上を動かせばよい。

 普通は無理だが、流石は鬼、流石は四天王なのだろう。

 

 「か!イイねぇイイねぇ!」

 

 反撃が届く前に即座に離脱、先程と同じく繰り出される攻撃を回避しながら時折カウンターを入れる。

 ボディーブローの様に徐々に効きはしているのだろうが、鬼と言う体力馬鹿の権化みたいな連中の更に上澄み相手では削り切るのは至難の業だ。

 ならば、更に早く成ろう。

 この鬼達の事だ。

 つまらない戦い方をしようものなら、きっと暴れ出すに違いない。

 更に加速し、増速し、先へ先へと踏み込んでいく。

 

 「は、ハハハハハハハハ!」

 

 笑っていたのは勇儀か、それとも自分か。

 それすら分からない程に、自分は戦いに没頭した。

 

 ……………

 

 久しく無かった死闘に、ついつい冷静さを捨てていた。

 気づけば日が暮れ、勇儀と共に地面に倒れ伏していた。

 外から見れば勇儀の方が遥かにボロボロだが、無茶して加速し続けたせいでこちらの身体もボロボロだ。

 最早指先一つでも動かしたくなかった。

 

 「お前さん、凄いねぇ…。」

 

 しみじみと言った感じで、勇儀が呟いた。

 

 「他の天狗もこうなのかい?」

 「いいや。幾人か強い者もいるが、それ以前に数と連携で戦うのが天狗だ。」

 

 神通力を持ち、空を自由に駆ける山の民にして、山伏達の成れの果て。

 それが天狗の本質だ。

 鬼の様に絶対的な強さで闘争に生きるのではなく、隠者として生きる者達。

 その性質上、強さと言うのは余り重要ではない。

 無論、組織として一定以上の武力は絶対に必要なのだが、積極的にそれを行使する事も、増強する事もしない。

 まぁ、最大の敵は暇して組織内抗争ばっかりしてる身内なのだが。

 

 「しかし、負けは負けだ。」

 「確かにね。」

 

 しかし、軍配は鬼に上がった。

 総大将である伊吹萃香率いる主力が、天狗側の主力を打ち破り、降伏させたからだ。

 

 「んじゃ、攫わせてもらうよ?」

 

 鬼は気に入った人間を攫う。

 その後は食料にされるか、伴侶にされるかは分からないが、決して手放す事は無いという。

 それは時に人間以外の者も対象となる。

 

 「好きにしろ。」

 

 疲れた、が、本当に清々しく戦えた。

 修行に明け暮れ、しかし己の未熟さに悩むよりも、彼女との一時は逢瀬の様に楽しかった。

 

 

 ……………

 

 「それがお父さんとお母さんの馴れ初めなのね!」

 「うむ。」

 

 母に似た金の毛並みと自分に似た犬の耳を持った娘が、大層キラキラした瞳でこちらを見つめる。

 思えば、あれからもう千年近く経つと思うと、月日とは本当に早いものだと思う。

 

 「ただいまー。」

 「只今帰りました!」

 

 そして、妻となった勇儀と白い毛並みに二本の小ぶりな角を持った息子が帰ってきた。

 

 「お帰り。」

 「お帰りー!」

 「応!旦那に娘、今帰ったよ!」

 「色々買ってきました!」

 

 ここは旧地獄の一角。

 幻想郷の中にあってなお、隔離された妖怪達の住まう地下。

 勇儀に攫われた後、二人して蜜月を過ごして、何時しか夫婦になっていた。

 幻想郷が出来て、萃香の号令で天狗も鬼達もその地に住まい、しかし人間がまともに相手をしてくれないからと鬼達は幻想郷の地下、旧地獄へと移り住んだ。

 その際、既に娘を妊娠していた勇儀に自分は連行され(いや、付いていくつもりだったが)、こうして旧地獄に家族4人で穏やかに、時に賑やかに暮らしている。

 

 「どうだった?」

 「今度、地上の連中と会合を持つ事になったよ。そん時は私も護衛に行く事になった。」

 

 近年、地底の妖怪が地上に勝手に現れる事例が多発していた。

 捕えた妖怪の話では、地底から穴を掘ってきたのだと言う。

 無論、地底の責任者(を押し付けられた)である古明地さとりもこの件を把握しており、事態の収拾を試みたが、地底の妖怪達は勇儀や萃香達の統率している鬼はまだしも、他の妖怪達はいい加減に地上で暴れたいと考えており、幻想郷の安定を考える八雲の警戒を助長していた。

 この事態に対し、近年流行し始めた弾幕ごっこにより、妖怪側のフラストレーションを下げつつも人間との円滑なコミュニケーションを行えばよいという声が上がり、それについて改めて会合が持たれる事となったのだ。

 そして、さとりが護衛として選出したのがペット達ではなく、万年鴛鴦夫婦で有名な勇儀だった。

 確かに実力、人格、立場のどれを取っても申し分のない人材だが、夫である身としては余り危険な事に突っ込まないでほしいと思ってしまう。

 だが、結局は本人がそういう事が大好きなので、心配するだけ無駄になるのが常なのだが。

 

 「無傷でとは言わんが…。」

 「あぁ、必ず勝って帰ってくるさ。」

 

 ぎゅうと、自分より背の高い妻を抱き締める。

 すると、鼻に酒と汗と血と土、木くずの匂いが届く。

 白狼天狗故の鋭い嗅覚も、匂いの篭もり易いこの地底では余り役に立たないが、妻の匂い位数km先からでも嗅ぎ分けられるだろう。

 

 「あー!また二人ともイチャイチャしてるー!」

 「お父さんお母さん!僕も僕も!」

 

 抱き締め合う二人に、更に子供達が飛びついてくる。

 それを両親が笑顔で受け止め、ぎゅうと大事そうに、愛しそうに抱き締めた。

 

 「何だ何だ二人して。随分と甘えたさんだなぁこの!」

 「家の中で余りはしゃぐものではないよ。」

 「いいさ。元気がないよりはこっちの方が良い。」

 

 そう言って、愛し気に娘を抱き締める勇儀は、出会った頃とはまた違う魅力を放っていた。

 今の彼女は鬼であるが、鬼子母神だ。

 きっと、子供らに手を出されれば、それこそ噴火する様に怒り狂うのだろう。

 嘗てからは想像もつかないが、確かに自分も彼女も変わっていた。

 

 「これからもよろしくね、勇儀。」

 「何言ってんだい!末永くよろしく頼むよ!」

 

 旧地獄の地底の一角で、今日も賑やかな鬼と白狼天狗とその子供達が幸せそうに暮らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 なお、夫は外見合法男の娘なので、勇儀の犯罪臭が高い夫婦としても知られてる。
 後、夫の服装は椛のを大きくして、丈を長くした様な感じで書いてました。



 うーん、何かやっつけ感が強いな、没。

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