ISVD〜Infinite Stratos Verdict Day〜   作:高二病真っ盛り

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お姉ちゃんがんばる回。原作の色っぽい会長はどこいったんだろう。

あ、原作では亡国じゃない人も亡国になってたりします。

では最新話です。どうぞ。


07-12 運命のDrive!

「お待ちください会長!」

 

「一体どこへ!」

 

制止の声、部下の叫び、耳に届くは困惑の音色。

 

爆走

独走

激走

暴走

 

バイクにこそならないが、簪が見れば思わずこう呟いてしまうだろう俊足で楯無は駆ける。

アリーナの通路から出入口へ、そこから臨海地区の市街地へ、見向きせずに疾走する。

 

『会長、前に言いましたけど、俺のISは索敵能力が他のISに比べて非常に低いです』

 

そんな彼女の脳内に浮かぶは、文化祭から1日後のこと。

一夏が「キャノンボールを行うなら、自分にも一枚、警備について噛ませて欲しい」と告げ、その具体的な方法を述べた。

 

『ええ、低いです。ですが、今回の事を踏まえるとアイツらはこういった所でISを使う事に躊躇いはありません。なら、手はあります』

『その前に前提条件としてなんですが、今回俺は警備を信用していません。会長の努力を無碍に扱うようなものですが、おそらく奴等が潜り込ませたスパイは大会当日まで残っているでしょうし、そいつらを使ってISを持ち込むでしょう』

『だから―――俺はコレを、UAVを使います』

 

そう言って一夏は表示した画像を見せる。

 

『コレはカメラユニットを上空に発射し、偵察を行なうパーツ。コレを使って俺はアリーナ内にいるISを索敵します』

『……まぁ通常戦闘で役立つ事は少ないんですが、こういう時はどうにか出来るんですよコレ』

『で、なんでコレを話したかと言うと、理由は二つありまして。一つはさっきも言った通り俺は当日の警備は信用していません』

『二つは単純に見分ける為に俺に当日の警備やISの状況を教えて欲しいからです。学園のISなのか、そうじゃないのかを見分けなければいけませんから』

『なので会長にだけ、コレを話します。俺は大会の日無許可でUAVを使いますし、それで見つけたら会長にだけ連絡します。多分それが、相手操縦者を不意打ちして捕らえられる唯一の技だと思っています』

『連絡したら、その場所に会長本人が向かって後ろからキュッとする。俺は、会長なら出来ると思ってます』

 

「……ふふっ」

 

その言葉に「やれるし、やって上げる」と返した過去の自分を賞賛する。

そして、先程届いた連絡を思い返す。

 

『会長、聞こえますか?』

『アリーナ内に不審なISはいませんでした』

『ですが、本当にいないのかとスナイパーキャノンで見渡した所――――』

 

―――ISが2機、そして……

 

「――――こんな所で何をしているのかしら?今日は、風邪で欠勤の筈でしょう……エドワース先生?」

 

臨海地区。大通りから少し逸れた小道。そこにあるチェーンのカフェの二階のテラス席。

 

そこでなにやらノートパソコンを使って指示を飛ばしていた女。

彼女の名前はエドワース・フランシィ。

IS学園の数学担当教師である。カナダ出身の25歳。現在彼氏募集中。趣味は盆栽。そして……亡国機業(ファントムタスク)の疑いを持たれているグレーゾーンの存在である。

 

「……」

 

「そこで、なにを、しているのかしら?」

 

“ねぇ、亡国機業さん”と書かれた扇子をバサリと広げ、隙のない出で立ちでゆっくりと楯無は近づく。

その文字を確認したエドワースは堪忍したかのように緊張した(かんばせ)を崩してノートパソコンを閉じた。

 

「っ!」

 

そして、左手にパソコンを持ち右腕の筋肉を使い1秒前まで自分が座っていた椅子を投げる。

最低限の横ステップで避けた楯無の目に映ったのは、そのままテラスから飛び降りるエドワースの背中。

それを見るや否や、楯無の足は一瞬にして最高速を出力し、テラスの手摺りを飛び越える。

 

追いかけっこが、始まった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「行っちゃったね。まったく、トップが忙しいのは学園も会社も同じってことかな」

 

「……さぁてな」

 

所は変わり、アリーナの通路では楯無の爆走を見届けたラウラとシャルロットが睨み合っていた。

既に周りに人影はなく、通路を通じて響く歓声も2人の間に横たわる空気に阻まれている。

 

「さっき、君は言ったよね。『なんで、VIP待遇がここにいるのか』…って。答えてあげるよ……()()()()()()()()()()

 

ネットリと放たれた、シャルロットの言葉に、ラウラは眉はピクリと上げる。

 

「……これはまた、どういう了見だ。貴様の言う通り、私は“織斑ラウラ”。ドイツ軍とはなにも関係のない、ただのIS学園生だ」

 

「いじわるだね」

 

クックッと含み笑いを手の平で抑えながら、シャルロットは妖しく目を光らせる。

 

なるほど、コイツは魔性だ。

ラウラは、確信する。シャルロットがあのまま学園にいれば、自覚が有ろうと無かろうと小悪魔と呼ばれる者になっていただろう。

 

「ま、君と直接話せただけで今日はよしとするよ。……僕が、君の敵では無いということの証明に、一つ教えてあげる」

 

「……」

 

「3番の電気室に行ってみなよ。そこで君は正義の味方さ」

 

ラウラの警戒を止めぬ視線を、なにもないように受け流しながらシャルロットは立ち去った。

 

「3番の…電気室……」

 

ラウラは反復するように呟いて、シャルロットが行った方とは逆の方に足を向けた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

視点は戻り、臨海地区埠頭の倉庫エリア。

楯無とエドワースのチェイスは決着がついていた。

 

楯無の手にはエドワースのパソコンがあり、持ち主のエドワースは楯無から5メートルの所で転がっていた。

 

カモメの鳴き声と、波の音が辺りを支配する中、楯無は汗ひとつかかずにエドワースを見下ろす。

 

「エドワース・フランシィ、ついてきてもらうわよ。亡国機業の事についてね…!」

 

「…っ!」

 

歯嚙みをし、悔しそうに睨むエドワース。

しかし、既に楯無の視線は彼女には向いていなかった。

 

ドゴォォォォン!!!

 

次の瞬間、楯無とエドワースがいた二箇所に爆炎と閃光が走った。

 

「不粋ね。捕まった者を口封じしにきたのか、それともこのパソコンの中になにがいるのやら…」

 

爆煙の中出でるは傷一つ無き楯無の言葉。

煙が晴れて出てきた姿は、それまでのものではなかった。

 

アーマーは面積が全体的に狭く、小さい。しかし、それをカバーするように透明の液状のフィールドが形成されており、それはまるで水のドレスのようである。

清廉にして流麗、高貴なる精神が波濤を成したその姿はロシアの第3世代機【霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)】!!

 

変身した楯無は、倉庫の屋根を見る。

 

そこにいたのは2機のIS。

 

橙のボディカラー、肩についた4門の砲門。アーマーを纏うISスーツは白色で遠目に見ればラファールと見紛うやもしれぬ。

それもその筈、活発そうな女“N(ナオミ)”が操るそれの名は“ラファールリヴァイブ・ソルジャー”!

 

灰のボディカラー、両手に携えるは二振りの中型剣。身体を染めるは黒のISスーツで、こちらは思わず打鉄と見間違えるだろう。

やはりその筈、物憂げな女“B(ボタン)”が操るそれの名は“打鉄・改”!

 

どこかで奪ったので有ろうラファールと打鉄を改修したその機体は楯無のボヤきになにも答えずただ鋭い視線を当てるのみ。

 

無駄かと判断し、楯無は隣を見る。

そこには意識を失ったエドワースが横たわっていた。

 

もうすぐ捕まるエドワースと、データの詰まったパソコンを処分するためにナオミはミサイルを発射。

それを察知した楯無はISを展開し、ナノマシンで形成された水のベールで自身とエドワースを守った。

 

先程起きた事を説明すればこんなに単純な事である。

 

だがしかし、この状況は楯無にとって実は予想外だった。

おそらく会場を襲撃するであろう2機が、まさかのまさかでこちらに回ってくるなどとは。

 

エドワース、そしてパソコン。

 

楯無は自分の命と共にこれら二つを、2機のISから守りきらなければならなくなった。

 

しかし、彼女の目に不安や恐れによる濁りは無くーーーいつでも来いと言わんばかりの威圧感を放っていた。

 

そも、この手に何人の運命を、人生を、その全てを乗せてきたか。

更識の、ロシアの、学園の命運とは我が内にあるのだ。

 

この程度の障害を跳ね除けられずしてなにが当主か。

 

なにが代表候補生か。

 

な に が I S 学 園 生 徒 会 長 か !

 

「……」

 

そうして睨み合いが続く。

 

10分、20分…否、体感の時間がそれなだけで現実では30秒も経っていない。

 

ブォン、ブォンブォンブォン!!

 

静寂を破ったのは、倉庫の間から届いた爆音だった。

 

ブウゥゥゥゥゥゥン!!!!

 

トタンの板を突き破り、深蒼のバイクが嘶きと共に向かってくる。

 

それは、睨み合う両者の間にドリフトしながら静止し、華麗にヘルメットを投げ捨てた。

 

「手伝いましょうか、生徒会長?」

 

「……まるでヒーローのような搭乗ね。簪ちゃんが喜びそうだわ」

 

「……!セシリア・オルコットだと…!」

 

バイクの主は当分帰ってこないはずのセシリアだった。

気品ある動作でバイクから降り、まるで世間話をするかのように語りかける。

 

「どうしたのかしら?そんなにキャノンボールを見たかったの?」

 

「ええまぁ、あちらでやる調整を諸事情でこちらで済ませる事になりましてね」

 

ま、ですが…。とセシリアはボタンとナオミを見る。

 

「こんな所にちょうどいい練習相手がいるのであれば、見過ごす手はありませんわ。生徒会長、ここは私に任せて撤収を」

 

確かに、いくら楯無に守りきれる自信があろうと不慮の事態とは常に起こるもの。

セシリアが彼女達を引き受けて、その隙に離脱というのは理にかなってはいるのだが――――

 

「大丈夫なの?」

 

数で対等となった状況をわざわざ不利に戻すというのも楯無には選択し難った。

 

「大丈夫、ですわよ」

 

その心配は無用だと、サムズアップと共にセシリアは2人の前に立つ。

その様子に任せたと暗に認め、楯無はパソコンとエドワースを抱え飛び去った。

 

「さて…逃げるのを待ってくれるだなんて案外善人なんですわね」

 

「ハッ!あらかじめビットで攻撃できないよう牽制しといてなーに言ってんすかねぇ!」

 

ボタンのその言葉に、セシリアは不敵に笑う。

それと同時に、事前に展開したビットがセシリアの周りに集結する。

 

「ま、そこまで文句を言われるのなら仕方がありませんわね。貴女達は、ビット(コレ)抜きで相手して差し上げましょう」

 

どこまでも相手をバカにした言葉にボタンとナオミの表情がピクリと歪む。

そんな視線すらスポットライトに等しいとばかりにセシリアは己が新機体を呼び出した。

 

B(ブルー)ティアーズ・D-Nx(ディーネクスト)!」

 

瞬間、セシリアを中心に青き星光が吹き出でる。

 

それは、名前こそブルー・ティアーズを継いでいるが、青と白を基調とした色以外は最早別物であった。

 

いつもであればセシリアの恵体を惜しげもなく晒すラインのくっきり出た胴体部は白を下地とした青の装甲に覆われている。

逆に、通常であれば空中での姿勢制御、速度調整を行う脚部の装甲は鎧のように人体の大きさに沿ったものに。

特徴的な4枚のフィンアーマーは消え失せ、背部に直接背負うのは一対の羽根のようなスラスター。

バイザーを纏いし頭部が無ければ全身装甲(フルスキン)とも思えただろう。

 

白き煌輝

青き篝火

 

未来(ネクスト)を照らす星の涙。

 

友の想いを運命に灯すその姿は、イギリスが開発した次世代機【B(ブルー)ティアーズ・D-Nx(ディーネクスト)】!!

 

「さぁ、ダンスタイムと行きましょう」




人物紹介
ボタン(B)
亡国機業の構成員。ベリーショートの茶髪でそばかすがある。「〜っす」口調の活発系

ナオミ(N)
亡国機業の構成員。長い茶髪で片目が隠れている。「……」を多用するボソボソとした陰気

誤字脱字は遠慮なくどうぞ。

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