ISVD〜Infinite Stratos Verdict Day〜   作:高二病真っ盛り

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正直最後らへん書いてて楽しすぎた
ところでAC6はまだですかね?

後ハーメルンだから出来る設定がここから入ります。

それでは最新話です。どうぞ。


08ー11 THE THIRD DEGREE

「ふむ……」

 

ホームレスからの情報を元に、ラウラがやってきたのは雀荘『四神』。

雑居ビルの二階にあるそれの看板と、メモの名前を何度も見比べて間違いが無いと念入りに確認する。

 

「よし…」

 

「…ラウラさん?」

 

いざ行かんと鉄骨階段を踏みしめた時、背後から声が掛かる。

振り返った先には如月がおり、キョトンとした顔でラウラを見つめている。

 

「どうした、今日はお出かけか?」

 

「どうしたはこっちの言葉よ。

ラウラさん、そこ雀荘よ? どうしてそんな所に…?」

 

「……」

 

ラウラは言葉に詰まった。

 

当然だが雀荘は女子高校生が行くものではない。

ギャンブル・娯楽としての麻雀を知らないラウラでもそこは理解しており、突かれて痛い場所である。

 

「あ…もしかして、外国とは勝手が違うのかしら?

ラウラさん、日本ではこういう所は成人してから入るものというで……」

 

「……」

 

故に、返答は出来ず。

 

ラウラは回答拒否の姿勢を示すように背中を向けて、階段に更に一段足をかけた。

 

「あ、ちょっと…!」

 

逃げるように続けて一段、駆けてもう一段。

 

(右目の下にホクロがあり、一重まぶたで垂れ目。髪は黒で身長は170センチ程……いた!)

 

アルミ扉に貼られたコピー用紙で印刷された『四神』の文字を確認して開扉。

中に入り見渡すと外見情報と、一致する男は1人。

店の奥で他の2人と雀卓を囲み、煙草を燻らせている。

 

「ラウラさん…一体何を…?」

 

追いかけて入った如月と、受付の制止を無視して、その卓に早足で近寄る。

 

「貴様が…村橋和則か?」

 

「……お嬢ちゃん、人に名を訪ねる時はまずは自分からだと教わらなかったのか?」

 

「IS学園1年。ラウラだ」

 

牌と牌が当たる音が止み、声をかけられた男はラウラに視線を走らせる。

酒と煙草でしゃがれた声に、機を先すように答えた。

男はラウラの所属を聞くと怪訝な顔で眉を寄せる。

 

「それで、貴様が村橋なのか?」

 

「…ああ。俺が村橋和則だ」

 

よし……!

 

ラウラは心の中でガッツポーズ。

この分だと亡国機業(ファントムタスク)よりも先だ。

 

「それで…なんの用だ」

 

「……亡国機業(ファントムタスク)が貴様を追っている」

 

目の前の村橋が亡国機業の関係者なのか、或いは敵対者かまではわかっていない。

だからこそラウラは、建前や前置きではなく直接本題を切り出す。

 

その言葉に、如月や卓を囲んでいた男達は「ふぁんとむたすく?」と首を傾げているが、村橋だけはそんな様子もなく煙草の煙をゆっくり吐き出した。

 

「……そうか。ま、そろそろ年貢の納め時とは思ってたがな…」

 

「貴様は、亡国機業(ファントムタスク)とどんな関係なんだ?」

 

「…お前。俺がなんなのかを知らずに探してきたのか。

殺しに来ねえから、てっきり政府の回し者かと思ったんだが」

 

 

観念の表情を浮かべ、村橋はため息と共にラウラに呆れる。

そうは言われても、ラウラは亡国機業(ファントムタスク)が追っているから村橋の行方を追った訳で、それを知るためにここにいるのだ。

 

知るを知ると為し、知らざるを知らずと為す、是れ知る也。

 

今はもうドイツ軍の力を保持してないラウラなりの努力なので、そこはスルーして欲しい。

 

 

とはいえ村橋にそんな事情は関係無いのもまた事実。

そこを弁えられないラウラでは無いので、素直に頷いた。

 

「……知らねえなら知らねえで、そのまま帰れ。

組織について名前以外の事知ってんなら…その危険性は想像できんだろ」

 

「なら、なぜ私を政府の者だと思ったのかを聞きたい」

 

「同じ事だろ…いいから帰れ、雀荘(ここ)はお子様が来る所じゃねえんだ。

亡国機業(ファントムタスク)なんて言葉も忘れちまえ。学生なら数式の1つでも覚えた方がよっぽどタメになる」

 

「何か1つでいい!教えてくれ!」

 

「なんでそこまで聞きたがる…!」

 

「…………私の叔父と、友達が、亡国機業(ファントムタスク)に襲われたからだ……!」

 

「……復讐か?」

 

村橋は強い拒絶の意を示して、ラウラの襟首をつかんで睨む。

しかし、しつこく食い下がっていくラウラの言葉に……村橋は、目の怒気をおさめた。

 

「違う……復讐じゃない。だけど、似てるかもしれない。役に立ちたいんだ…!

アイツらが血相を変えて探す貴様から何か聞ければ…亡国機業(ファントムタスク)を潰す切り札になるかもしれないんだ!」

 

 

ティナ・ハミルトンが憤ったようにラウラもまた、あの事件で噛み締めるものがあった。

 

 

“今のお前は持ってないもんな”

 

嘗ての一夏はラウラを指してそう言った。

 

 

“君のドイツ軍籍のように消えてしまったからねぇ”

 

シャルロットはラウラを題してそう述べた。

 

 

そうだ。いくらホームレス狩り程度を鎧袖一触に出来ようと……今のラウラは非力だ。

 

――――ISに対抗できるのはISだけ――――

 

怪物ではない唯の人間(ラウラ)に、そのルールは覆せない。

専用機持ちではない唯の常人(ラウラ)に、その舞台は登れない。

 

余人では無いだろう。凡夫でも無いだろう。ましてや俗輩からは程遠い。

それはドイツ代表候補生(既に記録から消えた過去)が証明している。

 

 

……だからこそ、ラウラは悔しい。

 

 

己の中に未だ息づく専用機持ちとしての意地が、軍人として矜持が、それらがもたらした技術と経験が、人を守り悪を倒せと叫ぶのだ。

 

 

勿論、それを成す資格は無いとわかっている。

 

国を背負う軍人の立場ながら、非のない相手へに暴行しようとした。

国を代表する候補生の立場ながら、他の生徒や操縦者を見下し続けた。

詳細知らぬことながら、禁断のシステムに自らの意思で手を伸ばした。

 

ISという、超常の鎧を纏う者として失格すら生温い罪状を踏まえれば、今の待遇は無罪すら超えた温情だろう。

 

そこについて不平不満を言うわけではない。

 

 

ただ、自分の無力が恨めしくて仕方ないのだ。

 

 

「……覚悟は、出来てんだな? 俺が話すことを聞けばお前も追われることになる。

奴らの行動次第によっちゃあ、二度と陽の目の当たる場所を歩くことは出来なくなる。

お前が話せっつってんのは、こんな事だ。……その叔父やダチ泣かしても聞きてえっていうんだな?」

 

「…ああ。戦う覚悟は出来ている」

 

「あの…訳知り顔同士なのはいいのだけど、そもそもそのファントムってなんなのかしら?

言葉の端々から読み取れる雰囲気からすると相当危ない代物かなにかのようだけれど…」

 

「世界中で暗躍する悪の組織だ。如月、貴様はここで帰れ、巻き込む気はない。

……帰るんだ。貴様は巻き込まれていい者じゃあない」

 

「え…え……!?」

 

「帰っとけ。わかんねえ話で命を投げ出すんじゃねえよ。生きてりゃいいんだ」

 

「え……あ、うん…。……聞くわ、乗りかかった船よ。

それに私の立場なら何か手伝えるかもしれないし」

 

周囲を置いてきぼりにしている2人の周囲から同卓の男達が消えてゆく。

 

その場に残っているのは、村橋とラウラと、知らないながら覚悟を決めた如月だけになった。

 

「俺は、村橋和則。 ……そう今は名乗ってるが偽名だ。本名については言わん。どうせ後1日そこらで死ぬ男だ。

んで、亡国機業(ファントムタスク)との関係だが…俺は5年前までそこの最高幹部の1人だった」

 

「最高幹部?」

 

「…如月。亡国機業(ファントムタスク)の組織は大きく2つあってな。

運営方針を決める幹部会と、スペシャリスト揃いの実働部隊……そして、この村橋は」

 

「ああ、その幹部会を構成する幹部の、まぁ偉い方の役職だったよ…ま、逃げて捨てたけどな」

 

「何故、亡国機業(ファントムタスク)から逃げようと思った…?」

 

「……そこは、組織の構成員の情報や命令系統、支部や本部の場所を聞くべきじゃねえのか? まぁ、今アイツらがどこを本部にしてるのか知らんがな」

 

たしかに村橋から対亡国の情報として聞くべきなのはそういった事だろう。

だが、ラウラが1番聞きたいのはそこではない。

 

「『未来のことなんて知らなくていい。知らない方が幸せだ』…マスターから聞いたぞ。

泥酔した貴様が言っていた、この言葉をな」

 

酒とは、人を変えるものではない。

 

酒とは、人の本性を暴くものである。

 

亡国機業(ファントムタスク)の事こそマスターや他の客に言わなかったが、それでも酒気に浸った脳髄から出たギリギリの場所の言葉。

それこそ謎多き亡国機業(ファントムタスク)の真相に迫るものだという確信がラウラにあった。

 

「教えろ、村橋。貴様はなんのためにその立場を捨てたんだ…?」

 

「……どうして、俺が組織から逃げたと断定する? もしかしたら追い出されたのかもしれないだろ」

 

「それは、貴様が、……こうやって身分を偽っているからだ。

そして、質問に質問で返すな。図星だとしてもな」

 

末端組織の構成員ならば、何もかもを捨てて逃げるのもありだ。

持っている情報がそれほど重要ではないのなら、追跡の手もそれほど大層なものではないだろう。

 

だが村橋は元最高幹部だ。

 

持った情報は組織そのものを揺るがす可能性が高く、そういったものが組織を抜ける際にやることは1つ。

 

 

()()()()に己を売り込む。

 

 

個人で組織を相手取ることは出来ない。それこそ、例外(イレギュラー)じゃない限り。

だからこそ、そういったもの達は早急に身の安全を確保する為に後ろ盾を欲する。

 

だが村橋は、数多の亡国機業(ファントムタスク)の敵対組織に逃げ込まなかった。

 

「貴様という人間が持つ価値は高い。組織の中で高い地位を保てる素養があるのなら、IS委員会を始めとした組織への交渉も考えに及んだはずだ。

……及んだ上で、考えた上で、貴様は『村橋和則』として生きる道を選んだ。何故だ? その先に安寧の生など無いというのに」

 

世界中で暗躍し、IS学園と更識家を手玉に取った亡国機業(ファントムタスク)の手の届く範囲は広い。

そこから最重要捜索対象として5年間逃げ切った……否、バーにも通う程の隠蔽を成し得たことは讃えられるべき偉業であろう。

 

だが、たったの5年だ。子供も小学校に入れない。

 

監視下になろうと、自由が無かろうと、生きる為なら『村橋和則』ではなく『亡国機業(ファントムタスク)最高幹部』として生きるべきだった。

 

少し考えればわかる、死しか待ち受けていない村橋の5年間を、ラウラは何故と問う。

 

「……」

 

村橋はラウラを見る。

 

座った体勢で、立ったラウラを見上げる。

 

ラウラの後ろから光る白熱電球を見て、眩しいものから目を逸らすように眼を瞑る。

 

「……怖かったからだ」

 

「……」

 

か細く告げる村橋、ラウラはただ無言でそれを見下ろす。

 

「…IS学園に入ってるなら知ってるだろ…10年前の『白騎士事件』を」

 

白騎士事件。

 

日本を攻撃可能な各国のミサイル2341発。それらが一斉にハッキングされ、制御不能に陥った事件。

突如現れた白銀のISを纏った一人の女性によって無力化され、その後も各国が送り出した戦闘機207機、巡洋艦7隻、空母5隻、監視衛星8基を、一人の人命も奪うことなく破壊することによって、ISは「究極の機動兵器」として一夜にして世界中の人々が知るところになった事案。

「ISを倒せるのはISだけである」という束の言葉と、その事実を、敗北者たる世界は無抵抗に受け入れた日の名称。

 

ISに携わるどころか、今や世界の常識と化した教科書の中の物語。

 

「それが、どうかしたのか」

 

「20年前から、亡国機業(ファントムタスク)の行動方針は徐々に、そして急速に変わった。

……女、女だ。女の兵士の教育と増兵に力を入れ始めた。用途の分からねえ機械の鎧を作り始めた。

そして、出来上がった女性エージェントと鋼鉄の部品に噛み合う IS(歯車)が、突如として未来予知のように現れた」

 

「な……!?」

 

「信じられねえだろ? だがな、俺にとって信じられねえのはここからだ。……ISというものが世の中に異常なスピードで入り込み始めた!

IS学園は今年で創立8年!ISが世に出てたったの2年であの設備と組織が出来た!

アラスカ条約!女尊男卑の思想の流布!女権団の確立!IS委員会!モンド・グロッソ!どれもこれも5年以内には形になっていた!」

 

「……」

 

ラウラは絶句する。

 

村橋が言っているのはこの世界の常識に他ならない。

だが、言われてみれば異常じみているそれに、今の今まで気づきもしなかった。

 

「だから怖くなった!……世界そのものが恐怖の対象となった! だから、だから……」

 

村橋は煙草を灰皿に押し付ける。

 

「……全てから眼を背けたくなった。裏からも表からも消えて、ただ逃げたくなったんだ」

 

篠ノ之束が、強制的にISを馴染ませたのなら納得した。

亡国機業(ファントムタスク)が、溶け込むように手を回したのなら腑に落ちた。

その他の組織が、利益利権が為に動いた結果なら甘受した。

 

だがそのどれでもなく――――世界の方からISを取り込んだ。

それを間近で見て、それを見越した組織に怯えて、それをなんの疑いも持たない世界に恐れをなし、それを見ない為に背を向けて逃げ出した。

 

それをラウラは責めも、慰めも、頷きもしない。

 

……出来ない。動けない。

越界の瞳(ヴォータン・オージェ)による己を追い詰めた地獄の原因が。

千冬と一夏という今の家族と結びつけた要因が。

これからも変わらぬであろう常識がガラガラと崩れていくのを感じる。

 

1分2分と経って、ようやくラウラは口を開く。

 

「『未来のことなんて知らなくていい。知らない方が幸せだ』……なにもかもが誂えたようにセッティングされていたという事、か…」

 

ゆっくり反芻して、飲み込む。

 

異常の中で常人たるならば、それすなわち狂人なり。

村橋という男は、世界の異常に気づいたが故に世界から逃げ出した、一種の賢者だった事がラウラの中で確立した。

 

「……雀荘に通うようになったのも、未知が欲しかったからだ。

負ける度に俺は未来がわからないと安心した。

まだ、世界の全てが決まっていないと思うことができた。…………なぁ、ラウラ

 

 

――――お前、これを聞いてもまだ戦うと言えるのか?」

 

 

「……それは」

 

 

バァァン!!

 

「!?」

 

ラウラが拳をギュゥと握った時。

雀荘の扉が、弾けて飛んだ。

 

「な、なんだアンタら…ヴッ」

 

入ってきた紺のコンバットジャケットの男は、受付の胸にサバイバルナイフを一刺し。

 

呻き声を上げて倒れる受付を見て、雀荘は悲鳴で満ちる。

他の卓を囲んでいた雀士達が我先に逃げ出していく。

 

 

次々に逃げていく他の客達とすれ違って、同じコンバットジャケットがゾロゾロと入る。

手に握られていたのは同じサバイバルナイフ、そしてその右手の人差し指の指輪は、ジまるでアクセサリーのように集団に統一感を持たせていた。

 

「ついに来たか……テメェらは逃げろ。アイツらの目的は俺だ」

 

状況を踏まえればこの徒者供は亡国機業(ファントムタスク)の刺客であろう。

ならばここでラウラがすべき事は1つ。

 

逃げて、生き延びる事だ。

そこでしれっと姿を消した如月のように。

 

 

だけども……

 

「貴様ら、亡国機業(ファントムタスク)だな」

 

……ラウラは自ら、その道を潰した。

 

 

「その通りだ。誰だお前は」

 

「通りすがりだ。悪いが、村橋は殺させない」

 

「…なら、お前から死んでもらうぞ」

 

ラウラを敵と判断し、亡国機業(ファントムタスク)の刺客達がナイフを構える。

村橋の制止を無視して前に立ち、ラウラもまた、服の中に隠し持っていたナイフを抜く。

 

「止めろ!逃げろ! ……そいつらは精鋭だ、1人じゃ敵わねえ!」

 

刃渡り20センチを超え、ブラックメタルの色彩が静かに威圧感を放つラウラの獲物は、軍人時代に彼女が実戦で用いてたもの。

そして……『ラウラ・ボーデヴィッヒ』という存在が、全ての記録から抹消された際に、唯一手元に残せた実物の証明。

 

村橋の命を狙って追って来た消せない過去(ファントムタスク)に、己の消えた過去(ナイフ)を向ける。

 

 

「村橋、お前は言ったな。『戦うと言えるのかと』……ああ、言ってやる。

私は、ラウラは、亡国機業(ファントムタスク)と戦う! 逃げはしない!」

 

 

過去の名前が消えたという意味では村橋とラウラはよく似ていて。

自ら消した村橋と、他者から消されたラウラは全く違う。

 

『織斑』であろうと、『ボーデヴィッヒ』であろうと。

『ラウラ』は戦う為に生まれ、戦うと決めた戦士だ。

 

鉄火の場所を与えられたのなら、突き進み踏み躙るのが戦士の粋で――――

――――いさおしを失う事なく意志の往く先を決めるのならば、唯前にしか無いのだ。

 

「さぁ……負ける覚悟は出来たか!!」




ラウラ編書いてて楽しい。姪ラウラもの流行れ。
次回更新は5月5日です。

誤字脱字、わからないところは遠慮なくどうぞ。

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