死神教室≒暗殺教室   作:黒兎可

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新年、明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします


インターバル:気持ちの時間

 

 

 

 

 

「――もう、そんなんじゃないって。お姉ちゃん。……いや、だからさぁ。居ないよそんな相手って。お仕事(ヽヽヽ)でもなかったし。

 うん、資料? みたいなのは一応この間渡したやつあるから大丈夫だよね? うん、おっけー」

 

 茅野あかりは、何処かへ、誰かへ電話をかけていた。その声音はどこか普段の彼女よりも、クールな印象を与えるものであった。そして何より、メガネを外している。左胸のポケットのケースに入れて、彼女は真摯に、少し微笑みながら向こうの相手と会話していた。

 

「? いやいや。そりゃ私も中学生だけどさー。日々、色々と思うところはあるよ? 胸の大きさとか、バストサイズとか、胸囲とかねー」

 

 そして胸の話題を出す時の声音が完全に笑っていない。

 話相手の苦笑いがスマホの受話器から漏れる。

 

「うん。じゃまたねー。お姉ちゃんこそ、早い所どーにかしちゃえば? ふふ」

 

 相手の反応を待たず、彼女は通話を切る。と電話をポケットにしまい込み、再度メガネを装着。目つきからクールな印象が削げて、いつもの明るい彼女のものに。

 理科室の扉を開け、廊下を左右確認。誰も居ないことを確認してから、彼女はこっそり、ゆっくりと歩きだした。

 

「うーん、まだ拙いからねー。

 さて、渚、渚は、と――」

 

 そんな風に独り言を言いながら、彼女は廊下を歩き、教室をちらりと覗く。

 杉野と磯貝とカルマで何やらボードゲームめいた何かをしているようだったが、彼女は薄く微笑んでそれを見なかったことにした。決してカルマのいつもの(酷い)笑顔に、二人の近未来を予知したからではない。断じてない。

 

 校庭に出れば、タコせんせーを模した顔のボールを使った、暗殺ドッジボールが行われていた。

 暗殺ドッジと言っても、2チームに分かれてというより外野と内野に分かれて、と言えば良いか。弾をチームワークで避けて、お互いに攻撃しあい、喰らった相手は死んだとしてグラウンドの隅に移動している。基本的にサバイバル力というか、そういった判断力を鍛えるためのものだ。

 

 そして、渚は体育座りでそんな中心部を見ていた。

 

「お疲れ、渚」

「あ、茅野」

 

 メモ帳片手に色々チェックしている彼だったが、茅野の顔を見ていくらか朗らかになる。

 とそんな時、前原の謎の絶叫が聞こえる。

 

「ちょ、止めろって! 後ろはまだたんこぶ直ってねーんだから!」

「うっさい! この女たらしクソ野郎ー!」

 

「って、わー!」

「な、渚!?」

 

 そんな声と共に、飛来してきた弾が渚の顔面を直撃した。メモ帳共々ふっとばして、その場で転がる渚。一旦メモ帳の方を先に回収してから、渚の方に戻ってくることにしたようだ。

 渚の方はと言えば、その場で転がるボールを押さえながらも顔面を軽く撫ぜていた。

 

「痛たた……」

「ご、ごめん大丈夫? 思いっきり蹴っちゃったから」

(何でもありだ、暗殺ドッジボール)

 

 手を貸すボールを蹴った主、岡野の手を借りて起き上がる渚。ボールを手渡すと、照れたように「ありがとう」と笑う岡野。

 そんな彼女に軽く手を振って送り出す渚。

 

「……おやおや?」

 

 そんな渚の目が、普段とはどこか違うような感じになっていたのを、茅野は見逃さない。伊達に大体一緒に居る訳ではない。

 

 前原に対してキレっキレに怒ってボールを投げる岡野を見てる渚を見ながら、どこか茅野は難しそうな表情を浮かべていた。

 

 

 

   ※

  

 

 

「渚、一緒に帰ろうぜー」

「ごめん、今日はちょっと残って勉強していく」

 

 杉野と別れた渚は、教室で英単語帳を取り出す。人気が段々少なくなっていき、全体的に表の方に出て行く中。珍しくも、教室は渚と茅野ばかり。否、無論この場にころせんせーは居るのだが。

 

「ヌルフフフ。渚くん熱心ですね」

「明後日の五時間目、たぶん英語のテストでしょころせんせー。だから勉強しないと」

「そうですか。では先生から一つアドバイスを。

 渚君は少し、勉強の時に急ぎすぎている部分があります。もう少し肩の力を抜いて、細かいところまでチェックする癖を付けると、なおよろしいでしょう。

 それでは先生、ちょっとコンビニにお菓子買いに行って来ますので、三十分までには戻ります」

((いいのそれ!?))

 

 一応就業時間中であるが、そこのところがどうなのかものすごくツッコミ所である。

 何かあったら職員室へ行ってください、と言ってからころせんせーは窓を開けて飛び降りる。そのままテレビのヒーローもの顔負けのアクロバット運動を屈指して飛んで跳ねて、あっという間に校庭からも姿を消した。

 

「相変わらずだよねー、ころせんせー」

「うん。……って、何だろうこれ」

 

 と、ころせんせーが居なくなった後に自分の机の上に置かれたプリント。英単語の意味が列挙してあるそれは、明らかに前回、渚が英語のテストで間違えたところであった。つまり復習用のプリントである。

 

「こういうところも相変わらずだよねー」

「そ、そうだね」

「渚、私手伝ってあげようか? 声に出した方が覚えやすいだろうし」

「茅野、大丈夫なの? 何か勉強あって残ったんじゃ――」

「あー、いや実は、渚にちょっと聞きたいことがあって」

「僕?」

 

 頭を傾げる渚に、茅野は頷いて一歩、歩みよる。顔が近づいたせいか、渚は一歩後退。

 

 茅野、前進。 

 渚、後退。

 

 茅野、前進。 

 渚、後退。

 

 茅野、さらに前進。 

 渚、もっと後退。

 

 そして背後の壁に背中が付くと、意図的に茅野はその壁に腕を「ドン!」とした。壁ドンである。なお両者は律が窓際に居る事を完全に忘れている。

 

「な、な、何? 茅野」

「渚、一つ聞きたいんだけど……、ひょっとして岡野さんのこと、好き?」

「なんで!?」

 

 思わず絶叫する渚に、茅野は上目遣い。メガネの隙間から覗く視線はちょっと半眼。

 

「だってー、なんか今日岡野さん見てた目が、なんか変だったし」

「変? って……嗚呼、う~ん、そういうのじゃないんだけど……。

 言って良いのかなぁ」

「?」

 

 茅野から視線をそらしつつ、渚は逡巡する。

 やがて諦めたように、茅野の両肩に手を置いて、壁ドン状態から脱却した。

 

「話すから、とりあえずこれ止めて……。

 えっと、一応ナイショにしておいてね」

「どんな話かによるなー。おねーさんとしては」

「年一緒じゃん!?」

 

 一通りコミカルなやりとりを終えて。

 

「菅谷くんがやった、ボディアートがまだ落ちる前の話なんだけど――」

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

 生徒達が下校した放課後、午後五時半。

 下駄箱で、渚は身を隠していた。本日中に出た課題を本日中に学校で済ませたかったという事情もあったので、残っていたのだ。

 ころせんせーは副担任のあぐりを連れてどこかへと向かった(デートだろ、とは一緒に残っていた前原の談)。最後まで残っていた渚は、夕暮れの職員室、ころせんせーの机の上にプリントを提出して帰路に就いた。

 

 そして、その結果として下駄箱でハイドアンドシークしてるのだった。

 

「あいつ……、コロス」

 

 声にならないような声で、ぼそりとつぶやいたその相手。女子であることは判る。

 言葉の内容にぎょっとした渚は、ちらりと向こう側を見る。しかし駆け足の音と共に、その場にはもう誰も居なかった。

 

「い、一体何が……」

 

 まさか本当に殺すという意味ではないだろうが、しかしちょっと不安になる声音である。

 困惑する渚。奇しくもその疑問は、翌日に解消されることになる。

 

 

 

「な、ま、前原くん!?」

 

 通学路。といってもE組の校舎手前なので山の中になるが、昨日の出来事が渚の脳裏を過ぎる。すぐさま烏間の教えたように手をとり、脈拍を計る渚。命には別状はなさそうだ。表情を見れば目を回して「くうううぅ……」と唸っていたので、意識を完全には失っていないだろう。

 

「い、一体誰がこんな……」

「私が登校してきた時は、既に」

「あ、速水さん」

 

 振り返ると、中々派手目な容姿であるがそれに反して落ち着いた、悪く言えば目立たない雰囲気を持つ彼女が、前原の方を見てどうしたものかと思案しているような表情が浮かんでいた。

 

「前原君程の運動神経で、転んでそうなるとは考え難いわよね」

「うん、そうだね。とすると……」

 

 速水を一旦待機させて、渚は周囲に気を廻らせる。

 昨晩の、下駄箱の不審者。彼女が誰であるかということだが、もしE組の生徒である場合、小手先だけでも実際の暗殺に近い技術を教わっているこの学級だ。本気でそれを暗殺などに使えば、相手の命はあるまい。

 

「まず現場検証と、凶器を特定しないと……。えっと」

 

 ここでメモ帳を取り出し、周辺の情報をメモしていく渚。

 

(通学路に対して、落ちている物は小石、大きな石、ボロボロの新聞紙のような何か、千切れたエロ本の破片……、なんであるんだろう)

 

 豪快な破られた後から、岡島の私物が片岡あたりに粉砕されたものだろうかと推察。

 道から捜索範囲を広げて見る。周辺の、草むらに足を踏み入れると、やはりここでも出てくるエロ本の破片だった。その他にはテニスボール、カルマが以前使ったものだろう切り取られた訓練ナイフ――。

 

 そしてそれらに混じり、汚れのほとんどないペンやメモ帳が落ちていた。

 

「これは……?」

(あれ、この足跡)

 

 周囲の草の中で数箇所、何度も何度も踏み占めたような場所が存在している。

 

(たぶん、慌てたんだろう。ペンやメモで殴れるわけはないから……、嗚呼、なるほど)

 

 落ちていたメモ帳の主をちらりと開いた上で、自分のメモ帳も開いて、その相手を概ね渚は特定した。

 おそらくこの相手、凶器に使ったのはスクールバッグだろう。遠心力を付けて振り回して、そのまま一撃。外傷らしい外傷が見当たらないのは、それが「本気で」殺そうとした程の一撃でなかったから。もしその気なら、凶器に使うモノが違う。

 それに――ペンのデザインから性別は間違いなく女子であるし、なによりメモ帳の端に小さく描かれたものが、ずばり犯人の正体を示していた。

 

(彼女の性格からしても、うん、かっとなったらありそうだし……)

 

 だがこれは、どうしたものか。言わないのが武士の情けだろうか……、どちらにしてもこのままだと速水が目撃するのだろうから、どうしようもないか。

 

「渚?」

「僕に任せて。ちょっと行ってくるから」

 

 そう言いながら渚は校舎を抜け、校庭の隅に向かった。

 向かう先はイトナ来襲以降、烏間先生によって強化設置された訓連用アスレチック。

 

(僕の予想が正しければ、犯人は毎朝ここで軽く運動してから登校している)

(いつでもアクロバットに動けるようにしてから、暗殺教室に臨んでいる)

 

(後は、本人も身体動かすのは好きみたいだったっけ)

 

 

「殺っちまった……」

 

 案の定、渚の予想通りの犯人はそこに佇んでいた。茫然と立っていたと思ったら、急に膝をかかえて体育座り。悶々としていることが人目で分かる。

 渚は少しだけ逡巡して、そして声をかけた。

 

 

 

 

 

「岡野さん」

「――っ、な、渚」

 

 

  

  

 

 慌てたように振り返る彼女は、確かに岡野ひなただった。彼女は、渚が手に持つ物をみて妙に焦る。

 

「前原くん、無事だったよ一応」

「へ? あ、あ、あうん、ありがとう……」

 

 メモ帳とペンを返す渚に、少し顔を俯けながら岡野ひなたは手に取った。

 

 なんでこんなことを? 地面に座る渚に、彼女もならって体育座り。

 やがておずおずと、苦笑混じりに話し始めた。

 

「一昨日は他の学校の女子とデート、昨日は高校生……。あんまりにも女にだらしなくて、一発どこかでおしおきしてやんなきゃって思ってたの。

 でも、あんなに飛ぶとは思ってなくて……」

「手加減のつもりでバッグを使ったんだよね」

「そんな感じ。

 でも……、うん、たぶん教科書の量のせいだ」

 

 ばつが悪そうに笑う岡野。暗殺教室なんてしているせいか多少警戒はしたが、やはり昨日の「コロス」は軽く使われる程度の方の殺すだった。

 

「でも、何でかな……。そんな正義感出す必要もないのに、私」

(これは……、うん)

 

 言わぬが花か、と渚は微笑むだけに留めておいた。

 

 渚は、彼女のメモ帳を確認している。その後ろの端に、小さく相合傘で「前原」「岡野」と書かれて、ボールペンで斜線されたのを見ていたのだ。

 本人もこれは、無自覚というべきか、無意識なものなのだろう。

 それに気付くか、気付かないかは定かではないが――。

 

「うん。皆には秘密にしておくよ」

「う、ごめん渚……」

「いいって。うん、叶うと良いね」

「……? 何の話?」

「なんでもないよ」

 

 どこか彼女の照れていた顔を眩しそうに一瞬見てから、渚は視線をそらして普段の表情に戻った。

 

 

 

   ※

 

 

 

「みたいなことがあってさ」

「なーるほど……、って、ゴメン渚、自供させちゃって」

 

 謝る茅野に、渚は少しばつが悪そうだった。

 ちらりと、アスレチックの岡野と前原の方を見る茅野。「女子は大体気付いてるんだけどねー」と少し苦笑いを浮かべて言った。

 

「で、結果的に前原君の株がどんどん下がって行くという」

「何その下降曲線!?」

「E組内部で距離おかれるから、更に拍車がかかってデフレスパイラルだよね~」

 

 ひょいひょい登って行く岡野に何事か言って、怒られる前原。周囲の女子は色々察してか距離をとっており、特に磯貝と片岡の委員長ペアが明らかに見守り体勢に入っている。

 そんな光景を見ながら、渚は「うん」と頷いた。

 

「でも――やっぱり、叶うといいよね」

「そーだね。……渚?」

 

 ちらりと渚の顔を見る茅野。

 彼女の目には、いつものように微笑んでいる渚が映るばかり。しかし、彼女は見逃さない。普段あまり表に出さない鋭さが、目の前の彼の瞳に映る色を、見逃すはずはない。

 

 

 底抜けに闇のように、あるいは沼のように――。

 

 光を灯さず、ただただ諦めのような感情が根底に横たわっていることを。

 

「……」

 

 少し上を向き、何かを思い出したように茅野は渚の頭に手をやり、ぽんぽんと撫ぜた。「うわ!」と驚く渚の腕をがっしり掴み、逃げさせないようにする。

 

「か、茅野……?」

「う~ん、まだ『あれ』に落ち込んでるみたいだから、一応ね。どうどう~」

「僕、馬扱い!?」

 

 少なくとも表面上は元気を取り戻す渚に、茅野は「あはは」と笑た。

 

 

 

 

 

   ※

  

 

 

 

 

『というようなことがあったんです、ころせんせー』

「ヌルフフフ……。律さん、是非ともそれは内密に」

 

 そして日も落ちた教室で、ころせんせーは律からその話を聞いていた。生徒たちの机をきちんと並べなおし、岡島が賄賂のごとく置いていった写真数点を懐に入れ、背後のあぐりにハリセンを喰らったりしながらである。

 

「んー、でもそうなると……」

「一応反省してるみたいですし、今回は大目に見ませんか? あぐりさん」

「そうは言いますけど、うーん……」

「筋は通すべきだとは思いますが、まあ私の記憶が正しければバレンタイン前後あたりには決着できると思うので、そこまで待ってあげてもよろしいかと」

「丸く収まるんですか?」

「乙女に収まります。

 あそうそうバレンタインと言えば――ヌルフフフ」

「……な、何ですか?」

 

 唐突にニヤニヤしたころせんせーに対して、咄嗟に自分の体を、主に胸元を庇うあぐり。もはや視線の先がどこにあるかなど、お見通しと言わんばかりの動きであった。

 

「さて、それは別にして……。茅野さんから聞いた範囲を総合すると、渚君はどうも『以前』より気を張ってるというか、追い詰められている部分があるようですね」

「追い詰められてる、ですか。

 ……確かに、鷹岡先生の時も、死神さんの話が正しければもっと穏便でしたよね」

「正直、血を流させた時点でかなりひやひやしてましたからね。下手に殺してしまうと、後に引けなくなってしまいますから……、ヌル?」

 

 と、ころせんせーは自分の懐の中、スマホの画面をチェックする。何がなんでも声を出すつもりがない、画面に映っている少女AIが、画像でフリップに「マスター、イベントなどはどうでしょう」と表示していた。

 

「イベント……、んー、そうですね。時期的にそろそろアレの頃ですか。準備はしてありますが、さてどうしましょうかねぇ」

「死神さん?」

 

 頭を傾げるあぐりに、ころせんせーはごそごそと何やらアカデミックなインバネスの裏側を探り、一つの本のようなものを取り出す。

 

 

 その表紙には大きく「A」と書かれており――同時に、タコせんせーというより、殺せんせーの顔の絵が書かれていた。

 

 

 

 

 ******

 おまけ

 

 

狭間(以下H)「という訳でどうも、聖夜のどこが聖夜なのかさっぱり理解できない狭間綺羅々よ」

神埼(以下K)「神埼です・・・って、いきなりどうしたの、狭間さん」

H「夜は夜じゃない」

K「?」

H「特別何か変わる訳でもないでしょ」

K「い、一応そこはイベントだし・・・」

H「昔なら、例えばドルイドの夏至祭とか豊穣祭とかの区切りもあったかもしれないけれど、少なくとも現代日本で持てはやしてカップルがこぞって出かける風習には異を唱えたい」

K「? ? ?」

H「要するに、聖なる夜なら聖なる夜らしくしてなさいってこと。ケーキとかプレゼントとか、割と上手く踊らされるわよね日本人」

K「みんなやってるって言われると弱いよね」

H「さて、そんな冬の夜にぴったりの映画『バ○トマン リターn――」

K「それ趣旨とずれてない!?」

H「ちっ。仕方ないわね。じゃあ丁度リクエストにもあった、雪女でお茶を濁しましょう。企画の趣旨としては、昔話について私達で何か感想とか話せってことらしいわ」

K「それでは、雪女です」

 

 

・雪女

 

 

H「有名所としては、小泉八雲がまとめたものかしら。場所は西多摩のとある村。茂作と巳之吉という二人の木こりが、ある冬の晩に近くの小屋で寝泊りしていた時のこと。小屋に入ってきた雪女は茂作を殺した。そして怯える巳之吉を若くて綺麗だからと言って生かし、この話を二度と誰にもするなと約束する。数年後、とある美人と一緒になり10人も子供を設けた巳之吉は、ある夜ついに妻にその話をしてしまう。実はその妻こそ雪女で、子供も居る以上、もはや殺すことも出来ない。子供のことを托して彼女は消えてしまった、というお話ね」

K「ちゃんところせんせー、カンペ用意してくれてた・・・」

H「まず一言良いかしら」

K「?」

H「面食いじゃない、この雪女」

K「ああ……」

H「助けた理由が理由よね。っていうか、もうこの時点で一緒になるつもりだったんじゃないかしら。この後に美人の姿で現れるみたいだけど、ひょっとしたらそれだってまやかしの姿かもしれないんだし。

  まあ共感できるけど」

K「出来ちゃうんだ!」

H「神埼だって杉野に迫られるのと渚に迫られるのだったら、どっちよ」

K「……ノーコメントで」

H「なんでもかんでも微笑んでれば誤魔化せると思うと、そうでもないわよ。

  じゃあ、神埼どうぞ」

K「この空気で私に振られても……。あ、でも最後に殺さなかったのって、やっぱり愛していたからだと思う。だって身体を許して、子供も産んだのなら、その一事だけで全部がなかったことには、ならないんじゃないかな」

H「私は逆に、もっと動物的な思考だったんじゃないかと思うわ。単純に自分の血を引いている相手を、自分で育てられないのかもしれない。半分人間だし、人間として育ってきた以上は今更戻れないみたいな。

  ところでじゃあ、最大の謎についてツッコミ入れるわよ」

K「最大の謎?」

H「なんで最後、消えたのよ。普通に逃げるなりすれば良いじゃない」

K「……あれ? それは、雪だから――」

H「だったら10年間の間でとっくに死んでるじゃない」

K「あ、もっと根本的なところのお話か」

H「……なんとなくだけど、人魚姫とか思い出すわね」

K「最後に、泡になるってところ?」

H「某映画なんかじゃもっと綺麗にまとめられてたけど、これって実は結構大きな違いなんじゃないかしら。私のさっきの前提を踏まえると……、イケメン発見、夫婦なりたい→人間になるために魔女とかに頼る→対価として雪女の話をさせてはいけない、みたいなものを受けるか、あるは最初からそれを自分で制約とするか→で夫婦→話す→消滅、みたいな流れ」

K「表現が……」

H「こう言うとアレだけど、運よね。容姿も若さも。もし若くてもイケメンじゃなかったら死んでいたかもしれないし。妙にリアリティを感じるわ」

K「う、う~ん……」

H「そういう意味で言えば、クリスマスの元になったニコウラウス氏についても、やっぱり運とか廻り合わせとか大きいんじゃないかしらね。まあそれを言い出したら、ころせんせーの所に居る私達なんかどんなめぐり合わせだって話だけど」

 

 

K「そんな感じで、いかがだったでしょうか」

H「後何回か続くから、その時もどうぞよろしく」

 

 


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