ISVD〜Infinite Stratos Verdict Day〜   作:高二病真っ盛り

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女尊男卑が理由で、この世界では元サラリーマンのホームレスが多いという裏設定があったり。

それは置いといて最新話です。どうぞ。


08ー09 グルゼオン

「今日こそは逃がさないわよ、スコール!」

 

「出来るかしら、更識楯無…!」

 

 

 

品川のビル屋上にて勃発した、 IS学園(楯無と一夏)&デュノア社(シャルロット)VS亡国機業(スコール グルゼオン ゴーレム)は実の所亡国に利がある。

 

1対1

 

3対3

 

数の上では対等だが、その内情は大きく違うのだ。

 

そもこういった多人数での乱戦は、それぞれの陣営での連携の精度が大きく勝利に関わる。

 

亡国サイドは機械としてデータを入力されたゴーレムは当然として、スコールはグルゼオンとも緻密な連携を取ることが出来る。

 

一方、楯無は一夏とは連携可能だがシャルロットとは不可能だ。

 

なにせ学園にいたシャルロットは、シャルル・デュノアという偽の男性操縦者は2日程しか学校にいなかったのだ。

彼女はIS学園で一度もISを展開する事なく去ったのだから、当然ながら楯無や一夏はそれを見る機会など無い。

 

 

まぁ、たったの2日でシャルロットを学園から消したのも楯無と一夏なのだが。

 

 

「あーもう。散らばらないで、僕の手間が増えるから」

 

 

だからこそ、シャルロットはゴーレムと8体のスケルトンが他の2人の援護に回れないようにその豊富な武装を活かす。

分断して、ただの1対1にすれば対等に渡り合えるからだ。

 

 

バジュゥ!バジュゥ!

 

「嫌らしい撃ち方してくれるじゃない!」

 

「パイル女に近づいて欲しくは無いんでね!」

 

一夏とグルゼオンの戦いは隣のビルの屋上に移っていた。

スコールと楯無の巻き添えになりかけたのもそうだが、一夏が引き撃ちでグルゼオンを誘導したのが主な要因だ。

 

 

(やっぱコイツ…強い!)

 

 

しかし、誘導し、レーザーライフルで主導権を握る一夏の顔に余裕はない。

 

 

(『……間違いなく、10秒後には君の射撃パターンを読まれるね。何か準備はあるのかい?』)

 

(…来ると同時にブーストチャージを合わせるとか?)

 

(『そのギャンブルは1人でやってくれないかい!?僕も巻き込まれるんだが!』)

 

(嫌なら、ちょいとあっちを頼むぜ。ギャンブルしないよう頑張るからさ)

 

 

レーザーライフルの牽制を行いながら、一夏と財団は相手の動きを予想する。

 

当然だが、グルゼオンの様な近接武装オンリーの機体はその扱いが難しい。

その手の機体の使い手は二択、雑魚かもしくは変態だ。

 

 

そしてグルゼオンは―――後者であった。

 

 

兎にも角にも、近接オンリーというのは近づかなければ話にならない。

全身に搭載された精密かつ俊敏な動作を可能にするバーニアを噴かして、回避しつつ徐々に一夏との距離を詰める。

 

 

「…ここよ」

 

 

パターン捕捉まで後7秒。しかしそれを待つ事なくグルゼオンは行動を開始する。

 

ハンドパイルを持っていない左手で掴んだのはゴーレムが呼び出したスケルトンの1体。それを前面に押し出して、突撃。

グルゼオンの突撃中に一夏のレーザーは1発、2発とスケルトンを撃ち抜き爆散させるが、それが囮となって詰め寄られた距離はパイルで狙うには十分なものだった。

 

「やってくれるな…!」

 

突きつけられたハンドパイルに一夏は咄嗟にシールドで構える。

 

ズガァン!

 

トリガーが引かれた次の瞬間、火薬の破裂で加速した杭が、一夏のシールドを貫き抜かんと放たれる。

 

「ぐぅ…のぉ!」

 

その衝撃に一夏は大きく身体をよろめかせながらも、右手のレーザーライフルをグルゼオンに放つ。

 

「きゃ…!」

 

2度目の被弾。開戦の時のように光線で弾き飛ばされるグルゼオン。

転がる身体を手で止めて、互いに素早く体勢を戻し仕切り直しとなる。

 

 

「さっきの私の一撃、うまく受け流してくれるじゃない。自信は無くしそうよ」

 

「お褒めに預かり光栄だぜ。でも自信を無くしそうなのはこっちなんだよなぁ…なんだよあの細かく速いブースト。反則じゃねぇか」

 

(『パイルの力を斜めにズラして受けたのはいいけど、ダメージ結構あるから次もう一回やったらシールド壊れるよ』)

 

(わかってる!……そっちの仕事をしろ! あの動き…)

 

(『はいはい…』)

 

 

グルゼオンと応対しながら、一夏の内心は冷や汗ものだった。

元々楯無と2対1、あってもゴーレムとの2対2を想定していた彼にとってこの乱戦は予測の範囲外が過ぎるのだ。

 

このままペースを握られていれば、敗北の可能性は濃厚だろう。

 

(ま、ギリギリで予想外なんていつもの事だな……やるだけやるしかねぇって奴だ! それに、やっぱり…)

 

勿論、AC世界ではそんな事は嫌なことに日常茶飯事だった。

懐かしの修羅場に、一夏は知らぬうちに仮面の下で口角を上げて―――

 

「やっぱ、そういうことか…」

 

―――小声と共に戻した。

 

 

 

 

 

 

「ハァァァ!」

 

「ク……ゥゥゥ!」

 

 

一方の開幕のビルでのスコールと楯無の戦闘は、楯無にかなり辛い状態が続いていた。

 

音より速く、水よりあやふやで、されどその威力は確かに現実にあって。

そんな炎の鞭をしなやかに振るい、ランスで防御する楯無から白煙を上げさせる。

 

「そういえば、あなたの機体ってモスクワの深い霧(グストーイ・トウマン・モスクヴェ)だったかしら?」

 

「それは前の名前よ。今は霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)と言うの……それがどうか?」

 

「いえ、なにも」

 

「……ああそう!」

 

それは挑発。

 

改修前の機体名を呼ぶ事で、まるでその改造が無意味で無価値と告げる焚付け。

 

楯無はランスに内蔵した4連装ガトリングを構え、彼女の怒りの如く一斉に火を噴かす。

 

ドドドドッ―――!

 

正確に己を捉えた斉射に、スコールは余裕ある顔で肩から伸びる炎鞭『プロミネンス』を高速回転させ、防御シールドを形成して防ぐ。

 

「諦めましょう?あなたの機体では私のISを倒せない。わかっているでしょう?」

 

「……狙いは織斑くんね?」

 

「正解よ。あの子の身を渡すというなら見逃してあげてもいいけど?」

 

スコールの恋人、オータムの左腕は文化祭の一件で一夏に奪われた。

それが故に、スコールとしては組織の目的も含めて最優先対象を一夏にしているのだ。

 

「勝てないから、諦める。人はそれを賢者の選択と言うのかもしれない。……けれどね」

 

スコールが固まった隙に再度蛇腹剣を呼び出した楯無はそれを振るう。

弾幕が収まったのを確認したスコールも、シールドに用いた鞭を振るう。

 

「私は更識楯無。IS学園生徒会長。私が生徒を、皆を守ってみせる!」

 

決意と共に繰り出される蛇腹剣を、スコールは鞭で絡めて動きを封じ、掌の上に火球を作りそれを嗜虐の表情で楯無に向ける。

水の鎧にまとわりつく熱の縄に、蒸気と苦悶の声を上げながら、楯無は振りほどかんともがく。

 

「そう…じゃあ死になさい」

 

そう言って、勝ち誇ったスコールが火球を放とうとして―――

 

 

 

 

 

「会長、仲間外れは良くないなぁ。俺も入れてくれないと」

 

―――隣のビルで戦っていた筈の一夏の声が、横から割り込んで響いた。

 

「そこは“私達が”と言うところなんですか……らァ!」

 

一夏はハイブーストの勢いそのままKAGIROI mdl.1(レーザーブレード)を縦に一閃。スコールの炎の鞭を両断する。

 

【パージします】

 

次に左手のシールドを前方に放り、それを足場に壁蹴り(ブーストドライブ)でスコールに向かって急旋回。

蹴られたシールドは威力に耐えかねてバラバラに壊れて粒子と化すが、気にせずレーザーブレードをレーザーライフルに切り替える。

 

【エネルギー 残り30%】

 

「バァン」

 

一夏の戯けを示すように、カメラアイが紅く光る。

そして両肩のYAMASUGE mdl.2(エネルギー アンプリファイア)で増幅された力を持ってして―――呆けたスコールの手中の火球を撃ち抜いた。

 

ギュィィィン……チュドォォォン!

 

炎と光が混じり合い、スコールを派手に巻き込み大爆発。

 

「グ――――ゥゥゥ!!」

 

(やりぃ、大成功!)

 

(『いやぁここまで的中するとは思わなかったよ』)

 

スコールの上げた悲鳴に、一夏と財団は心中にてハイタッチする。

 

先程から一夏が狙っていたのは、タイマンに夢中になっていたスコールとグルゼオンの虚を突く事であった。

 

しかし、戦いながらよそ見できるほどグルゼオンは弱くはない。しかし一夏には、財団がいる。

一夏自身がグルゼオンに集中するのと並行して、リコンを用いて他の戦いの様子を見てもらっていたのだ。

 

そうして、後少しで楯無を仕留められると舌舐めずりをしていたスコールの横っ面を叩いたという訳だ。

 

「織斑君ありがとう!このチャンスをものにするわ!」

 

「私から目を離す機会を伺うなんて…やってくれるわね」

 

そしてこの攻防で出来た隙を見逃すほど、楯無もグルゼオンも甘くはない。

互いの得物で互いの獲物を仕留めんと動く。

 

 

蒼流旋(そうりゅうせん)!」

 

楯無は蛇腹剣を投げ、大型ランスを再度展開(コール)

水の刃を纏いしそれを携え、瞬時加速(イグニッションブースト)で突撃する。

 

「がっ…は……!」

 

超加速と共に放たれた槍の一撃は、ゴールデン・ドーンに白煙と叫声を上げさせる。

その勢いを受けて、スコールは屋上の貯水タンクに轟音を立てて叩きつけられる。

 

 

「ナメてくれるじゃない!」

 

グルゼオンは全身のバーニアを一斉噴射。

一瞬にして影さえ残さぬ最高速の世界に移動し、今度こそ守る盾がない一夏をパイルで撃ち抜く。

 

【稼動限界まであと僅かです 回避を優先してください】

 

「ぐ……ぁ…っ……!」

 

火薬の加速と自身の重量を持ってして、パイルバンカーは一気に黒い鳥(ダークレイヴン)を危険領域に連れて行く。

その威力で一夏は吹っ飛び、屋上の柵を壊して落ちそうになるのを踏み止まる。

 

 

「織斑くん!」

 

渾身の一撃で相手を叩き飛ばした楯無は、攻撃を受けてふらつく一夏の元へ駆け寄る。

 

「織斑くん、大丈夫?……ごめんなさい、私が不甲斐ないばかりに」

 

「一撃だけなら平気と踏んでの不意打ちなんですから気にしないで下さいよ」

 

一夏を背に守るように立った楯無は、背後の一夏を気遣うと同時にスコールを見据える。

穴の空いた貯水タンクから水を浴び、白い蒸気を発生させるスコールの様子は伺えないが、中からの殺気は正に阿修羅とも呼ぶべきものであった。

 

「生きてるかしら、スコール」

 

「…ええ」

 

カツカツと歩み寄るグルゼオンの呼びかけに短く応え、スコールは煙の中からユラりと出でる。

バイザーで顔の大半が隠されているが、露出した口元には彼女の怒りを示すへの字の唇があった。

 

「こっちが殺したい気持ち抑えてロシア代表の相手してるのに…目を離さないでくれる?」

 

「……ハァー」

 

スコールの憤怒にグルゼオンはため息をつき、ホルスターにハンドパイルバンカーを戻す。

 

「帰るわよスコール。今日の任務は交戦じゃないわ」

 

「……それなら初めから来ないでくれない?僕も暇じゃないんだから」

 

グルゼオンの撤退の言葉に、ゴーレムとスケルトンを倒したシャルロットがうんざりとボヤく。

初めから亡国機業(ファントムタスク)を狙っていたIS学園組とは違い、巻き込まれた立場ゆえの発言だ。

 

「ここで逃がすかよ。テメェら2人、後1発もあれば倒せんだ……ここで決めてやる」

 

「後1発なのはお互い様でしょ……そこの社長さんは除くけど」

 

サッカーのハーフタイムのように一時的に戦いの熱が冷めるのを感じながら、一夏はレーザーライフルのトリガーを引く。

 

「……」

 

光撃はスコールの右手から作られた火焔の壁に阻まれ届かず、続いて放たれた特大の火炎弾は楯無がマントのように広げた水のベールに阻まれ真っ白な煙を上げる。

 

 

「逃した…か…」

 

炎を防いだ楯無のハイパーセンサーには逃走する2機の姿が映っており、戦いの終わりとミッションの失敗を悟った。

 

【システム 通常モードに移行します】

 

周りに敵がいないことを確認して、3人は変身を解除する。

 

「……会長。すみません、俺があのパイル女をサッサと仕留めていれば――」

 

近接オンリーの変態とはいえ、遠距離攻撃を持たない敵を倒せなかった自分が悪い。

 

 

そんな一夏の謝罪を楯無は無言で制す。

 

 

彼女もまた、弄ばれていた事に責任を感じていた。

一夏に助けられるまで、碌なダメージを与える事が出来なかった。

助けに入った一夏は、反撃を喰らうこともしっかり視野に入れていた。

 

 

会長失格だ。そんな自責の念を噛みしめる。

 

 

そんな楯無の様子を見て、一夏は謝るのをやめる。

ここで続けたらただの追い討ちだ。

 

「反省会は終わりかな?じゃあ僕にも事情を説明を…あぁいやその前に」

 

「なんだよ」

 

「“久しぶり”と“初めまして”。僕はどっちで君達に話せばいいのかな?」

 

「……好きにしとけよ」

 

シャルロットはビル風に髪を靡かせて、ふぅんと鼻を鳴らす。

ラウラが嘗て小悪魔と称した相貌は、男ならば虜になってしまいそうな美しさを持っている。

……永遠の童貞(織斑一夏)には通じないが。

 

 

「じゃあ()()()()()。ご存知かも知れないけど、僕はデュノア社社長の『シャルロット・デュノア』だよ」

 

「…()()()()()。私はIS学園で生徒会長をやらせてもらっている『更識楯無』と申します。デュノア社長、先程はどうもありがとうございました」

 

「同じく、副会長の『織斑一夏』です。ありがとうございました」

 

「いいよ、お礼なんて。亡国機業(ファントムタスク)は僕にとっても敵だからね…それで、なんでここに亡国機業(ファントムタスク)が居たんだい?」

 

互いに白々しい挨拶を交わして、楯無はシャルロットに事情を説明する。

 

先日、亡国機業(ファントムタスク)が『村橋和則』を捜索するために一大作戦に打って出るという情報を入手。

更識家と日本警察は、亡国機業(ファントムタスク)が所持しているISでの活動を危険視してこちらもまたISを投入する事を決定。

そこで選ばれたのは更識家当主の楯無と、彼女の強い推薦もあっての一夏であった。

そして、このビルの上にグルゼオンがいるという情報を掴んだ2人は2人がかりでボコる為に来て―――

 

「―――後は、デュノア社長も知る通りです」

 

「なるほどねぇ。僕の方には今日は注意しろと連絡があったけどそういうことだったのか」

 

うんうんと納得したシャルロットに、楯無と一夏は深く頭を下げる。

 

「申し訳ございません。本来私達だけで対処しなければならない所を、デュノア社長まで巻き込んでしまいました」

 

平身低頭の楯無に、シャルロットは特に気にした様子もなく、ポケットに手を入れる。

 

「別に気にしないでよ。さっきも言った通り、亡国機業(ファントムタスク)は僕の敵だ。それはIS企業としての不利益だけじゃない…」

 

突如風が止む。

 

まるで、シャルロットの声を遮りたくないように。

 

「……僕個人が、虫けらみたいに人を殺す亡国機業(ファントムタスク)が許せない」

 

その声は楯無と一夏の耳に届いた後……用済みとばかりに空へ消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあね。速くアイツらが捕まる事を願ってるよ」

 

そう言って、シャルロットはリムジンに乗り込み出発。

それをジッと見送る一夏は、眉間にくっきりと皺を寄せていた。

 

『僕個人が、虫けらみたいに人を殺す亡国機業(ファントムタスク)が許せない』

 

「はっ」

 

黒い車体が建物の陰に消えると脳裏に浮かぶシャルロットの言葉に、短く嘲りを吐き捨てる。

 

「シャルルだろうと、シャルロットだろうと、結局は嘘つきなんだなお前」

 

一夏の言葉は隣の楯無にも届かず、ただの雑音として掻き消えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

品川駅近くの大きな公園の一角にホームレスが纏まって暮らす一角がある。

マツに案内されたラウラの元へ1人の老人がやってきた。

 

「お主がラウラ殿じゃな?事情は聞いておる、テツを助けてくれた事は感謝しよう。あ奴は大事な仲間じゃ」

 

老人のなりはみすぼらしく、いかにもホームレスといった出で立ちだ。

 

「…貴様が、(おさ)か?」

 

「左様。この街で35年間、家無き者の(おさ)をさせてもらっている」

 

しかし、ピシッと伸びた背筋や覇気のある目から感じる雰囲気は決して見くびれるものではない。

 

「さて。儂に何か聞きたいことがあると聞いたのじゃが…」

 

(おさ)の双眸がラウラを見据える。

一度、二度と深呼吸して、ラウラは口を開いた。

 

「『村橋和則』という人物について、聞きたい」

 




連携ってどうかけばいいんだ…!?

誤字脱字、わからないところは遠慮なくどうぞ。(次回更新は4/21です)

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