ISVD〜Infinite Stratos Verdict Day〜 作:高二病真っ盛り
臨海学校二日目 海上
SIDE:一夏
「……ふぅ」
背中に元通りに収納されるグラインドブレードを見てため息を吐く。
『ミッション完了。なかなか上々じゃないか』
「まーな」
財団の言葉に返事しつつ後ろを振り返る。
赤く燃える司令船と司令を失った無人機が次々と海に墜ちてゆく風景があった。
「結局、なんだったんだ?」
『まぁ、君狙いだろうけどねぇ』
結局、相手の目的はわからずじまいだ。
間違いなく俺を狙っているが、
『ミッション完了。システム、通常モードに移行します』ヒュン
「え?…ウワッ⁉︎」
ドボォン
感傷に浸っているといきなり
「プハッ……何で?」
『どうやらオーバードウェポンの反動みたいだねぇ』
「まじか…」
元からそうだったが、ますます気軽に使えなくなったな…。
『一夏ッ!無事!?』
『織斑一夏‼︎』
「おせーよ。全部…終わっ…た……」
援軍が到着した安心感からか、急に意識が闇に沈む。
ちょうどいいや、言っちゃえ。
(…財団)
『なにかな?』
(マギーを……傭兵として…死なせてあげてくれて、ありがとう…)
『……え?』
財団が固まるのと同時に意識を投げ出す。
今日は疲れた。寝させろ。
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臨海学校二日目 旅館
「いつまでそうしているつもりですの?」
「……」
織斑一夏が鳳鈴音と更識簪に救助されている頃、旅館の一室で体育座りで下を向く篠ノ之箒と膝立ちのセシリア・オルコットが話していた。
「……スマナイ」
「謝罪は要りませんし、そもそも怒っていませんわよ」
「……」
冷たい口調でセシリアは言葉を続ける。
「わたくしは『高度な囮作戦』として今回の件を処理するつもりですわ。
聞いているのは、『どうしてそう塞ぎ込んでいるのか?』ですの」
「……私は」
「私は?」
一瞬の間を置いて箒が叫びだす。
「私は!一夏の隣に居たかった!アイツと一緒に居たかったんだ…置いて行かれたくなかったんだ!
ああそうさ!お前が羨ましかったよ!一夏とずっと一緒で、ずっと隣に居て、ずっと並んでいるお前が!
だから専用機を貰ったんだ!お前を追い抜けるように、一夏の隣に居れるように!
なのに…なのに…どうして……」
叫び始めの勢いは徐々に下がっていき最後の方は聞き取れない程になっていく。
セシリアは、それを無表情で聞いてハァとため息を吐いた。
「篠ノ之さん」
「……なんだ」
「貴女、バカですわね」
「っ!」
真っ直ぐな言葉を箒にセシリアは投げつける。
「一緒にいようともせず、隣に行こうともせず、ただ嘆くだけの貴女の願いが叶う訳ないでしょう」
「違う!私は…」
「違いませんわ。だって貴女、ここ最近一夏さんとまともに話しておりまして?」
「っ!」
あまりにも痛い所をセシリアは突いた。
篠ノ之箒は、あの告白以来織斑一夏とずっと話していないのだ。
「自分からは恥ずかしくて話しかけられない。でも一緒にはいて欲しい。よくそんなことを言えますわね」
「黙れ!お前に何がわかる!」ガッ
「わかりませんわよ!」ガッ
「っ!」
声を荒げ、浴衣の襟に掴みかかる箒をセシリアは激昂しながら掴み返す。
彼女の眼にはありありと怒りが見えていた。
「でもですねぇ!一夏さんはわたくしの大事な友達ですの!
別に貴女が一夏さんを好きというのも、コネで専用機を貰うのも、悪いと言ってませんわよ!
でも、好きと言わずに他の女と一緒にいるのが許せないだなんて身勝手にも程がありますわ!」
今までの箒へのイラつきを全て吐き出す勢いでセシリアが叫ぶ。
「うるさい!姉さんのせいで私は一夏と離れ離れになったんだ!始めから専用機を持っていて、初対面で一夏をバカにしていたお前に、何がわかると言うんだ!」
「えー今わかりましたわ!貴女は、”一夏さんとの楽しい思い出に固執して、依存しているだけです”って!」
「違う!……違う…」
セシリアの言葉に何かを気づいた箒の語尾が弱くなる。
「違う…私は……」
「…思い出は、アルバムですわ。『こんなこともあったな』そう振り返る為の物なのですの。
決して、『その時』にしがみつく物ではありませんの」
昔の記憶を思い出すようにセシリアが呟き始める。
彼女の脳裏には今は亡き両親の姿が映っていた。
「時間は決して止まりませんの。だから皆、
「私は…どうすれば……」
「自分で考えなさい。
少なくとも、このままでは一夏さんに負い目を感じて、ビクビクするだけの毎日ですわよ」
「……」
「臨海学校が終わるまでに決めることをお勧めしますわ。貴女の
言いたい事を全て言い終えたセシリアがホウと息を吐く。
「……一夏さんが帰ってきたようですわ。わたくしは迎えに行きますの」
「……」
「…残念ですわ」
ピシャリ
襖が閉まった。
「私が…一夏に……依存…」
部屋の中には箒が一人、へたり込んでいた。
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臨海学校二日目 旅館
SIDE:一夏
「ん…ぁ…」
「一夏さん!」
「一夏!」
目を覚ますとセシリアと鈴が側にいた。
えーと…確か海上で気絶して…。
「ああ、無事引き揚げられたのね。俺」
「自分を魚か何かのように言うな」
「…千冬姉」
目を覚ました報告を受けたのだろう。
襖を開けて千冬姉が入ってきた。
「織斑先生だ。…それよりも、無人機の件だが…」
そこから、織斑先生の説明が始まった。
「まず、領域内に偶然浸入したと思われた密漁船は無人機達に命令を送る司令船だった事がわかった。
そして、織斑と交戦した無人機の総数は4567機だともわかった。
どの無人機にも本来必要なコアが無く、おそらく司令船がコアの役目を果たしていたと我々は見ている」
なるほど…半ばヤケクソのグラインドブレードだったけど最適解だったって事か。
「次に本来の目的である
考えられるのは財団のようにウィルスを仕込んだとかかな?
そもそもISにウィルスが効くのかが疑問だけど。
(効くよ)
(ありがとう)
そんなことを考えていると財団からの返答があった。
なにこの財団。綺麗すぎて違和感。
「大まかなのはここまでだ。他にあるか?」
「ハイ、千冬姉」
「……どうした一夏」
俺が名前呼びを続けるのに疑問を覚えたのか、千冬姉の呼び方が名前に変わる。
「ここにラウラと箒を呼んで欲しい」
「…作戦に携わった篠ノ之はともかく、何故ラウラを?」
「その二人と、ここにいる三人に話そうと思う。
「「「!?」」」
もう決心はついた。
タイミングもちょうどいい。
話すのなら、ここしかない。
世界を分断し拮抗する三大勢力は、各地で小規模な対立を繰り返していた。
数による力は肥大化し、戦場の花形であった傭兵たちは、
いずれの勢力にも与さない異端者として、戦場の狭間で少数派になりつつあった。
かつて破滅を迎えた世界は、時を経て、復興を始めた。
だがむしろ、戦いはその激しさを増していた。
後に『
これは、一人の傭兵の知られざる物語である。