死神教室≒暗殺教室   作:黒兎可

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※超ネタバレ注意警報発令中
本作は原作第15巻以降の重大なネタバレを含みます。閲覧の際はご注意をください。
また冒頭部は「こうなるかな?」という感じで書いてますので、後々変更されるかもしれませんがあしからず。


第0話:逆行の時間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(――終わりましたよ、雪村先生)

 

 

 私はいつでも、皆さんを見守って居ます。ヌルフフフ……。

 

 地上最強の生物兵器「殺せんせー」による、彼を殺すための暗殺教室は、終わりを向かえた。

 分断される己の両手――黄色いその触手と共に、解体され、分断されていく意識。

 徐々に自分の内部のパルスが千切れて行く事を感じ、彼は、殺せんせーは微笑を浮かべた。

 

(この子たちなら、もう大丈夫)

 

 男は。地上最強生物だったその男は、今、おそらくもう二度と味わう事のない幸福感に身を委ねていた。

 自らの教え子の姿も、声も、もう聞こえない。目の前にいるはずの彼等に、もう「全てに触れる事のできる」手さえ、伸ばすことは叶わない。

 

(辛い決断をさせてしまったかもしれない。諦めきれない決断をさせてしまったかもしれない)

 

 只、例えそうであったとしても。彼等ならこの先、心配しないでいけるだろう。

 他でもない、自分と「彼女」との教え子なのだから。

 

(願わくば、貴女と一緒に眠りたかったところですが……、流石に許してはもらえないようですね。ま、死神ですし)

 

 苦笑いが男の口に浮かぶ。もはや姿という概念もない彼であったが、しかしその意識は確かに、寂しそうに微笑んだ。やや唇が吊りあがった、「二つの姿」が合わさったような笑みであった。

 ヌルフフ。

 生徒たち一人一人の顔を思い浮かべ、別れの言葉を思い、深く息を吐く。

 

(行き先は地獄か、あるいは虚無か……。どちらにせよ貴女の居る場所には、程遠いでしょうね)

 

 体内の反物質のサイクルが終わりを向かえる。それらはまるで渦を描くように中心へ、中心へと向かう。

 ある種のブラックホールのようなその渦に、彼の意識は飲み込まれていく。

 押しつぶされ、押しつぶされ。

 圧縮された思考の中で、彼は聞いた。

 

――何になりたい。

 

 二度と聞くはずのなかった声。しかし確かに聞こえたその声は、触手のものだ。

 己を作り変えた触手。今や己自身となった触手。断末魔さえ上げることもできず、力つきていく触手。

 自分が後戻りできなくなった元凶であり――同時に、彼等と自分との間に「絆」を作った、この手。

 

(どうしても叶えられるなら―ー)

 

 走馬灯のように流れる、今までの記憶。それらを俯瞰し、今一度、彼は思った。

 

(――もう一度、教師になりたい。

 「あの子」を今度こそ、きちんと見てあげて、導くことの出来るような。

 そして「あの子達」を見守ることのできる、「あの人」に恥じる事のない、そんな教師に――)

 

 そして、その意識は完全に消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その、はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

「――んせい、先生! 大丈夫ですか?」

「…………ッ! はぁ、はぁ、はぁ」

 

 男は立ちくらみを起し、バランスを崩した。

 その場にいた少年が支えたことで転倒は免れたものの、普段の男からは考えられない失態だ。

 何が失態か。体調が悪い程度、仕事が多少辛かろうが、それの何が問題だ。

 そんな表の常識が一切通用しないほど、裏社会は修羅の国である。

 そんな世界の路地裏で、少年は、彼の顔を心配そうに覗き込んだ。

 

「先生、大丈夫ですか? すごい汗ですけど」

「……はい、大丈夫です。ちょっと夢を見まして」

「夢ですか?」

「白昼夢、というやつでしょうか」

 

 力なく微笑む彼の顔は、いつになく白い。元々男性にしては色白な方だったが、今はより一層悪い。まるで悪い酒にでも酔ったかのようだった。

 心配する「弟子」の頭を軽くなで、彼は周囲を見回す。

 

(ここは……?)

 

 その場所には見覚えがあった。

 まだ、彼がかつて「死神」と呼ばれた殺し屋だった頃。

 世界の全てに憎悪の種を抱き、血と破壊と暗殺をふるっていた、そんな世界。

 間違いなく自分はその頂点たる「死神」であり、拾ったばかりの弟子に色々と教え込もうとしている途中だった。

 

(しかし何て濃密で、滑稽な夢でしょうか。全く、私が教師など)

 

 思わず自嘲げな笑みを浮かべる死神。黒髪の整った容姿が、そんな風に笑うのを弟子は初めて見た。だが、その表情が訝しげなものに変化する。

 

(……いえ、本当に夢だろうか。夢なのだろうか)

 

 死神は、常人を上回る能力を身に付けていた。自惚れなく、ある種の天才であるといえる。

 その才能全てを「他者を殺す」ために磨き、この世の真理たる破壊の体現者として彼は振舞ってきた。

 

 だからこそ、おかしい。

 そんな自分の脳に、一瞬の夢であったとしても、そんな分析不可能な物語が、「一瞬たりとも全ての情報を落とさず残さず」記憶されているという、この有様が。

 

 そして、彼は目を見開き、気付いた。

 

(……まさか、記憶だけタイムスリップした、とでも言うのでしょうか)

 

 否定の言葉が脳裏を過ぎるが、しかし死神は、その自分の言葉に反論できてしまうほどに、優れた知識を持っていた。以前大学教諭となっていた事があった。無論仕事のためである。その際に得た知識が、ある仮説を提唱した。

 

 すなわち――反物質のサイクルによって構築される、ワームホールである。

 

 馬鹿な話だ、と自分でも思う。だがしかし、逆に彼にはその説を否定することが難しかった。いや、否定したくなかった。

 

 彼は、反物質によって変化した細胞、触手の言葉が聞こえたのだ。

 そして彼は、変質した後の彼は、触手に願ったのだ。

 

(……我ながら妙なことを考える。だがしかし――)

「――確かめてみる、価値はあるかもしれませんね」

「?」

 

 不思議そうな顔をする弟子を、死神は愛おしげな目で見つめ、まるで我が子にするかのごとく抱き上げた。

 

「そういえば、名前をまだつけていませんでしたね」

「先生?」

「仁愛(ニア)、なんてどうでしょう」

「……よくわかりませんけど、先生がくれたものなら、大切にします」

 

 彼の言った言葉が、というよりも漢字が、少年にはいまいち伝わって居ない。

 

「ニア。私はこれから、日本に行こうと思います」

「ジャパン?」

「そこで私は、どうしても確かめなければならないことがあります。そしてそれが真実ならば――ひょっとしたら、私は、私の手で悲劇を一つ、回避することが出来るかもしれません」

 

 不思議そうにしている弟子に、死神は、聖人のごとく微笑んだ。

 さて、これから長いぞ。死神はさもそう言うかのように空の満月を見上げ、にこにこと笑った。

 

「ヌルフフフフフフ」

「先生、気持ち悪いです」

 

 しゅん、と悲しい顔になる死神。

 案外と弟子は、師匠に容赦なかった。

 

 




イケ殺せんせーとあぐりをいちゃいちゃさせたくて、衝動的に書き始めた。後悔はしている。

コメントの際は、以下の注意点を留意してご指摘などしていただけるとありがたいです。

・作者は暗殺教室好きですが、週刊だけで追ってる都合上けっこう忘れてるところあります。
・なので生徒描写の際とか、ところどころ「コイツこんなこと言わねーよ!」なところが出てくると思われます。
・そういった際は、そっとご指摘いただけるとありがたいです。より暗殺教室原作よりにできるなら、それに越した事はないというか作者的にはむしろご褒美です
・別に普通の感想も受け付けています。↑は突っ込み所があったり誤字ったりしてたらお願いという程度で大丈夫です
・なお今後の展開は、原作の展開次第で改稿、冒頭部のパラレル化など有りと考えていただけると助かります。どんでん返しとかまだありそうですしね・・・。

それではごゆるりと、お付き合いくださいませ。ヌルフフフ
 
【(:月)巨 =3=3=3=3=3=3=3=3=3=3=3=3=3=3

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