ISVD〜Infinite Stratos Verdict Day〜   作:高二病真っ盛り

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あれ?この小説主人公セシリアだっけ?(書いてて筆が乗った感)


07ー05 サイレント・ゼフィルス

「ハァァァーッ!」

 

「フン!」

 

一夏がオータムと激戦を終えた同時刻、アリーナ前の地上10メートルでの戦いもまた佳境を迎えていた。

 

(強い…!)

 

マドカの技量は遥かに高い。未だ自分が不可能なBT兵器が高稼働時に可能な偏光制御射撃を可能にするぐらいに。

 

サイレント・ゼフィルスの基礎データにブルー・ティアーズのデータが使われているのも含めて、認めたくは無いが遠距離での撃ち合いとなれば自分は負ける。

 

セシリアはそう確信していた。

 

(面倒な…!)

 

セシリアの強さは想定以上だ。少なくともデータ以上に。

 

データで見た限りでは銃撃戦に持ち込まれても楽に勝てる相手だった筈だが、偏光制御(フレキシブル)でミサイルビットを撃ち落としたのを見た瞬間、信じられない事にレーザーライフルを背中のジョイントに納め、左手をビームマグナムに、右手を金属ブレードに持ち替え接近戦を挑んできたのだ。

 

その咄嗟の判断にマドカは余裕の笑みを一瞬消した。

 

実の所、セシリアの判断は間違えていない。

 

サイレント・ゼフィルスと違い、ブルー・ティアーズのビットはAEOSによりオートで動かす事が出来る。

 

同系統の相手で撃ち合いで負けるのなら、相手のビット操作能力を奪うために近接に走る事は有効な手の一つだ。

 

無論、ずっとオートという訳にもいかない。

状況によってオペレーションや、マニュアル操作をしていかなければいけないが、それでも目の前の相手に集中しながらビットとの同時攻撃を行える。

 

何せ相手は格上、多少の無理無茶無しで倒せるものではない。

 

「踊りなさいな!」

 

セシリアは左腕を横薙ぎに振るい同時にビームマグナム『スターブレイズmk-Ⅲ』のトリガーを引く、連射された光弾は扇状に広がりマドカの左右への逃げ道を防ぐ。

 

「フッ!」

 

それに対してマドカは下への回避を選択し、上空のセシリアに狙いを定めようと右手の銃剣ライフル『スターブレイカー』を構える。

 

「ヤァ―――ッ!」

 

「チッ…」

 

そこにセシリアがライダーキックの体勢で突っ込む。

マドカは舌打ちをし、銃剣を引っ込めセシリアの背面に回るように急旋回で回避行動をとる。

 

ガキィィィン!!

 

マドカは銃剣を振りかぶりセシリアの背中に叩きつける。

それを含めて予想していたセシリアは右手の金属ブレード『デュランダル』を巧みに使い背面受けで銃剣を防ぐ。

 

(オペレーション ブラボー!)

 

一瞬固まったマドカにセシリアのビットが光弾を発射し仰け反らせる。

その隙にセシリアは左回りで振り返り同時にミサイルビットを発射、それはマドカに目掛けて飛ぶかというところで爆発した。

 

(爆炎を囮にする為に自ら撃ち落としたか…)

 

踊るような銃撃、舞うような剣技、戦場をステージか、それともお遊戯会と勘違いしてるのではないかと思考しながらマドカはセシリアを待ち構える。

 

「…!上か」

 

「その通りですわよ!」

 

左手のビームマグナムも金属ブレードに持ち替えたセシリアは二振りの煌めきを思い切り振り下ろした。

それに対抗してマドカは左手にピンク色のナイフを展開。銃剣と交差させセシリアの斬撃を受け止める。

 

二機はそのまま地面に落下。砂埃が舞うが、すぐさまに地上で始まった激しい剣戟により吹き飛ばされる。

 

方や双剣、方や銃剣とナイフという違いはあれど同じ二刀流がぶつかり合う。

 

セシリアの剣閃は流麗にして華美。いかなる時も貴族たる優雅さを持ち合わせた高貴なる者の剣。

エムの剣閃は質実にして剛健。邪魔なものを力づくで潰し、殺し、黙らせる闇に生きる者の刃。

 

(……おかしい)

 

マドカは訝しむ。

 

なるほど、憎らしいが織斑一夏が開発したAEOSの有用性は認めよう。

隠蔽したサイレント・ゼフィルスに気付くセシリアの素質もだ。

 

だが、ありえない。

 

以前セシリアのデータが送られてきたのは8月の終わりの週だ。そこから考えるにあたってこの成長率はありえないのだ。

 

例えるなら、50メートル走10秒がいきなり5秒に縮むようなもの。そんな成長、あり得ていい筈がない。

 

(お前は一体…なにを秘めている…!)

 

「ハァァァッ!」

 

マドカはその思考をそのままナイフに乗せ、切りつける。

身をよじる形でセシリアは躱し、反動を活かして反撃に移る。

 

(まだ行ける!もっと行ける!更にいける!!)

 

セシリア自身もまた、今の自分が変だという事に気付いていた。

 

そうだ。撃ち合いに持ち込まれようと無かろうと自分は負ける。技量の差も、機体の差もそれを如実に表している。

今なお戦闘不能となっていないのはひとえに相手が手を抜いているからに過ぎない。

 

だがそれでも、私は勝つ。

 

この想いを無理だと、ただの世迷言には思えないのだ。

 

不思議なものだ。

普段であれば避けれない筈の銃撃が躱せる。

普段であれば見えない斬撃が見える。

普段であれば当たらない攻撃が当たる。

ならば――――

 

(――――普段であれば勝てない貴女にも、勝てる!)

 

「これでェ!」

 

その決意をセシリアは剣に乗せ横一文字に振るう。セシリアから振るわれた剣筋にマドカは銃剣を差し込み防ぐ。

 

「終わりィ!」

 

「グ―――ゥゥゥ!!」

 

そこに空いたもう一振りの剣から放たれる縦一文字の斬撃がマドカの体を、サイレント・ゼフィルスを切り裂きシールドエネルギーを一気に削る。

この戦いで初めてセシリアがマドカに与えたまともなダメージである。身体に走る衝撃に、マドカは思わず声をあげた。

 

「まだまだ行きますわよ!」

 

そう言い追撃しようと剣を構えるセシリア。

 

「雑魚が…遊びは終わりだ!」

 

しかし、マドカの呻き声はとうに消え、サイレント・ゼフィルスのバイザーは操縦者の殺意を示すように光った。

 

「フン!」

 

「セイッ!」

 

銃剣を袈裟切りに振るいマドカはセシリアと鍔迫り合いを行う。

ここまでなら今まで展開された剣戟戦であった、しかしここからが違った。

 

マドカはそのままの体勢で銃剣のトリガーを引き発砲、放たれたBTエネルギー弾は偏光制御されセシリアの頭上から着弾する。

 

「キャア!!」

 

その威力によろめいたセシリアの隙をマドカは見逃さない。左手のナイフを逆手持ちに切り替えセシリアの右腕から剣を叩き落とす。

次に左腕からも同様に剣をはたき落とすと右、左とハイキックを浴びせ、更にPICで体を制御し空中で一回転、引き絞られた足から放たれた回転蹴りはセシリアの顔面を捉え吹き飛ばす。

 

「カッ……ハッ……!」

 

吹き飛ばされたセシリアはアリーナの壁にぶつかり止まる。

 

「死ね」

 

無論、そこで攻撃の手を止める程マドカは甘くない。

銃剣の弾丸をエネルギー弾から実弾に切り替え、ビットとの斉射を壁にもたれかかっているセシリアに浴びせる。

 

「ガ……ギ……う…ア"ア"ア"ア"!!」

 

ブルー・ティアーズの装甲が、シールドエネルギーがみるみるうちに剥ぎ取られていく。

身体に浴びせられる衝撃にセシリアは悲鳴をあげる。

 

「……」

 

銃撃が終わり、ブルー・ティアーズが吹き飛ばされた場所にもうもう煙が上がる。

ビットと共に上昇したマドカはその様を見下ろしている。その様子に今までのような隙は一切無い。

 

「……やはりか」

 

ギャウッ

 

巻き上がる煙を貫き、戦意を持ってこちらに向かうレーザーをシールドビットで防ぐ。

 

「…なにが、やはりと?」

 

ギャギャウゥゥゥッ!

 

「!?」

 

マドカがセシリアのレーザーライフルを防ぎ、継戦を確認した正にその瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

それはまさしく、BT兵器の偏光制御(フレキシブル)。目の前で見せられたそれを、セシリアは土壇場でものにした。

 

「ケホッケホッ…どうでしょう?貴女が見せたお手本通りに行きましたか?」

 

軽く咳き込みながら、セシリアはその可憐な顔に誰しも見惚れる笑顔を表す。

今のマドカとの状況を覆す決定的な手にはならない。しかしセシリアは、マドカに一矢報いることは出来た。

 

「フン、文字通り煙に巻けばいい物を、死にたがりなのか?」

 

嗜虐的な笑みと浮かべてマドカが問う。

 

「先程の貴女の言葉を返しますわ、『ソレを許す貴女でもないでしょう?』」

 

「フッ…その通りだ」

 

セシリアはレーザーライフル『スターライトmk-Ⅲ』を

マドカは銃剣ライフル『スターブレイカー』を

 

お互いに銃口を向けながら口を動かす。

 

エムはこの状況になってもなお勝ちを、生存を、そして未来を諦めないセシリアの瞳を見た。

 

「…喜べ、先程の言葉は取り消してやる」

 

「アラ…では尻尾を巻いて逃げろと?」

 

「ハッ、馬鹿が。足元にも及ばないの方だ」

 

「……」

 

「足元に及んでいるのは認めよう…お前は、私の足元で潰される虫ケラだ。今からな…!」

 

そういいマドカは銃剣の弾丸を再度エネルギー弾に切り替える。

セシリアに向けられた銃口に光が集まって行く。恐らくは殺す気だろう。

 

「蛮勇が過ぎたな。性能も技量も劣る貴様が、挑んでいい相手じゃ無かったんだよ…ゴミのように燃えろ」

 

「……別に蛮勇で挑んだつもりはありませんわよ…」

 

「…ほぉ?」

 

セシリアの口から放たれたつぶやきに、マドカは反応を示す。

 

「性能で負けていようと…技量で負けていようと…あの時あの場所で戦えたのは私1人だけ……なら、貴族として民草を守る為に立ち上がるのは義務でしょう?」

 

セシリアがマドカを見つけた時、あの場所には多くの戦えない人々がいた。だからこそ彼女は自身を囮に誘い出した。

例えそれが、命を落とすとしても。

 

「…没落貴族がよく言う。身も心も平民となれば生き延びられたろうにな」

 

「それが出来ないから私はセシリア・オルコットですの……それに、貴族としての責務だけではありませんわ…だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

セシリアには自身が定めたライバルが2人いる。

 

1人の名前は鳳鈴音(ファンリンイン)

 

クラス代表戦から始まった彼女との親交は深く、今や互いに親友と呼べる仲だ。

クラス代表戦、タッグマッチ準決勝戦、そしてその他の放課後での模擬戦闘と何度もその武器を交わしてきた。

 

胸を張っていえる。彼女は最高にして一生の親友(ライバル)だと。

 

もう1人の名前は織斑一夏(おりむらいちか)

 

入学当初のやりとりで険悪となったが、無人機戦、タッグトーナメントで共闘、その後も親交がある友だ。

 

今にして思えばあの時の私はなんて浅ましかったのだろう。

 

家を守る事だけに執着する事で、周りがなにも見えていなかった自分は当たり前のように孤立した。

膨れ上がったプライドから始まった暴虐なる振る舞いは自身の立場を容易に脅かした。

 

取り戻すには遅く、これからも私は孤高のクラス代表なのだろう。

 

だが、それでも。

 

一緒に居ようとしてくれる友がいた。それが彼だ。

 

無人機戦から始まった付き合いでは、お互いクラスから浮いていたことも相まって彼はよく私に話しかけてくれた。

あれだけ失礼な態度をとって何故私と親交を持とうとするのかを聞いた事がある。

あの時一夏さんは「よく言うだろ。『昨日の敵は今日の友』ってな」と言っていたがなるほど、と彼の過去を聞いて思ったものだ。

 

この2人を、私は追い抜きたい。

 

私はそう思っている。

 

そして優先度が高いのが一夏さんだ。

彼はこの学園の卒業と同時にこの世界から居なくなってしまう。

だから彼があちらに行く前にもっと強く、彼が示した強さを彼に証明できるほど強く、もっともっと――――

 

「――――私は強くなりたいだけですのよ。多少危険な真似をしても、ね」

 

「ハハハ、傑作だな。強くなろうと身の程知らずに挑んで死んでしまうのだからな」

 

笑わせてもらった礼だ、コイツを受け取れとマドカはトリガーに指を掛ける。

それを見たセシリアはビットとライフルで少しでも相殺しようと構えた。

 

「…死ね」

 

セシリアに死を運ぶ凶弾が放たれるというその瞬間――――

 

ズガァァン!!!

 

風を切り、音を抜き去った徹甲弾がマドカの右手を撃ち抜いた。

 

「グ―――ァァァッ!!……今のは…狙撃……だと…!?」

 

サイレント・ゼフィルスの右腕部装甲を破壊し、絶対防御が発動する。更にサイレント・ゼフィルスのハイパーセンサーはエムに追加の情報を教えた。

 

「ああああああぁぁぁ!!!!」

 

「後ろだと…!?」

 

「あたしの親友に…なにしてんだぁぁぁぁぁ!!!!」

 

叫びながら猛スピードでマドカに突撃する甲龍(シェンロン)。それを操る鈴は狙撃のダメージで身動きが取れないエムを勢いそのまま、力任せに双天牙月で薙ぎ払った。

 

「ガァァァァァッ!」

 

叩き落とされたマドカは土煙をあげながらセシリアから離れたアリーナの壁に激突、ようやくその勢いを止めた。

 

「ごめん遅くなった!大丈夫…じゃ、ないよね…」

 

壁に寄りかかるセシリアをマドカから守るように降り立つ鈴。

相手を見るために振り返ることはしないが、それでも表情は友を傷つけられた憤りに満ちていた。

 

「…ラウラさんですわね?」

 

「そうよ。ラウラの奴、ヤケに慌てて織斑先生を探していたから何事かと思えばこんな事になってるなんて…!」

 

「…礼を言いますわ。ありがとう、親友(鈴さん)

 

心からの感謝をセシリアは述べる。

顔を見ずとも、その言葉に鈴は笑顔で答える。

 

「ええ!……さぁ来なさい、セシリアのパチモン!今度は私が相手よ!セシリアには指一本触れさせないんだから!」

 

「パチモンって……アレ、英国(ウチ)の姉妹機なんですのよ…」

 

「え?あ、ごめん……さぁ来なさいIS泥棒!」

 

「締まりませんわねぇ…」

 

ガラリ、音を立て瓦礫の中からマドカが現れる。撃ち抜かれた右腕はISスーツがむき出しとなっており、幾度となくセシリアに傷をつけた銃剣はその手から消え失せていた。

 

しかしその視線はセシリアにも鈴にも向けられておらず、セシリアから見て左後方のみを見ていた。

 

(あの方向は――――)

 

マドカへの警戒を鈴に任せ、セシリアは視線の先を辿る。

 

(――――あの方向は確か、狙撃弾が飛んできた方向。狙撃手を探しているのかしら…?)

 

再び視線をマドカに戻すと今度は誰かと通信しているようだった。

 

「――――スコールか、ああ……チッ了解した、回収し次第帰投する」

 

この騒動の黒幕だろうか、スコールという言葉を聞き取ったセシリアは思考する。そんなセシリアを背中に、鈴はマドカへの警戒を緩めない。

視線を動かして2人を一瞥し、マドカはビットを自身の近くに寄せる。

 

「……フン」

 

その一声と共に6基あるビットの内3基を地面に、もう3基を鈴に向けビームが放たれる。

 

「セイヤッ!」

 

向かってくる分は鈴が龍砲で撃ち落としたが、マドカとサイレント・ゼフィルスは地面にビームが放たれた事により発生した煙に紛れて消えた。

 

「……終わったの?」

 

「……どうでしょう、ね……左後方、警戒を」

 

ハイパーセンサーに表示された情報から読み取った通りの二機のISが2人の前に降り立つ。

 

「無事かセシリア!鳳!」

 

先に降り立ったのは紅のIS『紅椿』。

 

操縦者の篠ノ之箒はすぐに駆け寄り、声をかける。

 

「財団、スキャン頼む」

 

次に降り立ったのは黒のIS『黒い鳥(ダークレイヴン)

 

操縦者の織斑一夏は辺りを見回して索敵する。

 

「私は大丈夫、でもセシリアが…!」

 

「…かなり打ち付けたな、これは。直ぐにでも医務室に行ったほうがいい」

 

「……もうこの辺りに敵はいないみたいだ。でもセシリア、装甲は解いてもISは解くな。操縦者保護機能を維持したまま行くぞ」

 

一夏の言葉に従い、ISスーツだけになる。その瞬間、緊張の糸が切れたのか視界が一気にブラックアウトした。

 

「え!?…セシリア!セシリア!!」

 

響く鈴の声を聞きながら、セシリア・オルコットは意識を手放した。




誤字脱字や、キャラの口調が変などは遠慮なくいってください。

後、できれば応援してください。
それで俺は頑張れます。

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