ISVD〜Infinite Stratos Verdict Day〜   作:高二病真っ盛り

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イギリスの名高き聖剣の王。アーサー王はワタリガラス(レイヴン)と縁が深かったようです。
そういう意味ではこの作品で一夏(黒い鳥)とセシリア(イギリス代表候補)がコンビを組むのは必然だったのかもしれません。


それは置いといて最新話です。どうぞ。


MISSION08 Verdict War
08ー01 KILLING DAY


キャノンボール・ファスト翌日は日曜日であり、当然休日である。

 

「よし!今日の朝練は終わりだ!」

 

「ハァ…ハァ…ありがとう、ございました……!」

 

しかし、休日だからといって鍛錬の手を休めぬ者はどこを探してもいるもので、篠ノ之箒もまたその1人だった。

IS学園の屋上で肩で息をしながら、特訓相手の千冬に頭を下げる箒に、千冬は口角を上げる。

 

「昨日のレース、見事だったぞ。一位、おめでとう」

 

「……いえ…ズルをして、第4世代機を貰ったのなら……結果は出さなきゃいけませんから……」

 

「……コネクションも立派な力だと思うがな」

 

「それをズルと言われたら、ブリュンヒルデのコネで一夏を守ろうとした私がな」と、千冬は肩をすくめる。

未だにゼェハァ言い続ける箒はそれもそうだと取り下げる。

 

「……でも、やはり私は、この専用機(ちから)を手に入れるべきではありませんでした」

 

「……それは、何故だ。篠ノ之」

 

「それは、紅椿(コレ)を貰った時の私は、その力に見合わぬ心の持ち主だったからです」

 

力を手に入れた人間は、えてして傲慢に、傍若無人になりがちだ。

 

それを振るい、人より強いという事実への快楽を求めてしまえば、最早糾されるべき悪となる。

そうならないために柔道、空手道、剣道……力を教える武道というのは力と共に作法と礼儀を叩き込む。

 

“力を振るっていいのは試合中、場内で、対戦相手にのみ。”

“終わった後も、相手への礼を欠かさずに敬意を払う。”

 

そうして人類は野蛮な闘争を洗練された競争に、“武”を人の“道”に変えてきたのだ。

 

しかし箒は、それを忘れてしまっていた。

 

中学までの彼女の剣道は、とてもではないが正しいものとは言えず、篠ノ之束から起こった事への苛立ちをぶつける道具となってしまっていた。

そしてそれは、IS学園でもまた尾を引いた。

 

『欲しいんだよね?君だけのオンリーワン、代用無きもの(オルタナティブ・ゼロ)、箒だけの専用機』

 

そう、今まで散々恨んできた姉から、一夏のそばにいたいというだけで、トラブルの種になるとわかっていて専用機を受け取ってしまったのだ。

一夏にその想いをぶつければ、彼なりに一緒にいようと、その想いを受け止めようと努力してくれた筈なのに。

 

『待て一夏! そんな犯罪者など見捨てればいい!』

『……悪りぃが、擁護はできねーよ』

『せめて…せめてオルコットが無事なら…』

 

そうして悲劇は起きた。

銀の福音(シルバリオゴスペル)との一戦での命令無視で、セシリアが墜ちる元凶となってしまったのだ。

不幸中の幸いで、セシリアもその尻拭いをした一夏も無事だったが、だからといってそれを良しとしてはいけない。

 

『好きと言わずに他の女と一緒にいるのが許せないだなんて身勝手にも程がありますわ!』

 

セシリアのあの言葉をキッカケにようやく目が覚めた。

過去(きのう)ではなく、未来(あした)を見ていこうと誓ったのだ。

 

そんな箒を、千冬は嬉しそうに見る。

 

「そうか…それでいいのかもな。力に対しては『自分には過ぎたもの』という認識が丁度いいのかもな」

 

「織斑先生…」

 

力というものに善悪はない。

それを決めるのは、使う人間の心だ。

 

過ぎた過去、起こした過ちは変えられない。

だが、来たる未来、これからの事はいくらでも変えて行ける。

 

「成就しろよ…お前の答えを」

 

「……はい!」

 

証人保護プログラムがあったとしても、姉が篠ノ之束だとしても、箒には学園を卒業後にただの箒として生きる道があった。

それを専用機を貰うことで潰したのは箒自身だ。だからこそ、この力をどう振るうのかをこの3年間の間に考えなければならないだろう。

そしてその教導こそが自分の仕事だと、千冬は決心するのであった。

 

「話は変わるが、篠ノ之。今日はどこかに行くのか?外出届があったと聞いたが…」

 

「はい。今日は実家に…篠ノ之神社に帰ってみようと思いまして」

 

「そうか…一夏と一緒ではないのか」

 

千冬の言葉に、すっかり息も整った箒は疑問符を浮かべる。

 

「…一夏はどこに?」

 

「セシリアと共に出掛けて行ってな。てっきりみんなと遊びに行ったのだと…」

 

(相変わらず仲良いなあの2人……)

 

失恋前の箒が嫉妬したように、一夏とセシリアはタッグマッチ以降常に組んでいる。

 

AEOS開発の為もあるのだが、なんだかんだで気が合うらしく、よく一緒にいるのだ。

授業と授業の間の休み時間ではわからない所を一夏が聞きに行ったり、お昼休みには食堂で未だに箸に慣れぬセシリアを教えてたり、放課後にはアリーナを借りて練習してたり、もう1人の親友『如月奨美』も入れて勉強会してたり、というか確か臨海学校のバスではナチュラルに隣に座ってたり……

 

(…仲良過ぎじゃないか……?)

 

マグノリア・カーチスの事を知らなければ間違いなくそういう仲だと認識していただろう。というか知る由も無いクラスメートの中にはそう思っている人もいる。

アレで互いの認識は親友なのだから驚きだ。

 

「ま、仲がいいのはいい事…だよな?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ショッピングモール『レゾナンス』

 

イーストモールのファミリーレストランで、朝に箒と千冬の話の種となっていた2人はやや遅めの昼食をとっていた。

 

「え、お前昨日で初めてB(ブルー)ティアーズ・D-Nx(ディーネクスト)を動かしたの!?」

 

パスタをクルクルとフォークに巻きつけながら、一夏は驚嘆の声を上げる。

 

「ええ。最適化処理(フィッティング)は済ませましたし、マニュアルは頭に叩き込んでましたが…本格的に動かしたのは昨日の一戦が初めてですわ」

 

ドリアをスプーンで掬いながら、セシリアは昨日の無謀さに自嘲的に笑う。

 

「正直、戦ってる時は生きた心地がしなかったですわ」と言うセシリアに、一夏は顔をヒクつかせる。

 

(コイツ…初めて動かした機体で殺し合いを制するってどんだけだよ…)

 

(『これは流石に、僕にとっても想定の範囲外だね。彼女があの世界にいたら、間違いなく候補者に入れてたと思うよ』)

 

一夏と財団は、セシリアの読み切れない才能に驚きを隠せない。

 

そもそもBティアーズ・D-Nxは一夏が卒業した後に操縦者も含めて完成する予定の機体だったのだ。

それをたったの半年足らずで実現させたイギリスの開発班も、規定の範囲に届いたセシリアも、予想を遥かに超えていた。

 

そも科学の進歩には、基本的に犠牲はつきものだ。

 

故にこの世界…IS世界の技術力は、基本的にAC世界のそれを下回っている。

なぜならそれは、この世界が一応平穏で、人道と道徳に則っているからだ。

 

しかし、人間というものはどちらの世界でも変わらないようで、革新へのヒントを与えれば大きく伸びてしまうようだ。

 

(『こちらの技術も…舐めたものじゃないねぇ』)

 

そんな事を考えて、財団は黒い鳥(ダークレイヴン)の中で眉を上げた。

 

「しかし昨日が初めてねぇ…そんな事なら今日はショッピングじゃなくって、慣らし運転に付き合った方が良かったか?()()()()()()()()()()

 

「つれませんわね一夏さんは。買い物は乙女の嗜みですわよ」

 

「ハッ、悪いな。俺はとんとその手に疎くてね」

 

「そんなだから、マグノリアさんの心を射止められないのではなくて?」

 

「……痛い所言うなよ」

 

そんな会話をしながら、2人は会計を済ませ店を出る。

次はどこへ行こうかと歩く2人の前に人影が現れる。

 

「……偶然だな」

 

人影から思わず溢れた素の言葉。その声の主の風貌に、一夏とセシリアは目を見開いて仰天する。

 

現れたのは、15、6歳程の黒髪の少女。

切れ長の茶の瞳は面倒な事になったと語り、対比的にニヤリと上げた口角は面白くなったと伝えている。

 

その顔は2人にとって、特に一夏にとってよく見知った顔。

己がAC世界に行く前の記憶の中の姿。

 

「千冬…姉……!?」

 

目の前のその顔は、昔の織斑千冬に酷似していた。

 

「クク……私は、()()()()()だ」

 

浮かべた冷笑は、決して千冬本人がするものではなく、氷の如き殺意は一夏の肌を刺した。

目の前の少女(マドカ)は、その視線をセシリアに向け口を開く。

 

「昨日は世話になったな、セシリア・オルコット」

 

「やはりその声…サイレント・ゼフィルスの操縦者でしたか。……その顔については予想外でしたが…」

 

(……財団。サイレント・ゼフィルスの操縦者って事は亡国機業(ファントムタスク)だ)

 

(『勿論だとも、既にISはいつでも展開できるようにしてある』)

 

素早く混乱から立ち戻った一夏は、セシリアとマドカの会話を聞き身構える。

こうして冷静になれば、思い当たる節はある。

 

『『カルティベイター』。クローニングによる才能の再現を主とする手法さ。過去に名をなしたパイロットのクローンを生み出し、育成の過程において教育と言う名の洗脳を行うことで、管理できる才能を育成を目指したようだね』

 

思い出すは、臨海学校での財団の説明。

ラウラのような試験管ベイビーは存在するし、千冬はブリュンヒルデとしてVTSのモデルになった時もあった。

そして、相手の所属は亡国機業(ファントムタスク)。第二次世界大戦中に生まれ、50年以上前から「裏の世界」で暗躍する秘密結社だ。

カルティベイターと全く同じとまではいかなくとも、似た例はあったのだろうと納得した。

 

「随分と警戒しているな」

 

「逆に聞きますが、ここで警戒しないバカを相手取りたくは無いでしょう?」

 

「喧嘩するならIS学園に行こうぜ。広いアリーナで思い切り暴れられるぜ?」

 

ISを構えて、臨戦態勢に入る一夏とセシリア。それに相対するマドカは、ヤレヤレと溜息を吐く。

 

「血の気が多いのは結構だが、今日は戦いに来た訳じゃない」

 

「……じゃあなんだよ」

 

「買い物だ、か・い・も・の。それを終えて帰るところだよ」

 

そう言う彼女の右手には、コーラが2本とポテチが1袋入ったビニール袋があった。

 

「……ま、ここであったのも何かの縁だ。いい事を教えてやる……ここから家までついてこられてもたまらないからな」

 

「……いい事?」

 

()()()()()()()()()()

 

「……」

 

その言葉に、一夏はセシリアの方に視線を送り、セシリアはそれに頷いた。

アイコンタクトで了承を得た一夏は、クルリと振り向きアウトモールに向かって駆け出す。

 

残された BT兵器操縦者(セシリアとマドカ)は向かい合う。

 

「お前はいかないのか?」

 

「あら?一夏さんは私の親友ですわ。何があろうと、生きて戻ってきますわよ」

 

「……そこで男性操縦者を持ち出さないあたり、本物というやつなのだろうな」

 

セシリアは優雅な微笑みを、マドカは獰猛な含み笑いを浮かべて言を交わす。

 

しかし、その間に張り詰める殺気は周りから一般客を遠ざけるには十分だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

アウトモールに向けてダッシュする一夏の顔は、焦りと困惑によって蒼白となっていた。

 

(なんで…なんでこんな時に、アウトモールの方から“あの感覚”がするんだ……!)

 

『どうにも俺は、人形共(コイツら)が苦手でね』

 

ファットマン同様、財団製のUNACに感じた嫌な感覚。

自分や他のアーキテクトが作ったUNACには感じなかったそれが今、アウトモールにいる。

 

(財団!なにか感知してないの?)

 

(『ISコアの反応は無いね。というか黒い鳥(コレ)の索敵能力なんてたかが知れてるんだから期待しないでよ』)

 

(っ!)

 

なにも確認出来てない現状で、ISを展開してリコンやUAVを使う訳には行けない。

走ることしか出来ない現実に歯噛みしつつ、止まることなく足を動かしていく。

 

「ついた!……アレは!?」

 

そしてアウトモールに着いた一夏の目に飛び込んできたのは驚きの風景だった。

 

(『アレは…間違いないね。以前君が交戦した無人機…ゴーレムだ』)

 

そう。それはクラス対抗戦と臨海学校で戦った無人機(ゴーレム)だった。

()()()()()()()()()()()()()()を纏わせ身動き1つせずに鎮座している。

 

「なんで…アレが?……ハッ!」

 

何かに思い当たったように一夏は周囲を見渡す。

 

「はい、あーん♡」

 

「おーい。あの在庫を出しといてくれよ」

 

「ねぇ、アレってISよね…?」

 

「今日はそういうイベントあったっけな…?」

 

アウトモールには老若男女家族に恋人、店員や職員が沢山おり、中には滅多にお目にかかれないISに興味津々な様子の者もいる。

再び視線をゴーレムに戻すと、そのカメラアイに光が灯るのが確認出来た。

 

(まずい…!)

 

「みんな、逃げろォォォ―――――!!」

 

一夏が叫ぶその瞬間。破壊の暴風が巻き起こった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ドゴォォォォン!

 

「今のは…!?」

 

視点は再びセシリアとマドカに戻る。

遠所…アウトモールから響く轟音に、セシリアは思わず視線を向ける。

 

「ククク…本当に行かなくていいのか?」

 

「行く訳には行かないでしょう…!貴女から目を逸らせば何をするかはわかりませんもの…!」

 

「フン…」

 

放った挑発に、強い言葉を返したセシリアから視線を外し天井を見上げる。

一体何をと思案しようとしたセシリアにマドカは告げる。

 

「正解だよ。お前」

 

「!」

 

瞬間、なにかを感じたセシリアは右に向かって思いっきり跳ぶ。

一時遅れて先程まで彼女が立っていた場所に紫の光が天井を突き破り、着弾する。

 

「アレは…無人機!?」

 

「お前の相手はアレだ。じゃあな」

 

そういって立ち去るマドカを追うことは諦め、セシリアは頭上のゴーレムを見据えISを構えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ぐっ…」

 

一夏の目の前に広がっている景色を形容するに相応しい言葉はなんだろうか。

 

地獄

奈落

泥梨

煉獄

 

いや、やはりそれは…彼が見慣れた『戦場』だろう。

 

 

千切れた腕から血を流し、フラつく足で逃げる男がいた。

二度と動くことのない恋人に、涙と共に声をかける女がいた。

母を求め泣き叫び、逃げ惑う大衆に蹴飛ばされる幼子がいた。

孫を庇い傷を負い、今その命を終えようとしている老人がいた。

手と手を取り合い、互いに声をかけて逃げる家族がいた。

我が先だと押し合い、いらぬ傷と禍根を残す他人がいた。

 

 

「……」

 

この嘗ての世界で飽きるほど見たパノラマを、血と死の世界を作り出した元凶を無言で見据える。

 

そして何も……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

例えば、篠ノ之神社近くの住宅街―――

 

「コイツは以前の無人機!?何故ここに!?」

 

 

例えば、鈴の中華料理店跡―――

 

「なんでよ…!なんでアンタが…アタシの昔の家の前にいんのよ!」

 

 

例えば、秋葉原の歩行者天国―――

 

「一体…何が起こってるっていうの!?」

 

 

5人の操縦者は同じタイミングで、己が愛機の名を叫ぶ。

 

 

B(ブルー)ティアーズ・D-Nx(ディーネクスト)!」

 

 

紅椿(あかつばき)!」

 

 

甲龍(シェンロン)!」

 

 

打鉄弐式(うちがねにしき)!」

 

 

黒い鳥(ダークレイヴン)!」

 

 

【メインシステム 戦闘モードを起動します】




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