ISVD〜Infinite Stratos Verdict Day〜   作:高二病真っ盛り

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これまでのISVD


村橋が残した情報を元に、4機のISによる亡国機業(ファントムタスク)地下基地潜入工作作戦が始まった。

Bブロックを担当していたB(ブルー)ティアーズ・D-Nx(ディーネクスト)/セシリアと打鉄/風子の元に、シュヴァルツェア・レーゲン/オータムが現れる。
無人機との連係で2人は追い詰められるが、風子の剣技によって状況を打開、なんとかオータムを打ち倒す。

そして、Aブロックを調査中の一夏は最下層、地下30階に到着する。


08ー20 ゴリアテ

広いフロアに幾つもの部屋があったこれまでの階層と違い、地下30階は階段から先は唯一直線に廊下が伸びているのみであった。

 

 

「地下30階へ、遠路はるばるようこそ。 歓迎するぞ、織斑一夏」

 

「……スプリング」

 

 

それはつまり、このフロアに逃げる場所も隠れる場所もない事を指しており、スプリングとの再会もかなり早いものだった。

 

 

 

「どうだ? レギオルーパーや擬似コア以外に目ぼしいものは見つかったか?」

 

 

床に胡座をかいて、一夏を見上げて、セキュリティシステムを用いて知っている筈の事を敢えて問うスプリング。

 

 

 

「いや。 25階以降のフロアの一室一室を見ていったが、これといったものはなかったな。俺のクローンでもいるかと思ったんだが」

 

 

先程までは煮えたぎる怒りがあった一夏だが、フロア探索中に冷静さを取り戻し、情報を集める為の会話に興じる。

 

 

「そうか。 まぁ無理もない、この研究所は培養脳の取り扱いが主な場所だからな。

擬似コアの効率的な量産化やレギオルーパーの様な簡易ISの開発、義手義足の開発もしてるんだぞ」

 

「…義手義足の、開発?」

 

 

ピクリ。

 

 

漆黒の鎧の下での反応はスプリングは見逃さなかった。

 

 

「ISスーツとパワーアシスト機能の応用でな、残念ながら人の温もりや柔らかさは再現出来てないが、精密性と動作性に置いては本物の腕に勝るとも劣らない。

知っての通りオレ達亡国機業(ファントムタスク)は裏の組織。 危険な任務で腕を失くす奴なんてゴロゴロいる。 お前が撃った、オータムの様にな。

しかし、義手義足に興味を持つとは――――

 

 

―――――腕か脚を失った、大事な人がいるのか?」

 

 

桜色の髪の間から覗く碧眼が、ジィと一夏を見据える。

その瞳に正直に答えるかどうかを1秒考えて、正直を選んだ。

 

 

「……そうだな、いたよ。

今はもういない、左腕を失くした、それで苦しんだ人が」

 

「ほーう…。 確かに腕も脚も無きゃ不便だからな。

オータムの奴はつける前はうるさくて敵わなかったよ」

 

「だけどもういない、死んだんだよ。

……スプリング。 今度はこっちが質問する番だ」

 

「オーケイ! なんでも3つ答えよう!」

 

「じゃあ1つめ。 マドカを産むために、千冬姉から遺伝子を採取した時期を聞かせろ」

 

 

「……ほーう」

 

――――そこを突いてきたか。

 

 

スプリングは内心だけでなく、その美麗な顔も合わせてほくそ笑む。

 

 

「レゾナンスでの無人機テロの際、マドカが捨てたコーラのボトルから唾液を採取した。

それとさっきの部屋の培養脳の遺伝子を分析・比較した結果、成長促進剤の類は用いられていないという事がわかった」

 

「…それで?」

 

「マドカの年齢はどう見積もっても俺と同程度の15から18歳ほど。

産まれたのが千冬姉がブリュンヒルデとなった7年前や、白騎士事件の10年前だと矛盾する。

つまりお前ら、ISの“あ”の字も無い頃から千冬姉に目をつけていたって事だ。女性エージェントの育成や、IS用部品の製造の様にな」

 

「……ふー」

 

 

パチ パチ パチ

 

 

静寂の通路に、まばらな拍手が響く。

スプリングの両手から放たれる、ぬるい拍手だ。

 

 

「よくそこまでたどり着いた。 これは素直に賞賛しよう。

しかし、なるほど。 村橋の奴はまさかそれを漏らしていたのか…。

加えて比較分析という事は、黒い鳥(ダークレイヴン)はそんな事が可能、と…」

 

 

「何ブツブツ言ってんだ。 質問に答えろ」

 

 

「おお、悪い悪い。 考え過ぎて忘れちまうところだったぜ。

ま、着いてきな、この研究所の最高機密にしてオレのお気に入りを見せてやる。

質問の答えは…話しながらだ」

 

 

よっこらせと、スプリングは大股で立ち上がった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「しかしマドカの奴…まさかペットボトルから遺伝子を回収されるとはな。

いつも自信満々で傲慢な癖に、こうやって付け入られてるじゃないか」

 

 

そう言って先導するスプリングの後ろを、一夏は追いつかない程度にブーストを吹かしてついて行く。

 

 

「それで、質問の答えだが……マドカの年齢はお前と同じ16歳。

言ってしまえば、お前とマドカは二卵性双生児と同じという訳だ」

 

「やっぱり。 ISが生まれる前から、生まれる事前提で動いていたんだな。

2つめの質問だ。 どこからそんな指示が出たんだ? 元最高幹部の村橋が訝しんでいたなら、相当上からの指示だろ?

もしかして、荒野で言ってた“あのお方”か?」

 

「知らないねぇ…いや、冗談抜きで知らないんだ。

この事実だってオレが興味をもって調べたものだからな。

むしろ当時1歳の赤ん坊なオレが知るわけないだろ?」

 

「……え? お前17歳なの?」

 

「そうだぞ。 なんなら『スプリングお姉ちゃん』と呼んでもいいんだからな」

 

「誰が呼ぶかよ。 俺の姉は、織斑千冬ただ1人だ。

……3つめ。 調べたんなら、その指示に対して不審がる奴がいるんじゃないのか?」

 

「生憎、オレが調べられたのは事実関係のみでな。 当時の証言はこれっぽっちも持っていない」

 

 

「……最後に、もう一つ聞かせろ」

 

 

「聞きたがり屋だねぇ。 だが、わかんないところはキチンと聞けるのは優秀な生徒の特徴だ。 悪くない。

いいぞ。 スプリング先生が後一つだけ答えてやろう」

 

 

「――――どうしてここまで俺に話す」

 

 

カツ…

 

 

スプリングのヒールの音が止む。

 

続いて一夏のブースターも火を止める。

 

 

「俺の戦闘データが欲しいだけなら、監視カメラの映像でよかった筈だ。

直接戦いたいと言うなら、荒野の一戦で済んだ筈だ。

なのに何故かお前は、その後も俺の前に現れては会話して、その度に情報を寄越してくる。

なんでだ? 偽の情報ではないと、本当の事だと、そうわかるからこそわからない」

 

 

一夏の問いに、スプリングは何を考えているのかわからない笑みを浮かべる。

質問されてから10秒程経って、ようやく三日月に固定された口を開いた。

 

 

「正直に言うとな、荒野で戦うまではオレはお前に情報を渡す気は無かった。

お前さんの言う通り、襲撃して戦って、後は監視データを持ってスタコラサッサと行く予定だった」

 

「なら、なんで…」

 

「実際戦ってみれば、織斑一夏という存在は中々にイケる操縦者だったからな。

一言で纏めるなら……オレはお前に一目惚れしたんだ。

女の子の恋ってヤツは、いつだって非合理的で法則性というものはないんだよ」

 

「……嘘をつくな。 どの口で俺に恋してると言ってるんだ」

 

 

一夏の観察眼に、嘘として引っかかった場所が指摘される

 

 

「バレたか。 まぁ戦ってみて考えを変えたのは本当だ。

だがそれには、れっきとした動機が2つある」

 

「2つ?」

 

「1つは、無人機テロに品川での狙撃、お前もわかってるだろう…亡国機業(ファントムタスク)は近々大きく動くとな。

これは、組織の存亡すらかけた一大プロジェクトでな。 当然、世界を変えたIS保持者は警戒しなければいけなくなる」

 

「つまり、無人機テロは俺達の実力を図る一面もあったと?」

 

「そうだ。 オレは、このプロジェクトが成功するかどうかは70%/30%(セブンティサーティー)だと思っている。

……いや、()()()()()。どう変わったかを話す気は無いが、お前に情報を渡した方がオレの得になると判断できるぐらいにな」

 

「……もう一つは?」

 

「これまでのお前の行動をオレの主観で分析すれば、基本的に鏡の様に動くと思ったからな。

誰かの依頼を受けない、フラットな織斑一夏は好意には好意を返すし、殺意には殺意を返す。

こうやって先に情報という借りを作っておけば、お前に頼み事をしやすいからな」

 

「フン…わかったような口を。

言っとくけど、俺とお前は敵だ。 そううまくいくとは思うなよ」

 

「ちなみに鏡の様と言った根拠を述べてやろうか?

単純だ。始めは仲がよろしくなかったセシリアやラウラが敵意をぶつけるのを止めれば、お前もそれに倣った。

どうだ?」

 

「……」

 

「さぁ、着いたぞ」

 

 

そう言って、先程から2人が佇んでいたのは、長く長く伸びる通路の途中。

 

 

「…着いたって…どこに?」

 

 

一夏は頭にはてなマークを浮かべる。

 

周囲に扉は無い、通路の先も見えないし、来た道ももう見えない。

 

 

困惑する一夏を他所に、スプリングは手元の携帯端末をテンポよく操作する。

 

 

「はい、ポチッとな」

 

 

ガコン

 

 

音を立てて、目の前の床が開く。

 

出来た穴の中には明かりが灯っており、壊れた訳では無いと言う事を示している。

 

 

「ここから先は、ISだ……ドン・キホーテ!」

 

 

狂人の甲冑を纏ったスプリングはピョンと飛び込み、一夏も慌ててそれを追った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

飛び降りた先にあったのは、縦にも横にも広い空間であった。

 

 

床から天井までは50メートル。

 

 

横幅や奥行の長さも50メートル。

 

 

50×50×50の立方体の空間が、そこには広がっていた。

 

 

そして、その真ん中には――――巨大な人間が入った透明の装置が鎮座していた。

 

 

装置内は液体で充填され、巨人の腹部から下は床の下に埋まっており、幾重ものケーブルやコードが全身に繋がっている。

 

 

「千冬姉…」

 

 

そしてその巨人の顔は、あのクローン達と同じく一夏の姉そのもの。

 

 

【システム スキャンモード】

 

(『身長51メートル。 体重1562.5トン。

もちろんこの大きさとなると自重で崩壊するから、体内の金属関節や制御装置によってその身を保たせているね。

体内の47箇所に擬似コア搭載。 文字通りの心臓部にISコア搭載。

ISコアが全ての擬似コアの親機となり、全ての擬似コアがISコアの伝導機となり、その全身に巨大な装甲『アンチダビデ』を展開するみたいだ』)

 

 

どこまでもブレずに解析を行う財団の言葉を聞きつつ、どこぞの英霊ゲームの騎士王の様にフリー素材と化した姉の姿に、一夏の心が乾いていく。

 

 

 

「どうだ? 一目見ての感想は」

 

 

「なんかもう……ここまで改造されると怒る気も失せる」

 

 

さっきまでのハードシリアスな空気が、一気にシュールギャグのそれになっていくのを感じて一夏はため息を吐く。

 

ここまでバカバカしい光景にされると、怒りを抱く事もバカみたいに思えてくる。

 

 

「そうかい。

まぁいい、コイツの名前は“ゴリアテ”。見ての通り、織斑千冬のクローンの一つだ」

 

「…一応聞く。 なんでこんなもん作った」

 

「蟻が象に勝てないのはなぜだと思う? ……大きさだ。

巨大な生き物はそれだけでアドバンテージを得る。

言わば、ウルトラマンを作り出して操る事を目指したからだ」

 

「なんでそんな頭良いのか悪いのかわからない計画立ててんだよバカ野郎」

 

 

大きさ=強さ という発想は間違ったものではない。

 

ゴジラに生身の人間が成す術は無いように、大きいものはそれだけで強い。

 

故に、発想は間違ってはいない…………のだが、正解かというと首を横に振らざるを得ない。

 

むしろ縦になんぞ振ってたまるか。 そもそもISが既存のものを超えているのはそのサイズに対しての保持火力と堅牢なる絶対防御のお陰だ。

後者はともかく、前者を捨ててどうする。 戦艦でいいだろう。

 

 

 

とはいえ、そんなカオスで煮詰めた様な頭の悪い兵器は、今目の前にキチンと存在する。

 

現実を現実として受け止めて、財団のスキャン結果を読む。

 

 

「……インチキ技術もいい加減にしろよ」

 

 

黒い鳥(ダークレイヴン)の能力で解析したか。 最も、B(ブルー)ティアーズ・D-Nx(ディーネクスト)を生んだお前が言えた事じゃないがな。

それに、ゴリアテは口内の大規模荷電粒子砲と、両の手甲の高温炸薬機の2つしか武装を搭載していない。

未完成なんだよコイツは……永遠に、未完成だ」

 

 

「なぁ、面倒だからそれだけは避けてくれないか?」

 

 

―――永遠に未完成―――

 

 

スプリングのその言葉に、これから何が起こるのかを悟った一夏は、無駄だとわかっていても一応拒否の姿勢をとる。

 

 

 

「オレは誰の指図も受けない。

どうせこの研究所は終わりだし、そうなった以上コイツも長くて明日までの命だ。

…………最期ぐらいは派手に咲かせようじゃないか」

 

 

 

一夏の拒否宣言は、当然のように無視されて――――

 

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️―――――――――――!!!!」

 

 

――――猛烈な巨人の咆哮が、部屋一面に響き渡った。

 

 

破砕音を立ててケースが飛び散り、中の液体が床に波を立てて流れてゆく。

未完成なのは事実なようで、纏う鎧は身体の一部のみ。

 

床の下に下半身がある故に歩こうという様子は無いが、その双眸は一夏とスプリングを獲物としてしか見ていない。

 

 

財団との初邂逅、『へんなの』との戦いを思い出して頭を抱える。

 

 

「やっぱこうなんのかよ畜生!」

 

 

「さぁどうする織斑一夏! オレと共にゴリアテを倒すか! それとも仲良くペッチャンコになるか!」

 

 

「ッザケンな! 誤射したら肉壁にするからな!」

 

 

【システム 戦闘モード】

 

 

 

「はははは!それでいい!

もう一つニュースを教えてやる。……この研究所は後30分で自爆するぞ」

 

 

ノレない気持ちを何とか奮い立たせた一夏の耳に、スプリングの信じたくない事実が入る。

 

 

「はぁ!? 心中するつもりかよ!」

 

 

 

亡国機業(ファントムタスク)研究所の真の最奥部。

 

 

 

「まぁ、可愛い作品に殺されて死ぬなら悪くはないな」

 

 

 

自分の姉そっくりな巨人との戦いを、一夏は全く信頼できない狂人(スプリング)と共に始めた。

 

 

「……いくぞ財団。 さっさとやらないとお陀仏だ」

 

 

『ここから安全圏に脱出するまでに最短で15分、余裕を持って20分。

残り10分も無いけど…大丈夫だよ、きっと。 君ならできるさ』

 

「どうしてこういう時にデレるんだよ」

 

『僕もボケとくべきだと思ってね』

 

 

[ゴリアテを撃破せよ]

 




やめて!自爆装置で地下基地全てを焼き払われたら、潜入ミッションで地下基地の最奥部に入っている一夏まで燃え尽きちゃう!

お願い、死なないで一夏!あんたが今ここで巻き込まれたら、楯無との約束はどうなっちゃうの? 時間はまだ残ってる。素早く倒せば、脱出出来るんだから!

次回、「時間切れ」。デュエルスタンバイ!



嘘です(笑)次回は「ジャイアントキリング」7月7日の七夕更新です。

ここまで千冬姉の遺伝子を酷い目に遭わせた作品はあっただろうか。いやない(反語)

ホントごめんね!

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