ISVD〜Infinite Stratos Verdict Day〜 作:高二病真っ盛り
セシリアと共に落ち込む鈴の対処に頭を悩ませる一夏。
箒はそんな一夏に「しっかり話し合え」とアドバイスする。
同時刻、鈴もまた機体開発に精を出す簪から「思いをぶつけろ」とアドバイスをされるのであった。
『またね、ーー。今度は研究員の人に迷惑かけちゃダメよ』
――――行かないでくれ。
『逃げて…ーー。私、もうダメみたいだから…』
――――死なないでくれ。
『緊急ニュースです! 現在日本に向かって各国からミサイルが……』
『ですから、この補償金と引き換えに白騎士事件の顛末を口外しないと……』
――――どうして、君がそんな目に合わなければならないんだ。
――――どうして、君の死を悼むことすら許されないんだ。
――――これが、あり得てはいけない筈の二度目の生の代償というのか。
――――嗚呼。
――――――――――――――篠ノ之束が、憎い。
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バラララララ……
「……世界が変わっても、飛行機って乗り心地はそんなに違いは無いんだな」
『まぁある程度の進歩を遂げたら、後は戦闘機能にリソース振るよね』
品川のミッションから2日後。
一夏は更識家の飛行機にセシリア、楯無と共に乗り込んでいた。
現在楯無はパイロットと話すために操縦室に行っており、一夏とセシリアは窓から風景を眺めることぐらいしかやることがなかった。
そもそもこうやっている理由は、その品川のミッションで村橋から得られた『ポイント“0-98-369-52”』の情報である。
それは、〇〇国のとある座標を示しており、簡易調査にて本来ない筈の建造物があることが確認された。
IS学園は
そこで召集されたのが一度
……と、言うわけではなくIS学園として向かうのは一夏と楯無だけの所に、このブリティッシュお嬢様が無理矢理ねじ込んできたのだ。
イギリス政府も半ば投げやりに了承しており、セシリアは命令には忠実なのに厄介事は持ってくるめんどくさい次期代表となっていた。
「……財団さん」
そんなセシリアはポッキーを齧りながら、ふと何かを思い出したように語りかける。
『珍しいね、ブルー・ティアーズ。
君が僕に話しかけるなんて』
「ええ、まぁ。こうやって纏まった時間を取れることもそうありませんでしたし。
ですので、今ちょっと聞いておきたい事がありますの」
『なんだい?』
「異なる世界同士での渡り歩きとか、別世界の自分が居るのかとか、そう言った具体的なところをばと。
ほら、別世界と言う割には基本的な物理法則は同じみたいですし」
セシリアが問うたのは、『異世界について』
かつての説明で一夏がIS世界とAC世界を行き来した事は知っているが、その具体的な原理や理論の方を知りたいと言っているのだ。
別に自分を強くするためなどに聞いた訳ではなく、純然たる好奇心である。
死地に飛び込むことに迷いが無かったりするが、これでも彼女は16歳の高校一年生。
この頃流行りの女の子としては、未知の要素に対してワクワクしてしまうのである。
『じゃあ、先ずは並行世界や異世界について説明するよ』
そう言って、財団はモンキーポッドのホログラムを投影する。
日立の樹や「この木なんの木」と言えばわかりやすいだろうか。
『この木において幹や枝にあたるもの一つ一つが「世界」だと思って欲しい』
「この木そのものではなく?」
『そう。そしてこの一つの枝から見て、同じ幹から出た枝や幹そのものを指して“並行世界”と呼ぶのさ。
異世界とは違って、“イフ”の形を映し出す…同じ木から生えても、枝の形は異なるようにね』
「んじゃ、異世界ってのは他の木って事か?」
『察しがいいね。傭兵』
一夏の相槌を受けて、財団は更にもう一本投影すると、二本をそれぞれ赤と青に染めた。
『赤の木の幹や枝から見て、青の木が“異世界”というわけさ。
……で、世界間移動についてなんだけど。世界を木に例えたのはこれを説明するためさ』
矢印のカーソルが表示されて、赤い木の枝も枝な末端の場所を指差す。
『世界間移動が可能かどうかは幹寄りの太い世界か、枝よりの細い世界かで分かれる。
枝が風に吹かれて揺れても幹は揺れないように、外部からの影響を受けやすいかどうかになるのさ。
僕達が今生きている世界は枝も枝な世界。風が吹けば大きく揺れるからここまで容易く移動できるんだよ。
ちなみに近い場所で育つ木が同じ土壌で育つように、影響を与え合えるほどの近さを持つIS世界とAC世界は同じ物理法則を持つのさ』
影響の受けやすいあまり分岐しない細い世界ほど、他所からの人や物が流れ着きやすく。
源流となる分岐が多い太い世界ほど、影響は受けづらく、流れ着きにくい。
一夏達が知る由も無いメタ的な言い方をしてしまえば、幹となる所謂『原作』には当然転生者や世界移動者等は存在せず。
こういった二次創作といった枝葉にはそれが溢れているというわけだ。
「……つー事はアレか。俺が過ごしたAC世界も、枝中の枝な世界だったってことか」
「別の枝の世界の私は、どんな風になっているのでしょうね。
……もしかしたら、お母様やお父様と過ごしているのかもしれませんわね」
「別に世界はISとACのそれだけって訳でもないだろうしな。
それらが一切ない世界だってあるだろうし、そこからの迷い人だってきっといるだろ」
『……そうだね。
というか君以外にも1人、この世界に異世界からの来訪者がいるんだけども』
「え?」
「え?」
「織斑くん。オルコットさん。そろそろ到着よ、準備して」
「あっ、はーい」
財団の突然のカミングアウトに固まった2人は、その詳細を聞く時間もなく着陸態勢に入った。
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一方その頃、IS学園。
「眩しい風のなかで〜♪描くよ君の笑顔〜♪」
「如月、なんだその歌。聞いた事ないぞ」
「さぁ? 私もどこで知ったか覚えてないわよ。
そういえば、織斑くん今日は休みなのかしら」
「叔父は今日、生徒会の仕事で公欠だぞ。
……何故かセシリアもそうだが」
「ラウラさんも巻き込まれたアレから2日だというのに、忙しいわね。
……んんっ、ふわぁ…」
「……眠そうだな」
「ええ、夢見が悪くてね」
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「IS学園生徒会長兼ロシア代表、更識楯無。以下2名ただいま到着」
「ご苦労さまであります。更識ロシア代表」
飛行機から降りた3人を出迎えたのは1人の日本人であった。
歳は一夏達より年上の28歳程で、黒い髪をゴムで束ねた筋肉質な長身美人だ。
「自衛隊一等空士兼日本代表候補、
これより、更識ロシア代表の指揮下に入ります」
「黒金?」
「はい。黒い黄金と書いて黒金です。…なにか変でしょうか?」
「あ、いえ、どこかで聞いたと思っただけです。
無所属、織斑一夏です。よろしくお願いします」
「イギリス次期代表、セシリア・オルコットです。英国の恥にならぬ活躍をさせてもらいますわ」
「よろしくお願いします。織斑無所属、オルコットイギリス次期代表。
一回り以上歳は離れていますが、風子と呼び捨てにしてください。
世界唯一の男性操縦者と前人未到の次世代機保有者に比べれば、一介の代表候補の私は格下ですので」
そう言ってポリポリと頰を掻く彼女が呼ばれた理由は、一夏達の所属にある。
一夏はどこの国にも所属しておらず、セシリアと楯無はそれぞれイギリスとロシアの代表。
レゾナンスや品川といった日本の内部で
……憲法9条とか大丈夫なのか?と思った賢明な読者諸君は安心して欲しい。
ここにいる誰もがそう思っているし、絶対めんどくさい事なのでツッコもうとしないだけだ。
「風子一等空士、これが今回貴女の機体となる打鉄よ。
武器は近接ブレードにライフル、ミサイル…細かい仕様は移動中に確認してちょうだい」
「はっ」
同じ日本の代表候補ならば簪がいるが、彼女は専用機持ちでその機体は再開発中と来た。
繰り返し述べるが、品川の、あの雀荘とビル屋上での戦いからたったの2日後なのだ。
とんでもないほど突貫の電撃作戦なので、直ぐさま動ける人材を回されたという訳だ。
その急ごしらえ振りは風子の機体が、IS学園の打鉄を超ピッチで実戦用に仕立てたものというところから察して欲しい。
IS送り込めばどうにかなると思っているのだろうか。一夏は訝しんだ。
ぶっちゃけ風子は『日本政府も
そりゃあ、悲観的にもなるというものである。
ちなみに、本来ならば今日は久しぶりの休みだったらしい。
彼氏とのデートが跡形もなく吹き飛んだようだ……南無。
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「さて、それじゃあミッションの最終確認をするわよ」
風子が操るジープに乗って荒野を走りながら、最後のブリーフィングが始まる。
「私達のミッションはここから南西に行ったところにある
このポイントが
「表立って正面から襲いかかって暴れるのは俺とセシリア……あーいやコードネームだったな。俺と、
その隙に入り込んで内部から工作を行うのが
「付け加えますと、既に侵入して情報を集めているこちら側の工作員の救助も行う必要があります。
そこは、戦闘をティアと
今回のミッションでは互いにコードネームで呼び合うのだが、そんな経験のない一夏は少し戸惑ってしまう。
ちなみにコードネームは一夏が『レイヴン』、セシリアが『ティア』、楯無が『レイディ』、風子が『スチル』とそれぞれの機体名から取られたものになっている。
「IS4機を投入するなんとも贅沢な作戦……ここでの勝敗が、今後の対亡国へのモチベーションに繋がるのは間違いありませんわね」
「本来は3機なのだけどね」
「本来は3機だったんだがな」
「本来は3機と聞いていたのですが…」
「戦いは数ですわ、皆さま」
そんな調子で移動しながら必要事項のチェックをしていく中……
「……! 来る!」
誰かが叫んで、4人一斉にジープから飛び降りて、一拍遅れて飛来するビームでジープが爆発する。
走行中の車から生身で降りれば大怪我は必至――――故に全員、超常の力を持つ鋼の鎧を一瞬で纏う。
「変身!」
【メインシステム 戦闘モードを起動します】
HEAD:H12 Swallowtail
CORE:C03 Malicious
ARMS:Ar-M-E28
LEGS:L03 FreQuency
R ARM UNIT:AU25 Kalong
L ARM UNIT:AM/SHA-109
SHOULDER UNIT:MURATORI mdl.2
R HUNGER UNIT:AM/RFA-130
L HUNGER UNIT:KAGIROI mdl.1
一夏の専用機体、
セシリアの専用機体、
楯無の専用機体、
風子の借用機体、
それぞれのISを起動した4人は上空に佇む下手人を見据える。
「ありゃりゃりゃ〜失敗だねこれは」
クルクルと槍回しを行いながら、奇襲の失敗を残念がる桜色の髪の少女。
その身を包む機体は白を基調に赤のラインが入った一見すると騎士のようなISだった。
機体の外見こそ西洋ファンタジーのナイトを彷彿とさせるが、その右手の大型ランスの穂先についたレーザーライフルがいやでも近代兵器だと思い知らせる。
【システム スキャンモード】
NAME:Don quijote
KE:1125
CE:810
TE:452
R ARM UNIT:laser rifle(TE)/lance(KE)
L ARM UNIT:shield(KE)
「
「ビィンゴ! 君達が求めてやまない
いやー移動中の所にお見舞いして、天国行きのツアー観光させてあげたかったんだけどなあ」
残念! と身をクネクネくねらせる女の挙動に特に動じることもなく、一夏は他の3人に声をかける。
「コイツは俺に任せて、みんな先へ。
ティア、お前とその機体なら強襲ミッションはこなせるはずだ」
その言葉に3人は返事をする事なく了承して、
「
「おう
「そこはウチに泊れよというところじゃなくなくなくなくなくなくない?」
「いやお前単純にタイプじゃないし」
3人が彼方に消え、一対一となった2人は高度を合わせて向かい合う。
顔を発情期の牝のような赤らめたものにしたかと思えば、途端に平静としたものに変わったりと千変万化な表情に一夏は内心やや困惑する。
「じゃあ自己紹介タイム行こうぜ! 答えは聞いてない!
私はスプリング、この
「……レイヴン、機体は
茶番はここまでだ。行くぜ!」
「いやん♡ 激しい♡ これから私は女騎士のテンプレであるくっ殺になるのだね」
「生憎テメェはタイプじゃねぇんだ、安心して果てろ……脳みそピンク女!」
【システム 戦闘モード】
支離滅裂な言動に苛立ちを隠す事なくトリガーを引き、戦いは始まった。
[敵ISを撃破せよ]
財団が便利キャラ過ぎて多用しちゃうヤバヤバイ。
何気に初の亡国に攻め込む戦い。ゲームだと倒しながらダンジョンを攻略していくあれです。
次回『ドン・キホーテ』は6月2日更新です
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