死神教室≒暗殺教室   作:黒兎可

14 / 38
基本インターバルは、原作本編外のネタ回収を中心にしていこうかと思います。


インターバル:帰り道の時間

  

 

 

 新幹線の車両に集ったE組を見て、雪村あぐりは点呼をとる。

 本日の格好は葉っぱに「だめ、ぜったい!」と書かれたシャツだ。これでも普段にくらべれば多少マシに見えるのが、彼女のセンスを如実に表していると言うか、何とも平和である。

 

「――矢田さんに、吉田君。はい、みんな揃ってるわね? で……」

 

 そして周囲の生徒達へと目配せして、汗を一筋。

 

「……どうしたの、これ」

「えっと……」

 

 何とも言えない顔になる渚や茅野。

 あぐりの当惑は無理もないところだ。なにせ座席に座っている全員、目の下にクマを作っているか突っ伏して眠っているかなのだ。寺坂組は狭間のみいつも通り。

 吉田に原がタオルをかけたりといったオカン的光景も見られたりする。

 

「茅野さん、みんななんだか疲れてるけど……」

「おね――雪村先生。あー簡単に言うと、あの後騒いで気が付いたら朝だった、みたいな?」

 

 一瞬何かを言い掛けて言い直した茅野。

 その説明の通り、昨晩は他に客がいなかったことも手伝って、大騒ぎであった。

 

 そもそも修学旅行のしおりに「枕投げ」やら「夜更かし」、「タコせんせー危機一髪」など記述がある時点でもう駄目駄目だ。烏間がキレて何人か強制的に「落した」お陰で午前中はなんとか持ったが、帰りの午後は既に限界一杯といったところか。

 

 男女別部屋になっていたはずが、大体ころせんせーのせいで男女共に入り乱れ、そのまま夜通しで(主に中村やらカルマやら岡島やらが中心となり)遊び続けた形だ。

 

 ちなみに一応、眠くなった生徒は部屋に少数ながら戻って居たりする。

 そして実は、影ながらころせんせーが監督していたりするのは秘密だった。

 

「渚君たちの班は、みんな起きてるわね」

「僕等とあと、菅谷君とか千葉君とかは、工作してました」

「あ、金閣寺……。なんか本格的」

「張り切りました」

 

 べろで指を一舐めする菅谷。わざわざ買ってきたのか、瓶ケースの中に入ったペーパークラフトの金閣寺は、専用塗料でも塗ったかのようにきらっきらしていた。無駄に本格的である。

 

「枕投げ組よりは早めに寝ました。あと、向こうはトランプとかUNOとかも用意してあったし」

「まぁ……、時間つぶしにはまっちゃうと、なかなか終われないわよね。友達といると特に。

 でも、翌日まで長引くようにはしちゃ駄目よ、みんな」

「「「「「は~い」」」」」

「成長期だし、あんまり夜更かしすると身長も体の発育も――」

「わ、わかってます!」「うがー!」

 

 渚と茅野の悲痛な叫びであった。

 ともかく起きている生徒に注意をすると、烏間の膝で寝ているイリーナの鼻を摘み、あぐりも席へ戻った。

 

「烏間先生、凄い顔……」

「下手に起すと更に絡まれそうだからねー。というか、吐きかねない? ビッチ先生、アルコール臭かったし」

「酒弱いのか……?」

「中村さん、日本酒勧めてからたぶん……」

「度数高いもんねー」

((烏間先生ファイト))

 

 奥田の予想にカルマが笑う。渚と杉野は、顔を見合わせて烏間にエールを送った。

 

「……あれ、そういえばころせんせーは?」

「どーせまたお菓子でも買いに行ってるんじゃない? さっき俺らが歌わせられた奴の録音された着うたが流れたし、居るでしょ」

「マナーモードしてないのかよ!」

「あ、すみませんプリンお願いしまーす!」

「あ、じゃあ僕は茶碗蒸しを――」

 

 会話の最中、さり気なく通りかかった販売員のお姉さんから物を購入する全員だった。

 座席を対面にした後、わいわいと買い食いをつまむ生徒達。

 

 と、杉野が手持ちバッグから何やら取り出す。

 

「そーいや渚、俺もちょっとメモとってみたんだけど、どーだ? 先輩として」

「せ、先輩って程じゃ……。杉野、絵上手い」

「え、うそうそ――うわ、上手い! 地味にデフォルメできてるあたり特に!」

「これ、私?」

「いや、あはは……」

「杉野、漫研に誘われてたよねー、昔」

「なんでカルマそんなこと知ってるんだ!?」

「確かに漫画向きかな、ポップだし」

 

 後ろの座席から菅谷がひょい、と頭を出してアドバイス。本気で漫画描いて見れば? と言われるも、あくまで野球に拘りたいらしい杉野。

 

「渚の絵はなんというか……。味あるよね」

「無駄がないっていうか、最低限何を描いてるか分かる感じ?」

「極めていくと、解剖図とか得意になる気がする。デッサンはともかく、特徴の捉え方にくせがなくて」

「あ、あはは……。絵って言うと、あと竹林君とかが上手だった気が」

「マジで!?」

「負けるかー!」

「不破さんどうしたの!? ってまた寝たし……」

「ここんところ竹林の名前聞くと、なんか反応するよなぁ」

 

 両者の間に何があったのか、知るのは漫画か二次元の妖精さんくらいだろうか。

 

 そんな話をしていると、すく、と渚が立ち上がる。

 

「ご、ごめん、ちょっと……」

「渚君、お花でも摘みに行くの?」

「その言い回し女子のだからね!?」

「渚君、ご愁傷様……」「せ、生物学上は当然の反応です」「渚ファイト」

「慰めになってないよ三人とも!」

 

 女子組のフォローに何とも言えない顔になりながらも、カルマの言葉を否定はしない渚。

 そそくさとその場を離れ、車両間を移動しようとして――。

 

 向こう側の扉が開き、女生徒が一人。

 やや目つきの鋭い、ショートカットの女子。すらっとした体系はスポーツマンのそれだ。

 

「あれ……、A組の人?」

「あー、あの人ね。大丈夫でしょう」

 

 スッ、と茅野が当たり前のように立とうとするが、カルマが手で制する。

 カルマの言った通り、彼女は渚とぶつかりそうになるも、特に何も言わなかった。

 

「あ、獅堂さん。昨日はありがと!」

「! 別に、E組だから仕方ないんでしょうけど、感謝されるようなことじゃないわ」

 

 いや、むしろ。

 むしろ気のせいでなければ、好意的な反応というか、何というか。

 

 頭を傾げる神崎に、ちょっとだけむっとする茅野。

 

 そのまま立ち去る渚と、販売員に飲み物を人数分言って買って行く彼女。他の生徒には目も合わせないあたり、徹底はしている。

 

「……あの、どうしてあの子は渚君とちゃんと話してたのかな。渚君だけ、なんだか対応が違うような」

「お、神崎さん興味ある?」

「ぬな!?」

 

 カルマがおちょくり杉野が奇声を上げる。

 フォローというわけではないが、茅野も神崎に同意。

 

「奥田さん、どうしてか知ってる?」

「えっと……、二人が攫われた時の話なんですけど――」

 

 そして、渚ところせんせーを除く、救出組三人は少しずつ、事情の説明を始めた。

 

 

 

 

 

「……駄目だ、つながらない」

 

 人気のない祇園の町の一角にて、渚は何とも言えない表情をする。

 

「電波は……、立ってるし。そう考えると、ころせんせーが他の人と通話中?」

「そうっぽいね。烏間先生の方は通じたし」

「じゃあ雪村先生にかけてもらおうか」

「カルマ君、充電の残量」

「あっちゃ、これは想定してなかったなぁ」

 

 色々と相談しながら、流れを決めていく渚たち。

 事態としては簡単で、非情に(まず)い。

 

 クラスメイトの神崎有希子と、茅野あかりが攫われたのだ。

 放置しておいたってロクなことにならないし、そもそも放置する気もない。

 カルマが指をぽきぽき鳴らしている時点で、この後の展開が血なまぐさいことにならないわけはない。

 

 杉野も張り切って「神崎さん待ってろー!」といったことを口走っているが、そんな中、奥田だけが気付いた。

 

 渚の表情が、いつになくグッと、険しいものになっていることに。

 

「……この周辺で、考えられる場所は、とりあえずこれくらいか? いや、でも車って言ってたし」

 

 ぶつぶつとスマホの画面を睨む渚。

 普段の渚らしくないその様子が、奥田には心配に思えた。

 

「ねーね、渚君。連絡はしたから、そろそろみんなで作戦会議しない?

 ていうか、やる気マンマンだねぇ」

「……まあね」

 

 カルマの言葉に、わずかに微笑みいつもの表情に戻る渚。

 杉野あたりは気付いていないが、いつになく渚はイライラしているようだった。

 

 紙媒体のしおりの後ろのページを開き、渚のスマホを見ながらチェックをつけていくカルマ。

 

「場所は三箇所。駅から東本願寺方面のここと、護国寺の裏側。あとは桂離宮の方かな」

「うひぇ、流石のリサーチ力……」

「しかもデータ収集一年前って書いてあるし」

((((何者なんだろ、ころせんせー))))

 

 一同疑問は一致したが、一旦この場では置いておく。

 

「ここから近いのだとやっぱり東本願寺方面だよね。……あ、ころせんせーからのリダイレクト」

 

 貸して、と杉野のスマホのボタンを操作し、ハンズフリーモードにして全員に聞こえるように。

 

『す、杉野君、皆さん大丈夫ですか!?』

「大丈夫だよーころせんせー。今、みんな聞こえるようにしてあるから。

 でも、茅野ちゃんと神崎さんが攫われた」

「あ、相手は高校生です……」

「俺達、みんな結構殴られて、カルマがやるきマンマンだ」

『ヌルフフフ、それは――いけませんねぇ。手入れのしがいがありそうです』

 

 テレビ電話ではないものの、今ころせんせーがどんな顔をしてるかわかるくらいには、彼等の付き合いは濃密なものになりつつあった。

 

『今の位置は祇園ですね。先ほど雪村先生から聞きました』

「はい」

『では、桂離宮の方へ向かってください。太秦方面へショートカットでバスが出ていたはずです』

「僕等の位置からだと、東本願寺の方が近いんですけど」

『私、今そこにいます』

「「「「早すぎ!」」」」

『とまあそれはさておき。こちらの方はこちらの方で別に手入れをしないといけないみたいなので、時間をとられます。また、しおりに明記されていない細かい場所もいくつかあるので、せんせーはそちらを受け持ちましょう』

「でも何でそっちなんだ?」

『簡単な話です。現在周辺で工事中なので、そもそも観光客があまり向かわないんですね』

((((納得の理由だ))))

 

 なお、ころせんせーからすればこれは理由の半分である。

 例え経験値を知識として生かせる場面であっても、しかしきちんと他の場所の確認を怠らないあたりは、流石にころせんせーであるといえた。

 

『せんせーの狙い目としては、ビリヤードやボーリング場などの跡地です。チェーンに細工があれば、なおのこと濃厚ですかねぇ。カルマ君、任せられますか?』

「おっけー」

 

 良い笑顔でサムズアップするカルマ。『ではご武運を。ヌルフフフフフ――』と通話を切るころせんせー。

 渚たちは立ち上がり、周囲を見回す。

 

「で、こっからどこに抜けたらバス停行けるんだっけ」

「下調べは神崎さんがメインだったから……」

「あー、まさかこんなので時間食うとは!」

「あ、あと三分弱ですよ!」

「これ逃すと次、二十分後じゃん!」

 

 わーわーと困惑している彼ら。と、そんな時にふと、ある声が聞こえてきた。

 

「――っていうか、さっき通った車ありえなくない? 泥跳ねたし」

「スカートとか超うざいっての、このシミ!」

「って、何であいつら」「E組? うわ、マジ最悪」

 

 渚たちと同系統の制服であり、なおかつ渚たちよりも「折れていない」生意気さがある女生徒たち。

 五人班で行動している彼女らは、当たり前のように椚ヶ丘中学、E組以外のどこかだろう。

 

 渚たちの姿をみとめると、露骨に舌打ちし機嫌を悪くした。

 

「こんなタイミングでまた面倒な……、な、渚?」

 

 だが、そんな彼女らに渚は足を進める。

 手前で彼は、深々一度頭を下げてから、何事か尋ねた。

 

「ひょっとして、バス停の場所聞いてるのか?」

「どうもそうみたいだねー」

 

「――僕等だけのためじゃない! 最悪学校の評判全体に傷が付くかもしれないんだから、ある意味君達にも危険は平等なんだ!」

 

「……なんか叫んでる?」

「い、意外です」

「いやー、だいぶクサいこと言ってるねぇ渚君」

 

 話の途中で、時に大声を上げる渚。一番手前にいた背の高い、スポーツマン然とした少女の両肩を下からつかみ、上目遣いで叫ぶ。

 あまり迫力はないだろうが、彼の本気度合いくらいは伝わっているのか、目をまん丸にしていた。

 いや、それともE組がこんなことを、無理やり言ってくるとは想定していなかったか――。

 

 他の生徒達が固まる中。しかし、渚が掴んでいた彼女だけは、わずかに顔をそらしながら指差す。

 

 お、とカルマたちが見守る中、渚は満面の笑みで、彼女の両手を取り、晴れやかに笑った。

 

「ありがとう!」

「――ど、どういたしましたッ」

 

 女生徒の反応が、なんだか怪しい。

 わずかながら、顔が赤いような、赤くないような。

 

 そのまま手を離して、こちらに近寄ってくる渚。

 

「みんな、そこの先に行ったところ、左に曲がる感じだって」

「あ、ああ。わかった」

「獅堂さん、ありがと!」

 

 さり気なく名前まで聞きだしている渚。

 そしてそのまま、四人はバスを目指した。

 

 

 

 

 

「っとまあ、こういう感じだったわけだ」

「ふぅん……。杉野、渚何言ったかわかる?」

「さあ」

「二人を助けるためだったから、結構普段から考えられないようなこと言ってたかもよ?」

 

 からかうように笑うカルマだが、奥田はあまり笑えない。

 あの影のある表情は、ひょっとするとひょっとして、カルマの言った言葉が的中している確率が高かった。

 

 控え目ながら、神崎が頭を下げる。

 

「やっぱり、みんなありがとう」

「そーだね、ありがと」

 

 続く茅野。二人の感謝に、杉野はあからさまに照れた。

 

「い、いやぁ……。でもころせんせーとか居なかったら、流石にキツかったな」

「でも、場所を最初に見つけたのは杉野君ですよね。入り口に居た人を伸ばしたのはカルマ君ですし」

「だけど、しおりをダウンロードしてたの渚君だし、連絡入れたのもさ。

 だからMVPは渚君でいーんじゃない?」

「意義なし!」

「……何の話?」

「お、噂をすれば」

 

 やって来た渚に、茅野がスプーンでプリンをすくって、突きつける。

 

「渚、あーん」

「へ? いや、何で――」

「まーまー。お礼ってことで受け取っとけば、渚君」

「カルマ君、話が読めないんだけ――むぐっ」

 

 けほけほと咽る渚。

 

 その背中をさすったりする神崎を見て、杉野は漢の涙をぐっと堪えた。

 

 

 

   ※ 

 

 

 

「では皆さん、寄り道はせずに帰りましょう。帰るまでが修学旅行です」

「「「「「はーい」」」」」

「では、また明日。元気にまた登校してきてくださいね、ヌルフフフフフ」

 

 JR椚ヶ丘駅で解散する3-E。他のA~Dまでのクラスは学校への送迎バスが出ているが、E組は当たり前のようにスルーされている。よって駅前解散となるため、多少注意してから、ころせんせーは手を振った。

 

「さて、と。烏間先生もお疲れ様です」

「……とりあえず、俺の背中のコレをどうにかしろ」

「どうしようもないですね。大人しく、園川さんあたりに任せた方が早いかと」

 

 烏間の部下の名前を指名するころせんせー。辟易するが、彼とて信頼の置ける部下に任せるのが合理的であるとはわかってはいるのだ。

 別な仕事に当っているため、そこから抜けてもらうという必要性があるものの。

 

 諦めたように頭を左右に振り、烏間は背負っているイリーナの頭を軽く殴った(ひどい)。

 

「これでも起きないか」

「本気でやったら駄目ですよ? 貴方のゲンコツはリアルでギャグ漫画のたんこぶが出来ますから」

 

 一応釘はさしておいたが、色々後が怖いころせんせー。

 まあもっとも、今の彼の目的からすれば、あまり関係ないところではあるが。

 

「それでは、雪村先生また明日~」

「はい。また明日……って、方向違いませんか、吉良八先生」

 

 周囲の生徒へ挨拶したり話したりしながら、ちらりところせんせーの動きを見る彼女。その言葉の通り、彼は中央線ではなく八高線へ乗ろうとしていた。

 ばれましたか、ところせんせーはニヤニヤ笑いながら一言。

 

「思ったより早く帰ってこれたので、せっかくですからちょっと、遠出して和菓子を買いにいこうかと」

「なんで埼玉方面?」

「入間の方にね、名物があるんですよ。中村さん」

 

 微笑みながらも特に説明するつもりはないらしいころせんせー。完全に趣味の話らしい。

 そんな彼に苦笑いしながらも、あぐりは一応釘を刺した。

 

「あんまり食道楽に走りすぎると、いつの間にかお腹がぷにぷにってなってても、知りませんよ?」

「ニュル? いえいえ、多少は抱きごこちが良くなっても問題ないでしょう」

 

 腰を二度つついてくるあぐりに、ころせんせーは困ったように笑った。

 

 

 

 

 

 

「……」

「ヌルフフッフ」

 

 そして今、静かに男たちの戦いの幕が、切って落とされようとしていた。

 埼玉県入間市。県の南西部に位置する、狭山茶の主産地。

 

 そこの名物「いるまんじゅう」。甘さ控え目なあんこと狭山茶を練りこんだ生地とのバランスが良い。

 

 これを目指して来たころせんせーは、とある、本編と全く関係のない少年と手が重なり合った。

 頭にアンテナのような、ヘッドセットを装着した少年。メガネをかけていて、どこか超然としている。

 

 ぶっちゃけ、なんか超能力者っぽい。

 

「……」

「……おや、『今回は』ちゃんと私の方が早かったようですねぇ」

 

 ヌルフフフフ、と笑いながら、ころせんせーはまんじゅう二つをレジへ。

 わずかに残念そうな表情を浮かべる少年。そう簡単に諦められるか、という意志が見え隠れ。

 

 そんな彼を意識の端で捉えつつ、ころせんせーはアウトレットモールを出る。

 

 ――そして次の瞬間、全力疾走を開始。

 

 まるで登山客のような荷物量などものともせず、残像が残るか残らないかという速度で、街中を、というか民家の屋根や木々をフリーランニングするころせんせー。

 そんな彼の背後に、消えては表れを繰り返すメガネの少年。

 

[こいつ、たかがまんじゅう1つ2つのために何故ここまで]

「たぶんわかりますよ? 似たもの同士だと思いますからねぇ」

 

 ヌルフフフフ、と笑いながら、ころせんせーは懐から「拳銃のような」何かを取り出した。

 それだけではなく、頭の裏に何かの装置をつけ、「頼みますよ『プロト律』さん」と一言。

 

『――ミスター。このようなくだらない理由で私を使わないでください』

「いえいえ。この間、烏間先生に頂いた以上は、試運転は一回くらい必要かと」

 

 懐から聞こえてくる声と会話しながら、ころせんせーは拳銃の引き金を引いた。

 

 次の瞬間――銃口から、「黄色の触手」としか形容の出来ないものが出現する。

 

 これには何とも言えない表情で固まる、超能力少年。

 だが、その触手の効果は圧倒的だ。

 

 速度にして「マッハ20」。

 

 触手が伸び、電柱を掴み、ころせんせーを投擲する速度だ。

 滅茶苦茶な外見に反し、妙に洗練されたマニュピレータである。

 

 少年の移動速度もあがり、十秒を過ぎるか過ぎないかというあたりで、彼等はとある場所に着地した。

 ころせんせーが引き金から手をはなすと、途端、触手が煙を上げ、どろどろと溶け蒸発した。

 

[ここは……、展望台?]

「やはり見晴らしが良いところがいいですからねぇ」

 

 ヌルフフフフフ、と微笑みながら、ころせんせーはまんじゅうの一つを開封し、半分をわける。

 

「片方はある人へのお土産なので渡せませんが、これくらいでしたら」

「……」

 

 それを受け取り、二人そろって入間の街を見下ろす。

 

「良い所ですよ、入間は。ここ西部は大自然の素晴らしい眺めが。

 東南部ではアウトレットショップをはじめ、大型商業施設が目覚しい発展を遂げています。

 色々と(ヽヽヽ)抜きん出た人間にも居場所がある。そんな場所だと思いませんか?」

 

 それっぽいことを言いながら、まんじゅうを頬張るころせんせー。

 だが、超能力少年は彼の頭をじっと眺めて、一言。

 

[……割と煩悩が多いな。そこまで入間のことは重要じゃないみたいだ]

「ニュヤ!?」

[僕もだ。気にしない]

「そ、そうですか……」

 

 冷や汗をかきながら、ころせんせーは夕日を眺める。

  

『――ミスター。ところで私の初台詞はこんなところで良かったんでしょうか』

 

 合成音の少女の声だけが、メタメタしくも虚しく響いた。

 

 

 




当初は斉木君ネタだけだったのですが、色々足していったらこんな結果に・・・。
バスケ部マネージャーは犠牲となったのだ。今後のパラレル展開の犠牲にな!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。