ISVD〜Infinite Stratos Verdict Day〜   作:高二病真っ盛り

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これまでのISVD


村橋が残した情報を元に、4機のISによる亡国機業(ファントムタスク)地下基地潜入工作作戦が始まった。

地下基地Aブロック最奥部へ侵入した黒い鳥(ダークレイヴン)/織斑一夏は、亡国機業(ファントムタスク)の開発研究員スプリングから亡国機業(ファントムタスク)がIS生誕よりも早くIS誕生前提で動いていたという事を掴む。

しかし、狂人であるスプリングの物言いに乗せられ、自らの姉『織斑千冬』のクローン兵器ゴリアテ』と残り30分で自爆する基地内での戦いを強いられるのであった。


08ー21 ジャイアントキリング

ピシッ

 

 

「……?」

 

 

放課後のIS学園学生寮。

 

自室でくつろぐ鈴は、部屋に響く音に声を上げた。

 

 

 

「なによ一体…え?」

 

 

音の出処は教科書用では無く、服や下着といった生活用品用の鞄の中。

何事かと漁ってみれば、夏休みに持ち帰った写真立てがひび割れていた。

 

 

その中の写真には鈴自身と弾と蘭……そして一夏が写っている。

 

それは中学時代、蘭が何かの賞を貰った時に親しい仲間内で撮ったもの――――

 

 

「一夏……」

 

 

なにもしていないのにひび割れた写真と、『生徒会の用』と詳細を教えずに休んだ一夏が無関係とは思えない。

 

 

たまらなく不安な気持ちを抑えて、写真を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バァン!

 

 

「不穏な空気に颯爽登場!

貴女のヒーロー(友達)、更識簪!」

 

 

そんな時、扉が爆ぜ開いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ビー! ビー! ビー!

 

 

「これは一体…!?」

 

 

Bブロック最奥部のモニタールーム。

 

銃とビットでオータムにチェックメイトを告げたセシリアは、部屋中から響くサイレンに目を丸くする。

 

 

「このサイレンは…自爆装置が作動してるだと!?」

 

「はぁ!?」

 

 

オータムの言葉に、更に驚くセシリア。

 

そんな彼女の様子を見てオータムは衝撃波でビットとセシリアを怯ませる。

 

 

「ぐっ!」

 

 

「じゃあなアバズレ供…ここでくたばっとけ!」

 

 

逃げるオータムを追おうとするが、楯無からの通信が入る。

事態が事態故に、優先順位を1秒で考えて「ああもう!」と通信を取った。

 

 

『2人とも無事!? 敵機はどうなっているの?』

 

 

「倒したけど逃げられましたわ……。

それよりこのサイレンは一体何なのですの?

自爆装置がどうたらと、あちらは言ってましたが…」

 

 

『……そのまんまよ。 そのまんまの意味で、自爆するの。

30分後…いえ、後28分後にはこの研究所は跡形も無く消し飛ぶわ』

 

 

「どうせ踏み込まれるなら、相手の操縦者ごとぶっ飛ばしてしまおうということですかね?

ISコアは、生半な事では壊れませんし後で回収すればいいとかそういう発想で…」

 

 

「考えている暇はありませんわよスチルさん。 一刻も早く脱出しなければ…。

レイヴンはもちろんこの事を知っているのですよね?」

 

 

『それが…連絡がつかないの』

 

 

「え…?」

 

 

『さっき通信系統を押さえて、両ブロックの地下30階までの安定した通信を確保したのだけど、レイヴンとは全く繋がらないの!』

 

 

焦りと不安が綯交ぜになったその声に、セシリアの脳裏に最悪の光景が浮かぶ。

 

 

今から全速力で離脱すれば自分達は助かるだろうが、一夏は高確率で死ぬだろう。

判明しているフロア全てに連絡が通じるようになっても、通話に出ずにいるという事はそういう事なのだ。

 

 

「脱出、しましょう」

 

『ティア…』

 

「敵地に乗り込む以上、彼にもその覚悟はあったでしょう。

今必要なのは、今やるべき事は逃げる事。……生きる事ですわ」

 

 

屈辱だ。 セシリアの(はらわた)が煮え繰り返らんばかりに熱を持つ。

 

心腹の友を置いて、危険地帯から逃げ出すなど彼女にとっては末代までの恥だ。

 

 

だがそれでも、脱出に向けて加速する愛機を止めはしない。

 

存命こそが果たさねばならない使命だと言うことを、聡明な彼女はわかっていたからだ。

 

 

(“黒い鳥”…神からの救済すら焼き尽くし、死を翼に飛び続ける人間の可能性…)

 

 

願わくば、その力がこの窮地を灰に変えらん事を。

そう祈って、出口へ向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️――――――――――!!!!」

 

 

 

風がビームで出来た台風とは正しくこれだ。

 

 

殺意で構築された災害とは目の前のこれだ。

 

 

怪獣映画で勇猛果敢に挑み散らされるパイロットに敬意を送りたい。

 

 

 

 

今、自分が置かれている立場に一夏はそう思う。

 

 

 

 

【機体が深刻なダメージを受けています 回避してください】

 

 

 

 

ゴリアテの武装は口内の荷電粒子砲と、灼熱の手甲の2つ。

 

 

その2つを無闇矢鱈に振り回して攻撃する巨人から逃げる一夏は、一刻一刻とタイムリミットが迫るのを感じていた。

 

 

財団から告げられた制限時間の最低ラインまでは残り4分。

後19分でこの研究所は消えて無くなる。

 

 

 

(財団、コイツになにか弱点は無いのかよ!)

 

 

(『そんな事言われてもね……僕もあの世界でいくつもの巨大兵器は見てきたけど、あんな巨人に類する物なんてなにも無いよ…。

ここまでバイオな敵なんて君も見た事は無いだろう?

……バイオ? あーいや、もしかしたらこれが弱点かも』)

 

 

 

(……え? それが?)

 

 

 

 

巨大兵器。

 

 

文字の通りに巨大な兵器。

 

 

一夏が相手してきた兵器の中で、巨大なものはいくつもあった。

 

 

財団との初邂逅。

回転攻撃の前では味方UNACは囮以下の価値しかなかった『To-605A(へんなの)

 

 

財団との最終決戦。

謎の緑の粒子を纏い人知を超えた性能で迫ってきたACに良く似た機体『N-WGIX/v』

 

 

主任との初邂逅。

主任という名も知らぬ時期に戦った能天使の名を持つ機体『EXUSIA』

 

 

 

だが、記憶の中の兵器達の中で目の前の巨人を超えるものは1つしかない。

 

 

堅牢なる装甲。

 

 

重圧なる砲撃。

 

 

無限にも等しい物量。

 

 

CALPIN WETLAND……こちらでは南アメリカに当たる場所で戦った、最長部で全長1.8kmにも及ぶ超巨大兵器『SPIRIT CLASS MOVING FORTRESS(スピリット級移動要塞)』のみだ。

 

 

 

そしてそのいずれもより、目の前のゴリアテはある意味で手強かった。

 

 

(ああ、クソ! 狭い!)

 

 

 

理由は簡単、戦闘領域が余りにも手狭なのだ。

 

 

50×50×50の立方体の空間。

縦横に動く分には2500㎡のそれの大半はゴリアテの上半身で埋められており、IS特有の機動力が全く活かせない。

 

なにせ今までの巨大兵器戦では障害物や足場こそありはすれ、基本的には開けた場所で戦っていたのだ。

 

四方が壁故に逃げ場も隠れ場もなく、その腕を横に振れば上下に、縦に振れば左右に避けるしか無い。

当然躱せば、そこ目掛けて高出力の荷電粒子砲が飛んで来る。

 

 

 

(臨海学校以来に…自分の死を感じるぜ…)

 

 

 

現にもう2発受けた。 次は無い。

 

次も無ければ、時間も無い。

 

だけども、一か八かの作戦はあった。

 

 

 

「……スプリング!」

 

 

 

コア・ネットワーク通信の開放回線(オープンチャネル)を開いて、一夏と同じく冷や汗と共にゴリアテから逃げるスプリングに呼びかける。

 

 

 

『よぉ。 なんだよ、今忙しいんだがな?』

 

 

「一度しか言わねぇからよく聞け」

 

 

 

一夏の目の前で怪獣の如き唸り声を上げるゴリアテには大きな弱点があり、一夏もまたそれを見抜いていた。

 

 

ズバリ、思考が幼稚なのだ。

 

 

ハードがあっても、ソフトが入っておらず、複雑な挙動ができていない。

故に行動の先を読むことや、新しい動きに全く対処できないのだ。

問題なのは、部屋の狭さがその弱点を覆い隠している事だがこれは解決しようもない。

 

 

「今から俺が送るタイミングで、指定したポイントにランスのビームを放て」

 

 

『……ほーう。 随分と簡単な作業だな』

 

 

「ばーか。 この手の相手にまともに勝負してられっか。

とんち効かせた方の勝ちだ。 ……行くぜ!」

 

 

手短に説明を済ませて、一夏はゴリアテ目掛けてブーストする。

その際、右手にレーザーブレード、左手にシールドを装備するという仕込みを忘れずに。

 

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️――――――――――――!!!!」

 

 

 

当然、荷電粒子砲の光が一夏を骨の髄まで滅ぼさんと収束する。

 

 

 

「……これでどうだァ!」

 

 

 

破滅の粒子が放たれると同時に、スプリングはランスを突き出し、一夏はレーザーブレードを振るう。

 

 

 

「おおおおおぉ!」

 

 

 

ランスのレーザー、レーザーブレード、シールド。

 

それらの力をフルに活かして、一夏は荷電粒子砲をギリギリで受け流していく。

 

 

 

(避けちゃダメだ。 避ければ腕が飛んでくる…!)

 

 

 

視界を焼き、身体を掠め、直撃程じゃないにしろ装甲を削り続ける。

そんな殺意に対する恐れを、笑って消し飛ばす。

 

 

 

(なんか…懐かしくて、ちょっと楽…し、い、……なァ!)

 

 

 

【パージします】

 

 

 

荷電粒子砲が収まると同時に、似非高速切替(ラピッドスイッチもどき)で呼び出したヒートマシンガンを放り投げる。

 

 

 

「いっけえェェェェェ!!!」

 

 

 

そして同じく展開した右手のライフルで、荷電粒子砲の射出口に入ったヒートマシンガンを撃ち抜いた。

 

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️―――――!!!???」

 

 

 

レギオルーパーの時と同様の即席爆弾に、ゴリアテは口から黒煙を上げて仰け反る。

 

そして一夏は――――

 

 

 

「ほう、なるほど。 一寸法師か」

 

 

 

その煙の中、ゴリアテの体内に口から突っ込んだ。

 

 

 

「とっとと潰れろ……千冬姉の偽物がぁぁぁ!!!!」

 

 

 

一寸法師。

 

正しくスプリングが例えた強肉弱食(ジャイアントキリング)の申し子のように、レーザーブレードとライフルを振るう。

 

 

さしものゴリアテも、体内に絶対防御は無く、臓腑の隅から隅までが血を流する噴水装置と化す。

 

 

「◼️◼️◼️◼️……◼️◼️◼️…」

 

 

ズゥンと重い音を立てて、ゴリアテは後ろ向きに倒れる。

 

 

ゴリアテの息の根が止まって少しすれば、死の黒色を血の赤色に変えた一夏がゴリアテの胸元を貫いて飛び出てきた。

 

 

 

「ブラーボー! よくぞゴリアテを倒したァ!」

 

 

 

狂喜と共に拍手を送る一瞬の相棒(スプリング)の言葉を聞き流して、一夏は残り時間を確認する。

 

 

 

「間に合わなかったか……」

 

 

 

爆破まで残り12分。

 

 

脱出途中に爆発に巻き込まれる事は確定となった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「写真立てが割れた……?」

 

 

「うん。 それでさ、今日は休みのアイツになにかあったんじゃないかなって思ってさ…」

 

 

「……あー。

アニメだとよくあるよね、これから死ぬ人の茶碗が割れたりするの」

 

 

ビクリ。

 

 

簪の「死」というワードに身体を震わせる鈴。

 

そんな鈴を一瞥して、簪はバッグから1つの指輪を取り出す。

 

 

「それは…?」

 

 

「ホープウィザードリング。ほら、手を出して」

 

 

出された手にホープリングを嵌める。

子供用のサイズのそれは、小柄な鈴にはやや窮屈だった。

 

 

「もう一度言うね。 それは『ホープウィザードリング』…指輪の魔法使い、仮面ライダーウィザードの希望だよ」

 

 

「……希望」

 

 

「前は眠くて酷く乱暴に言っちゃったからね、今言い直すよ。

鈴は悲観的になりすぎだよ。 人と人との関係は常に変わるもの。

現に告白そのものはキチンとしたのだから、“恋”そのものには決着が付いているわけじゃない」

 

 

「それは…」

 

 

「気持ちってのはさ、言葉にしてハッキリ伝えないと案外察しにくいものだよ。

……1年ほどしか違わない姉妹だって、勘違いと思い違いでずーっとすれ違っていた訳だしね」

 

 

指輪を嵌めた手を優しく握る。

 

 

「もし、織斑に思いをぶつける事が怖いなら…

私が絶対に支えてみせる。 最後の最後まで、味方として希望になる」

 

 

ふんすと鼻を鳴らして、鈴を見据える簪。

友の支えになりたいと願うその瞳には、爛々と輝く生気があった。

 

 

「簪…」

 

 

「さ、カフェで明日からどう織斑と関わるかの作戦会議しよ!

大丈夫。 同じ理由で休んでいるお姉ちゃんの写真は無事なんだから!

ただの偶然だって…織斑は、そう簡単に死ぬ人じゃないでしょ?」

 

 

そう言って鈴の手を引いて、簪は部屋のドアを開ける。

 

 

「……ありがと」

 

 

手を引かれる鈴の顔には、この最近あまり出すことのなかった笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし彼女達は知らない。

 

 

織斑一夏と共に送る『明日』など無いという事を。




割と難産だった今回の話。まぁ楽に作れた話なんて一つも無いがな!

次回『時限のベルが鳴る』は7月14日となります。

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