ISVD〜Infinite Stratos Verdict Day〜   作:高二病真っ盛り

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前回のあらすじ


品川にて村橋を守るために亡国機業(ファントムタスク)と戦ったラウラ。
しかし、狙撃手という予想だにしない手段によって村橋が撃たれてしまう。
そして、事件のあらましを聞いた千冬から「危ない事には突っ込まないでくれ」と泣きつかれてしまう。

村橋の心は救えても、千冬の心を傷つけてしまった彼女はごめんなさいと抱き返すのであった。


08ー14 失恋話は突然に

「こ、ここは…?」

 

俺…『木原巧人』が目覚めるとそこには何もなかった。

見渡す限りの真っ白な空間は奥行きがわからず、足元にはあるはずの己の影がなかった。

 

「――――木原巧人」

 

後ろから、声がかかる。

 

振り向くとそこには白いケープを纏った老人がいた。

 

「あ…」

 

何もわからないのにわかる。

 

格が違う。次元が違う。住んでいる領域が違う。

 

逆らうことは許されない別格の存在だと。

 

「あな…たは…?」

 

「儂は…お前にわかるように言うなら“神”だ」

 

 

目の前の超越者は神と名乗った。

その言葉を一笑に伏す事は、そのオーラとも呼ぶべきものが許さなかった。

 

「儂の手下が…誤ってまだ寿命のあるお前の魂をここに送ってしまってな」

 

「寿命…? あっ!」

 

そうだ。確か俺は、トラックに轢かれそうになった子を庇って――――

 

「…そうだ。だが、お前は本来そこで九死に一生を得る筈だった。

そこをうちの馬鹿どもが、何を勘違いしたかここまで運んできたのだ」

 

「じゃあ…あなたは俺を蘇らせるために…?」

 

「残念だが、それは無理だ」

 

俺の期待を込めた質問に、神は首を横に振る。

理由を聞くと単純で、死者の蘇生は犯せぬ禁忌らしい。

 

頭で理解はできるが、心は納得がいかない。

確かに命を投げ捨てる真似はしたが、ぞんざいに扱われる謂れはないからだ。

 

そんな俺に、神は語りかける。

 

「安心しろ。代わりになるかはわからんが――――お前を新しい命として生まれ直す事はしてやろう」

 

「……え?」

 

こうして木原巧人の第2の、転生者としての人生が始まった――――

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「何読んでるんですの?」

 

「ラノベ。如月さんが貸してくれた」

 

 

品川の戦いの翌日。IS学園図書館。

数多の書物を蔵した静かな部屋で、机に教科書とノートを広げる一夏。

 

しかし教科書にもノートに目線を向けてない一夏に、セシリアは後ろから話しかける。

 

 

「勉強中にサボって読むだなんて、一夏さんは悪い人ですわねぇ」

 

「ははは。自習の休憩中なんだからいいだろ?

それに俺が悪人なんて今更じゃねぇか」

 

「べっつに…読書(それ)が悪いだなんて言ってませんわよぉ。

ただ、定期テストで貴方が泣きを見るだけって言ってるだけですわ」

 

「ご心配どうも、でも大丈夫。これでも予習復習はしっかりやる方でね。

成績上位にはなれないけど、支障がない程度にはやれるんですよ」

 

「あら情けない。心持ちだけでもトップを狙いなさいな」

 

 

向かいに座る如月が「イチャつくのもそこまでにしておきなさい」と言うと、笑っていた2人は「いちゃついてない」と声を揃えて返した。

 

如月はやれやれとリアクションして、自分の勉強に戻る。

完全な余談だが、如月は成績がかなり良かったりする。

具体的に述べるとどの教科でも最低学年5位になるぐらいには。

 

それを明らかになった時にはクラスの誰しもが『えっ、あのパイルアディクションが…?』と思ったものだ。

 

 

「ま、それはそれとして…気づいているのでしょう?」

 

「……鈴の事か」

 

 

如月の茶々を編集点として切り替えたセシリアは一夏の隣に座る。

彼女が一夏に振った話題の内容は『鈴の様子がおかしい事』であった。

 

その訳はわかっている。新しい専用機についてだ。

 

以前財団の口から『鈴には新型機は作れない』と告げられた時から徐々に、そしてわかりづらく彼女の雰囲気は暗いものを纏ったものになっていた。

 

別に財団は鈴の才能が低いと言っている訳ではない。

そもそもAC世界の技術レベルが、このIS世界にとって特殊極まるのだ。

 

 

秩序維持が成り立っているIS世界の科学力は、AC世界のそれに大きく劣る。

 

非道な事を言わせて貰えば、人道や道徳というものは科学の発展の妨げの他ならない。

故に、戦争中に技術は平時の何倍もの早さで向上するのだ。

人を殺し、人を生かし、極限状態から生き延びる為に。

 

それは、異世界同士であるAC世界とIS世界でも変わりはない。

 

昔話を超え、神話と化した時代に起こった、選ばれた人間による超兵器同士による戦争。

そして巻き起こった汚染。

 

その汚染の中で生き残った人々……代表、レジスタンス、ミグラント、企業による最初の黒い鳥が生まれた昔話の中の争い。

 

そこから出来上がったヴェニデ、シリウス、EGFによる三大勢力。

そして財団が揺り起した未確認兵器による一夏が黒い鳥として名を馳せた最期を決める、評決の日(ヴァーディクト・デイ)

 

この血を血で洗う戦争の中で、AC世界の技術レベルは飛躍的に進歩してきた。

その代表例と言えるのが技術レベルとして本来ならば存在しない筈の、“全てを焼き尽くす暴力”『規格外兵装(オーバードウェポン)』である。

 

 

故に、ISでAC世界の技術を用いるには操縦者に条件や素質を求めるのだ。

 

そのハードルを持ち前のBT適正を増強して跳び越えたのがセシリアで。

発想と工夫で超えるハードルの高さを技術的に下ろしたのが簪だ。

 

満遍なくステータスが高い鈴にハードルを越える一点特化の素養は無く。

ありあまる才能で代表候補生に上り詰めた鈴にハードルを下げる業は無い。

 

 

「……こんな事なら、もうちょっと人間関係に器用に生きておくべきだったな」

 

 

それがわかっているから、一夏とセシリアは手を出せない。

 

 

「ええ、そうですわね。

……いくら鈴さんの助けになりたくても――――悩みの種たる私達が行けば逆効果ですもの」

 

 

ラウラに頼んで様子を伺っているが、具体的な方法が思いつかない。

 

 

「次期英国代表も、男性操縦者も、力では解決出来ないことには弱いわね」

 

 

如月の一言が、正しく2人の現状だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「世界の違い、かぁ…」

 

 

勉強を適当なところで切り上げた一夏は、廊下を歩きながらふと思う。

 

己があのモンド・グロッソでAC世界に行くことなく、この世界でずっと過ごしていたらどうなっていたか。

 

おそらくは忙しい千冬に変わって家をやりくりして。

鈴や弾と共に中学校に通い、転校する鈴を見送って。

家を支えるために藍越学園辺りにでも行っていたのかもしれない。

 

 

(『どうしてかは知らないけど、僕はその未来でもIS学園に通ってたと思うよ』)

 

(奇遇だな財団。俺もだ)

 

 

まぁIS学園に通っていたにせよ、今までの様なことにはなってないだろう。

 

無銘(ノーネーム)は無いだろうから専用機はおそらく白式。

セシリアにラウラに楯無に簪…そしてシャルロットとの関係も大きく変わったものだろう。

箒と鈴の好意は……多分きっと気づくだろう…気づいて欲しい……。

 

 

「……なぁ。どう思う箒?」

 

「なんだ藪から棒に」

 

「もしAC世界に行かずにこの学園に来てたら、俺はお前の好意に気づいてたかな?」

 

 

丁度通りがかった箒を呼び止める。

ふむ、と一拍おいて箒は口を開く。

 

 

「どうだろうな。まぁ気づかないんじゃないか?」

 

「あぁうん、そう……」

 

「……そもそも一夏。お前はどこで私の好意に気づいたんだ?」

 

 

ふむ、と今度は一夏が腕を組んで考え込む。

考えて考えて……気恥ずかしそうに頰を掻いた。

 

 

「マギーに惚れてさ、俺は…まぁ好かれようと思ったんだよ。

んでその方法を考えて、アピールをどうしようかと思っていたらさ……

………『ああ、あれは箒の、鈴の、俺へのアピールだったんだな』って」

 

「大層な皮肉だな。世界を越えて恋を知ればお前は私の想いに気づく。

だけども、越えないお前は気づくかはわからない」

 

「……言い訳じみてるのはわかって言うけどさ。

正直キチンと告白しない方も悪いんじゃねぇかな……」

 

「そうだな、ある種の運命だったんだろうよ。

……ISが開発されなければ、もっと違ったのかも知れないがな」

 

「IS、ね。なぁ箒、もう一つ質問するぜ。

――――ISの普及への異様さ、どう思う?」

 

 

一夏が問うたのは先日の一件でラウラから聞いた村橋の件。

ISが世界に馴染む速度が異常なまでに早いという指摘。

それに対して違和感や危機感を抱く者の少なさ。

 

 

「そうだな。確かに異様だが……()()()()()()()()()()()()()

 

 

一夏はラウラと同じく引っかかるものを覚えたようだが、箒はその意見にやや猜疑的であった。

 

 

「確かにISが世に定着するまでの速度は異質他ならないだろう。

だが、それは前例が無かっただけではないのか?」

 

 

そうだ。

そも人類史においてISというものは存在すらしていなかったのだ。

 

人は歴史を繰り返すと言うが、新たなロジックを刻む事だってあるのだ。

ISが世界にあっという間に浸透するのが当然だとしても、何もおかしくは無いのである。

 

 

「昔と比べたら圧倒的に早いかもしれない。

だけども、地球の裏側にいる人とも一瞬で通信できる時代で、最新鋭の兵器を凌駕せしめてみたのがISなんだ。

急速に広まり定着する事になんの矛盾がある」

 

 

ショルダーフォンが携帯となり、携帯がスマホとなり、今や二十代から三十代の殆どが持つのと同じで、文明は発達して広がるものだ。

 

人類が未だ踏み込めずにいる未知なる『新天地(うちゅう)』に乗り込むサンタマリア号としてのISは、いずれ人類になくてはならないものになるだろう。

…………兵器利用しかされない現状については、あえて2人はノーコメントだが。

 

 

「それより一夏。貴様には世界のことよりも憂うべきものがあると思うが?」

 

「……なんだよ」

 

「鈴の事だ」

 

 

切り出した会話に切り返された本日2度目の「鈴が落ち込んでいたぞ」という切れ味鋭い言刃(ことば)

 

会話の様子にこうも切る切らないという表現があるとまるで会話が斬り合いのようだ。

 

セシリアのそれが光のように実体なく己を照らし裂いているのなら、箒のそれは職人の髄を凝らした一刀のように一夏の心に突き刺さる。

 

 

「人付き合いに疎い私とてわかるんだ、一夏なら尚更のこと知っているだろう」

 

「原因は俺だ。……どうしろってんだ」

 

 

己の無力さに悔やむような、投げやりのような、それを隠すことなくぶっきらぼうな態度をとる。

そんな調子の一夏に箒は大きく溜息を吐く。

 

 

「女心がわかるぐらいには賢くなった癖に…いや、賢くなったからか。

昔のお前はこっちの気も知らずに優しい言葉や態度を発していた。

その度に私の胸は高鳴ったよ。……きっとそれは、鈴もそうだ」

 

 

バカは無敵とどこかで言われたが、ならば賢者は弱点だらけなのだろうか。

実際そうなのだろう。会話と斬り合いとするなら、バカは間合いも読み合いもなく突っ込んでくるし、賢者はじっくりと測るのだから。

 

しかし本物の斬り合いのように言葉で斬り合って死ぬ事はない。

つまり損得勘定抜きにした感情のバトルにおいてはバカは無敵も同然なのだ。

 

この場合のバカ(最強)とはAC世界に行かずに済んだ一夏を指しており、彼は正しく無敵であった。

 

 

「……」

 

 

そして、賢者(弱虫)とは今こうやって黙りこくっている、AC世界で名を馳せた一夏だ。

黒い鳥に弱点があるとすれば『ACに乗れば最強というだけ』と言ったところだ。

交渉、設備に開発、勉強……そして恋愛においては彼は最強や無敵という訳にはいかないのだ。

 

むしろそこまで最強だったらマギーに告白して、玉砕してるだろう。

彼が知る由も無いが、結ばれるルートは無いということを余談として断言する。

 

 

「一夏、少しバカになれ。

鈴を助けたいなら、お前が選ぶべきは直接的干渉の排除と裏から手を回して賢く立ち回ることじゃない。

あのどうしようもなく鈍感で朴念仁で、それでいて胸をキュンキュンさせたあの頃の輝きを取り戻してそれでなんとかしろ」

 

「褒めるか、貶すか、命令するのか、どれなんだよ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方その頃、その鈴本人はと言うと―――

 

 

「火星で発見されたパンドラボックスによって巻き起こったスカイウォールの惨劇から十年」

 

「…ざし」

 

「我が国は「東都」「西都」「北都」の三つに分断され、混沌を極めていた」

 

「……んざし」

 

「このーままー。歩き続けーてくー」

 

「簪!」

 

「ヒャッホイ、ヒャホホイ!?

……なんだ鈴か、驚かせないでよ」

 

「いや目が逝った状態でブツブツとパソコンと向き合ってたら心配になるわよ」

 

 

画面の中に常人には理解不能な文字列を並べる簪は、目の下にクマを浮かべていた。

 

 

「そうだね…少し休むよ」

 

「……」

 

 

そしてその文字列を鈴は無意識のうちにジッと見つめる。

 

 

「…気になるの、パソコン(それ)?」

 

「え!? あ、いや、その……」

 

「取り繕わなくてもいいよ。

代表候補生だもの……他所様の開発データなんて見たくて堪らないよね」

 

「あはは…ご、ごめんね! ちょっと貴女の機体が気になってさ…」

 

「…全く取り繕えてないよ。()()()()()()()()()()()()()……そんな顔してる」

 

 

図星。鈴は顔を硬ばらせる。

 

鈴の纏う雰囲気が最近更に暗くなった訳が、簪と一夏の専用機共同開発だ。

元々言いふらしている訳でも無いが、はしゃぐ簪の声のデカさになんとなくだが知れ渡る所になっている。

 

そう、鈴が気になっていたのは簪の機体ではない。

一夏と共に開発しているという事である。

 

 

「根暗コミュ障の自覚はあるけどね。

そんな乙女心をわからないほど、女を捨てた覚えは無いよ」

 

「……そんなにわかりやすかった?」

 

「ギンガが水属性だったり、友情バーストやバンバンタンクが発売されなかったりするよりはずっと理解出来るよ。

…………早くキバアーツ出せよ」

 

「……ハァ」

 

 

重症だな。簪は直感した。

 

通常ならキレッキレなツッコミが飛んでくる所に帰って来たのはため息。

あのどこまでも常識人な鈴がその役目を放棄してしまっているのだ。

 

 

「……私は何も事情を知らないんだけどさ、鈴は織斑のことが好きなの?

好きだとして、告白前なの? 済なの? 済なら――――」

 

「多い多い! 一気に聞きすぎよ」

 

 

コミュ障特有の早口で一気にまくし立てる簪を鈴は慌てて制止する。

ツッコマないのなら、ツッコマざるを得ないレベルにボケ倒してやろうと言う目論見は成功したが、代わりになにかを失っている気もする。

具体的にはお嬢様らしい貞淑さとか。

 

 

そして鈴は、語り始める。

 

一夏との馴れ初め、突然の失踪、IS学園に追ってきたこと、その他諸々。

AC世界を知らない簪に合わせてそれとなく誤魔化して――――誤魔化しきれなかった。

とはいえ暗部の家に生まれついた簪は、ボカされた部分にはあまり触れずに先へ促した。

 

 

「つまり要約すると鈴は告白したけど玉砕して」

 

「うん」

 

「織斑とは卒業後には離れ離れになっちゃって」

 

「うん」

 

「だから織斑との思い出を形の残るISとして持てるオルコットや、私が羨ましいと」

 

「…うん」

 

「面倒くさいね。恋って」

 

「……………………うん」

 

 

コーヒーを一口啜り、簪は一息つく。

 

恋の病は、風邪と似ている。

誰だってかかりうるし、簡単に治る時もあれば、重症化したり変なものまで併発する。そして、特効薬はない。

 

箒は銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の件でのセシリアの喝にて見事に吹っ切った。

蘭は振り切れた訳ではないが、弾や如月のおかげで拗らせる事はない。

 

そして鈴は、見事にその症状を悪化させた。

 

それは恋心だけではない。

 

亡国機業(ファントムタスク)の戦いに、セシリアや一夏と共に参戦できなかった事。

才能が無いならばと、簪のように創意工夫で足掻く事すら出来ていない事。

 

頭ではそうでは無いとわかっていても、己を省察する度にどうしても思ってしまう。

 

 

「あたし…居る意味あるのかなぁ…」

 

 

元々、彼女は一夏に会うために無理を言ってこの学園に来たのだ。

しかし会った上で突きつけられたのは、一夏との永遠の別れと、決して解けぬ死という鍵で閉じられた彼の初恋。

 

 

「…鈴」

 

 

そんな鈴の事情を、簪は知らない。知る由も無い。

 

しかし、彼女の心境を察する事が出来るぐらいには聡明であった。

 

 

「もう織斑に直接それ言うか、殴り合いなよ」

 

 

だが気遣いを見せる優しさは持ち合わせてなかった。

ヒーロー番組から思いやりを学んでも活かさないストロングスタイルで鈴に言葉を全力投球する。

 

 

「ハァァァ!?」

 

 

当然ながら、鈴は困惑の声を上げる。

 

 

「鳳はさ、私と違って織斑に優しすぎるんだよ。

いきなり殴りかかるとかは論外だけど、想いを載せて殴り合えばいいんだよ」

 

「……まるで、見てきたかのようにいうのね」

 

「見てきてはいないけど、体感はしているね。

私は姉さんの真意をまるで理解してなかった事が、姉さんは私の気持ちを無視してしまっていた事をわかりあえた。

私は愚蒙で、姉さんは傲慢で、足りなかったのは会話だったというオチだよ」

 

 

中々にバイオレンスな更識姉妹の仲直りの経緯に鈴は絶句する。

どこの青春ドラマだと言いたくなっていたが、実は一夏のアイデアとは一片たりとも思っていない。

 

 

「オタクとして断言させてもらうけど……こと恋愛物(ラブストーリー)において正義に価値はないし、優しさは状況を悪化させるし、善意は裏目にでるものだよ。

恨んだ怒った喜んだ惚れた腫れた……感情に明確な答えなんて無いんだから、後悔がないように言い切るしかないと思うな」

 

「……」

 

 

鈴は黙る。黙りこくってしまう。

沈黙の中で簪はアイマスクを被り、毛布を羽織った。

 

 

「ま、無知故に酷い事言っちゃうかもしれないけどさ。

……それでもよければ、私は鳳のメル友として味方でい続けるよ。

 

 

 

 

……グゥ」

 

 

さっき言った言葉を実践するように、心の底から言いたいことを言い切って簪は夢の世界へと旅立つ。

疲労もあってかすぐに熟睡し、「ISの上にIS纏えないかな…」と二重の意味での寝言をほざいた。

 

 

 

「あたし、は……」

 

 

どろり

 

 

コールタールのような感情が、鈴の心に湧いた。




次回『地下基地襲撃ミッション』は5月26日となります。

お察しの通りMISSION8の締めくくりとなる場所です。予定としては10話程使ってやっていきたいと思います。
要は7月の後半から8月初頭辺りまで使います。8話程は書きあがっているので、しばらく更新は安定するのでご安心ください。


誤字脱字、わからないところは遠慮なくどうぞ。

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