ISVD〜Infinite Stratos Verdict Day〜 作:高二病真っ盛り
覚えてる人はいるのかな。
とりあえず程度に更新できる時に更新してこうと思います。
どうか気長にお付き合いください。
追記:次回更新は3/16日です。
「んん…くぁ〜…ふぅ……」
人気の無いベンチに白髪のカツラを被った青年、一夏が腰掛け空を見上げている。
徐に一夏はグイッと腰と背筋を伸ばし、戻す。頬を撫でる風は夏の終わりを思わせる涼しさと、まだまだ夏なのだと告げる熱さを含んでいた。
夏休みも終わり早9月。
遂に訪れた文化祭に盛り上がるのはIS学園も変わらないらしい。
最も、IS学園に今日入れるのは学生と先生と職員と、そして生徒に二枚配布される招待状を受け取った一般の人。大体親か兄弟姉妹か中学までの友達なのだろうが。
ちなみに彼は弾と蘭に送……らなかった。
理由?2人とも先にお呼ばれしてたからだ。後者は如月に、そして前者は虚に。
いやうん、爆ぜろ。キャンセルの連絡を貰った一夏は幸せを祈る七割、三割を文頭に思った。
『随分と余裕だね。傭兵というのは、頼まれたことには何があろうとこなすものだと思ってたけど』
いつも動き続ける一夏が珍しくのんびりしているのが珍しいのか財団が言葉を飛ばす。
「……傭兵流に則るならさ、依頼主から引っ込めと言われたら引っ込むしかないんだよ」
ふう、と息を吐きながら一夏が答える。
そもそも何故この時間はクラスのコスプレ喫茶にウェイターとして働いている筈の一夏がいるのか。
何故やけに疲れ切っているのか。
何故人気の無い場所にいるのか
その答えはただ一つ。
「…想定の範囲外だぜ。俺の評判は」
『まあ、側から見ればブリュンヒルデを同じ土俵で倒した、世界で唯一の存在だからねぇ。男性操縦者という所も含めれば、妥当かな?』
そう。財団が述べた通り夏休み前の一戦で一夏は千冬を、ブリュンヒルデを倒している。
その後すぐに夏休みになった故か特に異常は無かったが、そこは文化祭『世界最強を倒した男をいい機会だから見に行こう』という者がドッとコスプレ喫茶に押し寄せたのだ。
これでは出し物どころか人混みで怪我人が出ると如月の発言により避難命令を承った一夏は一先ず逃亡、そうして今ほとぼりが冷めるのを待っているのである。
「……そういえば、ガーダインさんはなして俺にこんなものを渡したんだ…?」
『ガレージ』から1枚のカードを呼び出す。
そのカードには『Dear friend 〇〇○-△△△△』というメッセージと共に電話番号が書いてあった。
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〜一週間前 ザギンのなんかお高そうな料亭〜
「うーん、身嗜みに変な所ないよな…?」
『制服に変なのも何もないと思うけどね』
楯無からガーダインと食事をするように言われた一夏は指定された料亭に向かっていた。
店名や場所に間違いがないことを確認し入店。言われた通りに名前を伝えると直ぐに奥に通された。
「先生、お見えになりました」
「通したまえ。…来てくれて感謝するよ。織斑くん」
座敷で胡座をかいている髭を蓄えた初老の男。彼の名はガルシルド・ガーダイン。
代々続くアメリカの政治家一家の次男であり、やや強引ながらもその革新的な手腕には多く賛同者がいる。そしてIS委員会の重鎮だ。
「お会いできて光栄です。ガーダインさん」
「ガルシルドで構わんよ。ガーダインでは兄と混同してしまうからね。
座ってくれ、今料理が来る」
では、と一夏は上座に正座で座り目の前のガルシルドを注視する。
新聞やテレビで何度か見かけたが、こうして直接対面して見るとなるほど、多くの者を惹き付けるカリスマと言うのだろうか自身と気迫、聡慧さに満ちている。
「日本語は覚えたのだが、正座はどうにも苦手でね。
悪いがこの…あーアグラというので失礼させてもらうよ」
「ああいえ、お構いなく」
「すまないね。おお、来たようだ」
AC世界に行く前も、行っている最中にも縁がなかった高い会席料理が目の前に並ぶ。
趣味でお菓子作りをしていたとはいえヘリの中のハンバーガーや、オイルの匂い漂う街でのホットドッグ等、ジャンクな味に慣れ親しんでいた舌に合うだろうかと考えながら一夏は付け焼き刃なマナーで箸を握った。
「…一つ、よろしいでしょうか」
「なんだね?」
「何故私と食事を?」
食事中唐突に一夏が尋ねる。その問いにガルシルドはフッと笑い答える。
「質問に質問で返すようだが、君と直接話したいIS関係者は幾らでもいると思うがね?」
「…そうですね。でも…」
スゥッと息を吸い一夏は続けた。
「貴方は、少なくとも私を男性操縦者としては見てませんよね?」
「……」
無言になるガルシルド。張り詰めた空気が辺りを漂う。
今度はガルシルドが息を吸い、言葉を発した。
「織斑くん、一つ交渉しないか?」
「交渉?」
「私は君に質問したい事があってだね、君の願いを一つなんでも叶える代わりに君は嘘偽りなく答えてくれないか?」
なかなか難しい交渉だ。一夏はそう思った。
ガルシルドはIS委員会の重鎮。並大抵の事は叶える事ができるだろう。
だが、叶える事が大事になればなるほどそれによって生まれた因縁に巻き込まれる確率は高まる。
かと言ってチャチな願いではこちらが答える内容と釣り合わない可能性があるし、相手にも失礼だ。
あの世界でずっとマギーやファットマンに交渉事を任せっきりにしていた事を一夏は悔いる。
(『どうするんだい?突っぱねるという道もあるけど』)
(……)
確かに思い浮かばないなら、断るのが最善だろうが…いや、一つあった。どうしても、直感で無視出来ない事があった。
「ガルシルドさん。あの噂…『もう1人の織斑一夏の噂』を知っていますよね?」
「うむ。世界各地で君にとてもそっくりな男の目撃証言があるな」
弾からも聞かされた噂。
もちろん唯のそっくりさんやわざと似せた風体をした誰かなだけかもしれないが、それはそれだ。
「そして、聞きましたけどどこかの研究所が零落白夜によって襲われたらしいですね」
「……」
そこについて知ってはいるが何も反応するつもりは無いと無言になるガルシルド。
一夏は特に気にせずに続けた。
「この二つ。関係があるかどうかを調べて欲しいんです」
「……なるほど、確かに自分に関わる事態が二つ並行して起きていれば関連性を疑うのも当然だな」
「はい」
織斑一夏似の男が世界各地で目撃されている。
ロシア研究所の破壊が『零落白夜』で行われていた。
二つの事態を知った一夏としてはどうにも関係ないとは思えない感覚があった。
(コレはきっと、俺に何か関わってくる)
財団が自分を選別していた時の予感。
その予感を感じていたのだ。
「ガルシルドさん…」
「うむ、その依頼を受けよう。では…」
「……」
質問を行おうとするガルシルドに、ゴクリと一夏は生唾を飲む。
傭兵として潜り抜けた死線とはまた違う緊張感が身を襲う。
2年間どこで何をしてたのと言われたらどう答えようか。
「君が作ったブルー・ティアーズのシステムAEOSについてなのだが…アレは…IS以外にも転用可能かね?例えば遠隔で操作するロボットアームなどなのだが…」
「へ?ああはい、まぁやれると思いますが…というか相応の報酬が出るならアレのプログラム売りますけど」
身構えていた一夏からすれば拍子抜けな質問。想像していたのと比べまるで違う。
「おおそうか、それは有難い!是非とも後で商談させてくれ!」
「え?あ?はいぃ?」
ドッとガルシルドの口から流れ出る言葉の洪水に飲まれ一夏は困惑する。おかしい、こんな事になる空気だったろうか。
「…想定の範囲外という顔をしているね織斑くん」
「ええ、まぁ」
テンションを元に戻したガルシルドにぼけッとしながらも答える。
「正直な所だね。君が何者なのかなど、どこで技術を覚えたのかなど私には些事に過ぎない。大事なのは君が持つものが今生きる人々にどれだけ益となるかなのだ」
「……」
圧倒される一夏を余所にガルシルドは続ける。
「もしかすれば君は束博士から直接技術を教授して貰っていたのかもしれない…だが、それはそれで結構だ。技術を秘匿する束博士の代わりに君がその技術を広められるのだからな」
「優れた一部の天才により新たな領域が切り拓かれ、そしてまた優れた秀才によってその領域は普遍のものとなる。そうして人類という種は歩みを進めてきた。それはこれからも変わらない」
「ISも同じだ。今はまだ一部の人間にしか扱えず、数も限られたお世辞にも未だ実用的とは言えない代物だ。だが…」
ガルシルドはギュゥっと拳を握りしめて語る。
「だが、それでも我々はこれを普遍とする義務がある。普遍とし、普通とし、量産し、常識とする。それが我々の義務なのだ…」
「ガルシルドさん…」
「すまない、熱くなったな。質問への解答感謝する。これを受け取ってくれ」
そう言いガルシルドは一枚の黒いカードを取り出す。
そのカードには『Dear friend 〇〇○-△△△△』というメッセージと共に電話番号が書いてあった。
「これは…?」
「一度だけ使える私への直通ラインだ。好きなように使いたまえ」
ガルシルドの発言に一夏は目を見開く、その手の事に疎い彼とてこのカードが持つ価値の大きさぐらいはわかる。
「どうして私にこれを…?」
「フッ…」
ガルシルドは笑うだけで何も答えなかった。
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「俺が何者でもいいというけど、ならどうしてこれを渡したんだろうな…」
時は戻りIS学園。ベンチに座りながら一夏は日に透かすようにカードを眺める。
男性操縦者に独自のコネクションを築きたいというなら理解出来る、今の自分はそういう立場だということは理解している。
『嘘をついてるようには…見えなかったねぇ』
「ああ」
最大限の警戒を持って彼を観察していたというのに、読み切れない。
嘘はついていないのだろう。だが、あの言葉全てが本音と言えるのだろうか…?
「わっかんねぇなぁ…」
「ああ、もしかして…織斑さんですか?」
「……誰です?」
ふと、声がかかる。
空に向けていた視線を地上に戻し、一夏は声の主を見る。
問い返されたスーツの女性はハキハキとした声で応える。
「失礼しました。IS装備開発企業『みつるぎ』渉外担当・巻紙礼子と申します」
誤字脱字は遠慮なく言ってくだぁさぁい