ISVD〜Infinite Stratos Verdict Day〜 作:高二病真っ盛り
話の順序に影響はありません。
最新話ですどうぞ
「さぁ……負ける覚悟は出来たか!!」
そう言って駆け出すラウラの勝率は、高く低い。
謎かけのようになってしまったので言い直そう。
長期戦として見るならラウラの勝率は高く。
短期戦として見るならラウラの勝率は低い。
理由は簡単、先程逃げ出した者達が通報して、警察が着くまで5分。
これがこの戦いのリミットだからだ。
その間2人とも生き延びればラウラの勝ちで、その間に2人とも殺せれば
「ハァァッ!!」
「ガ……フ…!?」
とはいえ守っているばかりではジリ貧というもの。
ラウラは目の前の構成員の横をすり抜け、その後ろに控えて油断していたもう1人の胸に飛び膝蹴り。
「ガァ…!」
服につく血を無視して、振り向きざまに1刺し。
先程すり抜けられた男は、胸を切られた男と仲良く倒れる。
「何!?」
その瞬殺と呼ぶにふさわしいラウラの体捌きは倒れ往く構成員からは断末魔を、それを見た構成員からは驚嘆の声を上げさせる。
セシリアが貴族で代表候補生であり、楯無が暗部で代表候補生ならば、ラウラの過去『ラウラ・ボーデヴィッヒ』は軍人で代表候補生だ。
そんなラウラの強さはかなりのものだ。生身という条件ならば、楯無すら上回り千冬の喉笛に噛み付けるだろう。
そして、ナイフというものは汎用性が高い。
切って刺して捌いて剥いで……何にでも使える万能武装だ。
リーチの差を踏まえても、大体の軍事組織が武器として採用する程のポテンシャルを秘めているのだ。
その技量と、そのナイフと、持ち前の体躯の小ささを活かして、
右へ左へ、左へ右へ、縦横無尽に跳ね飛び回っていく。
今の彼女は、言うなれば
時には保護対象である村橋を囮にして攻撃を加え、雀卓をひっくり返して視界を塞いで切り裂き、そうして不意打ちや奇襲の手札を1枚2枚と切っていく。
無論相手は
一度見せた手は次には通じず、振るわれる鋼鉄の刃は避けるのではなく掠る事で凌ぐことしか出来ない。
殺さないのではない、殺せない。
目の前の紺の集団はプロフェッショナルの集まりだ。
生と死の境界が曖昧になるのを全身で感じながら、ラウラはナイフを振るう。
「おい…なんでそこまでして俺を守ろうとする…!」
「うるさい!貴様は自分の身を守っていろ!」
現場からの叩き上げだったのかどうかはわからないが、村橋の身体能力は案外高く、ラウラや構成員の動きを見て自分からキチンと逃げていた。
その上で、“自分を置いてさっさと逃げろ”と叫ぶ。ラウラはそれに“黙れ”と返す。
村橋には理解できなかった。
何故目の前の少女はこうまでして、己を庇うのかを一片たりとも解せなかった。
そのナイフの切っ先を、自分の脱出のみに振るえば逃げ切れるのにそれをしないのが分からなかった。
納得し難い苛立ちを込めて、構成員に綺麗なカウンターパンチを見舞う。
「逆に聞く!……貴様は生きたくないのか! イエスかノーで答えろ!」
グルグルと巡る村橋の思考を、手に持つ刃のようなラウラの叫びが断ち切る。
「……イエスに決まってんだろ! 死にたい訳ねえだろ! でもあのまま
対立組織に身柄を明け渡してもそうだっただろうな。最期ぐらいは好きに生きて死にたかった!
あんな狂った惨状を目に焼き付けたまま死にたくなかったんだよ! 捕まって殺されようと『人間』として生きたかったんだよ!」
村橋は咆哮する。
そうだ。『村橋和則』という名前は偽りのもの。いずれは覚める、永き眠りの前の泡沫の夢だ。
だがそれが、嘗て悪の組織の幹部だった彼にとっては、どんな宝より勝る本物だった。
そんな魂からの怒号に、ラウラは口角を上げる。
「よく言った!……実を言うとな、私はただ単に貴様を見捨てられなかっただけなんだ!
私自身が!見捨てられて!そして助けられた存在だから! ……自己満足他ならない私の心が動機だ!」
ラウラという少女は人生において2度見捨てられた。
1度目は、
2度目は、禁断のVTシステムに手を出したと濡れ衣を着せられて過去ごと抹消されたこと。
そしてそのどちらもから救われて、だから彼女は人を見捨てられらない。
街行く人々から見捨てられた、テツがそうだったように。
見捨てられたものは、戦わなければいけない。
戦わずに死んだら、ただ可哀想なだけで終わってしまう。
同情で幸せは出来上がらず、慰めで救済に至らず、戦って勝って始めて救われる。
2度も見捨てられた彼女は、だからこそ目の前の障害に言うのだ。
勝つのは私で、負けるのはお前だと――――
――――『負ける覚悟は出来たか』、と。
「貴様は言ったな…『未来のことなんて知らなくていい。知らない方が幸せだ』と!
それは違う! 確定した未来を恐れる必要はない……ただ、立ち向かう覚悟を決めるだけだ!」
想いを乗せたキックが構成員の腹を捉え、吹き飛ばす。
着地したラウラは、まるで獣のように人の言葉を吠える。
「私も貴様に言われるまでまるでわかっていなかった!この世界はどこかがおかしい! 未来が決められているのかもしれない!
悪い夢でも見てたようだ!だけどこれは現実だ!……なら抗うしかないだろ!拳でも剣でも振るうしか無いだろ!」
ナイフの鋭さが先程よりも増す。
キックの威力が以前よりも増す。
まるで、ラウラの感情が、溢れるエネルギーとなって体を動かしているように。
「だから生きろ! 生きて足掻け! 怖いなら相手を潰せ! 喰われるぐらいなら喰らい尽くせ!」
ハッキリ言うなら、村橋は悪人だ。
だがそれでも、生きたいと叫ぶ権利はある。
どれだけ他者に否定され、命を奪われようと、奪われるその瞬間まで吠える事は許されている。
正義の為に、大多数の人の為に、1人を殺すのは倫理的に正しくなる事はある。
それは誰かがやらなければならないし、誰かがやってくれるから世界は回っている。
村橋は悪党で、ここで死ぬのが相応しい末路と言う人はいるだろう。
だからこそ、ラウラは言う。
生きろ。そして罪を償え。
こと生存に善悪はないのだから。
元軍人ではあるが、ラウラは合理ではなく感情で動くタイプの人間だ。
それは今までやらかした事や、原作での愛情表現が証明している。
故に彼女は悪党である村橋にも手を差し伸べる。
過去にやっていたことなど極論どうでもよく、ただ単に助けたいだけなのだから。
“元”軍人であり、“元”代表候補生であり、そしてそのどちらもが消し去られた立場は、彼女から秩序の枷を奪っていた。
「逃げるだけの人生はもう終わりだ! これから始まるのは……『村橋和則』という1人の人間の戦いだぁぁぁ!!!!」
それは
その叫びによってかどうかは神のみぞ知る事だが…
「ラウラさん!」
…戦闘開始から2分。助けの船は来た。
逃げた筈の如月はその左手に消火器を抱えて戻ってきた。
それのホースを構成員の1人に向けて噴射、そのまま駆け寄って消火器本体で思いっきり頭をぶん殴った。
流石凄腕パイラーと内心讃え、ラウラは動揺走る構成員の内の1人の足を切り、機動力を削ぐ。
「如月、警察は!」
「…それよりもっと頼りになる人を、連れてきたわよ」
耳を澄ませば、錆びた鉄骨階段を走り蹴る音が聞こえる。
足音の主は部屋に入るなり叫んだ。
「俺の姪に……何手を出してんだァ!! 変身!!」
【メインシステム 戦闘モードを起動します】
黒鉄の兵器に姿を変えたラウラの
ラウラと村橋が四苦八苦して立ち回っていた相手を、一夏はまるでボーリングのピンのように倒していく。
今までの2分がまるでのんびりだったように、ものの10秒で全ての構成員が片付いた。
「どうだ? 逃げなければ案外なんとかなったぞ村橋……私の勝ちだな」
「……そうだな。俺が甘ったれてただけみてえだなラウラ」
精根尽きて倒れたラウラを、村橋は引っ張り上げた。
5分間の間の命をかけた鬼ごっこは、ISの乱入というラウラの
「グ…う……」
「……んで、コイツらは一体なんなんだ?」
一夏は床に転がる構成員を一瞥し、仮面の中で不思議そうな顔をする。
ラウラは如月に「説明してなかったのか?」と目を向けそうになるが、事態は一刻を争っていたことを考えてやめた。
「
「そうか、……怪我は」
「沢山あるが、平気だ」
「……そうか」
2度目の「そうか」の時の表情はヘッドパーツに阻まれ見る事は出来ないが、しかしどこか悲しそうに見えた。
「……で、
一夏の視線が村橋に向く。向いて、次に周りを見た。
村橋は一度目を伏せ、そして目の前の
目は口ほどに物を言うと聞くが、機械の瞳は驚くほどに寡黙だった。
「……俺は5年前まで、
「……俺は、まぁ、知ってると思いますけど織斑一夏、そこのラウラの叔父です。
貴方の待遇についてですが…ま、そこをどうこうするのは俺じゃないですね……」
【システム 通常モードに移行します】
一夏は変身解除と同時に、左足を軸に半回転、勢いをつけて右足を振り上げる。
すると解除と同時に動いた、一夏の背後の構成員の顔面に爪先が突き刺さった。
「……ガ!?」
油断も隙もないことに攻撃の機会を伺っていたのだろうが、いくら格上でも攻撃のタイミングがわかるなら一夏だって仕留められる。
一夏の観察眼はどれだけ読みにくい相手でも、真偽を見極める事は出来るのだ。狸寝入り等、読み取れて当然の事。
床にうつ伏せに転がる構成員を踏みつけ、一夏はどっちが悪党かわからない絵面を作る。
「さぁて、ついてきてもらうぜ。色々テメェらには吐いてもらわなきゃいけねぇからな…」
「グ……今だ!」
その合図を受けて更に飛び起きたもう1人は村橋めがけてナイフを投げ
「はい、そこまでよ」
ゴ〜ン☆
……られなかった。
動こうとしていたのを察知した如月が、先手を取って空になった消火器をぶん投げたいたのだ。
それが見事にヒットして、ダウンする。
以外に手に馴染んだのか消火器を回収した如月は、妙にキラキラした目でそれを見つめた。
「
「……」
ラウラとしては助けを呼んでくれたのは有難いが、ここまで修羅場でマイペースに生きられると不安になる。
一夏に聞く限りでは初っ端からパイルバンカーの素晴らしさを演説していたらしいが、変人だからといって変なことに巻き込んでいいわけでも無い。
(……というか、この血と呻き声の中でなんでいつも通りで居られるんだ…? 妙に慣れているような…)
「如月さんサンキュ…変身」
【メインシステム 戦闘モードを起動します】
一夏の方はそんな如月の奇行を気にすることなく再度変身。
銃を突きつけ、動こうとする構成員達を牽制する。
余談だが、何故変身し直したのかといういと、突入時のアセンには銃系統の武器を持っていなかったと言う訳があったりする。
妙なところでうっかりが絶えない主人公である。こんなんだからオータムに殺されかけるのだ。
「動くなよ、動けば撃つぜ。……あん?」
「ふ、ふふふ…」
一夏の足元から笑い声が響く。
「なんだ、どうしたよ」
「俺たちから情報を得ようとしても無駄だ…ハハハッ!」
狂ったように笑う
次の瞬間、彼の右手の指輪から強力な稲妻が迸った。
「なに…!?」
「ガ―――アアアア!!!」
ISを纏った一夏は無事だったが、高圧電流を浴びる構成員は痙攣して死んでゆく。
一夏の足元の構成員だけでなく、その他の構成員も1人また1人と、火花を散らしてその命を自ら絶っていた。
淡々と騒がしく死んでいきながら、その顔には理解しがたい笑みが貼り付けてあった。
「これが…精鋭部隊の鉄の掟だ。
組織のために生きて、組織のために死んでゆく…」
「村橋…。
……!? ちょっと待て、何か変な音が聞こえるぞ!」
「みんな、あれ!」
如月が指差す方向には、なにやら音を立てて気体を吹き上げるガス缶。
一夏の内部モニターに映し出された情報は、それが吸ってはいけないものだと示していた。
「毒ガスだ、逃げるぞ!」
恐らくは自決する前の最期の残りっ屁か。
そう考える暇もなく一夏を殿に如月、ラウラ、村橋の順に階段を降りて――――
「――――! 待て村は!」
タァーン…
「し……!?」
「ゴフッ…」
なにかを感じたラウラの直感は正解で。
咄嗟に再度建物内に飛び込んだ村橋は正しくて。
だけども、
血を口から吐き、村橋は倒れる。
「村橋!」
叫ぶラウラを如月は路地裏に射線を切るために引っ張り込み。
その過程でラウラの視界には、ビルの上で待ち伏せていたであろう狙撃手が、仕事は終わったとばかりに去っていくの姿が映った。
ああ~課題が終わらないんじゃ~
今はなんとか週刊更新ですが、多分というか必ず途切れます。ご了承ください。
誤字脱字、わからないところは遠慮なくどうぞ。
次回は5月12日です。