ISVD〜Infinite Stratos Verdict Day〜   作:高二病真っ盛り

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これまでのISVD


村橋が残した情報を元に、4機のISによる亡国機業(ファントムタスク)地下基地潜入工作作戦が始まった。

地下基地Aブロック最奥部へ侵入した黒い鳥(ダークレイヴン)/織斑一夏は、亡国機業(ファントムタスク)のスプリングにノせられて、巨大兵器『ゴリアテ』との地下基地が自爆するまでの時間を争う戦いを強要される。

奇策でゴリアテを倒した一夏だが、自爆する地下基地から脱出する時間が無くなってしまっていた。


08ー22 時限のベルが鳴る

「間に合わなかったか……」

 

 

【システム 通常モードに移行します】

 

 

どこか諦めたような口振りで、一夏は変身を解除し地べたに座る。

解除した事によって現れたズボンのポケットからミンティアを出して口に放る。

 

 

「おーおーおー。

どうした、そんな投げやりに」

 

「投げやりにもなるだろ…自爆に巻き込まれて死ぬ事が決定したんだぞ。

それとも、お前はここから10分以内に安全圏に脱出出来るのか?」

 

「いや…無理だな」

 

 

あっけらかんと言い放つその姿に、フンと鼻を鳴らして一夏は立ち上がる。

 

どうにもこのスプリングは己の命を勘定に入れない。

目的さえ出来れば、死んでもいい。ある種で一夏と同類の人間だった。

 

 

 

コードネーム:スプリング

 

 

本名:存在しない

 

 

 

そんな彼女が求めているのはただ一つ。

心に鮮烈に焼きつく“風景”だ。

 

 

人が楽しんでいるのを見たい。

 

 

人が哀しんでいるのを見たい。

 

 

人が怒っているのを見たい。

 

 

人が喜んでいるのを見たい。

 

 

人が生きているのを見たい。

 

 

人が死んでいるのを見たい。

 

 

そんな自分が見たい風景のためなら、命だって投げ出せる様な人間だ。

 

 

今回だって一夏に警戒されながらもここまで連れて来た理由は『ゴリアテが必死に討伐される姿が見たい』という一点に尽きる。

 

それが叶うのならば、自爆に巻き込まれて死んでもいい。

やりたい事は残っているが、刹那的に見たいものに命を張る悪癖だ。

 

 

(同族嫌悪ってこういう事なのかね…)

 

 

それを観察眼で見抜いた一夏は自嘲する。

 

 

幽霊の正体見たり枯れ尾花。

 

 

初めのうちは何を考えているかわからなかったスプリングの事がわかるにつれて、一夏の中で『AC世界にも同様の変態がいたな』という懐かしさと『まぁその1人が俺だけど』という嫌悪感が湧いてくる。

 

 

まぁそれはそれとして。

一夏は沈黙したゴリアテを見上げる。

 

 

「改めて見るとデカイな……。

いつから育てたんだ? 成長促進剤使っても時間かかるだろ」

 

 

その巨体から滴る血を踏んで『うぇ』と振り払う一夏を見ながら、スプリングは変身を解除せずに答える。

 

 

「16年前だ。 まぁお前やマドカと同い年だな。

実は培養脳を含めたクローンに関するプロジェクト責任者はオレのオヤジでな。

オレがこうやってここの権利を握っていたり、過去について調べられたのはそういう訳だ」

 

「へーぇ」

 

 

一夏とマドカを二卵性の双子と例えられた事を踏まえれば、この女巨人もまた己の姉か妹に当たるのだろうか。

当たって欲しくは無い。少なくとも人間の家族でいて欲しいのだが。

 

 

「オレからも質問していいか?」

 

 

これまでは一夏が問い、スプリングが答えるという形で会話が行われていたが、今度は逆にスプリングの方から一夏への問いが投げられた。

 

 

「ああ、いいぜ。 これだけ色々と答えてもらったんだ。

冥土の土産は俺も渡す分で丁度いい」

 

「……いつまでそうやって、『死を悟った』ふりをしているんだ?」

 

 

スプリングはその(スプリング)の名に相応しくない程に冷たく、バネ(スプリング)の名に似合わない程固い視線を向ける。

 

 

「オレの目を誤魔化せると思うなよ。 お前が生き延びる事を全く疑っていない目をしている事なんてお見通しだ。

言っただろう? オレはお前に一目惚れしたとな」

 

 

そんな冬の氷の様な眼差しを10秒ほど受けた一夏は、大きく深く、ため息を吐いた。

 

 

「……その嘘告白やめろ。なんて、嘘をついた俺が言えた事じゃないな。

あーあ。俺はほんっとうに交渉事に向いてねぇな!」

 

 

自嘲を叫んで、スプリングに向き合う。

 

 

 

「……あるぜ。 お前の予想通り、ここから脱出する術を俺は持ち合わせている。

亡国機業(ファントムタスク)のプロジェクトの正体を突き止め、亡国機業(お前ら)を潰すその時まで、俺は死ぬつもりはない」

 

「……決意表明ありがとう。

んで? 嘘をついてまでオレから聞きたい事はなんだ?

お前さんの事だ。 冥土の土産と称して情報を聞いたらそのままトンズラこくつもりだったんだろ?」

 

「バレバレかよ。慣れない事はするもんじゃねぇな。

ま、いいや……コードネーム“T”、グルゼオンの正体を教えろ」

 

 

一夏のその問いに対して、スプリングは誤魔化しではなく疑問の意味で首を傾げる。

 

 

「……? お前も、気づいているんだろう?

なんでそんなわかりきった事を……?」

 

「……早く答えろ。

でなきゃ、俺は脱出にお前をついて来させねぇぞ」

 

「へいへい。グルゼオン、“T”の正体……いや、この場合は本名って言った方が正しいな。

ヤツの、あの女の名前は――――」

 

 

五分前の闘争の喧騒が嘘の様に静まり返った空間で、スプリングはその名前を諳んじる。

それを聞いた一夏は唯無言で拳を握りしめた。

 

 

 

「……ついてこい、情報料だ。この基地から脱出させてやる。

――――変身!」

 

 

【メインシステム 戦闘モードを起動します】

 

 

HEAD:HA-111

CORE:CA-215

ARMS:AA-135

LEGS:L2MA-131

R ARM U:

L ARM U:

 

 

怒りか、悔しさか、哀しさか、綯い交ぜになった感情を押し殺す様に変身する。

 

 

「……なんだそりゃ?」

 

 

スプリングの疑問符も当然だ。

 

漆黒の機体は両手に何も持っておらず、代わりに背中にはその姿を覆う程に巨大な『ナニカ』が積まれているのだから。

 

 

OVERED WEAPON:GRIND BLADE

 

 

六連超振動突撃剣(グラインドブレード)。俺のとっておきだ」

 

 

【パージします】

 

 

一夏の言葉と共に、周囲の空気が一変する。

 

 

【不明なユニットが接続されました】

 

 

熱い。

 

 

とんでもない熱量が、黒い鳥(ダークレイヴン)から発せられる。

 

 

あまりにも絶大な力の波動は、空間そのものを焼き焦がしているようだ。

 

 

ISを纏っていなければ、全身の皮膚が放射熱で焼け爛れていただろう。

 

 

【システムに深刻な障害が発生しています】

 

 

弾け飛んだ左腕部装甲との接続部にグラインドブレードから伸びたアームが接続され、右肩部のチェーンソーの刃に火が灯る。

 

 

六基のチェーンソーはバサリと広がる。

それはまるで、燃ゆる鳥が羽ばたく様に。

 

 

【直ちに使用を停止してください】

 

 

焔の翼は折りたたまれ、束状に連なり回転を始める。

一回転一回転毎に、周囲に熱気が振りまかる。

 

 

大気は熱に悲鳴を上げ、床は耐え切れずに溶け始め、スプリングはその灼熱に目を奪われる。

 

 

 

ドクン

 

 

アレが生だ。

猿を人に進めた、叡智と原初の火だ。

 

 

ドクン

 

 

アレが死だ。

人を灰に還す、破滅と終焉の火だ。

 

 

ドクン

 

 

ああ、ああ、ああ!

 

 

ドクン

 

 

なんと美しい!なんと穢らわしい!なんと愚かしい!なんと愛おしい!

 

 

ドクン

 

 

オレの目に狂いは無かった! スプリングは今にでも狂乱したかった。

 

 

ドクン

 

 

胸が高鳴る。なるほど、先程までの(告白)本物(恋心)に変わっていく。

 

 

 

「行くぞ……!」

 

 

基地が自爆するまで残り5分。

 

しかし、この力の前に地下30階の壁は1分も持たない程に脆い。

 

 

有り余るエネルギーをブースターに送り込み――――

 

 

――――紅蓮の右腕を掲げ、天井に打ち込んだ。

 

 

 

 

 

ギュィィィィィン!!!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ドゴォォォォン!!!

 

 

【システム 通常モードに移行します】

 

 

地表を突き破り、勢いそのままに高所に飛び上がった一夏の変身が強制的に解除される。

 

 

一夏が規格外兵装(オーバードウェポン)六連超振動突撃剣(グラインドブレード)を多用しない理由がここにある。

 

機体をハックして限界以上のエネルギーを供給するといった理屈を飛ばして述べるなら、使用後に変身解除され6時間に及ぶ起動不可時間(クールタイム)が発生してしまうのだ。

 

その使いづらい性能の為、臨海学校以来使う事もなかったが、その威力は一夏の知る兵器の全てを凌駕するものである。

 

 

それはさておき、生身で高所に放り出された一夏は、このままでは当然重力に導かれザクロのように弾けるだろう。

 

 

(さて、そろそろ呼びますか…)

 

(『通信状態良好。いつでもいいよ』)

 

 

だが、そうならないと一夏は確信している。

絶対にここで見せ場を持っていくヒーローがいる事を知っている。

 

 

「スゥ…」

 

 

だから叫ぶ。叫ぶ為に息を吸う。

 

唄うのは、吟じるのは、呼ぶのは、アイツの名前。

 

 

高慢で、傲慢で、貪欲で、高貴で、絢爛で、優雅で、美麗で、可憐で、親友で、戦友で、盟友で――――

――――そんな一生の友の名前を叫ぶ。

 

 

「セシリアッ!」

 

 

キィィィン…

 

 

「承りましたわ!」

 

 

大気を裂いて青が飛ぶ。

 

 

一夏の声に応えたセシリアは猛スピードで駆けつけると速度を落としてキャッチ。

 

 

「あ、今はティアだったな」

 

「その軽口が叩けるなら大丈夫そうですわね。

ま、貴方が死ぬ訳無いと思ってましたが」

 

「嘘こけ、目が泳いでるぞ」

 

 

日本時間にして18時。

全員の生還が確認された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガァァァァァン!!!

 

 

その後、楯無と風子が待つ安全圏に移動した一夏は、自爆する地下基地を眺める。

後6時間たっぷり変身できない一夏を除いた3人は、残党に警戒してISを纏ったままだ。

 

 

腹に響く轟音。目を焼く閃光。肌に痛い熱気。

 

それらを浴びながら、スプリングは脱出しただろうかと考える。

なにせ、あのイラつく雰囲気も、ISコア反応も周囲にないのだ。気になりもする。

 

グラインドブレードで掘り進めている時に後ろを振り返る余裕は無く、もしかしたらあの爆炎に呑まれてしまっているのかもしれない。

 

 

(それでもいいや)

 

 

脱出の手引きはした。生き延びる方法を提示した。

そこで自分からの礼は終わったのだ。従って生きても、従わずに死んでも一夏の知るところでは無い。

 

お忘れがちだが、この男。命の価値がわかった上で殺すクズである。

 

 

「しかし、まぁ、貴方の口から聞いていましたが……凄い威力ですわね、『六連超振動突撃剣(グラインドブレード)』」

 

「威力に見合うリターンが少ないんだがな…。

いかんせん威力だけが突出し過ぎて、手加減も継戦も出来ないから使いづらい。

強敵との生死無用のタイマンとか、今回みたいなぶっ壊せば後は誰かがフォローしてくれる時しか使えない」

 

「……ちなみに、AC世界(あちら)では何回使ったので?」

 

「ひい、ふう、みい……10から先は覚えてないな」

 

 

そんなオーバーキル上等のリスクリターンが釣り合わない代物を、何度も使わなくてはいけない修羅の国っぷりにセシリアは感嘆する。

 

 

(風子さんの剣技といい、一夏さんのとっておきといい、まだまだ超える壁は高いですわね)

 

 

悪くない。 明確な目標は、成長の実感を得やすいからだ。

 

 

「はい…はい…え!?」

 

 

雑談に興じる2人を他所に、作戦の顛末について連絡をしていた楯無から驚愕の声が上がる。

 

 

「レイヴン、ティア、大変よ!

 

 

…………IS学園に、サイレント・ゼフィルスが現れたらしいわ!」

 

「なんだって!?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

悲鳴を上げて学園の生徒達が逃げ惑う。

 

当然だ。

突如降り立ったISが、辺り一帯にレーザー(殺意)を撒き散らしたのだから。

 

 

「ほう…鳳鈴音(ファンリンイン)か」

 

 

平穏な放課後を、一気にスクリーマーな時間に変えたマドカの元に2人の少女が立ちはだかる。

その内の1人を見て、マドカは口角を上げる。

 

 

「アレは、文化祭の時にセシリアを襲っていたIS…!」

 

 

茶髪をツインテールに纏めた小柄な少女、鈴。

 

 

「確かキャノンボールの日にも現れたっていう…名前は、サイレント・ゼフィルス…」

 

 

水色の髪をショートに切り揃えた少女、簪。

 

 

カフェでゆっくりと、鈴と一夏の関係修復について話そうとしていた2人は、騒ぎを聞きつけてここに駆けつけた。

 

その2人の内、鈴の方にマドカの瞳が向く。

 

 

『あたしの親友に...なにしてんだぁぁぁぁぁ !!!』

 

 

マドカにとって、鈴には斬撃を浴びせられた因縁がある。

 

鈴にとって、マドカには親友を傷つけられた因縁がある。

 

だからこそ己に刺さる殺意を理解する。

だからこそ理解できない感情がぶつけられる。

 

敵に対する殺意もあるが、鈴が現れた事に対しての喜悦の感情が鈴には理解できない。

 

 

「先ずは貴様らか」

 

前菜(オードブル)だと思うと、痛い目にあうわよ。

簪、準備できてるわよね?」

 

「もちろん出来てるよ…打鉄弐式、変身!」

 

甲龍(シェンロン)!」

 

 

だが、ぶつけられる感情を深く考える時間は無い。

光と共に、鈴と簪はそれぞれのISを纏う。

 

 

「……いくわよ!」

 

「来い鳳鈴音…甲龍。精々、愉しませてみろ」

 

 

6時を知らせる鐘が鳴る。それを合図に戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし彼女達は知らない。

 

 

織斑一夏と共に送る『明日』など無いという事を。




もうみんなグルゼオン/“T”の正体に気づいてるんだろうなー(棒)

次回「その祈りは慟哭」は7月21日更新となります。

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