ISVD〜Infinite Stratos Verdict Day〜   作:高二病真っ盛り

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正直、あらすじってもう要らないよね…?


MISSON09 Original
09ー01 DARE DEVIL


『僕はこの世の者じゃない』

 

 

――――少女(しょうねん)は語る。

 

 

『そう。それがどうかした?』

 

 

――――向かう女は笑う。

 

 

――――それだけだ。たったそれだけが、彼女(かれ)にとっては至上の救いだったのだ。

 

 

――――この操り人形と手繰り手のみで骨子が組まれた様な世界で、唯一の光だったのだ。

 

 

――――故に、嘗ての(おとこ)宇宙(ソラ)に吠えた。

 

 

 

『篠ノ之…束ェェェ!!!!』

 

 

 

――――是は、如月奨美(おとこ)の話。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ああ…もうすぐだ…!」

 

 

亡国機業(ファントムタスク)本部の奥深くにて、男は嗤い喜悦に震える。

 

女と見紛う程に華奢な体躯に純黒のスーツを纏い、普段は柔和な笑みと穏やかな視線を持つ口元と目元は、歓喜の叫びで歪んでいる。

 

 

彼の名はジギル・M(マイン)ファンタジス。

 

 

篠ノ之束に並ぶやもと呼ばれる稀代の天才にして、最年小のIS委員会委員。

 

 

しかし、彼の本当の姿はそれではない……世界の裏で暗躍する悪の組織“亡国機業(ファントムタスク)”の首領こそが彼の真の顔である。

 

 

「随分と嬉しそうだな」

 

「それもそうだろう、“T”。私の一世紀に及ぶ悲願がようやく果たされようと言うのだからなァ!」

 

 

そんなジギルを冷ややかな眼差しで見る“T”…如月は、無意識のうちに腹を抑える。

 

 

「…()

 

 

如月は腹部の幻痛を悟られないように振る舞うが、それを気にすることもなくジギルは恍惚の雄叫びを上げる。

 

 

「天から注ぐ裁きの光…地を覆う亡骸の鎧…永遠なる体制、“イモータル・プロジェクト”に必要なピースは揃った……!

()()()たる、織斑一夏の消息が掴めていないのは残念な事だが、死んでいないというならよしとしよう。

……なぁ、“T”?」

 

「ああ。織斑一夏は生きているし、今も虎視眈々と亡国機業(コチラ)の喉笛を食い破らんとその嘴を磨いている筈だ」

 

「それはいい。まさか、単身で亡国機業(われわれ)に挑もうとするとは予想以上だよ。

流石は、君と同じ未知存在(ブラックビジョン)なだけはある。同類としては何か思う所がないかね?」

 

「無い。それに、織斑一夏が僕と同類な事とそれは関係無いだろ。

…ところで、そんな事を言うためだけに呼び出したんじゃないんだろう?

もしかしてガーダインの件か? 彼は順調に手を回しているが…」

 

 

うんざりした様子の如月は、早く本題に入れとジギルに促す。

くっくっと笑うジギルは、その不遜な態度に機嫌を損ねる事なく答える。

 

 

「もちろん。ガーダイン君の進捗もそうだが……君には“グングニル”の護衛部隊の指揮を執って欲しいと伝えておきたくてね」

 

「――――僕がか?」

 

「そう、君がだ。まだ会議でも決まっていない決定事項だが、私の秘密を知る君ならそうした方が都合が良いのはわかるだろう?

三度の弱体化を経て、僕の“力”は全盛期の見る影も無い程に範囲、精度の両方が落ちたが、今もなお有効だ。

部隊メンバーは君の好きに選んでいいから準備を今から初めておいてくれ。好きにとは言ったが、あまり選択肢が無いのは勘弁願うよ」

 

 

ジギルの言葉に如月は目を見開きその後考え込む。

5秒ほど熟考した後、大きく息を吸って口を開く。

 

 

「なるほど。確かに今のなけなしのアンタの力を活かしたいと言うなら……そうした方がいいか。

でもいいのか? 僕はアンタにとって織斑一夏と並ぶ危険因子だ。それに計画の心臓部を任せるようなマネをしては、心中休まらないだろ」

 

「構わないさ。君の意志が本物だという事は、10年前のあの日にわかっているのだからな。

私と同じく、その鋼鉄の意志は揺らぐことは無いだろう。だからこそ任せられる」

 

「……そこまで言われたら、任されない訳にはいかないな。

全く、マドカが怖いぞ」

 

 

その後、一言二言交わした如月は部屋を出て一息つく。

 

 

「ん…んんっ!」

 

 

背中を大きく伸ばして深呼吸。

脳に酸素を送り込み、活動を活発化させる。

 

そうして開かれた双眸には、ジギルという男への憐憫と侮蔑が描かれていた。

 

 

「変わっていくのは当たり前だというのに、“変わらせない為に変える”とは……本当に救えないな、ジギル(アンタ)という人間は」

 

 

嘲りの瞳は瞬きで変わり、決意が代わりに込められる。

 

 

「さて、始めよう。如月奨美(ぼく)織斑一夏(きみ)の戦いを。

……最も、君にかかる負担が絶大なのはご愛嬌だ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

『こんにちは、この地球に住む……新しき年を迎えようという70億の人類』

 

 

『私はジギル・M(マイン)ファンタジス。IS委員会の特別委員とも呼ばれている。初めましての方もそうじゃない方もいるだろう』

 

 

『だが……今この映像配信を行っているのはそんな些細な役柄としてはでは無い』

 

 

『ネットの海に住む者達ならば聞いたことがあるであろう闇の組織――――亡国機業(ファントムタスク)。その首領として私はここにいる』

 

 

『そして告げよう……我々は、全世界に宣戦布告を行うと! そして…君達の幸せと希望の一切を粉砕するとここに誓おう!』

 

 

『さぁ人類よ…見せてくれよう、絶望の恒久を! 未来は無い、跡形も! 大いなる闇に沈め!』

 

 

それは、突然として始まった。

 

 

ズダダダダダダダ……

 

 

ドゴォォォォン

 

 

12月31日。

 

 

師走という「師(僧侶)が走り回るほど忙しい月」が終わろうとし、新しい年と月が始まろうという日の東京では、誰も彼もが走り回っていた。

 

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 

否、走り回っているのでは無い。逃げ惑っているのだ。

突如街の中に降り立ったゴーレムとレギオルーパーの軍から、人々は混沌と狂乱の騒ぎを奏でて逃げているのだ。

 

 

「来るな…来るなぁぁぁぁ!!!!」

 

 

グチャ!

 

 

男は叫ぶ。悲鳴ごと踏み潰される。

 

 

「いやぁぁぁ!!!!」

 

 

ターン…

 

 

女は泣く。涙諸共撃ち抜かれる。

 

 

「お゙があ゙ざん゙!お゙があ゙ざん゙!」

 

 

ズバァ!

 

 

子供は喚く。すぐに静かになる。

 

 

「蘭! どこだ……らーん!」

 

 

阿鼻叫喚の人混みの中、五反田弾ははぐれた妹の名を叫ぶ。

幸運な事に探し人に声は届き、返事が雑踏から返る。

 

 

「お兄! こっち!」

 

「蘭! よかった…怪我は無いか?」

 

「うん、大丈夫…ねぇ、一体何が起こってるの!?」

 

「わからねぇ。でも多分、一夏の奴が前に巻き込まれたテロだ。ここは危険だ、急いで逃げるぞ!」

 

「うん!」

 

 

そう言って逃げようとする2人の前に、レギオルーパーが現れる。

 

 

「っ!? 蘭、逃げろ!」

 

 

蘭を庇う様に立つ弾に向けて、レギオトリガーから光弾が放たれる。

 

 

「お兄!? キャッ!」

 

 

1秒後に奪われるであろう弾の命は、0.5秒後に飛び込んだ水色の影に救われる。

飛び込んだ影は勢いそのまま、弾を掴んで地面を転がる。

 

 

「……大丈夫?」

 

「お前は確か…河川敷で喧嘩してた…」

 

「余計な事ばかり覚えてるね君は…!」

 

 

素早く起き上がった水色の影…更識簪は、右手中指に嵌められた待機状態の打鉄弐式を構える。

 

 

「乱暴なエスコート、失礼致しましたわ」

 

「セシリア、さん…」

 

 

時を同じくして、蘭を流れ弾からヒョイと逸らした金色の影…セシリア・オルコットも待機状態の腕時計を構えた。

 

 

「変身!」

 

 

B(ブルー)ティアーズ・D-Nx(ディーネクスト)!」

 

 

ISを纏った2人に、レギオルーパーとゴーレムの視線が集まる。

 

 

「簪さん。レギオルーパーには絶対防御が無く、撃破すれば当然命を奪いますわ。

もし、それをしたくないと言うのであれば、私が請け負いましょう」

 

 

VOLCARISER(ヴォルカライザー)!】

 

 

「そりゃ、殺しなんて好んでやりたくは無いけど……でも、やんなきゃいけないんだよ。

私は逃げない。目を逸らさない。織斑がいない鈴を守る為にも!」

 

 

「そう…では、行きますわよ」

 

 

2機のISは同時に地を蹴り、己が武器を振るった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

1月15日。

 

 

「ただいま戻りましたわ」

 

 

人気の無い豪奢なホテルの扉を開けて、セシリアが不機嫌混じりのため息を吐きながらホテルロビーに入る。

 

 

「ああ、おかえりセシリア。なにか情報はあったか?」

 

「まぁ、それなりには……しかし、慣れるものですわね。

ホテル暮らしにもう然程の違和感を覚えませんもの」

 

「IS学園寮がこの高級ホテルに負けず劣らずだったということだろう。

一夏が失踪(きえ)てから…もう三カ月程か。その間世界は激動したものだな」

 

 

そういう箒の手に握られた携帯端末の画面には、慌ただしく動くスタッフを背景にニュースキャスターが『〇〇国、亡国機業(ファントムタスク)に降伏宣言』の見出しと共に、センセーショナルなニュースを伝えている。

 

 

「ええ、大晦日の亡国機業(ファントムタスク)首領…元IS委員会委員ジギル氏の全世界へ向けた宣戦布告。

それと同時に世界各地にゴーレムやレギオルーパーで構成された部隊が襲撃を開始。しかしされど何を目的とした襲撃なのかは一切不明。

アメリカやロシア等の各国は反攻作戦を開始。襲撃を受けた貴女の日本(くに)も、紆余曲折あれど自衛の為に撃退戦を始めましたわね」

 

「国の中枢にまで亡国に潜り込まれていたがな。それに、反撃を始めようとした世界はその出鼻を挫かれた。

太平洋上に存在する世界最大のエネルギープラントが、空から降り注いだ光によって一瞬で消滅する形でな」

 

「衛星兵器『グングニル』による衛星軌道上から放たれた超高出力のビーム砲。

亡国機業(ファントムタスク)もよくまぁ密かに打ち上げ…組み立てたものですわね」

 

「宇宙空間での組み立て作業、か。皮肉だな、悪の組織たる亡国(あちら)の方が本来の目的に沿ったISの運用をしているというのも」

 

「――――ええ全く。忌々しい事この上ありませんわ……!

それ以上に情けない! あの地下基地でそれがわかっていたというのに防げなかったこの身の不甲斐なさが!」

 

 

火山の如き怒りを露わにするセシリアに、箒が冷静になれと声をかけようとした時、2人の足音がソファーに座る2人に近づく。

 

 

「戻ってたんだ、セシリア」

 

「私、参上」

 

「鈴さん、それに簪さん」

 

 

足音の主は鈴と簪。これで一年生の専用機持ちは全員揃った。

 

 

「…それでセシリア。防げなかったという事実は変えようもないとして、どうやってこの先空飛ぶ兵器と戦うつもりなのかな?

既に被害は甚大だよ……なにせ、数にして2億が亡国の手にかけられている」

 

「盗み聞きとは趣味が悪いですわね簪さん。まぁいいでしょう。

各国は衛星兵器グングニルの破壊を試みた…いえ、試みようとしましたわ」

 

「…した?」

 

「破壊を行うIS部隊の編成。その会議段階で亡国側から襲撃されるんですの。

絶対にさせないとばかりにISまで持ち出してくるお陰で計画を練る以前の問題だそうですわ」

 

「どこかから情報が漏れているというわけか?」

 

「それにしては不審な点が多いのですわよねぇ箒さん。多くの人員が動くのならスパイなりなんなりが入っていようものですがーーー」

 

「――――なるほど、出だしも出だし。格ゲーで言う所の見えない筈の1フレーム目で潰されてると。

流石、次期代表。まだ候補の私よりも耳が早いね」

 

「その立場だけあって制約は多いのですけどもね。現に3日後には―――」

 

 

ヴーッ!ヴーッ!ヴーッ!

 

 

「!?」

 

 

突如、各々の携帯端末からけたたましいアラームが鳴り響く。

ニュースを見る為に出していた箒はいち早く確認する。

 

 

「臨海地区に有事避難警報…亡国機業(ファントムタスク)か!」

 

「なら私が行く! 日本代表候補が日本助けに行くのに文句はつけさせない!」

 

「私もだ! 無所属の私なら!」

 

 

簪の言葉を受けて箒も同時に立ち上がり、そのまま駆け足でロビーを出る。

 

異国の代表候補であるセシリアと鈴はそんな2人を見送り、ホテルロビーで佇む。

 

 

「……いっちゃったね」

 

「そうですわね。こういう時に動けないのは、本当にもどかしい事ですわ」

 

「…ねぇ」

 

「はい?」

 

 

手持ち無沙汰か、紺碧の腕時計を無意識のうちに弄るセシリアに、鈴は語りかける。

 

 

「さっきの警報の直前…なにを言おうとしたの?」

 

「ああ、その事ですか。別に、3日後の便でイギリスに戻って来いと命令が下っただけですわよ」

 

「この状況で?」

 

「この状況だからでしょうね。優等生かつ問題児の私が、大事な次世代機と共に外国にいるのは都合が悪いのでしょう」

 

 

亡国大戦とも呼ぶべきこの惨状で、IS学園はその機能を停止する事となった。

 

学生達は寮を出て、日本政府の用意したホテルの下、折を見て帰国をする予定だが、旅客機が撃ち落とされた事もあり、飛行機や船が安全で無い現状では日本の生徒のみが帰宅出来ているのが実状である。

また、日本人である簪や箒、楯無は専用機持ちという事情と、本人の希望もあって他の生徒と同じくホテルで過ごしている。

 

そんな状況で帰って来いと言うのは自殺行為では無いのかという鈴の心配を、セシリアはなんでもないように返す。

 

 

「心配ご無用ですわ鈴さん。私はセシリア・オルコット。そう簡単に死ぬ女ではありませんもの」

 

「……でも、一夏だってもしかしたら…!」

 

「そう暗い顔をしないでくださいまし。……そうだ、いいことを聞いてきましたのよ」

 

 

俯いた(かんばせ)に暗色を浮かべる鈴に、セシリアは己に注意を向けようとパンと手を叩く。

 

 

「いいこと?」

 

 

ええ、よくきいてくださいまし。と大仰な身振りでセシリアは告げる。

 

 

「現在行方不明の一夏さんは…生きてますわ!」




次回は9月22日です。
今回のタイトルから次回のタイトルを予想できた人、もしいたら凄いと思う。

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