北方の白き少女 Heart of the admiral   作:ハルバーの懐刀

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これでようやく本編が終了です。
後書きで“お知らせ”を書いています。
今後について知りたい方はそちらもお読みください。



No.16 チャクニンシマシタ!

“北方棲姫”救出成功から1週間が過ぎた頃。

 

 

 

朝を迎えたトラック鎮守府の執務室では、ペンを持つ山岸が椅子に座り、その左隣で長門が立ちながら書類に目を通していた。

 

「騒がしい日々だったわね」

「ああ・・・ようやく落ち着いた感じがする」

「あなたも四六時中、胸が熱いとか言っていたし・・・」

「・・・」

 

長門は山岸が指摘してきたことに無言で頬を赤らめる。

それを見て微かに笑う山岸は、机に置いてある一枚の書類を手に持った。

 

「はぁ・・・本当に・・・一体何を考えているのよ」

「大本営からの指令書か?」

「そう。あの大将からよ・・・悪いことじゃないけど・・・」

「あの島のことか・・・」

 

長門も彼女のため息の理由に呆れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

工場のような施設の屋内。

 

その部屋には、鉄壁で覆われた物置のような立方体がいくつも横に並んでいた。

左から2つは『建造』と書かれたシャッターがあり、その上のランプは何も灯っていない。

その横にある2つの物置にはシャッターが無い状態で、中は空っぽの状態だった。

 

不意にブザーのような音が部屋全体へ鳴り響き、一番左端にある物置のランプが緑に光り出す。

点灯した物置のシャッターがゆっくりと開いていき、その中から女性らしき者が姿を現した。

 

 

その女性の青い長髪は、腰より長く伸び、その毛先辺りが銀色に輝いていた。

服装は、ノースリーブの白いセーラー服に、黒色のロング手袋と膝上までの長い黒タイツという容姿である。

 

 

彼女は開いたシャッターから歩き出て、自分がいる施設内を見回していた。

しばらくすると、彼女から見て左側の奥にある通路から誰かが走ってくる。

 

 

それは黒い長髪の少女で、グレーの吊りスカートと白ブラウスに、黒ハイソックスと手首まである黒のアームカバーを身に纏っていた。

 

 

「お待たせしました! 建造された艦娘の方ですね?」

「は、はい! そうです!」

 

黒髪の少女が青髪の女性の前で立ち止まり、彼女へ規律ある敬礼をする。

 

「この鎮守府の艦隊所属、朝潮です。お迎えに上がりました」

「どうも、白露型6番艦の五月雨っていいます」

 

青髪の女性もその場で敬礼し、自分自身の名を告げた。

 

「では、早速・・・此処の司令官の所までご案内いたします。こちらへどうぞ」

「はい、お願いします」

 

 

 

施設内の長い通路を歩く五月雨が、先導する朝潮に色々と尋ねる。

 

「この鎮守府は・・・どちらの?」

「トラック鎮守府から少し遠い距離にある島です。つい最近稼働したばかりなので・・・」

「それじゃあ、私が・・・初めての建造艦?」

「そういうことになります」

「ふ、二人だけでしょうか?」

「いえ・・・横須賀から転属された艦娘と、トラック泊地から分遣隊として来られた御方もいます」

 

歩き続ける五月雨は通路の造りを観察し始めた。

彼女がよく見ると、まるで船内の通路とよく似ていることに気付いてしまう。

 

「この通路って・・・」

「お察しの通りです。通路だけでなく、施設内全てがある輸送船を利用し、この島の基地として建造されました」

「輸送船を基地に?」

「元は座礁していた船でしたが、トラック泊地の明石さんと妖精さんの機転で、船自体を利用することに・・・」

「す、凄いですね・・・」

 

 

 

2人はある木製の両扉の前までやって来た。

朝潮がその扉を開けて、五月雨と共にその部屋へと入っていく。

 

「大和さん、新しい艦をお連れしました」

「ご苦労様です、朝潮ちゃん」

「や、大和さん!? あの有名な大和型の!?」

 

五月雨が目の前の超弩級の存在に声を上げた。

彼女から見て、部屋の奥に置いてある机の右側に、ポニーテールで赤いセーラー服を着る戦艦の女性が立っていた。

 

「初めまして、此処の秘書艦を務める大和です」

「こ、こちらこそ、初めまして! 五月雨です!」

 

緊張した五月雨が慌てて敬礼してから、自身の名を告げた。

 

「初の建造された駆逐艦ですね。今後ともよろしくお願いします」

「は、はい!」

 

駆逐の少女はすぐに落ち着きを取り戻した後、周りをキョロキョロと見渡す。

不審に思った大和が彼女へ尋ねる。

 

「どうされましたか?」

「あ、あの・・・提督は・・・どちらに?」

「此処に居ますよ」

「えっ?」

 

その質問の答えに、五月雨が首を傾げてしまう。

部屋の中には、机の横にいる大和と自分の右隣にいる朝潮しか見当たらなかった。

彼女が疑問に思っていると、不意に聞いたことのない幼子の声が響いてくる。

 

「ヤマト・・・ミエナイ・・・」

「やっぱり、特注の椅子を用意した方がいいですね」

「こちらからだと、司令官の姿が見えないです」

「?」

 

大和は机と壁の間へ歩いていき、両手で何かを持ち上げた。

それは髪の毛や肌の色、服の色すら真っ白な姿の少女。

後ろから両脇を抱えられるその頭には、提督の証でもある白い軍帽が被さっていた。

 

「!?」

 

五月雨がその姿を見て、思わず息を呑んでしまう。

艦娘として、本能的に理解した敵の姿と一致していたからだ。

見間違いの無い敵である深海棲艦の白い姿。

今それが彼女の目の前にいる。

 

「し、し、し・・・!」

「大丈夫です。司令官は味方ですよ?」

「へっ!? で、でも・・・」

「司令官がいなければ、朝潮たちは無事ではなかったです。これだけは事実として、記録に残っています」

「そ、そうなのですか?」

 

朝潮は取り乱す五月雨を宥めるように説明した。

まだ戦艦の艦娘に抱えられる白き少女が敬礼し、初の建造艦である駆逐の少女に話し掛ける。

 

「ハジメマシテ。ハマグリチンジュフ、テイトクノ、“ホッポウセイキ”デス」

「ほ、ほっぽうせいき? よ、よろしくお願いします・・・」

「ヨロシク♪」

 

 

 

 

 

本日より、ハマグリ島を拠点とした鎮守府を稼働。

 

そちらへ保護対象の“北方棲姫”を日本海軍所属の提督として着任させよ。

 

尚、階級は少佐とする。

 

不知火・朝潮・荒潮の3名は護衛艦として、ハマグリ鎮守府へ配属が決定。

 

トラック鎮守府からの分遣は、山岸 里子 中佐の判断に任せる。

 

以上

 

 

 

そう書かれた書類を手に取る山岸がジト目で読んでいた。

その指令書を書いた「米満 正人(よねみつ まさと)大将」の署名を見た後、彼女はその書類を机の上に置く。

 

「全く・・・あの叔父さんめ・・・」

 

彼女は、大本営にいる米満大将がピースと高笑いをしているだろうと予想していた。

次の書類に手に取り、それに目を通していた彼女の動きが止まる。

それは“転属願”の書類であり、署名には『長門』と書かれていた。

 

「・・・」

 

山岸は無言で本人に目を向けるが、彼女は期待に満ちた表情で待ち構えていた。

提督服の女性がその書類の一か所を両手で持ち、左右に分かれるように力を入れる。

 

「ふんっ!」

「あああああっ!?」

 

書類が真っ二つに破り捨てられたことで、それを見ていた長門が悲鳴を上げた。

戦艦の艦娘はあまりのショックに、その場で四つん這いに項垂れてしまう。

ため息を吐く山岸が椅子から立ち上がり、後方の通信機を操作し始める。

 

「榛名、執務室まで来てくれるかしら?」

『里子提督? どうかされましたか?』

「・・・秘書艦が大破したわ。使い物にならないから、代わりに来て頂戴」

『りょ、了解しました!』

 

まるで深海棲艦のように白く大破した艦娘を一瞥する山岸。

彼女は窓の方へと歩き、外の景色を眺め始める。

 

「そういえば・・・そろそろ建造が終わる頃ね」

 

 

 

トラック鎮守府の工廠内にある『建造』と書かれたシャッター。

 

その上にあるランプが緑色に灯り、その鉄のシャッターが開き始める。

 

「新造艦、たのしみですねぇ!」

 

近くに居た明石は、左手に持つクリップボードの書類を見ながら、シャッターから出てきた艦娘を観察した。

 

 

桃色の髪で腰ぐらいまである左のサイドテール。

黒いセーラー服に黒の手袋を填めた少女。

艦種で言えば、駆逐艦サイズの艦娘だと思われる。

 

 

彼女が明石の所へ向かう最中に、反対の別方向から白露と時雨が歩いてきた。

 

「いっちばーん!・・・ん?」

「明石さん、僕の艤装について・・・」

 

2人が建造された艦娘の姿を見た瞬間、その娘へ向かって走り出した。

 

「「春雨―――っ!!」」

「っ!?」

 

いきなり駆逐艦の2人に抱きつかれた桃色の髪の少女。

突然のことで少し戸惑うが、すぐに現状で何が起きたかを理解する。

 

「白露姉さん、時雨姉さん・・・お久しぶりです」

「ふっふー! 流石、あたしの妹! くんかくんか・・・」

「やっと会えたね・・・春雨」

「2人とも、春雨ちゃんが困ってるじゃないですか。はい、離れて」

 

明石が駆逐の少女から2人を引き剥がした。

彼女は3人に向かって、規律正しい敬礼をする。

 

「初めまして、明石さん。白露型駆逐艦5番艦の春雨です。よろしくお願いします!」

「よろしくね、春雨ちゃん。それじゃあ、後はお姉さんたちに任せるわよ」

「はぁーい! さぁ、提督にあたしの妹を見せに行こう~!」

「案内するよ、春雨」

「はい、お願いします」

 

春雨は2人の姉に両手を引かれて、明石のいる工廠を後にした。

連れて行かれる彼女が他人には聞こえない小声であることを呟く。

 

「まだ・・・約束を、続けられそうです・・・」

 

 

 

 

 

一方、ハマグリ島では・・・。

 

入り江の砂浜に五月雨を案内する大和の姿があった。

 

「凄く綺麗な場所ですね・・・」

「私もこの場所は気に入っています」

 

和やかに話す彼女たちの目の前で、いきなり海面から何か大きな物体が浮上し始める。

 

「えっ? な、何ですか!?」

「これは・・・」

 

大和にだけ見覚えのあるその物体。

それは基地内の出撃ドックから入り江へと繋がる可動式ゲートの1つだった。

ここ以外にもそのゲートは設置されていたが、このゲートだけは大和ともう1人の専用として扱われている。

 

平べったい円柱の形をしたトーチカのようなもので、出撃ドックからエレベーターのように上がることができるらしい。

 

海面に上がったそれの平らな前方部分が屋根になるように開き、重々しい稼働音と金属音が鳴り響く。

 

「バツビョウ!!」

 

中から出てきたのは、この鎮守府の提督である白き少女“北方棲姫”だった。

それを目撃した五月雨が慌て始める。

 

「大和さん! て、提督が!! どうして!?」

「う~ん。これはひょっとして・・・」

「大和さん!」

「「!」」

 

何かを察する大和の後ろから、息を切らして走る不知火がやって来る。

 

「ホッポさまは!?」

「先程、出撃されました」

「何故、止めなかったのですか!?」

「いきなりだったもので・・・」

「・・・大和さんに期待した不知火が馬鹿でした」

 

駆逐の彼女は急いで艤装を展開し、入り江の浅瀬から出港した。

それに遅れて、朝潮・荒潮の2人も艤装を付けて走ってくる。

 

「お二人も出撃で?」

「はい! ブイン基地の艦隊が奇襲を受けたらしく、その救援要請がありました!」

「提督がそれを聞いて、すぐに出撃しちゃったのよぉ~」

「やはり・・・」

 

予想通りの展開に大和が苦笑してしまう。

彼女らもすぐに出港し、それを見ていた五月雨が大和へ尋ねる。

 

「私たちも・・・出撃しますか?」

「いえ、此処は不知火さんたちに任せます。あの速力は彼女らでないと追いつけませんから、私たちは島の防衛として残りましょう」

「了解です」

「念のため、出撃準備をしておいてください。艤装のチェックも忘れずに・・・」

「お任せください!」

 

五月雨は森奥の基地へと走っていき、残された大和は白き少女が出撃した方向へ見つめた。

 

「本当に・・・困った御方です♪」

 

 

 

 

 

海上を航行する白き少女。

その周りに黒い球体の艦載機であるタマたちが飛行していた。

 

「ホッポさま! お待ちください!」

「司令官! せめて朝潮も護衛に付けてください!」

「ホッポちゃ~ん! 1人じゃ危ないよ~!」

 

彼女の後方から不知火たちが追い付いてくる。

その声に返事をするかのように、白き少女が右手で手を振った。

 

「タマ、ミケ、クロ、イクヨ!」

「ミャ!」

「ミャフ!」

「ミ゛ャ!」

 

彼女は3機の返事する声を聞き、救援要請のあった場所へと航行していく。

 

 

 

提督の心を宿す少女。

 

 

海にも染まらないその白い姿で海上を走っていく。

 

 

助けを呼ぶ艦娘たちの元へ。

 

 

その小さな勇気を携えながら・・・。

 




皆様、これまで『北方の白き少女 Heart of the admiral』をお読みいただきありがとうございました。
ちょっと短いですけど、今回の第16話で本編が完結となりますが、番外的な話がまだ残っているため、更新は続きます。

思えば、菊月(偽)にちょっと憧れて、書き始めたこの物語。
MMD動画や静止画の漫画みたいな技術力がないため、私の想像力が発揮できる執筆を開始。
資料となる書籍まで購入し、急いでプロットを試行錯誤の末に完成させました。
艦これでも、深海棲艦の中で気に入ったキャラが主人公というちょっと変わった題材。
初の二次小説なので、原作よりかけ離れている部分が多いだろうと思いつつ、面白味のあるストーリーを執筆しました。
恐らく、人を選びそうな話でもありますが、それでも楽しんで閲覧された方々には感謝しています。

今後も物語を執筆していきますので、お暇な時間があれば読んでいってください。

では、失礼・・・・・・あっ、忘れていました。



次回作品の予告どうぞ
   ↓










ある鎮守府では、多くの艦娘たちと対面で話す男性提督の姿があった。

『本日、ヒトロクマルマルに出港し、この領域の深海棲艦の泊地に襲撃をかける』

目的地である海上へ辿り着いた艦娘たちは、異常な光景を目の当たりにする。

『まもなく、敵の泊地の領域に入ります。皆さん、気を引き締めて』
『なんだ、これ・・・どうして、敵が・・・』
『誰かが鬼級と戦っています・・・これは・・・』

伸ばされたそれの白い右手が、菊月の腰に付いた三日月バッジを優しく撫でた

『綺麗な・・・・・・月だ・・・』



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