ISVD〜Infinite Stratos Verdict Day〜 作:高二病真っ盛り
姪ラウラもの増えろ(願望)
それでは最新話です。どうぞ
「…で、私はなにをすればいいんだ」
「焦らないでよ……ほら、到着」
シャルロットに連れられ、ラウラが着いた場所にあったのは白いビルだった。
入口のエントランスホールにはボードがあり、【3F 302号室『女性検定2級面接会場』】や【2F 208号室『きし寿司インターンシップ会場』】等と書かれている。
「僕達のはアレだよ」
そう言って、シャルロットが指差す先には英語やドイツ語、中国語にそして日本語で【4F 403号室『IS学園 先行授業体験会』】と書かれていた。
「授業…体験……?」
自分とは縁の無い言葉に、ラウラは疑問符を浮かべる。
「IS学園に行きたいって子は、世界中にいるからね。特に今年はイッピー……織斑一夏を目当てに来たいって志望動機もある」
IS学園――――『IS操縦者育成特殊国立高等学校』の入試の倍率は高い。
ISを実際に動かして学べる唯一の教育機関であり、あのブリュンヒルデ『織斑千冬』を始めとした高名なIS操縦者が講師として在籍していることが要因だ。
今年は更に、世界唯一の男性操縦者『織斑一夏』が通っているのが合格倍率の上昇に拍車をかけている。
そして、その狭き門を潜るために日夜努力する女子は世界中に存在する。
そういった者達の中から珠玉の逸材を発掘する為に、こういった学園と企業の提携主催のイベントは結構な数で開かれる。
「なるほど、そういえば一夏も生徒会で体験生を迎える準備で忙しいとボヤいていたな…。もしや、貴様の仕事とは……」
「ビンゴ。今日の僕はここの子達の講師だよ。IS会社の社長は、IS学園で1日2日教鞭を取ることもあるからね」
「……今年、デュノア社の講義などあったとは聞いてないがな」
「今年はねー…御家騒動があったからなー。ま、来年は僕も教壇に立たせてもらうよ」
そう言って建物に進むシャルロットに、ラウラは待ったをかける。
「…おい。結局私に何をしろと言うんだ」
「……?」
「いやなんだその不思議そうな顔は!」
「あっはは…やっぱ可愛いねラウラは」
「帰る」
シャルロットの巫山戯た態度にラウラはクルリと足を駅に向け、スタスタと踏み出す。
「待って待って!……君には、ラウラにはIS学園に通う先輩としてちょこっとアドバイザーになってほしいだけなんだよ!」
「……アドバイザー?」
慌ててなされるシャルロットの説明に、ラウラは眉を訝しげに上げる。
「…勉強法については…私は役立たんぞ。受験戦争とやらには無縁の入学だからな」
「ああ、そこはいいよ。ぶっちゃけこの時期に勉強法を確立できてない様な子に入学できる学校じゃないし」
じゃあなんだよ。
そんなぶっきらぼうなラウラの視線に、シャルロットは大袈裟なジェスチャーと共に説明を続ける。
「ここの彼女達は入学する為に頑張っているけどね…入学した後の事については知らないんだ」
「……つまりなんだ?私は、入学した後の心構えでも説けばいいのか?」
「ピンポーン!大正解!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それじゃ、出番の時に呼ぶからよろしくね」
パタン
音を立てて、控え室の扉が閉まる。
元々フリーの質問タイムのところに、追加の相談役としてラウラも入る事になり、その時まで待機となった。
「……ふむ」
(さて、罠の類はあるかどうか…)
部屋を見渡すと、机に他の職員のものであろうか紙コップにお茶、軽いおやつなどがあるが、ラウラにとっては敵陣やも知れぬ場ゆえに手をつけることはしない。
他にはIS学園の事について特集した雑誌が置いてある。ラウラはその内の一冊を手に取り表紙を見やる。
『突如現れた、世界で1人の男性操縦者の謎に迫る』
そう書かれたアオリのページをめくって閉じる。どうやら気に入らなかったようだ。
(まぁ、こんな所にはないだろ)
次に部屋の隅のロッカーを開ける。中には何もない。閉めた。
隣のロッカーを開ける。中には何もない。閉めた。
最後のロッカーを開ける。中には腐ったおにぎりがあった。閉めた。
「どうやら、盗聴器なども無いようだな…」
ラウラがここまで警戒するのは、彼女の立場に訳がある。
読者諸君は存じておるだろうが、彼女の元の名は『ラウラ・ボーデヴィッヒ』
歴としたドイツ軍少佐にて、国家代表候補生だ。
そんな彼女は違法たるVTシステムを積んだドイツの尻尾切りに逢い、その地位も経歴をなくした。
その後は、織斑千冬の養子として迎え入られ現在『織斑ラウラ』として生活している。
ドイツの禁忌の生き証人にして、今や全世界の時の人たる織斑姉弟の家族としての彼女の価値は高い。無論、生半な相手に捕まる程でも無いが。
だからこそ、逆にその価値を狙ってくる輩から、何か引き出せないかと思ってシャルロットの依頼を受けたのだが……
(……まさか、本当にただ雇っただけ…私と仲良くなりたいだけとでも言うつもりか?)
ここまで何もないと、罠と思うことすら馬鹿馬鹿しくなってくる。警戒を緩めるわけではないが。
コンコン
「ラウラさん。準備はよろしいでしょうか?」
そんな事を考えていると、扉の向こうから黒服が呼びかける。
「…ああ。行かせてもらおう」
ラウラは返事をして、ドアを開けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そうして、質問タイムが始まった。
「あ、あの…井上ティファニーと言います!今日はよろしくお願いします!」
「IS学園一年一組のラウラだ、よろしく」
『織斑』も『ボーデヴィッヒ』も今は名乗れる名字ではないので、名前だけ告げてIS学園入学を目指す少女達に向き合う。
「一年一組…もしかしてあの織斑一夏がいるクラスなんですか!?」
「……まぁ、そうだな」
それにしても、一夏目当ての子が多い事多い事。お前ら学校に何しに行く気だ。
「入ってからの勉強って…やっぱ難しいですよね。何かこれはやっとけって事はありますか?」
「そうだな。……ISを動かす学校な以上、少しの体調不良がかなり響く。日々の健康と体力増進には努めておけ」
質問タイムは驚くほどスムーズに、滞りなく行われており、ラウラはテキパキと少女達を捌いていた。
「いやぁラウラのお陰で助かったよ。僕、
「……」
そうして、質問タイムも後半。
深く聞かなければ気が済まない人しか残っていないところで、シャルロットが絡んで行く。
「……はぁ。ホントなんのために私を勧誘したんだ?」
「んもー何度も言ったじゃん。僕は、君と仲良くなりたいだけなんだよ〜」
そう言ってシャルロットはうりうりとラウラの頭を撫で回す。
ラウラそれを跳ね除け、大きくため息。
「もういいだろ、帰る……アレは」
「あっ、待ってよ。まだバイト代払ってないし…どうしたの?」
出口に向かうラウラを慌てて呼び止めるシャルロットは、窓の外を注視する彼女の様子に何事かと訝しむ。
ラウラはシャルロットの問いに答える事なく、ジイっと一点を、外のビルの屋上を見つめる。
「……IS?」
「なんだって……?」
シャルロットは急いでラウラの見る場所に視点を移して、自身のISを頭部のみ部分展開する。
ハイパーセンサーに映ったのは、黒と赤のボディカラーにアヌビス神の様な特徴的な頭部のアンテナを持つIS。
「グルゼオン…!」
「……グルゼオンだと」
シャルロットの呟きにラウラは驚愕する。
なにせ、そのISは以前のテロ事件の際に新たなISを召喚した曰く付きの代物だ。
「社長!」
冷や汗をかくラウラとシャルロットに、黒服の1人が駆け寄る。
「……どうしたの」
「警邏の者からの報告で、
「……」
シャルロットが部下から受ける報告の内容に、ラウラは聞きながら考え込む。
(グルゼオン…亡国構成員…やはり、シャルロット・デュノアは亡国とは敵対はしてるか…)
ぶっちゃけラウラはシャルロットが亡国の一員だとは、まるで思っていない。
前回の『キャノンボール・ファスト』の時も胡散臭いだけで、亡国ではなくこちらの利になる助言をしていたからだ。
だからといって、こちらの味方とは限らない。亡国の敵など、それこそ世界中にいる。
そんな確信を得つつ、ラウラは更に盗み聞きを続ける。
「報告ありがとう。今の所、僕はこうやってピンピンしてるよ。……ところで、その亡国構成員は?」
「はっ。発見したのみで捕らえることは出来ませんでした。ですが、奴ら『村橋』という人物を探しているようです」
「そう…うーん、とりあえず未来のIS学園生に何か無いように警備を強化しといてね」
手早く指示を出したシャルロットは、ラウラに向き直り財布から1万円を出す。
「これバイト代、色々ゴタゴタしてゴメン。今から僕忙しくなるからここでじゃあね!」
「ああ…貴様を好ましいと思ってる訳ではないが、ISに携わる個人として応援させてもらうぞ」
それを受け取ったラウラは、慌ただしく部下と移動するシャルロットを見送りビルを出た。
(ふむ…)
ビルの入り口から少し移動して、ラウラは先ほどの内容を精査する。
聞こえた内容はこの辺りで亡国機業が『村橋』という者を探しているというもの。
(時間は…まだあるな)
腕時計で時間を確認して、歩き出す。
彼女なりに『村橋』という者を調査しようと決めて、一歩踏み出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
同時刻。
ビルの屋上で佇むグルゼオンの元に、2人の男女が現れた。
「よぉ。2週間ぶりだなグルゼオン、“T”って呼んだ方がいいか?」
「こんにちは。テロリストさん……あら間違えた
「……織斑一夏に、更識楯無?」
現れた2人に、グルゼオン……“T”はくぐもったいつもの声で疑問符を上げた。
誤字脱字は遠慮なくどうぞ。