ISVD〜Infinite Stratos Verdict Day〜 作:高二病真っ盛り
高二病「仮面ライダー、ウルトラマン、龍が如く…確かに見え隠れするなぁ」
もちっと原型が見えないように頑張るべきだと猛省しました。
さぁてバトルで一時中断となったラウラ編です。どうぞ。
「『村橋和則』という人物について、聞きたい」
ラウラのその言葉に、
10秒後。何か思い当たったのか、顔を上げる。
「儂は『村橋和則』という者を知らんが…そいつを知っている奴を知っている」
「知っている……『村橋』の知り合いということか?」
「嗚呼。おい、ゴローを連れてこい」
「ウス」
少しすると、1人のヒョロッとした男を連れて戻ってきた。
ゴローと呼ばれた細身の男は、外見から見るに40代から50代辺りで、そろそろ寒くなるからかジャンパーを羽織っている。
酒を飲んでいたのか顔は赤く、やや足元はフラついていた。
「
「お前、『村橋和則』って奴の事を前に話してたよな?…このラウラ殿がそいつの事を聞きたがっていてな」
そう言われるとゴローはラウラを見やり、首を傾げる。
自分の知る『村橋和則』と、目の前の銀髪眼帯の美少女がどうしても結びつかないのだ。
「……アンタがどんな事情で村橋を探しているのかは知らんが…俺も詳しくは知らんぞ」
「構わない。教えてくれ」
「わかった」
ゴローは話す順番を少し整理して、空に絵を描くように話す。
「……まず俺は3年前まで市川で働いていたんだが…村橋とはその時の行きつけのバーでの知り合いでね」
「バー?」
「ああ…市川の駅近くの『アカネ』ってバーでな。
そこでしか会わなかったが、気の合う飲み仲間だったよ」
「『アカネ』…か」
サラサラとメモを取るラウラは、ふと聞いてない事を思い出す。
「『村橋』の身体的特徴を教えてくれないか―――」
“今から『アカネ』の方に行って聞いてくる”と続けようとした時、公園の入り口から男の悲鳴が響いた。
「なんだ!?」
「
男達の叫声が鳴る方向から、先程ラウラを案内したホームレス…マツか駆け込んでくる。
「ホームレス狩りです!奴らまた来ました!」
「……ホームレス狩り?」
「ホームレス狩りってのははその名の通り、ホームレスを狙って暴行を加える行為、またはその行為を行う者を指す言葉だ。
10年前の白騎士事件以来、普及した女尊男卑思想によって、女性によるホームレス狩りは急速に増加しているんだ。
……そして、この公園も最近標的になっている。アイツら俺達が手を出せないのをいい事に―――」
「なるほど、大体わかった」
ゴローの酔ってるとは思えないほど素早く端的な説明。
それを遮ってラウラが歩き出す先は、ホームレス狩りによる被害者による助けを求める声。
「お、おい…!そっちは危ねぇ、銀の嬢ちゃん逃げろ!」
マツの避難誘導に振り返ることもなく、サムズアップを背中越しに見せる。
それはまるで、ヒーローのように。
「情報料だ、少し暴れてやる」
「さーて、街のお掃除タイムよーー!」
「ゴミはゴミらしく…捨てなきゃねぇ!」
「『弱肉強食』よ……!家も金も、ISを動かす事も出来ない愚かなクズは潰すしかないわよねぇ!」
バットやゴルフクラブを持った7人の女が、次々にホームレスを殴りつけていく。
ホームレスに対して行われる暴行を、なんと例えて呼ぶが相応しいか。
暴虐、悪逆、不徳
否、彼女達の幼稚さと愚かさを考慮して……『弱いものイジメ』と呼称すべきだろう。
「……」
そんな稚拙で矮小な彼女達へ、逃げ惑うホームレスの河の中から、1人の足音が近寄る。
研がれた刃の如き輝きを放つ銀の髪。
身体を走る血よりも赤く、紅い右目。
偽りの金の左目を閉じる黒い眼帯。
非現実の世界からやって来たような、目の覚めるほどの
「……なによ」
「一応言っておく…そこまでだ。もう止めにしろ」
「はっ…なに?正義の味方気取り?」
そう言って、ホームレス狩りの内1人が、ラウラの襟首を掴む。
一見すれば哀れにもホームレスの巻き添えに少女はなるであろうと感じさせる。
だが彼女は、彼女達は知らない。
――――目の前の少女は、見た目だけでなく
「そういうの、ぶっちゃけダサいんですけ――――」
言い切れずに、ラウラの襟首を掴んだ女が腹部に手をやり倒れる。
お腹を押さえて苦しそうに呼吸する彼女は、一瞬のうちにラウラが拳を叩き込んだ事を表していた。
「……え?」
「さっき、貴様らは言ったな……『弱肉強食』、と」
呆気にとられるホームレス狩りを見て、ラウラは拳を鳴らす。
「その言葉に従ってやる……来い。
――――負ける覚悟は出来たか
その言葉を合図に始まったのは数による『蹂躙』ではなく、個による『無双』であった。
「ぐぁっ!?」
ラウラが拳を振るう。ホームレス狩りが1人倒れる。
「ぎゃひっ!?」
ラウラが蹴りを放つ。ホームレス狩りがまた1人倒れる。
「こんのぉー!……ばわっ!?」
ラウラが半歩横にずれる。ホームレス狩りの攻撃が空振り、出来た隙に膝を叩き込まれる。
もはや彼女らに抗う術はなく
7人全てのホームレス狩りがその意識を手放すのには、時間にして1分もかからなかった。
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「……と、言うわけだ。強かったよ、織斑一夏は」
『“T”、今日は災難だったな。まさか織斑一夏に狙われていたとは』
品川の路地裏で、16歳程の少女が何者かと携帯で通話する。
黒の長髪は手入れを怠っているのか乱れに乱れて整った顔を台無しにしており、酷くめんどくさそうな仏頂面でスピーカーに声を入れる。
「ああ……でも、“アナタ”ならそんな未来をわかっていただろう?」
『さて…どうだろうか。私の力もあの日以降使い勝手が悪いのは知ってるだろう?』
電話口で惚ける声に、電話が故に見えない冷淡な表情を向ける。
“T”と呼ばれた事からもわかる通り、彼女がグルゼオンの操縦者である。
つまりは
「……はぁ」
報告をし終え電話を切ると、大きく深くため息。
その後溢れたせっかくの休日がという愚痴を聞くに、探す気は無いようだ。
「ん……んんっ! 村橋、村橋、村橋、ねぇ……。
……この世界のルールをなんとなく察知する辺り、利口ではあるんだろうな。
織斑一夏も、原作のとは大きく違うしな…枝葉も枝葉なだけはある…」
大きく伸びをして、意味不明な言葉をブツブツ言いながら路地から出る。
帰るかどうかはともかくとして、駅に向かおうと“T”は歩き出した。
(……そういえば)
『やっぱ、そういうことか…』
戦闘中に、目の前の一夏が呟いた一言。
それはまるでグルゼオンの中を、“T”を、自分を見ていたようで……
(これは…バレたか?)
たらりと、冷や汗が流れた。
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ガタンゴトンガタンゴトン
ガタガタゴットンズッタンズッタン
「……」
その後、ホームレス狩りを警察に引き渡したラウラは、電車に乗って市川に向かっていた。
手元のメモにはゴローから聞いた『村橋和則』の情報があり、それを眺めて時間を潰す。
(右目の下にホクロがあり、一重まぶたで垂れ目。髪は黒で身長は170センチ程……)
村橋和則。
曰く、年齢は40代から50代。
曰く、バーでよくブランデーを嗜む。
曰く、しかめっ面で誤解しがちだが、冗談とギャグとギャンブル好きでかなりとっつきやすい性格。
(……)
村橋という男は『アカネ』にほぼ毎日のように通い、そこでの飲み仲間とワイワイ楽しく談笑していたらしい。
バーのマスターが誕生日を迎えると、「じゃあ、マスターに金を落とさねぇとな」と高い酒を飲んでいたようで、中々な酒豪で気さくな人物らしい。
(……そんな人が、どうして
嘘はないのだろう。唯、それが全部では無いだけで。
ゴローが市川にいたのは4年前から3年前の1年間だけで、ゴローが『アカネ』を見つけた時には既に村橋は常連だったらしい。
(開いてればいいんだが……)
これ以上村橋の事を更に知るにはバーの人に聞くしかなく、ラウラは『アカネ』とそのマスターが健在な事を祈った。
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【この度アカネは、○月△日を持ちまして閉店することとなりました
20年の間ご愛願いただきありがとうございました】
「うっそだろ……」
ラウラの叫びとも呟きともつかぬ感嘆が、彼女の心情を的確に述べる。
なんということか、『アカネ』は1年前に閉店してしまっていたのだ。
これでもう手詰まりだ。
今のラウラはただの学生、幸運を重ねる以外に探す術は無い。
「諦めるしか…無いのか……」
ラウラはがっくりと項垂れる。嗚呼、折角、みんなの力になれると思ったのに――――
「……私の店になにか用かな?」
「え?」
横から掛かる声に振り向くと、そこには1人の老人がいた。
豊かな白髭を蓄え、丸眼鏡と下がった目尻は人に警戒心を与えない、まさに好々爺と呼ぶべきだろう。
「あなたは…? いや、“私の店”ってまさか!?」
先程『幸運を重ねる以外に探す術は無い』と、述べた事は覚えているだろうか。
「ああ、1年前までそこの『アカネ』でマスターをしていた…黒山だ」
幸運は、重なった。
「なるほど、村橋さんについて調べていると」
「はい。村橋さんはここを行きつけにしていたと聞いたので、なにか教えてくれませんか?」
『アカネ』のマスター、黒山の散歩中に幸運ながら出会う事が出来たラウラは、事情を話して村橋の情報を尋ねる。
「ふむ。とはいえ、私も村橋さんについては君が持っている情報と大差無くてね。
付け加えるなら確か…5年前にこちらに越して来て、2年前に品川の方に越していったという事ぐらいかな……」
「……品川」
それは、今回の始まりの地。指す意味は振り出しに戻る。
幸運ではあったが、上手くはいかなかった。
これでまたやり直しかと、内心落胆しながらラウラは黒山に頭を下げ、去ろうとする。
そんな時、何かに思い当たった黒山がラウラを呼び止めた。
「ああそうだ。役に立つかは知らないが…村橋さん、よく気になることを言ってたんだ」
「…気になること?」
「『未来のことなんて知らなくていい。知らない方が幸せだ』……酔った村橋さんはいつもこう呻いていたよ。
いつもは楽しく笑顔なのに、その時に限っては酷く悲しそうなんだ」
その言葉をメモに書いて、ラウラは再び品川に向かった。
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「さて…」
『村橋和則』の居場所についてはこれで振り出しだが、元より偶然テツを助けた事から始まる幸運だったのだ。
気を取り直して品川にいるであろう村橋を、もしくは
(その前に…)
まずは情報を整理しよう。
ラウラが掴んだ情報は過去のものであるので、それを時系列順に並べてみる。
5年前:村橋、市川に越してくる。『アカネ』にはこの時から常連になっていた。
↓
4年前:ゴローが市川に越してくる。この時に村橋と知り合いになる。
↓
3年前:ゴローが職を失い市川を去る。
↓
2年前:「仕事の都合」と言い残して村橋が品川に越す。
こうして整理すると、掴めた情報はほんの一部だということが嫌でもわかる。
残りの情報は村橋の身体的特徴と―――
『未来のことなんて知らなくていい。知らない方が幸せだ』
―――泥酔した村橋がいつもいっていた、うわごとのようななにか。
これはきっと大事なものだと、ラウラは確信していた。
「……見つけた」
「あ?」
そんなラウラの思案を、敵意に満ちた声が遮る。
振り返るとそこにいたのはホームレス狩りの1人であった。
「……随分と早い釈放だな」
女尊男卑ここに極まれり。
彼女は、そしておそらくその仲間達は女性である事を使って警察から事情聴取だけで済ませたのだろう。
最早ため息も舌打ちもする気になれない。
そう呆れる様を隠す事ないラウラに、ホームレス狩りの女は怒りを露わにしていく。
拳を握りしめて、今にも殴りかからんとする彼女に、ラウラは肩をすぼめて一応の忠告をする。
「喧嘩を買うのは構わんが……負ける覚悟は出来たか?」
二度目の戦いは、映す価値もなかった。
「おーい」
「……む?」
そうしてラウラが足での捜索を再開していると、1人のホームレスが駆け寄ってくる。
その顔にはラウラも思い当たるところがあり、それはホームレス狩りに襲われていた1人だったのだ。
「貴様は、さっきの…」
「ああ。ホームレス狩りから助けてくれてありがとうな……じゃなくって」
ゼェ、ハァと息を整えてホームレスは告げる。
―――村橋と思われる男を、仲間のホームレスが見つけた、と
ホームレスネットワークって凄い。ラウラはそう思った。
次回更新は28日となります。
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