ISVD〜Infinite Stratos Verdict Day〜 作:高二病真っ盛り
臨海学校二日目 旅館
SIDE:一夏
『まず『デザインド』言うなれば改造手術さ。
手法は工学的なものと、生理・薬学的なもののハイブリッドをベースにした物が主流だね。
最終形態としては、情報工学の手法を大胆に取り入れることで、 肉体のほぼ全てを機械化し、脳組織の大半をもコンピュータに置き換えた例も存在したらしいけど、僕はそこまでは知らないよ』
「……っ!」
「なっ…」
鈴と箒が信じられないとばかりに目を見開く。
「一夏!お前は!」
「安心して千冬姉。俺はしてないから」
「そ、そうか」
俺が改造人間じゃない事に安堵する千冬姉。
……残念ながらエグいのはここからなんだよなぁ。
『説明を続けるよ。『デザインド』は最も伝統的な手法ともいえる方法で、程度の軽重はあれど、一定数以上の実戦投入例が記録されてたんだ。
中には、一種の特殊部隊として、 デザインドのみで構成された部隊もあったみたいだねぇ』
それについては分けるマギーの何代も前のお婆ちゃんの話にもあったな。
確か…『ゾディアック』だっけ?
『次は『カルティベイター』だけど…そこの君がそうじゃないかい?』
「私が?」
声だけで笑ってるとハッキリわかる財団がラウラを指す。
まぁそうっちゃそうか。
『『カルティベイター』はクローニングによる才能の再現を主とする手法さ。
過去に名をなしたパイロットのクローンを生み出し、育成の過程において教育と言う名の洗脳を行うことで、管理できる才能を育成を目指したみたいだね。
だから…正確に言うなら君とVTシステムを組み合わせたようなものさ』
「……」
「非道い…」
今度は改造手術ぐらいは予測していたらしいラウラとセシリアが目を見開いた。
『この『カルティベイター』はある程度の成果を収めたみたいだけど、クローンの反復による再現性の低下等のクローニング技術の不安定さや根本課題である管理リスクの不徹底さが問題視されて頓挫したよ』
「「「……」」」
財団の説明で部屋の中に沈黙が立ち込める。
明るい話題でも無いしね。
『何黙り込んでいるんだい?話はまだ終わって無いよ』
「あれでか…」
財団の言葉に千冬姉が声を震わせる。
『最後、この話題の本題で、僕がブルーマグノリアに施した手法にして死神部隊の正体。
そして世界を破滅に導く人類の罪『ファンタズマ・ビーイング』』
「ファンタズマ…」
「ビーイング……」
『前述の2つのプロジェクトを踏まえ、両者の手法を組み合わせて立案された手法さ。
クローニングによって生み出されたもののうち、理想に近い試験体の意識・思考を完全に電子化するという計画だよ』
改めて聞くと狂ってんな。
『電子化により、外部からの観察と修正を容易にすると共に、安定した複製の生産の実現を理論の完成に置いた、 いわば自我を完全にプログラムへと置き換えることを目指した計画さ。
ただ、その実現は困難を極めたみたいでねぇ。かろうじて実現にこぎつけて、汚染の原因となった戦争の末期には、実戦への投入が行われたと言われてるけど、ほぼロボット同然な状態にまで個性を消滅させてしまうと著しい戦闘性能の低下がみられるなどの問題も生じていたよ。
もう予想できたと思うけど、ブルーマグノリアが再度、戦場に立てたのはこれを受けたからさ』
ただほぼロボット同然な状態にまで個性を消滅させてしまうと著しい戦闘性能の低下がみられるというのは俺にとっては嬉しい情報だった。
あの日、あの時に戦ったのは、確かにマギーと言えるのだから。
「……んで」
「鈴?」
財団が説明を終えると鈴がなにか呟く。
「なんで…なんでそんなことをしたのよ…」
真っ直ぐで常識的で当然な鈴の疑問。
『怖かったからさ』
それに財団が答えた。
『かつて存在した巨大な権力機構には、驚異的な戦闘能力を発揮した戦闘の天才たちが切り札として存在していたんだ。
彼らは常人には乗りこなすことすら不可能な特殊な兵器を操り、世界のパワーゲームの中心的存在となっていたみたいでね。
だけど彼らは、その強すぎる個の力によって、コントロールを逸脱した際のリスクを危険視される存在でもあり、 そして実際にその幾人かは、管理者の支配下から逸脱し、世界に甚大なるダメージを及ぼす騒乱の源となった。 そこの彼みたいにねえ』
「だからって…」
『その対策として管理者達が立案したのが、彼らに匹敵する天才を人工的に生みだし、管理可能な形で量産するという計画さ。
計画は 『先天的に優れた戦闘適性をもつ人間の存在』 を前提として、その人工的な再現と安定的な量産、 そして完全なコントロールの実現を目的とするもので、複数のアプローチによる研究が行われたよ。
それが、『デザインド』であり『カルティベイター』であり『ファンタズマ・ビーイング』であると言う訳さ』
「人間を…なんだと思ってんのよ!」
「落ち着け」
激昂する鈴を宥めながら周りを見渡すと、皆の目には非人道的な研究に対する怒りがあった。
「一夏!アンタホントにこんな物がある世界に行く気?!」
「まぁな。俺は傭兵だ。ファットマンとの約束も、企業との依頼も破る気はない」
「やめてよ!なんでアンタがそんなロクでもない世界に!」
「ロクでもないのは確かだけど…」
「やめんか!」
「!?」
俺と鈴が言い争っていると千冬姉から制止が入った。
「話はここまでだ。部屋に戻れ」
有無を言わさぬ千冬姉の言葉に部屋にいた全員は部屋から出て行く。
「一夏」
そして俺も教員室に戻ろうとしたその時、千冬姉が俺に声をかけた。
「さっきの鈴音は止めたが…私も同じだ。お前にそんな世界に行って欲しくはない。…考えてくれ」
「考えはするよ…」
わかってる、この返事が逃げなことぐらい。
でも、俺はもう止まれないんだ。何を失おうと、何を無くそうと。決して。
次回、第五章終了(予定)