ISVD〜Infinite Stratos Verdict Day〜   作:高二病真っ盛り

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これまでのISVD

村橋が残した情報を元に始まった、4機のISによる亡国機業(ファントムタスク)地下基地潜入工作作戦が行われていた頃、IS学園を襲撃するサイレント・ゼフィルス/マドカと甲龍(シェンロン)/鳳鈴音&打鉄弐式/更識簪の戦いが始まっていた。

その実力差は大きく、簪は倒れ鈴にも凶弾が放たれる。
しかし、そこに1つの影が割り込んだ。



(びゃく)(しき)……?」


08ー24 刻限の鐘が鳴る

「簪ちゃん!」

 

 

「鈴さん!」

 

 

夜のIS学園。

11時半の保健室に、亡国機業(ファントムタスク)との戦いから帰還した楯無、一夏、セシリアが、焦燥の表情と共に扉を蹴破らんばかりの勢いで飛び込む。

 

 

「お姉ちゃん……帰って来たんだ。それに…織斑」

 

 

保健室の2人の内、痛ましく包帯やガーゼを全身に包まれた方である簪はチラリと、しかして疑い深く一夏の顔を見る。

 

 

「セシリア、一夏……」

 

 

その視線に一夏は何事かを問おうとすると、軽く絆創膏を貼っただけの鈴が不安げな面持ちで見つめた。

 

2人のその視線に、一夏がたじろいでいると、後ろから声がかかる。

 

 

「戻ったか、一夏。……少しジッとしていろ」

 

「箒…?」

 

 

肩ほどまでの黒髪を揺らして、箒が一夏の肩を掴む。

前、後ろ、右に左、一夏の外見をくまなくチェックしていく彼女に、一夏は戸惑いを隠せない。

そんな動揺に構わず、「ふむ」と一人勝手に納得した調子の箒は一夏の襟を直した。

 

 

「……一夏だ。正真正銘本物の」

 

「……?」

 

 

箒の言動に、一夏は当然としてセシリアと楯無も首を傾げるが、鈴と簪の表情にやや安心したそれが示される。

困惑の一夏に、遠目にはミイラと化した簪が口を開く。

 

 

「織斑、1つ聞きたいことがある……。内容は言わなくていい、今日の6時ごろに……IS学園にいた?」

 

「学園にはいなかったけど、藪から棒になんだよ。簪お嬢、今重要なのはお前らを襲った襲撃者について――――」

 

「その襲撃について……関係があるから…言ってるんだよ。

…………特に織斑、貴方が与り知らなくても…きっと無関係じゃないから」

 

「それは、一体…。どういう事だ?」

 

「サイレント・ゼフィルスから襲撃を受けたって事は知ってるよね。私がボロクソに負けた所から話すけど―――――」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

[更識簪の回想]

 

 

私が負けて、そして鈴に向かって光弾が放たれた時。

 

あの時、時間が止まるのってこういう事かって思ったよ。

 

撃ったゼフィルスも、撃たれた鈴も、地に伏す私も、突如として現れた“白”の影に目を奪われた。

 

 

「あれ、は……!」

 

 

私の頭は真っ白になったよ。

 

レーザーを切り裂いたその純白の機体に、()()()()()()()()()()()()()からね。

 

 

(びゃく)(しき)……?」

 

 

目の前の“それ”は確かに倉持技研(くらもちぎけん)白式(びゃくしき)だった、だけど白式であって白式では無かった。

 

記憶の中の白式と同じく滑らかな曲線とシャープなラインが特徴的などこか中世の鎧を思わせるデザインだったけど、細部が違ったんだ。

 

とりわけ違ったのは見知った白式には無い、巨大な左腕の装備。他の2人と違いISの装備に造詣が深い私にはそれがなにかがわかった。

 

 

(あれは多機能武腕……! 白式の武装は…雪片弐型(ゆきひらにかた)だけの筈なのに…)

 

 

倉持技研が白式の解析に成功して新武装を搭載したのだろうか。

そしてその武装を持ってして織斑千冬が援軍に来たのだろうか。

 

 

――――違う。

 

 

振り返った白式の操縦者が、私の直感が弾き出した答えを否定した。

目の前にいる白式の操縦者の顔は千冬ではない。

 

 

「……織斑?」

 

 

眼前にて白式を纏っている()の顔は共同開発者にして、襲撃者であるゼフィルスの標的の、世界で唯一の男性IS操縦者『織斑一夏(貴方)』のものだった。

 

 

……いやうん、わかるよ。その困惑。

だけど今は、話をさせて? ……うん、織斑はいい奴だね。

 

 

(まずい…マドカは織斑と殺し合う為に学園に…)

 

 

緊急時ではわからない事は捨て置いて、わかる事で迅速に判断していかなかればならないのは承知だよね。

だから私は“何故白式を使えるのか”“所用とはなんだったのか”“そもそもそれは白式なのか?”それらの疑問を一旦放り、唯一動く口を開いた。

 

 

「織斑、逃げて…! ソイツは織斑を狙っている、早く先生がいる方に逃げて!」

 

 

でも、白式の操縦者は動かなかった。

それどころかお望みの獲物が目の前にいる筈のゼフィルスも、想い人が助けに来てくれた筈の鈴も動かない。

動くどころか目を見開いて、信じられないものを見るような目をしていた。

 

 

「誰だ…お前は……!」

 

「アンタ、一体誰よ……!」

 

 

 

「……え?」

 

 

そんな彼女達の口から放たれた言葉に、私は耳を疑ったよ。

 

 

「マスター鈴、及び敵性個体エムによる質問を認識、照合…出力を許可。『“白”の一夏』が適切な回答と判断します」

 

 

その後の、白式の操縦者の、自己紹介とも取れる言葉にもね。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……その後は?」

 

「何もせずに飛んで行った…。ゼフィルスは……それを追っていった」

 

「……本当に俺だったの?」

 

「織斑だった。…少なくとも顔はね」

 

「……チッ」

 

 

痛む頭を抱える一夏には、思い当たる節があった。

『もう1人の織斑一夏の噂』と『零落白夜を操る何者か』

 

 

(光を切ったという刀の性質は間違いなく零落白夜…そして俺と同じ顔…ガルシルドからの報告にあった通り、この2つには関係はあった。

だが、解せない。IS委員会の重鎮であるガルシルドでさえも容易には掴めないほど、奴は足取りを残してない)

 

 

――――どうしてこんな、明らかに記録に残る現れ方を…?

 

 

「……鈴か、簪お嬢の内どちらか…或いはそのどちらも喪う訳にはいかなかった?」

 

「だろうね……。“白”の一夏と名乗った…織斑のそっくりさんは私達には敵意らしきものは向けてなかったし」

 

 

2人の会話を静観していたセシリアが、「鈴さん、1つ質問が」と口を開く。

 

 

「その白式の操縦者ーー本人曰く“白”の一夏ですが、どうして今目の前にいる一夏さんと『違う』と判断したのか教えてくださいません?」

 

 

『織斑一夏』と『“白”の一夏』の風貌は瓜二つだ。それこそ簪が見分けがつかない程に。

だがしかし、鈴とマドカは別人であると見抜いた。ならば見分けるポイントがあるのではとセシリアが思うのは当然の事だ。

 

問われた鈴は俯き、肩を少し震わせる。

 

 

「……わからない」

 

「わからない?」

 

「どこが違うのか、わからないの」

 

「うん、私も聞いたけど……どうしてかはわからないって。

織斑が目の前に来てくれたらわかるかもって、そう思ってたんだけど…」

 

 

か細い声を庇うように簪が回答を替わる。

セシリアも精神的に参った様子の鈴を問い詰める事なく、視線を簪に移そうとするが、鈴は簪は手で遮った。

 

 

「鈴…?」

 

「簪、アタシの気を使ってくれてありがとう。でも大丈夫。ちゃんと、話すよ」

 

 

すぅーはぁーと深呼吸を繰り返して、セシリアと目を合わせる。

 

 

「簪より近くにいたアタシの眼からしても、“白”の一夏は一夏とそっくりだった。

目も耳も声も背丈も同じで、それでもアレは、一夏じゃなかったと確信を持ててしまったわ。

具体的に何が違うのかはわからないけど…見た瞬間から心が軋む感触があったのよ」

 

「『違い』はわからずとも、『違うこと』はわかる、と…

俺の無人機感知と同じ理由か…? だとするなら奴は……」

 

 

ふむ、と一夏は腕を組んで考え込む。

 

 

亡国機業(ファントムタスク)が『織斑一夏()』のクローンを作っていない事は確認済み。

マドカを見た時にそうじゃないかと思ったがハズレだったか。なら一体、何者だ?

……いや、奴の正体もそうだが、憂慮すべきは白式のような機体の方か。零落白夜はなんてどうやって…)

 

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)零落白夜(れいらくびゃくや)

 

 

消滅エネルギーによる刃を形成し、対象のエネルギー全てを消滅させる能力。

相手のエネルギー兵器による攻撃を無効化したり、シールドバリアーを斬り裂くことで相手のシールドエネルギーに直接ダメージを与えられる「対IS兵装」とも言える恐るべき力である。

 

 

この力を振るえるISは3機。

 

 

まずは千冬と共に世界最強(ブリュンヒルデ)に駆け上がった機体『暮桜』

しかし、一夏でも白式とは違うとわかる形状であり、一夏よりもISに詳しい簪が見間違えるはずもないので、学園に来たのはこの機体ではない。

なにより現在行方不明の機体だ。

 

 

次に一夏の専用機となる予定であった機体『白式』

学園に現れたのがこれという線もない。

外見で言えば一番の有力線だが、臨海学校でのなりすまし案件以降、一夏が直接倉持技研に向かい、黒い鳥(ダークレイヴン)と共に照合を行なって始めて持ち出せるという厳重な体制に変わっている。

 

 

最後は厳密には機体とは言い難いが『VTシステム搭載機体』

当たり前だが、これが1番有り得ない。

開発が禁止されているとかそういう問題ではなく、そもそもVTシステムを構築する為のデータが少な過ぎるのだ。

 

公の場で白式が使用されたのは一夏と千冬の一戦のみ。どう考えてもサンプルには足りない。

零落白夜を目当てにするのなら、現役時代の千冬のデータから暮桜を引っ張ってきた方が何倍もいい。

 

 

閑話休題。

 

 

現状では考えるだけ無駄と捨て置き、一夏は箒の方を向く。

 

 

「なぁ箒。お前は“白”の一夏と俺の違いはわかるか?」

 

「そもそも会ってもいない。会ってみなくてはわからん。

情け無いが、駆けつけた時には全てが終わっていた」

 

「……駆けつけた時、他に誰かいたか?」

 

「一緒に向かった先生方がいたな。あ、後…」

 

「…後?」

 

 

「木の陰で、()()()()()()()()()()()()

 

 

「……………………ふーん」

 

 

箒の言葉に何を感じたか。

 

一夏はそれ以上質問せずに、鈴と簪に見舞いの言葉をかけると保健室から出て行く。

 

急に変わった一夏の様子を、セシリアは不思議そうに見送り、簪は不機嫌そうに見送った。

 

 

「一夏さん、一体何を…?」

 

「さぁ…? 時間も時間だから寝るんじゃない? ほら…貴女やお姉ちゃんと一緒に…どこに行っていたのかは知らないけど、ハードな仕事だったんでしょ?」

 

「いや、そうでしたけれどね? 簪さん、あーいう時の一夏さんは……」

 

「だから、心配はいらないって事だよ……セシリア。

過程はどうあれ…結果的に貴女の利になる事をする奴だよ。織斑は」

 

「……確かに、一夏さんはそういう人ですが…。

あの、簪さん…怒ってません?」

 

「そうだね、ちょっとムカついてるよ……!

私の可愛い機体に傷つけてくれたゼフィルスにも、大口叩いた割にボロクソな自分にも……」

 

 

 

 

(友達)が傷付いているのをわかって、それで尚「ついてくるな」と背中で語る織斑にもね」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

『いいのかい?』

 

「……なにがだよ」

 

 

保健室を出、廊下を歩く一夏に財団が問いかける。

 

ぶっきらぼうに返事する一夏は、質問の内容を理解していた。

 

 

「ああ、クソ。わかってるよ、そのぐらい…」

 

 

鈴が見るからに憔悴していたのはわかっている。

「気遣う方法を考える前にまず側にいろ」と簪が目で訴えていたのもわかっている。

 

 

『一夏、少しバカになれ』

 

 

嘗ての箒の言葉に歯噛みする。なかなかどうして、彼女は的確だ。

 

それでも、()()()にケリをつけなければいけない事があるのだ。

 

 

薄々察していながら、今までズルズルと先延ばしにし続けた事。

 

 

人に裏切られる事に怯えていた自分にとって、延々と目を逸らしていたかった事。

 

 

だけど、もう――――

 

 

「――――日常(ユメ)の終わりだ」

 

 

己に言い聞かせるような呟きと共に、青いペンキ塗りの鉄扉を開く。

目の前に広がる夜の学園の屋上は、月明かりの下妖しい雰囲気の中にあった。

 

 

「待たせたな」

 

「全くね。待たせすぎよ、織斑くん」

 

 

満月に照らされる闇の中に佇むのは、1人の人影。

 

手入れを怠り艶のない黒い長髪は、星の光を吸い込む影となって夜風に揺られ。

 

ボサボサの前髪から覗く瞳は、普段教室で会う時とは違うものを宿し。

 

それらが示す漆黒は、白い制服をより際立たせていた。

 

 

「悪い悪い。ごめんな、如月さん。こんな夜中に呼び出しちゃってさ」

 

 

彼女の名前は如月奨美。

 

入学早々にパイルバンカーの素晴らしさを一時間講義した、パイルアディクション。

 

学園仕様のラファールでありながら、AICを掻い潜りパイルを見舞える実力派。

 

学業の成績さえも優秀な、正しく文武両道の体現者。

 

 

「いや……グルゼオン。それとも“T”って呼んだ方がいいか?」

 

「……」

 

 

そんな如月は、一夏の口から出た言葉に驚くでもなく空を仰ぐ。

 

 

グルゼオン。それは亡国機業(ファントムタスク)のISであり、黒と赤の全身装甲(フルスキン)が特徴の機体。

そして“T”とはそれを操る操縦者の名前。

 

 

その名で呼ばれた如月の態度は、己がその名が指す人物であると示していた。

 

 

「…そうじゃないかと思っていたが、本当にバレてたんだな」

 

「……それが、アンタの本当の口調か。

聞いてないのか? あの心底ふざけた女から」

 

「ふざけた女…スプリングか。聞いてないさ。

引っかかっているとは思っていたが、どこで気づいたのか、教えてくれないか?」

 

 

纏う雰囲気を変え、「これでも自信はあったんだ」と眉尻を下げて微笑む如月の問いに、一夏は顔に月光の陰を落とし、優しい笑みを返した。

 

 

「デュノアの一件や、夏休みでの俺との会話で見せた観察眼もそうだけど…。

1番は、レゾナンスでの、グルゼオンとしての初邂逅時に見覚えがあったからだよ」

 

 

――――なんだこの、アイツに感じる既視感は?

 

 

「そういえばあの日、電話で僕の用事を聞いて来たな。まさか、その時から疑われていたとはな」

 

 

――――私の1日はね、パーティだったわ

 

 

「いや、あの時の電話は無意識のうちにかけててさ。そんな意図は無いよ。

でもまぁ、こうして振り返るなら、直感的に気づいていたんだろうな。

……あの電話は、如月さんがグルゼオンだと結びつける1つのピースになった。

だって、ガーダインさんはその日パーティになんて行ってないもん」

 

 

――――IS委員会のガーダイン委員が来てたわ

 

 

「そういえば、ガーダインとの直通番号を持っていたな。ウソはバレるものとはよく言う。

……品川でのあの呟きは、確信とまでいかなくても、ある程度は目星がついたという事か」

 

 

――――やっぱ、そういうことか...

 

 

「……ある程度、だったよ。だから俺は目を背けた。目を逸らして、楽しい日常に溺れた。

仲良く机を並べて勉強したり、本を貸し借りしたりしてさ…懐かしいよね、夏休みでみんなとバーベキューしたの」

 

 

互いにこれまでを逡巡しながら、一言一言噛み締めるように語ってゆく。

 

如月の瞳は髪に隠されわからないが、一夏の茶の眼は悲壮感と彷徨たる思いがあった。

 

 

「この世界に帰ってきて、初めて出来た友達が如月さんだった。俺を“普通の高校生”と言ってくれた事は本当に嬉しかった」

 

 

仕事相手から裏切られる事は一夏にとって日常茶飯事だ。

報酬を支払われないだけならまだ有情で、己を殺す為に偽りの依頼で呼び出された時もある。

 

それでも、彼が人を信頼できるのは彼の保護者である千冬やファットマンが裏切らなかったからだ。

精神的に一夏を支える支柱となった彼等の存在は、殺伐とした世界の中、持ち前のお人好しでいる事を許した。

 

そして、マグノリア・カーチスは彼を置いて逝った。

一夏の強さに惹かれたが故にだ。その記憶は、例え何があっても忘れないだろう。

 

織斑一夏は契約を裏切られる事に慣れていても、信頼を裏切られる事には不慣れなのだ。

 

 

「最初から、亡国機業(ファントムタスク)として俺に近づく為だったのか?」

 

 

だからこそ、一夏は親しい人に、信頼の置ける人物の裏切りを酷く嫌う。

学園で出来た新しい交友関係が、実は半数が亡国機業(ファントムタスク)でしたという近況も相まって、如月の正体がグルゼオンだという事実に一夏は多大なるダメージを受けていた。

 

 

「……ああ、そうだ。その為に僕は、この学園に来た。君と友達になる為にね。

言い訳じみてるけど、楽しい時間だったさ。パイルを1時間語る事も、文化祭でカフェを切り盛りするのも、学園生活の全てが楽しかった」

 

 

さぁ、と風に揺られ如月の双眸が露わになる。

瞳に湛えられた強い意志を見て、一夏は血が滲む程拳を握る。

 

 

「感傷だ。茶を飲み交わす日々はもう戻らない」

 

 

その言葉は如月か、はたまた自分に向けた物か――――グラインドブレード使用から6時間が経過し、起動可能となったISを構える。

 

 

「1つ聞かせてくれるか。どうして、君1人で来たんだ? 言ってはなんだが、他の人…生徒会長やセシリアさんが相手取った方が、物取りには向いていただろう?」

 

「……如月さん。聞いてると思うけど、俺は親しい人を殺して来た。

兄弟子も、先輩も、愛しい人でさえも…敵に回れば全員殺した。

――――――――()()()()()

 

 

心腹の友が敵になったとして、戦いたくないとそこで引くのか。

 

 

それは、他の奴に任せるという事だ。

 

 

ああ、そうだ。()()()()()()

 

 

どうしようもない。決断しなければならない容赦の無い現実だ。

 

 

「俺の葛藤を、俺の自己満足を、他の誰にも踏み込ませない。――――譲る訳にはいかねぇんだよ!」

 

 

「……絶対に自分が、グルゼオン(ボク)を仕留める為に、一対一の状況を作る。

酷い自己満足だな。他の誰にも手は汚させない。僕と関わりがあるのが君だけとでも言う気かい?」

 

 

「これが俺の心、感情の答えだ。傭兵ってのは依頼をこなす利口さはいるが、命と死を謳う理屈はいらないんだよ」

 

 

「そう。それが君の、織斑一夏の(ツミ)弱音(ヤサシサ)で……怒り(ナミダ)なんだな」

 

 

「…………そろそろ御託も終いだ」

 

 

「そうだな、始めよう。この長い長い……日常(ユメ)の終わりを」

 

黒い鳥(ダークレイヴン)

 

【メインシステム 戦闘モードを起動します】

 

「グルゼオン」

 

 

風が吹き、雲が弛やい、月が隠れて闇となる。

 

影の中で、IS学園の白い制服を覆う2つの黒い装甲は静かに相手の様子を伺う。

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

風が吹く。

 

 

雲が弛やう。

 

 

月光が屋上を照らし、12時を告げる鐘が鳴る。

 

それを合図に、両者は動き出す。

 

 

「オオオッ!」

 

 

「ハァァァ!」

 

 

夜風を裂いて鋼音(はがね)が響く。

 

 

夜光を浴びた鎧衣(よろい)が煌く。

 

 

夜闇にぶつかる2つのISは、品川の一戦よりも眩い攻防を繰り広げる。

 

 

そして……十分後か、それとも一時間後か、かくして闘争の喧騒は止み――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――この日を待って、織斑一夏と如月奨美の2名は消息を絶った。

 

[MISSION08 COMPLETE]




アセンブル

HEAD:HC-129(ベッツィ・ロス)
CORE:CB-402
ARMS:Ar-P-K17
LEGS:L2LB-215
R ARM UNIT:KAGIROI mdl.1
L ARM UNIT:AMAGOROMO mdl.1
R HUNGER UNIT:Au-R-F19

ストックが尽きてきたので新章である次回から月刊更新にします。
次回『DAREDEVIL』は8月24日更新です。
次回からクライマックスに向けていきます。
執筆ペースはかなり遅くなりますが、ご了承ください。


……というか、予定だと後20話程だけど終わるのかな……

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