ISVD〜Infinite Stratos Verdict Day〜 作:高二病真っ盛り
村橋が残した情報を元に、4機のISによる
そんな中、極秘エリアに先回りしていたスプリングの口から「疑似コアに使われている培養脳は千冬のクローンである」と告げられる。
同時刻、Bブロックを制圧・調査するセシリアと風子の前に
オータムはドイツの第三世代機『シュヴァルツェア・レーゲン』を展開し、2人に襲い掛かるのであった。
閃光、火花、スパーク。
機材が粉塵となり、壁は剥がれて粉微塵にされ、床は砕かれ中を露出する。
セシリア、風子、そしてオータム。
そこにゴーレムと、ゴーレムによって
「オラオラどうしたァ! 次世代機ってのもそんな程度なのかよ、ヒャーハハハハハ!!!」
ドイツの第三世代機『シュヴァルツェア・レーゲン』の最大の特徴は、
物体の慣性を停止させる事で防御と拘束を同時に行うそれは、実体なき光学兵器は防げず、一度に停止させられるのは1つの対象のみという2つの弱点を持っている。
【
「撃ち抜け!」
前者の光学兵器はセシリアが持ち合わせており、主にオータムの相手をするのは当然彼女であった。
そして後者の弱点は、一見すると2人いるのだから簡単に突けそうに思えるが、そうは問屋が卸さない。
「おらゴーレム! チンタラしてんじゃねぇよカス!」
汚い言葉を吐き続けるオータムの指示は中々的確で、4機のゴーレムと20機のスケルトンの連係は見事に2人を分断し続ける。
加えて、幾らモニタールームが体育館程広くても、屋内は屋内。
捕まれば即集中砲火の鬼ごっこを強制されるセシリアと風子の顔色はあまり良くなかった。
(あの時…ラウラさんとの戦いでは完全に人読みで勝ってましたしねぇ)
かつて一夏とセシリアはシュヴァルツェア・レーゲンを倒した事がある。
しかしそれは、“シュヴァルツェア・レーゲン”ではなく“ラウラ・ボーデヴィッヒ”の弱点を突く形での勝利だ。
目の前のオータムにはなんの役にも立たない。
そう判断したセシリアはならばどうすると考える。
(風子さんは…まぁ流石に無人機に苦戦はしてませんわね。
……そもそも、私達がとるべき行動はなんでしょう?)
指揮官である楯無の指示である『脱出と存命を第一に行動せよ』に則るのなら、この場合のセシリア達の勝利プランは2つ。
1つは、オータムも無人機もぶっ倒してしまう『殺られる前に殺れ』プラン。
もう1つは、隙を見て逃げ出し楯無と合流する『いのちはだいじに』プラン。
【
チクタクと悩んで、セシリアが選んだのは『殺られる前に殺れ』プランであった。
ここは敵側のホームグラウンドで、屋内ではAICが更に厄介になる事を考えれば、今の内に倒してしまおうというのは間違いではなかった。
「ハァァァ!」
豪気と共に放たれる翡翠色の光弾群。
それらはぐにゃりと曲りくねり、オータムを包囲しながら襲いかかる。
(よし、当たる……!)
【
着弾を確信して、セシリアはヴォルカライザーをソードモードに変形させる。
「ヒヒッ……ざぁんねぇんでしたァ!」
ここで一つ、話をしよう。
光を曲げる
それが指す意味は唯一つ。
マドカと同じ
オータムはその整った顔に凶暴な笑みを浮かべ、ISを纏った義手の左腕を横に薙ぎ払った。
轟ッ!
瞬間、不可視の衝撃波が吹き荒れる。
それは光弾を全てかき消し、消してなお余るエネルギーでセシリアを襲う。
「くぅ……! 今、のは…」
「クッフー! なにがなんだかわからねぇって顔だなオイ。いいぜ、機嫌もいいから教えてやるよ。
私の左腕に搭載された擬似コアが、
「AICの特殊遠隔制御…!? インチキもいい加減になさいな!」
「インチキ…? オイオイ、そりゃこっちのセリフだ。
インチキの塊みてぇな次世代機乗っといてほざいてんじゃねぇよ。
使いこなせないなら私によこせや…。使ってやるからよォ!」
レーゲンの大口径カノンを横っ跳びで避けたセシリアに、オータムは絶え間なく不可視の衝撃波を放っていく。
衝撃波でメインモニターが切断され、椅子は床ごと陥没し、スケルトンが巻き添えでぺちゃんこに潰される。
「〜っ!」
だが、それでも苦戦してるのは
地形、連係、仲間の数…様々な要因が絡まった状況をどう打ち砕くべきかを、苦い顔で考えていた。
『ティア、私に考えがあります』
「スチル?」
そんな中、風子からコア・ネットワーク通信が入る。
先程スケルトンが巻き添えになった事により余裕も出来たようだ。
「……わかりましたわ。 今の私に状況の打開策は思いつきませんし、乗りましょう。
それで、私はなにを?」
『敵機を私の方に誘導してください。
仕留める方法はあるので、誘導したら雑魚の相手を頼むであります』
「攻撃対象を入れ替えるという訳ですか。 ですが、大丈夫なのですか?
貴女の武器はライフルにミサイルにブレード…相手にとっては格好の的ですわよ」
AICの弱点として『光学兵器は防げない』とあったが、裏を返せばそれ以外は防げるという事だ。
そして風子が持つ武器のいずれもがそれ以外に該当する為、セシリアの心配は当然のものだった。
そんなセシリアに風子は力強く返す。
「大丈夫であります。 斬る瞬間さえくだされば…斬ってみせます!」
ならばよし。
最早何も疑うものは無いと、無言で肯定したセシリアは、ヴォルカライザーのナックルガードを2回スライドする。
【
刀身にエネルギーが迸り、解放の時を今か今かと大気を焼く音で問い続ける。
「そう簡単にやれると思ってんのか? あ?」
無論オータムが黙ってそれを見ている筈も無い。
左手をセシリアに向けて、不可視の衝撃波を放つ。
【
そしてセシリアは、己に向かう衝撃波に向かって相殺する為に――――否、オータム頭上の天井目掛けて光刃を飛ばした。
「なんだと!?」
当然迎撃するものだと予想していたオータムは驚愕する。
遮るものなく天井に着弾した光刃は、天井を構成する金属類を瓦礫にして落下させる。
落下地点は勿論オータム。
ISとて、ここで生き埋めになればどうなるかはわからない。
「チィ!」
オータムが選んだのは回避。
AICで防かずに、真横にブーストをかけて降り注ぐ鉄屑を避ける。
彼女がこの選択肢を選んだのもキチンと理由がある。
停止可能な対象が1つなAICで防げば、近接戦や非光学兵器の攻撃を許す事になるからだ。
(今のは囮…クソ金髪は私の衝撃波をモロに受けている…。
……もう1人か!)
そして、この天井落下攻撃が本命でないのはオータムも承知。
そんな彼女の予想通りに、風子は刀状の近接ブレードを携え突撃する。
「バァカ…。捕まえてボロボロのゴミ雑巾にしてやるよ!」
醜悪な笑みと共に右手を向ける。それはAICを使う合図。
慣性を封じ、動きを停め、命の鼓動を終わらせる“力”が10メートル程先の風子に向かって伸びる。
「……此ノ一刀 刹那ニテ無ニ至リ」
それに動じることも、躱すこともなく、風子はブレードを水平に構え――――
「一閃 狭間ヲ裂キテ空ニ還ル!」
――――オータムも、ゴーレムも、スケルトンもいない。
そんな“空”を、横一文字に切り裂いた。
「空振り…?」
ズ…
「…え?」
……ガガガガガガガガッッッッ!!!
「え、ええーっ!?」
振り抜いた一瞬後、セシリアの眼前で『あり得ない事』が起こった。
剣閃の先にあったもの全てが両断されてゆくのだ。
巨大モニターは断たれ、ゴーレムは真っ二つになり、スケルトンの首が切り落とされる。
「ガ……ア…?」
そしてセシリア同様何が起こったのかがわからないまま、オータムは苦悶の呻き声をあげる。
流石ISといったところで、スッパリ裂かれたという訳ではないが、それでも彼女の身体に走る未知の衝撃はあまりにもでかい。
その威力は吹き飛んだオータムがモニターにめり込んだ所から伺える。
「今、のは…?」
風子が、ブレードで、切り裂いた。
そんな事はわかっているが、そんな事に行き着く理屈がまるでわからない。
なにせ風子が使っているのは、セシリアが幾度もなく授業で見てきた学園の打鉄とその近接ブレード。
鈴の専用機『
「今のは私の流派『黒金一刀流』が奥義『絶刀』……。
空間ごと眼前の全てを切り裂く、剣の道の極みであります」
「ええ…」
風子の解説を聞いてセシリアは閉口する。
確かにISにも剣にもそういったカラクリが無いのなら、当然実現せしめたのは操縦者の技術に他ならないが、いくらなんでもこれは信じがたい。
むしろ男性操縦者や無人機の方が、まだ実在を受け入れやすいというものである。
戦いというのは強い奴が勝ちやすいだけで、必ず勝てるという訳ではない。
次世代機が苦戦した所を、第2世代がどうにかするというのもなんらおかしなことではない。
それはわかっていても、何か釈然としないものがあった。
『はい。黒い黄金と書いて黒金です。…なにか変でしょうか?』
『あ、いえ、どこかで聞いたと思っただけです。
無所属、織斑一夏です。よろしくお願いします』
セシリアはとっくに忘却したが、読者諸兄はミッション開始前のこのやり取りを覚えているだろうか。
どこで一夏が聞いたのかというと、実は幼少期まで遡る。
嘗て一夏は箒の父『篠ノ之
『剣の道に何年も身を置いてきたが、“黒金”の次代にはまるで敵わないな』
当時の一夏にその真意はわからなかったが、この風景を見る事があれば間違いなく思い出して納得するであろう。
そう、『黒金風子』とは日本古来より伝わる『黒金一刀流』の末裔にして、最強の伝承者である。
ピシッ…
「…!? スチル、ブレードが…!」
露程もそんな事情を知らないセシリアは、ヒビ割れてボロボロになった打鉄の刀に気づく。
「この奥義…使うと刀が壊れるんですよ。借り物で使う技ではありません。
…ティアさん、次は貴女の番であります」
「……ええ、雑魚はこのセシ…ンンッ!
このティアにお任せあれ!」
【
申し訳なさそうな風子のブレードがパキンと音を立ててバラバラになるのが先か、それともセシリアが電子音を鳴らしてヴォルカライザーをガンモードに切り替えるのが先か。
ともかく出来た隙につけこまない理由はなく、今度はセシリアが残った無人機達を潰さんと動き始める。
【
オータムが指揮する無人機群は、今まで戦ったのとは違い指示がある事前提のプログラミングが為されている。
故にその
【
セシリアは右手でトリガーを引いて、頭上に直径2メートル程の光球を撃つ。
「バァン」
ふよふよと滞空する翡翠色のそれに、左手の指鉄砲を向ければ、光球は花火の様に破裂し、流星雨の様に降り注ぐ。
流れ星の1つ1つは外れる事なく無人機達を貫き、鋼の身体を動かぬ残骸へと変える。
「グ…ゥゥゥ…!」
全ての無人機が沈黙した頃、混濁したオータムの意識が戻り始める。
正常な判断能力が戻りきるのを待ってやる義理は、セシリアにはない。
【
「はぁぁぁ……!」
駆動音を奏でると同時に、セシリアは腰を落として構えをとる。
右脚に淡いエメラルドカラーのエネルギーが収束し、その勢いを増してゆく。
「はッ!」
背中のスラスターを用いて飛び上がり、空中でモニターに埋まったオータムに狙いを定める。
【
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
セシリアの必殺キック『ヴォルカニックコメット』が無防備なオータム目掛けて突撃する。
「ナメ…てんじゃ……ねぇぞ!クソガキがぁ――――!!」
激昂して、直前で意識を完全に取り戻したオータムのとった行動は、AICでセシリアを止めにいくという、その怒りとは裏腹に理性的なものだった。
「行って!」
無論セシリアもそこは織り込み済み―――ビットを一基飛ばして、自分の代わりにAICに割り込ませる。
「クソがァ!」
ならば、とオータムは左手を向けて最大出力で衝撃波を発する。
「はぁぁぁ……!!!」
「おぉぉぉ……!!!」
莫大なエネルギーが篭ったセシリアのキックと、力を一点に集中したオータムの衝撃波が拮抗する。
しかしその鍔迫り合いは長くはもたない。
蹴り勝てる。セシリアは確信した。
撃ち負ける。オータムは歯噛みした。
「……なら…テメェの様にこうするまでだ!」
衝撃波をキックが突き抜けるその瞬間、オータムは
ゴーレムはセシリアの代わりにAICに捕まったビットと同じく、オータムの代わりにキックを喰らい――――
チュドォォォン!!!
主人の代わりに、その命を散らした。
バッ!
爆炎から2つの影が飛び出す。
「やられた…!」
無人機を囮にされた事に悔しげなセシリアは、華麗に着地する。
「クソが……!」
直撃は避けても至近距離に迫った事は変わりなく、オータムはゴロゴロと床を転がる。
しかしてこれにて勝負あり。
オータムが起き上がる前に、2挺の銃と6基のビットの銃口が取り囲んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「地下30階へはるばるようこそ、織斑一夏。
着いてきな、この研究所の最高機密にしてオレのお気に入りの作品を見せてやるよ」
そして、視点は再び一夏に移り変わる。
黒金一刀流奥義『絶刀』
眼前の空間を両断する事で、その空間内にいたもの全てを真っ二つにする剣技。
生身で使えば切れる範囲は5〜8メートル程だが、ISによって身体能力を向上させればその範囲は10〜15メートル程に伸びる。
尚、空間にかかる負担を反作用で受ける刀はポッキリ折れる。
その為あまり多用は出来ない。
誤字脱字、わからないところは遠慮なくどうぞ。
次回『ゴリアテ』は6月30日です。