ISVD〜Infinite Stratos Verdict Day〜 作:高二病真っ盛り
とりあえずリハビリがてら沢山のキャラを出していきたい
「ようやく、包帯も取れたか…」
『いやぁISの操縦者保護機能って素晴らしいねぇ』
文化祭から一週間後の休日。
一夏は学園の敷地の森の中でジャージに着替え、準備体操をしていた。
オータムとの戦闘での負傷が癒え、生身での勘を取り戻すべくトレーニングをしに来たのだ。
「おっし…行くぞ……!」
『ガレージ』からサバイバルナイフを取り出し、構える。
頭部には
「オォ!」
目の前に迫るエネミーに一夏はナイフを振るった。
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「くはー!」
一時間後、汗だくの一夏は、ナイフをしまい声を上げる。
ゴロンと地面に転がり、額に腕を置く。
『データ収集完了、お疲れ様。どうだい、何か得られたかな?』
「…ん」
木漏れ日が瞳に入るのを感じ、その眩しさに目を閉じる。心臓の鼓動が響き、息が整って行くのがわかる。
生きてるって、こういうことなのかな。
「……得られたけど、正直このデータじゃ少なすぎるよ。肉感がないっていうかさ」
『それは仕方ない。僕が持っているのはあくまでACのデータ。生身の人間の動きなんて、最低限のものしかないさ』
「……ACのデータか」
そういえば、あの世界。ACの世界では何度か無人機と戦ったし、又は無人機と共闘もしたな。
何故か、ファットマンと俺は財団製の、後に暴走した機体にだけ妙な気持ち悪さを感じていた。
不思議な事に自作、或いは共闘したアーキテクトのUNACにはなにも感じなかったのに。
ガサリ
茂みが揺れ、中から人が現れる。
「なにしてるの、織斑」
「これは…また。珍しいお客様ですね」
そこにいたのは生徒会長:更識楯無の妹、更識簪だった。
格好は普段のそれとは違い、油に濡れた作業服である。
「敬語はいい。同学年でしょ」
簪は寝転がる一夏の隣に座り、メガネをクイっと上げる。
「…特訓だよ。そういうそっちは?」
「機体開発で詰まったところが出てきたから、気晴らしに散歩」
更識簪の機体『
姉である楯無との和解後、そのツテを頼りに代わりの開発企業を紹介してもらい八割方完成した筈だが――――
「――――残り2割って、長いね」
目からハイライトを消しながら、簪はボヤいた。
「あー…うん。まぁ気持ちはわかるぜ。俺もそんな時があったからな」
「…噂でよく出る。タッグマッチの時にオルコットさんに上げたもの?」
「好きに解釈しとけよ。……そういや文化祭、なにしてたんだ?」
話ずらしたな。
そんな視線を一夏に浴びせながら、簪はポケットからタブレットを取り出し画像を表示する。
ムクリと起き上がって一夏は液晶を見た。
「へぇ、焼きそばか」
「定番でしょ?……私は裏方だったけど」
ふふふどうせ特オタで機械いじりしかしてない隠キャに花形は務まりませんよーだ。
そんなふいんき(なぜか変換できない)を出す簪を一夏は曖昧な目で見る。
次の時にはサッと雰囲気を切り替えた簪はタブレットをポケットに仕舞う。
「……そういえば、こうして話すのは初めてだね」
「そうだな」
「……文化祭、大変だったんだってね」
「そうみたいだな」
「…君も大変だったんでしょ?」
「……一週間そこいらで治る傷で、相手の左腕と禁止兵器を奪うのはな」
「もっと身体は大事にしなよ。……なんて、戦ってもない私が言える事じゃないよね」
フゥーと息を吐き、スクッと簪は立ち上がった。
「そろそろ息も整ったでしょ。立ちなよ」
「へ?」
情け無い声を上げながら、一夏は疑問の視線を向ける。
そんな調子を見て、説明不足だったなと簪は続ける。
「私は、日本の代表候補生にして、更識の家の者。特訓相手として、不足は無いと思うよ」
代表候補生は、ISを扱うに当たって本国であらゆる訓練を積んできており、その能力は旧世紀の一軍隊にも匹敵する。
単純な格闘能力だけなら、一般男性以上、軍人であっても対等な条件であれば限りなく互角に渡り合える程と言われる存在だ。
加えて、簪は対暗部用暗部『更識』の現当主の妹であり、立場上身につけなければならない護身術はかなりのレベルだろう。
一夏はこの誘いを断る手はないと判断して、素早く飛び起きる。
「んじゃ…お言葉に甘えさせてもらうぜ」
「言っておくけど、胸は触らないでよね」
「
「
互いに軽口を叩きながら、間合いを取る。
(『メインシステム 戦闘モードを起動…かな?』)
財団が言葉に出さずにアナウンスの真似事をし、それと同時に2人は動いた。
「フッ!」
先手を取るのは一夏。
簪の虚を突く為に、ダッシュからいきなり側転擬きのキックを繰り出す。
「ハッ!」
「グッ!」
簪は首に迫るそれを一歩引く形で躱し、引いた足から踏み込み掌底。
回転の勢いで体勢を直した一夏は、両腕でガードするがそのまま弾かれ後退する。
タタラを踏んでいる一夏に、簪は追撃をかける。
左ジャブ、右フック、右前蹴り、左後ろ回し蹴り、右足払い、左ハイキック、ダブル・スレッジ・ハンマー、右前蹴り、更に踏み込み右アッパー
流れるような怒涛のコンボが一夏を襲う。全身に流れる痛みが、チカチカと視界を明滅させる。
だが……
「――――見えた」
「ガフッ!?」
拳打の嵐の中、一夏のボディブローが、簪の腹部を捉える。
その一撃に、簪は体をくの字に曲げてしまう。
「オラいくぞォ!」
左手で簪の襟首を掴み、一夏は右腕を振りかぶる。
放たれた拳を、簪はギリギリの所で左腕でガード。そのまま一夏の右腕を掴み抑えようとする。
しかし一夏もここでついた勢いを落としたくなく、無理矢理、力付くで簪を放り投げる。
地面を転がり、仰向けに止まる簪。素早く立ち上がろうとするが、眼に映る一夏を見てやめる。
「オオォォ!」
一夏はそれを御構い無しに猛然とダッシュ、跳躍し、倒れた簪にジャンプパンチをお見舞いしようとする。
「セイ―――ッ!」
しかし、立ち上がるのではなく、寝たままの反撃を選んだ簪は、飛び込んできた一夏をオーバーヘッドキックの要領で蹴り飛ばす。
咄嗟に腕を引っ込めガードした一夏は、勢いそのまま簪の上を通り過ぎ、地面に転がりながら着地、体勢を直す。
攻守交代。
「おりゃああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
一夏よりも早く戦闘体勢に移った簪は、一歩一歩力強く疾駆し、一回転しながら跳躍。
まるでヒーローのような
「グワッ!?」
簪渾身のキックの喰らい一夏は呻き声を上げて吹っ飛ぶ。
倒れた身体を起こそうとすると、トンと額に指が当たった。
「…私の勝ち」
右手の人差し指と中指を一夏の額に当て、左手でズレた眼鏡を直した簪が、馬乗りになって動きを抑えていた。
「…降参」
一夏は諦めた表情で、降伏した。
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「……つっかれた…」
「……ハァ…ハァ…」
夏が終わり、短くなった陽が落ちて行く。
橙から黒のグラデーションに染まる空の下で、一夏と簪は精根尽き果てたとばかりに大地にその身を委ねていた。
「……10戦中3勝か…」
「ホント…いきなり強くなるね…」
息を切らしながら簪は、戦った感想を述べる。
最初の内は多少の反撃はあれど、簪が終始圧倒する形だったが、5戦目を過ぎた辺りでそれが変わった。
一夏が急に簪の動きに対応してくるようになってきたのだ。
「ISのお陰かな。手や足だけじゃなくて自分の全身を動かして、相手の動きに対処する事を覚えざるを得なかったし」
レバーとペダルのACでは、流石に全身運動とはいかず、そういう意味ではISを動かす今の方が単純な身体能力は上なのかもしれない。成長期もあるし。
「……まるで、自分の身体を動かさずに、なにかを操作して対処する事はあったみたいだね」
「ご想像にお任せするぜ」
「そう……カッコイイロボならいつか乗せてね」
カッコイイ…カッコイイねぇ……
一夏はカッコイイACを思い浮かべる。
自分の機体は、ミッション毎に姿を変える為除外。
だとすると、個人的にイケメンな機体といえば自分と組む前にファットマンとコンビを組んでいた兄弟子『カイト』のヘッドショットか、或いは思い人であるマギーの機体か。
まぁなんにせよ、上司であり恩人である会長の妹さんを動く棺桶に乗せるつもりはないが。
「ま、いつかね。そろそろ戻ろうか、先生に怒られちまう」
話を切り上げ腰を上げる。
何も言うつもりは無いと判断した簪は特に気にする事なく続いて立った。
「…明日からまた開発の時間かぁ」
「頑張ってねー」
はーとため息を吐きながら、簪は愚痴る。
「……火力とスピードの両立ってどうすればいいのかな」
「火力ねぇ…だったらもう戦艦でも積んじゃえよ」
「いやそれはダメでしょ」
「ちょっと意味がわからない。積んじゃダメなのか?……それにさ、最近の仮面ライダー、スナイプだって戦艦纏うんだからISがやってもOKだろ」
それは、仮面ライダーだから…!と反論しようとした簪の動きがピタリと止まる。
十割冗談でのたまっていた一夏は、その様子を不思議そうに見る。
そして1分程だった時――――
「そうだ――――!!!」
――――闇が支配し始めた森の中で簪の声が響いた。
「そうだよ!仮面ライダーだよ!ウルトラマンだよ!エグゼイドだよ!エックスだよ!ゴーストだよ!……鎧武だよ!」
ヒャッホイ私は天才だー!と叫び、そのまま寮に向けて駆け出す簪。
置いてかれた一夏はポカンと間抜けな顔を晒した。
「……変な感じに、頭を殴っちゃったかな?」
『……なんでもいいけど、門限迫ってるよ』
怒られた。
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