ISVD〜Infinite Stratos Verdict Day〜 作:高二病真っ盛り
村橋が残した情報を元に、
施設に向かって車で移動中の彼らに、
一夏は自分を残して先に向かわせ、一人スプリングと対峙するのであった。
「あの…本当にレイヴンを置いて来てよかったのでしょうか?」
一夏とスプリングの開戦のゴングが鳴っているだろう頃、
「……あら、スチルさん。
そんなに私の親友の実力が信用できないと?」
「い、いえ、そんな事は露程も……。
ただ、4人で袋叩きにして先に進むという選択肢もあったと思っただけでして」
「袋叩きで消耗する時間で、肝心要の地下基地から逃がしてしまっては元も子もない。
……レイヴンはそう判断して、指揮官の私は非と言わなかった。それだけよ」
「ですが、先ほどの襲撃は…」
「わかってるわ。
全員一気に仕留められれば御の字。そうじゃなくても、最低1人の足は止める。
そういう魂胆だって言いたいのでしょう?」
「はい」
「……わかっていても、今は一刻も早く進むしかありませんわ。
ISを回して来るということは、そこにあるのは
「わかりました。……! 前方に敵影多数確認!」
「アレは…スケルトン!」
隊形を組んで飛行する3人の前に大量のスケルトンが立ちはだかる。
親機となるゴーレムの姿が見えない所から、地下基地そのものが擬似コアの役割を果たしていると推測でき、それは目的地付近ということを示していた。
「ティア!」
【
楯無の声にヴォルカライザーを
セシリアがこのスケルトン達の目を引きつけ、その隙に内部工作の為に楯無と風子は侵入。
ある程度片付けたら、セシリアも基地に入り当初の役割通り暴れる。
そんな意図が伝わったと判断した楯無は、セシリアを囮に風子と共に地下基地へと侵入する。
【
そんな2人を追いかけようとしたスケルトンから、セシリアの光弾に撃ち抜かれる。
数多のカメラアイがターゲットをセシリアに絞り、無機質な殺意を向ける。
正しく一対多の、先程までやるかどうかと言われた袋叩きそのもの。
特撮好きの簪曰く。
グルゼオンやスコールは幹部怪人で。
ゴーレムは一般怪人で。
そしてスケルトンは雑魚の戦闘員だ。
それが指す意味などただ一つ。
十で来ようと。百で来ようと。
一騎当千には敵わないという事実のみ。
「さぁ、ダンスタイムと行きましょう」
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「そぉうれ!」
スプリングが槍を突き出せば、その穂先から一筋の光が伸びる。
それを一夏は掠るギリギリで躱して、右手の
『スキャン結果解析終了。
あの取り付けられたレーザーライフル、リチャージまで長いから一度避ければ暫く心配はないよ』
「オーケイ!」
相も変わらず優秀有能で、なおかつ喧しいコア人格から受けた情報を元に立ち回りの方向を固める。
一夏もスプリングも長々と戦っていられる訳ではない。
突入したメンバーを助ける為に、追う為に、お互いに早々に決着をつけて地下基地へと向かわなくてはならないのだ。
「それが
一致するのは機体の配色だけ。展開する度に武装と形状を変える
これでも、スプリングちゃんは技術部側のヒューマンでね。君の機体には興味津々なのだー!」
もっとも、スプリングにそんな気はまるで見られないが。
そんな奇行を繰り返す彼女は、ヒートマシンガンを盾で防いで刺突を繰り出してゆく。
(グルゼオン程速くて重い訳でもなく、ゴールデン・ドーン程特殊な性能を持っている訳でもない)
(『ビーム砲にランスによる刺突。そして片手に備えた盾。
言動こそエキセントリックだけど、結構、スタンダードに強いタイプだよ彼女』)
(ちぐはぐなこった。どうせなら、機体名通りに風車を狙っとけってんだ)
心中にて愚痴りつつ、己の首に向かうランスを右に左に、時には
思えばこの半年で近接武器への対処が随分と上手くなったな。一夏はふとそう思った。
苦手としていたのではないが、戦いというのは基本的には“距離”だ。
拳よりも刀の方が強いように。
刀よりも槍の方が強いように。
槍よりも銃の方が強いように。
遠い場所から攻撃できる方が優位なのは当然で、そんな利点を捨ててまで近接に拘る変態は一夏の知るAC乗りの中では数える程しかいなかった。
いや、もちろん数え切れないほど近接武器の使用者はいたのだろう。
ただ、変態の領域に至る前に死んでいっただけで。
一夏自身も近接武器の覚えはあるが、メインに据えようとは思えない。
それほどまでに距離というのは重要なのだ。
しかしIS世界では少し事情が異なる。
基本的にISの戦場とは“試合”だ。
一対一のタイマンで、決められたフィールド内での勝負。
故に、近接武装の選択も視野に入るのだ。
特に一夏は、この世界最強の近接武器の使い手である千冬に勝つ為に特訓を積んだ。
大部分は対千冬専用のものだったが、そこで身についたものは、今でなお息づいている。
(まぁ最近は亡国の奴らとしか戦ってない気がするん……だがなぁ!)
振り回されるスプリングの得物にクロスカウンターの形でブーストチャージを仕掛ける。
「イテーイ! こいつは痛いね。凄く痛い。
機体の変遷に合わせて変わる君の戦い方は、事前に予想を立てておくのは不可能だってよぉ〜くわかるのだわ!」
「ピーチクパーチクうるせぇな……!」
それを左のラウンドシールドで上手く受けたスプリングは、窮地を動力源に口を動かす速度を上げる。
「悪いね☆ でもそうやってやる気を出してくれるなら丁度いい。
シャルウィーダンス。君の本気を見せてみろ!」
「上等だ!」
一夏はスプリング目掛けて、ハイブーストで突撃する。
「シャァオッ!!」
無論格好の的だとばかりに、スプリングのランスからビームが放たれる。
「見せてやるよ、特訓の成果を!」
それに対してシールドを持った左手を振りかぶり――――一瞬で
大容量
デュノア社社長 シャルロット・デュノア。
彼女らが使うこの習得難度の高いテクニックを正式な意味では一夏は会得していないが、使うことは出来る。
それは、
この機体が戦闘で使用できる武装は大きく分けて5種類。
右腕武装、左腕武装、肩部武装、そして左右それぞれのハンガーに積まれた武装。
オーバードウェポンやブーストチャージ時の膝部盾もあるが、基本はこの5種類である。
そう、つまり一夏が
最適化するプログラミングをしてやれば、消費エネルギーこそ多くなるが一瞬で
「うっそぉ!?」
驚愕の色に染まるスプリングの顔に、今度こそブーストチャージをめり込ませる。
ガイィン!
「ぶべらっ!」
一夏の猛攻は終わらない。
ヒートマシンガンの銃身で、スプリングの胴体をカチ上げてそのまま連射。
「ぐえー!」
呻き声すら戯けたものなスプリング。
「……おらよ!」
道化のように愉快な訳でもなく、どこまでも不快にふざける彼女に、一夏はその怒りを乗せてレーザーブレードを上段から振り下ろした。
スドォン!
轟音を立てて、スプリングは地面に叩きつけられる。
一夏は銃口を向けて、注意深くその様子を見る。
「フ、フフフ……ククク…へへへ」
もうもうと舞う砂煙の中から響く笑い声。
突風で晴れた地上に座り込むスプリングは、先程までの頭のおかしな雰囲気が消えていた。
仮初の狂気の代わりに纏うは、正気を蝕む真の邪気。思わず鳥肌を立てた一夏は、そのえも知れぬ様子に問いかける。
「…なにがおかしいってんだ。テメェ」
「おかしい? ああ、そう捉えてしまったのなら悪いな。謝ろう。
……なぁに、あのお方の慧眼に恐れ入ったと同時にもったいない事をしてるなと思ったまでさ。
資料映像で判断するのはいいが、やっぱりこういうのは自分の目と耳で見るに限る。『百聞は一見にしかず』と昔の人はよく言ったものだ」
支離滅裂に移り変わる口調が統一されて、至極飄々真面目な様子を漂わせるスプリングはなにやらウンウンと頷く。
「あのお方? 誰だそれは?」
「あのお方については、今はまだお前が知る必要はない。
だが…お前がオレに勝ったのは事実だ。なにか景品をくれてやらないとな。
……えーと、そうだ。先ずは一つ、引き止めも妨害もしないから、地下基地には好きに行けばいい」
「……」
ジャコッ
「オイオイ。白旗揚げた相手に銃を向けるなよ。別にさっきまでみたいに戯けてるという訳じゃないんだぞ。
オレが開発者とはもう言ったか? そういう奴らは全員自分の作品を見せびらかしたくてしょうがないんだ。
あの篠ノ之束も、
「……だからなんだ。
確かにAEOSも
「そうだろうそうだろう。
是非ともお前さんには、地下基地にあるオレの作品を味わってほしい。
それだけの話だ」
「作品、ね。 いいぜ、存分に拝見してやるよ」
そう言って地下基地に向かおうとする一夏を、スプリングは慌てて引き止める。
「オイオイせっかちだな。 なに、あのお方については話さないが、それ以外でのちょっとしたヒントならあげようと言ってるんだ」
引き止められた一夏は、バイザーの中でため息して、スプリングの言葉に耳を貸す。
「……ISが元々宇宙開発の為に創り出されたというのは知っているな?」
「…ああ。 制作者である束さんの意図とは別に宇宙進出は一向に進まず、「兵器」へと転用されたがな」
「『白騎士事件』なんて起きればそれは当然だろうけどな。
各国も、そして
だが、
スプリングは右手のランスを天に向かって思い切り突き上げる。
「空…
その高さに至ることが出来れば、お前達が亡国を打ち倒す可能性はグッと上がる」
「それは一体、どういうことだ」
「ここから先はネタバレだ。 これから起きる事と、お前の中の考えを照らし合わせて答えを出せばいい。
……楽しい宴をありがとう。チャオ!」
イタリア語で「こんにちは」「さようなら」を意味する挨拶と共に、スプリングは何処かへと飛び去っていった。
「……」
『気になって上を見るのもいいけど、ここは地下基地に急ぐべきじゃないかい?』
「ああ…」
【システム スキャンモード】
財団の言葉を受けて、一夏はブーストをかけて地下基地へと向かった。
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「あ痛ててて…最近運動不足だったか…?」
変身を解いたスプリングはお腹をさすりながら満足げに歩く。
ポケットから取り出したパッドは、地下基地内部の様子を映していた。
「レギオルーパーは半分程やられたか…。やっぱり次世代機はなかなかイケるな…」
次作の発明品がセシリア達にやられていることに驚きもせず、むしろ良いデータが取れたとばかりに喜ぶスプリング。
「さて……一夏はどこまで行くかな…?
レギオルーパーは驚きはしても倒すだろうが…調整中とはいえ“ゴリアテ”は手強いぞ〜♪」
まるで素敵なショーを待ち望んでいるように、スキップしながら彼女は荒野を駆けた。
「しかし、マドカには悪い事をしたなぁ……」
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『目的地付近です。お疲れ様でした』
「なにカーナビの真似してんだ」
地下基地上部に到着した一夏は、ふざける財団をたしなめて、地面に降り立つ。
「……どこが入り口なのかは一目瞭然だな」
一夏の目線の先には、瓦礫と化したスケルトンと、地面に空いた大穴があった。
『ブルー・ティアーズも派手に乗り込むものだね』
「財団、会ちょ……レイディ達と連絡取れる?」
『ふむ……今は無理だね。電波が届く場所まで行かないと通じない』
財団が注意を促すが早いか、穴の中からぞろぞろとスケルトンが湧き出る。
『……しかし、ここまでの動きを実現させるなんてね。搭載した脳がよほどいいと見える。
さて、準備はいいかい? ここから先は連戦だよ』
ここで立ち止まるわけにはいかない。
そう決意を固めて銃を向ける。
「ああ、行くぜ!」
【システム 戦闘モード】
[地下基地を制圧せよ]
時系列整理
文化祭
↓2週間
キャノンボール
↓1日
無人機テロ
↓2週間と数日
品川編
↓2日
亡国地下基地(イマココ)
誤字脱字わからないところは遠慮なくどうぞ。
次回『レギオルーパー』は6月9日です。