ISVD〜Infinite Stratos Verdict Day〜   作:高二病真っ盛り

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これまでのISVD



村橋が残した情報を元に、4機のISによる亡国機業(ファントムタスク)地下基地潜入工作作戦が始まった。

地下基地Aブロックへ侵入した黒い鳥(ダークレイヴン)/織斑一夏は、男でも変身できる疑似IS/レギオルーパーと交戦する。

機転を利かせてなんとか倒した一夏は、地下基地最奥部の極秘エリアへ足を踏み入れた。


08ー18 黒い雨

カツーン…カツーン…

 

 

静寂の中、鋼鉄の脚部装甲が金属製の床と音を立てる。

 

先程までの戦闘のメロディが嘘のように静かな極秘エリアは、されど一瞬たりとも気を抜く事は許さないナニカを漂わせていた。

 

 

『あれ? おかしいな』

 

 

一夏が気を張って周囲を見渡していると、財団が珍しく素っ頓狂な声をあげた。

 

 

「どうした、トラブルか財団」

 

『ミステリアス・レイディから送られた地図とフロア構造が一致しないんだ。

……ははぁ。これは彼女、一杯食わされたな?』

 

「まぁ、極秘エリアの詳細な情報が、通常エリアにある訳無いよね」

 

 

楯無のフォローを入れつつ、マップが無いことをどうしようかと話し合う2人。

結果として『気になった部屋から見て回ろう』というパワープレイ極まる内容に落ち着いた。

 

 

「気になる部屋、いっせーのせで言おうぜ」

 

『いいよ。じゃあ……』

 

『「いっせーのーせ!』」

 

 

一夏はヒートマシンガンの銃口を向ける事で

 

財団はバイザー内のマップにマーカーをセットする事で

 

 

通路最奥の『クリアランスA以上のみ』と書かれた部屋を、2人同時に指し示した。

 

 

「……一応理由聞いていいか? クリアランス以外で」

 

『あの部屋から一つ。ISコアの反応がある。

そういう君は?』

 

「……あの部屋から、無人機達に感じたあの嫌な感覚が沢山する」

 

『あの部屋から擬似コアの反応はしないけどね。

……その感覚。さっき言ってたデカい奴かい?』

 

「いや…そいつじゃない」

 

 

視線をずらして床を、その下を、一夏はジッと見つめる。

 

 

「デカい奴はもっと奥、ずーっと下の方にいる」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「よう。待ちくたびれたぜ一夏」

 

 

どんなセキュリティも財団の手にかかれば10秒以内で消えて無くなる。

 

そんな文明的に野蛮な開錠を行い、部屋に入った一夏を出迎えたのは1人の女だった。

 

 

「……スプリング」

 

「お前さんなら必ずここまで到達するだろうと思ってたが、タイムは予想以上に良い。

まさかレギオルーパー4体を一網打尽にするとはな。

しかも、傷ついた盾も爆散したその銃も再変身したら無傷で手元にあるというオマケ付きだ」

 

 

紺のセーターと黒いスカートの上に白衣を纏い、ISのバイザーではなく茶縁眼鏡をかけたスプリングがそこにいた。

机の1つに腰掛けて、足をブラブラと揺らしている。

 

 

「どうだ? オレの作品はなかなかだったろ?」

 

「……皮肉抜きで最高だよ。

あのレギオルーパーってヤツが世に出回れば……ISは希代の兵器では無く、一つのカテゴリに落ちる」

 

 

戦車や戦闘機といった既存の兵器に対して、ISが“一騎当万”とするならレギオルーパーは“一騎当十”と言える。

スケルトンよりは高いが、ゴーレムより低い戦闘力は、個として見るならISにとって脅威ではない。

 

しかし、レギオルーパーにはISには無い『量産性』がある。

 

操縦者を選ぶ事なく、その数が限られる事もない、そして数の利をとればISを討ち取れるかもしれない。

そんなレギオルーパーが今後の軍事に対して与える影響は多大なものと予想出来た。

 

 

「そうか、お褒めに預かり誠に光栄だ。

……監視カメラで見てたんだが、お前さん、一直線にコッチに来たな。

なにか訳でもあるのか?」

 

「2つある」

 

「ほう?」

 

「1つは、この部屋からお前のIS…ドン・キホーテの反応があったから。

そしてもう1つは……変な感覚が、この部屋から大量に感じたからだ」

 

 

“変な感覚が” “大量に”

 

 

一夏の言葉に目をパチクリさせたスプリングは徐々に肩を震わせる。

抑えきれないとばかりに笑いが口から溢れ、目元には涙が浮かんでいた。

 

 

「なにがおかしい」

 

「いや悪い! 別にバカにはしてないさ。フッ……ハハハハハ!

むしろ逆で感心しているんだよ。 流石だ、感覚でわかるのか!」

 

 

ひとしきり笑ったスプリングは、尻の下の机についたキーボードを操作する。

 

 

「もしかしてその感覚は、正確に言うならこの部屋の“壁”からしていないか?

なら正解だ……! ご褒美に見せてやるよ!」

 

 

エンターキーを押すと壁のプレートが一枚一枚と下がっていく。

 

中から出てきたのは直径1メートル、高さ2メートル程のガラスの筒。

何本もあるそれは壁があった場所にズラリと並んでいた。

 

中には太ももから先と二の腕から先が無い女性が液体に浮かんでおり、その頭部から露出した脳味噌は幾多ものコードに繋がれていた。

 

脳が露出しているので髪は一切無いが、その顔立ちは一夏には覚えがあった。

 

 

「千冬姉…!?」

 

 

死体のように瞳孔が開き、屍のように生気は無く、されどもその面持ちは紛れもなく一夏の姉『織斑千冬』であった。

 

 

「ISを使うにあたり、1番最適な遺伝子を持っているのは誰だと思う?

……織斑千冬だ。ブリュンヒルデのDNAはISを扱うためにあるといっても過言じゃあない。

もしかしたら逆で、開発者の篠ノ之束の方から千冬のそれに合わせたのかもしれないがな」

 

「……千冬姉の遺伝子から作ったクローンから腕と脚を剪定して培養。

コードを使って戦闘用に教育して、出来たものをゴーレムに搭載。

……これらは全て、教育中の脳味噌って事か」

 

「ビンゴ。察しがいい奴は好きだぜオレは」

 

「俺はお前が大嫌いだよ。

……怖気が走るぜ、まさか俺まであるとは言わねぇよな?」

 

「言わねぇよ。 同じ父と母から生まれても、お前と千冬は決定的に違う」

 

 

今すぐにでも銃を乱射して、スプリングも千冬姉もどきもぶっ壊してやりたい。

 

 

そんな衝動を抑える一夏の脳裏に、ある言葉がよぎった。

 

 

(……“カルティベイター”、そして“ファンタズマ・ビーイング”)

 

 

AC世界の人類が生んだ、世界を破滅に導く罪。

細部は違うが概要は似たそれを思い出し、世界や技術レベルが変わろうと人類は同じ罪を犯すのだと確信した。

 

 

「M…織斑マドカもそれって事か」

 

「いい直感だ。 だが、少し不正解だ。

Mが生み出された経緯は『こちらの意に従う織斑千冬の製造』でな、兵器運用も兼ねてはいるが織斑千冬の遺伝子のデータ収集も目的の内だ」

 

「……その割には、随分と好き勝手な行動しているみたいだがな」

 

「『織斑一夏よりも絶対的に優れた自分の方が織斑千冬の家族に相応しいし、それが正しい』

嘗てアイツが語っていたオリジナルの織斑千冬への執着だが、正直兵器としては厄介この上ないな」

 

「ザマァみさらせだ」

 

「その殺意が主に向くのはお前だがな」

 

 

ジャコッ

 

 

銃口を向けて返事を返し、戦闘態勢に移る一夏。

 

最早この部屋には用はない。

手早くもう一度スプリングを片付けて調査を続行するだけだ。

 

 

ISを展開する暇を与えずに銃弾を放つ。

 

 

バチィ!

 

 

しかし、部屋の中央に貼られた電磁バリアに阻まれ地面に落ちる。

 

 

「相変わらずせっかちだな。オレはお前と戦う気はないぞ。

その証拠に、ホラよ」

 

 

スプリングは飄々とした態度を崩す事なく、白衣のポケットからUSBメモリを取り出して、一夏に投げる。

 

それをキャッチした一夏は、ジロリとバイザーの中からスプリングを睨め付ける。

 

 

「コレは…?」

 

「ここの研究データ全部…というには容量が足らないから、このクローン達の製造、培養、教育法の簡単なさわりのオレが纏めたものだ」

 

「…悪趣味だな。

千冬姉の人権が心配になるぜ」

 

「わかってないようだな。

お前は双子を同じ人間だと言うのか? 人知れず生まれた双子が、人体実験されている。

たったそれだけの話なだけで、お前やましてや織斑千冬が口を出すことでもないんだよ」

 

 

清々しいまでの暴論に、一夏はハンガーからレーザーブレードを取り出す。

電磁バリアを切り裂いて、スプリングを殺す算段を頭の中で整えていく。

 

決別こそしたが一夏は元々シスコンで、姉に危害を加える奴に持つ慈悲は無かった。

 

 

「おおこわいこわい。

じゃあ、オレは先に30階に向かってるぜ。チャオ!」

 

 

その殺意を受けてスプリングは部屋から出て行く。

 

 

「……チッ」

 

 

調査と殺害。

どちらを優先すべきかは、一夏はよくわかっていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「最奥部に到達…警備システムも沈黙させましたわ!」

 

 

一方その頃、Bブロックの制圧に当たっていたセシリアは、最奥部の巨大なモニタールームで良い汗かいたとばかりに誇らしげに胸を張る。

 

 

「凄い…アレだけの数を物ともせずに…」

 

 

近くには感心した様子の風子がおり、彼女達の近くにはスケルトンの残骸が転がっていた。

 

 

「あら、スチルも凄まじかったですわよ。

あの一刀にて万物を斬る剣技。舞台もかくやな大立ち回り。

日本には相手の首をもいで投げたという女武将がいたらしいですが、それに勝る“侍”振りでしたわ」

 

「それは褒め過ぎでありますよ……。

ティアのあの優美な二刀流は、私の窮地を救ってくれたじゃないですか。

……正直、情けないです。年長として、引っ張っていくべきなのに…この体たらく等…」

 

「別に恥じる必要はありませんわよ。

私のB(ブルー)ティアーズ・D-Nx(ディーネクスト)は、私専用に、私が使うことだけを考えて作られたもの。

スチルの打鉄は学園の教材用のものを、実戦用に突貫改修したもの。

この雲泥の差がある機体で、置いていかれる事なく任務を遂行出来ているのは、貴女の実力が高い事実に他なりませんわ」

 

「……ありがとうこざいます。 そう言ってもらえるのなら、嬉しいであります。

それにしても、こんなものが開発されていたとは」

 

 

風子は手の中のレギオトリガーを食い入る様に見つめる。

 

 

「携行可能の簡易IS。

男でも纏える性別を選ばない仕様。

ISに劣りこそすれ、既存の兵器を超えた性能。

…………悔しいですが、流石と言う他ありませんわ」

 

「これが亡国機業(ファントムタスク)……。

世界の裏で暗躍する闇の組織…」

 

「今までは襲撃を撃退する形でしか関わりませんでしたが……こうやって攻め込んで見ると、見えなかった(ブラック)が見えてきますわね」

 

 

己に課せられた任務は終わり。

 

周囲に敵や防衛システムは無く。

 

なのでセシリアと風子の2人は指揮官である楯無をコア・ネットワーク通信で呼び出ししながら長々と雑談に興じる。

 

 

『こちらレイディ。 スチル、ティア、要件はなにかしら?』

 

 

それにしてもこの基地内、電波が通じにくいにも程がある。

 

そう2人が思い始めてきた頃、ようやく電波が繋がった。

 

 

「こちらスチル。 Bブロックの制圧とデータ収集完了しました」

 

『了解。 ルート情報を送るので、それに従ってスチルは私と合流。

ティアはAブロックに向かったレイヴンの援護に向かってちょうだい』

 

「了解……いえ、少しお待ちになってくださいまし」

 

 

通話を切ろうとした時、セシリアから制止の言葉が入る。

 

セシリアが見つめる方向に風子も注意を向ければ、打鉄のハイパーセンサーはISコアの反応を映した。

そのシグナルは味方である黒い鳥(ダークレイヴン)のでも霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)のでもない。

 

 

「……敵機と思われるISの反応を確認」

 

『了解。脱出と存命を第一に行動せよ。オーバー』

 

 

通信は終わり、2人は反応の方をジッと見つめる。

 

プシュっと気圧差によって空気が入り込む音と同時にドアが開き、1人の女がヒールを鳴らして2人の前に立つ。

 

 

「よお、初めましてだな」

 

「貴女は確か…」

 

 

その女の顔に、セシリアは心当たりがあった。

 

文化祭襲撃事件の夜。

病室のベッドの上で、一夏から見せられたあの映像。

その中で、蜘蛛のIS『アラクネ』を動かしていた、一夏に隻腕にされたあの女――――

 

 

亡国機業(ファントムタスク)の……オータム!」

 

 

「ヒヒヒ…なんだよ。 私を知ってんのかよセシリア・オルコット…。

いや…知っててもおかしくねぇよな。あのクソ野郎の肉便器なんだからよォ…」

 

 

そこに立っていたのは黒のフォーマルスーツ、手袋、ハイヒールに身を包んだオータムであった。

下品な物言いと共に()()()組んで、クククと嗤う。

 

 

「一夏さんと私は親友で、そんな爛れた仲では…!?

……左手が、左腕がある? 一夏さんが吹き飛ばした筈なのに!」

 

 

あまりの無礼な発言にセシリアは顔を歪めて、そしてオータムの腕に気づいて驚愕の色に染める。

 

そう、文化祭の時、一夏がISの銃を使って潰した左腕が存在しているのだ。

セシリアが知る限り、千切れてから1ヶ月ちょっとしか経っていないこの短期間で、あそこまで精密に動く義手を取り付けるなどありえない事だった。

 

その事実にセシリアが驚くと、オータムはその口角を邪悪に上げる。

 

 

「これが私の新しい左腕だ。 どうだ、結構イカしてんだろ」

 

「……ええ、本当に技術だけは認めざるを得ません……わねェ!」

 

 

VOLCARISER(ヴォルカライザー)!】

 

 

拳銃の早撃ち。正しくそのスタイルで銃を召喚して狙い撃つ。

 

無人機に男性操縦者、代表候補生として学んだ『あり得ない事』はこの半年で容赦無く崩された彼女は、『あり得ない事』に驚きはしても『そういうものか』と受け止めるぐらいには出来上がっていた。

 

だからこそ、こうやって不意打ちの光弾を見舞わんと放つ。

 

 

(さて…どうでる…?)

 

 

とはいえ、それはオータムが防ぐ事前提で放っている。

 

ISで防ぐのならどう防ぐのかを見て。

 

生身で避けるのならそのまま追撃を。

 

当たって死ぬなら、まぁそれで良し。

 

 

「ふん…」

 

 

そんな思考で注意深く様子を見守れば、オータムは左腕の義手を突き出し――――

 

 

「ハァッ!」

 

 

その掌から光弾を放ち、セシリアのそれを誘爆させた。

 

 

「……どこの宇宙海賊ですのよ。貴女は…」

 

義手(コイツ)はレギオルーパーと同じ技術が使われててな。疑似コアが搭載されている。

プラズマ砲とガトリングを内蔵してあるし、なんならこれ自体をミサイルとして飛ばす事も出来る代物だ」

 

 

タラリと冷や汗を流すセシリアと風子を満足そうに見つめて、オータムは更にポケットから黒のレッグバンドを取り出す。

 

 

「オイオイ、こんな程度でビビってちゃ困るぜ!

コイツが何かわかるか! わかるよなぁ!」

 

「それは…ドイツの…!?」

 

 

オータムが掲げるそれは、セシリアにとってオータムの顔と同じく見覚えのあるものであり、時期としてはオータムよりずっと前に知ったものだった。

 

 

 

「起動しろ……黒い雨(シュヴァルツェア・レーゲン)!!」

 

 

 

現れたのは漆黒。

 

左肩に装備された大型実弾砲に、両腕の甲から伸びるプラズマ手刀。

 

 

その名はシュヴァルツェア・レーゲン。

 

 

全ての記録から抹消された少女――――ラウラ・ボーデヴィッヒの愛機であった。

 

 

「スチル。私が前衛を努めます、貴女はやれると思ったらやってください!」

 

「了解! スチル、これより交戦を開始します!」

 

「無駄話は済んだかぁ? おら…とっととこいよぉ!」

 

 

オータムが叫び、ゴーレムが3体召喚され、セシリアと風子は武器を構える。

 

 

「さぁ……ダンスタイムと行きましょう!」




レーゲンさん。まさかの50話以上越えての再登場。
そしてまたもやオリ設定、公式のそれとは全く違うものという事は悪しからず。

次回『黒金の刃』は6月23日です。

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