北方の白き少女 Heart of the admiral   作:ハルバーの懐刀

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ホッポちゃんの登場がないのは痛い・・・。
でも物語として避けられない運命・・・もどかしい。



No.14 よんでいる?

曇り空で暗くなっている海上が多数の砲撃によって、さらに荒れた海へと変貌する。

 

 

 

右腕を失った赤い目の重巡リ級が左腕の艤装砲身で応戦していた。

無表情で撃ち続ける彼女に一発の砲弾が命中し、爆炎と共にその姿が消える。

 

「よし、次っ!!」

 

矢矧が左右の艤装に付いたグリップを握り、新たな敵艦へ狙いを定めた。

 

「装填完了! い―っけぇ―!」

 

白露の太ももにある魚雷発射管から、8本の魚雷が列を成して発射される。

水中を航行するそれは、赤い目の雷巡チ級へ向かっていた。

気付くのが遅れた彼女は、右腕の大きな魚雷発射管で防御するが、後続の魚雷の餌食となる。

 

「まるで心が無いみたいじゃないか。君たちには失望したよ!」

 

時雨は背中にある2門の砲塔を2つに分離させて、それぞれ左右の手に主砲を持たせた。

背中のパーツからアームで伸ばされた主砲と、側面に付けられた連装砲が火を噴き始める。

その砲撃の連続で、立ち止まって攻撃する赤いリ級たちが次々と撃沈されていった。

 

 

艦娘たちと交戦する深海棲艦の群れ。

それらは赤い目をした人型ばかりで、無表情のまま砲雷撃を行っていた。

空母棲姫が叫んだ直後に、それらは前触れもなく、何もなかった海中から姿を現した。

 

 

 

一方、暗い曇り空には、大量の白い球体が飛んでいた。

ひび割れたように口を開き、片目の赤い目と鬼っぽい角を生やす飛行物体。

それらは全て空母棲姫から発艦した艦載機である。

 

「斉射、始め!!」

「全砲門! Fire!!」

「主砲! 砲撃開始!!」

 

大和の掛け声によって、金剛と榛名が彼女と共に上空へ向けて砲撃した。

放たれた砲弾が空中で炸裂し、花火のように光る無数の弾子をばら撒く。

広範囲で扇状に飛び散った弾子が多数の白い球体を爆散させていった。

 

「今です!」

『第一次攻撃隊の発艦を許可するわ!』

「「「「「了解!!」」」」」

 

大和の合図で、山岸が全ての空母に発艦指示を与える。

 

正規空母である一航戦の赤城、加賀。二航戦の蒼龍、飛龍。

彼女ら4人は和弓を構えて、同時に1本の矢を放った。

放たれた矢が数機の艦載機へと変化し、一瞬で数十機の編隊が出現する。

 

「続いて、艦爆、艦攻隊を発艦!」

 

赤城がそう叫ぶと、彼女らは続けてもう1本の矢を放ち、先程とは違う兵装を装備した艦載機を出撃させた。

 

「待ってたで! 攻撃隊、発進!!」

 

龍驤も正規空母たちが矢を放つと同時に、巻物に描かれた飛行甲板の絵を広げる。

その甲板から数十枚の白い紙が飛び立ち、それらは全て艦載機へと変化していった。

 

白い球体の群れに向かって、多数の緑色の艦載機が機銃を撃ちながら突っ込んでいく。

相手の白い艦載機たちも口から機銃を放つが、艦娘の艦載機は熟練した動きで躱していった。

 

「いよいよこれを使うときが・・・」

「山城、落ち着いてやりなさい。あなたならできるわ」

「はい! 姉さま!」

 

扶桑と山城は、初めて使う飛行甲板の艤装を構えて、水上爆撃機“瑞雲”を発艦させる。

カタパルトで2機ずつ飛ばしていき、20機もの編隊を組ませた。

それらは、空母棲姫の周りに居る戦艦タ級や戦艦ル級の艦隊へ爆撃しに向かう。

 

「敵の戦艦を狙うわよ! 主砲、副砲・・・」

「まって、姉さま! よく狙って・・・」

「撃てえっ!!」

「てぇ―っ!!」

 

瑞雲の爆撃開始と同時に、扶桑姉妹も主砲による攻撃を行った。

多数の爆弾と砲弾で数隻の敵戦艦が撃沈されたが、命中したのが少ないためにその数は僅かだった。

それを見ていた長門が砲撃しながら、2人にそのことを指摘する。

 

「2人とも焦り過ぎだ! 指で数える程度しか当たっていないぞ!!」

「はぁ・・・空は・・・今日は、曇ってたわ」

「姉さまと一緒に怒られた・・・幸福だわ♪」

 

落ち込む姉と何故か喜ぶ妹。

そんな彼女らの撃ち漏らした敵が、赤城たちの艦載機による雷撃や爆撃で沈められていった。

 

「ソコダ・・・」

 

空母棲姫が巨大な手をかざし、複数の白い艦載機を空母の艦娘たちへ向かわせる。

海上を低く飛ぶそれの口が大きく開いて、火花を放ちながら銃弾を連射してきた。

 

「そんな攻撃、当てさせないわよ!」

「させないのです!」

 

雷と電が無防備な空母の正面へ現れて、両手に持つ防盾で敵機の機銃を受け止める。

その2人の後ろから、龍驤が腰の側面にある艤装の対空機銃ですれ違う敵機を狙い撃った。

飛び去る数十機の内の5機に命中し、その内の3機だけ海へと落下していく。

 

「あかん! この機銃じゃあ威力が足りへん!」

 

軽空母がそう嘆いていると、撃ち漏らした敵の大半を巻き込む程の爆発が起きた。

 

「な、なんや!?」

「どこから!?」

「ふあっ!?」

 

驚く3人が後ろへ振り向き、左手の砲塔から煙を上げる駆逐棲姫の姿を見つける。

 

「ヤラセハシナイヨッ!」

 

彼女は左側へ移動し、迫ってくるリ級とチ級の群れに多数の魚雷を放った。

空母を狙おうとした敵艦隊が艦娘側の姫によって駆逐されていく。

 

「島風! あの娘ばかりに負担を掛けさせないで!」

「おうっ!? りょ、了解・・・・・・・・・なんで?」

「「「キュ!」」」

 

加賀に怒鳴られた島風が、若干腑に落ちない表情で移動し始めた。

その後から3匹の連装砲ちゃんが付いていき、時々飛び交う敵機に向けて発砲する。

 

「雷撃、行くわ!!」

「ウラー!!」

 

舵を右に一杯にきる暁と響が両脇の魚雷発射管から、同時に12発の魚雷を撃ち出す。

 

「「!」」

 

2隻の赤い戦艦ル級がそれに気付いて、迎撃のための砲撃準備をする。

しかし、その後ろから接近する2人の軽巡も見つけたことで、どう対応するか判断に困っていた。

 

「さぁ・・・魚雷か、斬撃。好きな方選びなっ!!」

「どっちにする~?」

「「ッ!?・・・ッ?・・・ッ!・・・」」

「「時間切れだ(よ~)」」

 

天龍と龍田がそう告げた瞬間、ル級が迎撃しようとした魚雷が直撃する。

被弾でふらつくその身体に、軽巡の鋭い斬撃が襲い掛かった。

 

2人は敵艦の撃破後、すぐに左右へ別れるように離れる。

彼女らの居た場所へ新たな敵の砲撃が飛んできたからだ。

 

「こいつら、動きは通常個体と変わらないが・・・性能は普通じゃねぇな」

「でも、私たちの見たelite(エリート)より楽じゃない~?」

 

彼女らがそう話す間にも、赤い目の深海棲艦が次々と海中から出現した。

空と海を交互に攻撃する大和と金剛たちの不安が増していく。

 

「多過ぎる・・・」

「ちょっとmany(多い)デース!」

「でも、榛名は・・・まだ行けます!」

『そうね・・・でも、貴方たちが時間を稼いでくれたおかげで、到着が間に合ったわ』

「「「「「?」」」」」

 

山岸の言葉に艦娘たちが疑問を感じていると、扶桑たちの艦載機ではない瑞雲が20機近く飛んできた。

それらが新たに現れた人型の深海棲艦たちを爆撃した後、遠くから数発の砲弾が音を立てて飛来してくる。

その砲弾は戦艦タ級と重巡リ級に着弾し、展開していた敵の数が一気に減った。

 

「日向!? 陸奥! お前もか!?」

『長門、待たせたな』

『姉さん、無事?』

 

長門の通信機から2人の元気な声が響く。

彼女が後方へ目をやると、航行してくる不知火たちの艦隊が見えた。

大和は彼女らが来た方向に驚き、すぐに不知火へあることを尋ねる。

 

「不知火さん! そっちは守備隊の鬼級が居たはずじゃあ・・・」

「あれですか? 非常につまらなかったので、速攻で沈ませました」

「お、鬼級を速攻で・・・」

 

大和が半ば呆れながらも彼女らの到着を喜んだ。

 

「痛いのは治りました。これなら戦えます!」

「あの“リ級”は何処かしら? 私を沈めなかったこと・・・後悔させてやらないと気が済まないわ!」

 

朝潮と荒潮が両手に付けた艤装を構えて、やる気満々の意志を主張する。

3人の後方からやって来た日向と陸奥は、その後ろに紐で繋いだボートを曳航していた。

そのボートには燃料のドラムカンや弾薬箱とボーキサイトの木箱も乗っている。

 

「補給物資も持って来た。弾薬が無いと困るだろう?」

「ホッポちゃんのだけど、細かいことを気にする暇もないし・・・」

『助かるわ。大和、長門、金剛、榛名はすぐに後退しなさい! 不知火、頼んだわよ』

「期待に応えてみせます」

 

後退する艦娘と入れ替わりに、不知火たちが前に出た。

大和たちは切り離されたボートの資材で、すぐさま補給を行う。

 

『前方の空母棲姫が旗艦らしいわ。それと駆逐棲姫は味方よ。彼女への攻撃は許可しないわ』

「空母棲姫ですか・・・資料で見たサイズと異なりますが・・・骨がありそうですね」

「く、駆逐棲姫が味方!? 攻撃してこないのなら分かりますが・・・」

「色々とややこしくなってるわね。でも、面白そうじゃない♪」

「空母か。なら、航空戦艦の力を見せてやろう!」

「私の出番ね。いいわ、やってあげる!」

 

山岸から現状を伝えられた不知火たちが、巨大な空母棲姫と赤い深海棲艦たちに攻撃を始める。

 

 

不知火、朝潮、荒潮は駆逐艦の出す速力で航行し、向かってくる敵を1隻ずつ的確に撃沈させていった。

彼女らは戦艦級の相手に、砲塔でその頭部を狙いに向かう。

相手を確実に落とすために手段を択ばないようだ。

 

 

日向は陸奥と一緒に砲撃し、水上爆撃機による爆撃と弾着地点の予測を行う。

敵の艦載機が日向の瑞雲を強襲するが、赤城たちの艦載機によって防がれた。

日向は飛ばしている爆撃機をロールさせて、助けてくれた空母の艦載機たちに感謝の意志を見せる。

 

 

「エモノガフエタ・・・ナラ、コチラモ、フヤスマデ!」

 

空母棲姫の右隣にある巨大な艤装の飛行甲板から、さらに白い球体の艦載機が次々と発艦されていった。

空に新たな白い球の魚群が出現し、不気味な口から爆弾を落とし始める。

 

「全艦! 爆撃を回避せよ!!」

 

補給から戻った大和の指示で、全ての艦娘たちが回避行動をとった。

空母の姫は、爆弾の雨の中を避けるように移動する艦娘たちを見て、当てられない苛立ちを覚える。

 

「アレヲ、ツカウカ・・・」

 

彼女は右手を巨大な艤装の側面に当てた。

その手の赤い亀裂が光り出すと、艤装の後ろ辺りにある上部の砲塔が変化し始める。

 

金属が変形する際の衝撃音が響き渡り、2つあった単装砲が3連装砲へと変わっていった。

その巨大な3連装砲の上に、更なる副砲のような3連装砲が出来上がる。

その形はトラック鎮守府の艦娘たちに見覚えのある兵装だった。

 

「あれは!? 南方棲戦鬼の・・・」

「シズメェェェ!!」

 

大和がそう言った直後に、空母では有り得ない兵装が砲撃音を轟かせる。

その巨大な砲弾は金剛へと真っ直ぐ向かっていた。

 

「あぁあっ!!」

「金剛姉さま!?」

 

高速戦艦の彼女は、咄嗟に左側の艤装にある防盾で防いだが、端にあった砲塔ごと破壊されてしまう。

 

「し、Shit・・・大切な、装備が・・・」

「金剛姉さま! 後退してください!」

「ま・・・まだいけるデース!!」

 

榛名に気遣われた金剛は、血が出る左肩を右手で抑えながら強がる。

そうしている間にも、空母棲姫からの巨大な砲撃と艦載機による攻撃が続く。

 

大和は再度、三式弾で空にいる白い艦載機を撃ち落とし、駆逐棲姫に声を掛けた。

 

「駆逐棲姫さん! あの娘は・・・ホッポちゃんは何処に!?」

「マッテクダサイ!・・・・・・ッ!」

 

駆逐の姫は頭に右手を当てて、何かに感付いた仕草で空母の姫を睨み付ける。

 

「アレノ、ギソウノ、ナカデス!!」

「位置は何処ですか!?」

「ソレガ・・・・・・ワカラナイ。ハンノウガ、オオキスギテ・・・セイカクナバショガ、ドコナノカ・・・」

「・・・っ」

 

大和は唇を噛み締めて、空母棲姫の人型へ視線を飛ばした。

 

「本体に直接ダメージを与えるしか・・・ないのでしょうか?」

「ソレシカナイ。ヘタニギソウヘ、コウゲキシタラ・・・アノコガ・・・」

「・・・全艦! 空母棲姫に集中砲火! 但し相手の艤装への攻撃は禁ずる!」

 

大和の指示を受けた艦娘たちが動き出す。

一部の者は疑問に思うも、何人かは状況を理解していた。

 

「これほど厄介ならば、敵の兵装破壊こそ有効なのだが・・・」

「仕方ないネー、長門。あのPrincess(姫)を傷付けたら、大和がGet angry(怒る)デース」

「ホッポちゃんがあの中にいるのです!? 助けるのです!」

「電、落ち着きなさい! 勝手に行くのはレディーが許さないわ!」

「考え無しに行ったら、無駄死にするだけや。止めとき」

「ホッポさまを攻撃したら、不知火たちの任務が失敗。それだけはできません」

 

それぞれが思い悩みながら攻撃する中で、大和と駆逐棲姫は囚われた白き少女の安否を気遣う。

 

「どうにか・・・助け出すことはできないでしょうか?」

「トリコマレタ、ジョウタイカラハ、ヤッタコトガナイデス・・・デモ、ハンノウガアル。ナニカ、カノウセイガ・・・」

「・・・ホッポちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何処まで行くの?」

「モウスグデス・・・」

 

真っ黒な服装の女性に手を引かれる提督服の少年が、木の床で出来た廊下を歩き続けていた。

2人は廊下の突き当たりにある木製の両扉の手前で立ち止まる。

 

「ドウゾ・・・」

 

彼女はその扉の左側を押し開けて、手を離した少年を中へ招き入れた。

彼は部屋の中へ入ると、見覚えのある内装に驚きの声を漏らす。

 

「おお―・・・此処が提督の執務室・・・」

 

特に目立った外装は無く、木の板で出来た壁と床に、部屋の奥には提督が書類作業を行うための木製の机があった。

椅子は骨組みも木製で、座る部分と背もたれ部分に紅色のクッションが付いている。

 

「♪~」

 

その椅子を見つけた少年が、鼻歌を歌いながらそこへ向かった。

初めて見る提督の私物に、好奇心が抑えられなかったのだ。

彼は椅子を引き、そこへ勢いよく座る。

 

「よいしょっ♪・・・・・・んっ?」

 

少年は椅子へ座った瞬間に、その妙な違和感に気付いた。

それは椅子にあるクッションの弾力さではなく、まるで温もりのある柔らかさだった。

彼はゆっくりと座った椅子へ目を向けると、そこには自分と椅子との間にある存在が居たのだ。

 

「フフフ♪」

「えっ!? い、何時の間に? っていうか、ゴメン! すぐに・・・」

 

少年が慌てて立ち上がろうとした時、先に座っていた黒い女性が両手で掴み抑えた。

彼女はそのまま彼を優しく抱き締めて、耳元で囁くように呟く。

 

「アヤマラナクテモ、イイデスヨ」

「でも・・・」

「ダイジョウブ・・・ナニモシナクテイイ」

「えっ?・・・あっ・・・」

 

不意に少年の身体が淡い青色の光に包まれてしまう。

その瞬間、彼は身体に力が入らなくなり、まるで眠りに誘われるように意識を失っていった。

 

 

 

「なんだ・・・ろう・・・・・・こ・・・れ・・・・・・・・・う・・・・・・み・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」

 

突如、駆逐棲姫が頭を抱えて、苦しげな唸り声を上げた。

彼女の異常に気付いた大和以外に、白露と時雨が心配な表情で傍に近寄る。

 

「駆逐棲姫さん!?」

「どうしたの―!? な、なにっ? 頭痛でもしたの!?」

「姉さん! だから落ち着いて! 君、どうし・・・」

「ダメ・・・ヤメ・・・テッ!!」

 

苦しい表情で何かに耐える駆逐の姫が、空母棲姫の居る方向へ震える黒い右手を伸ばす。

 

「アノコヲ・・・アノコヲ、ケサナイデェェェェェェェェ!!」

 

 

 

攻撃を受けても平然とする空母棲姫に変化が訪れる。

 

手足の装甲、黒い首筋、艤装の全体。

それぞれに纏わりつく赤い亀裂が、まるで海色のような青い光を放ち始めた。

その瞬間、それに呼応するかのように、艦娘たちにも異変が訪れた。

 

「なんだ? なに・・・ぐっ!? がああああっ!!」

「姉さん!? どうし・・・あぐっ!? ああああああっ!!」

 

長門の頭にモスキート音のようなノイズが響き、まるで悶えるように苦しみ始めた。

傍に居た陸奥も声を掛ける暇もなく、姉と同じ症状に侵される。

近くに居た扶桑と山城が慌てて救援に向かった。

 

「長門! 陸奥!」

「大丈夫ですか!?」

 

彼女らが傍へやって来ると、2人は何事も無かったかのように動きを止める。

 

「お二人とも怪我は!?」

「・・・扶桑?」

「よかった。ご無事なようで・・・」

「此処は、何処だ? 何故、私は戦場に居る?」

「へっ?」

 

突然の長門の質問に、扶桑は呆気にとられた。

陸奥に話し掛ける山城も同じようなことになっていた。

 

「陸奥、大丈・・・」

「あ、あらあら? 山城? どうして此処にいるのかしら?」

「む、陸奥?」

「それに、姉さんも何故? 別の鎮守府に居たはずでしょう・・・」

 

近接武器で戦う天龍と龍田にも同じノイズが走り、すぐに元の状態へと戻る。

 

「つぅ・・・た、龍田? 此処は?」

「あら~? 天龍ちゃん。ここ横須賀じゃないみたい~」

「天龍? 龍田? これは一体・・・ぐっ、あああああ!?」

「痛っ、あああああっ!?」

「姉さ、まあああああっ!?」

 

2人に声を掛けた矢矧も頭を抱えて苦しみ出す。

扶桑と山城も同じ症状が起き始めて、それを見ていた空母たちも次々と謎のノイズを聞かされた。

 

「あぐううううっ!」

「蒼龍! いっ、あああああっ!?」

「蒼龍! 飛龍! なっ、何が起こってん・・・いっ!? いたたたたっ!」

「龍驤!? まさか・・・ぐっ、うううううっ!!」

「加賀さん!? 加賀さん!!」

 

赤城が加賀の元へ行く間に、今度は金剛と榛名も苦しみ出し、別の方では白露と時雨も同じ状態となる。

 

「つうう・・・わ、What? の、Nooooooo! 私の大切な艤装が!?」

「こ、金剛姉さま? これは一体・・・」

「あれ? ここ何処よ!?」

「うっ・・・僕は一体・・・」

 

大和は皆の様子がおかしいことに戸惑ってしまう。

 

「何が、起きているの?」

 

瞬く間に艦娘たちへ謎の症状が広がっていく。

それは残った者たちも蝕んでいった。

 

「か、加賀さん? あれ・・・私、お腹が・・・」

「これは? 不知火は極秘任務をしていたはず・・・」

「あ、荒潮? 此処は、何処か分かりますか?」

「あらあら大変。朝潮ちゃん、敵が一杯いるわ。倒さないとやばい?」

「むっ? 私はいつ瑞雲を発艦させたのだ?」

 

「えっ? ピャーッ!! 敵が、空にも海にもいるじゃない!?」

「ありのまま今起こったことを話すと・・・気が付いたら戦場に居た」

「何を言っているのよ!? 響!!」

「そう、私も何を言っているのか分からない」

「皆何言ってるのよ? この島風を置いていくなー!! 私も分からないけど・・・」

 

そんな中、電は雷へ突っかかるように話していた。

 

「雷ちゃん! 電たちはホッポちゃんを助けにきたのです!」

「落ち着いて、電! その・・・ホッポちゃんって、何なのよ!?」

「ホッポちゃんは、ホッポちゃんなのです! どうして“覚えていない”のですか!?」

「っ!?」

 

偶然にもその言葉を聞いた大和は、今起きた事態の正体に気付く。

 

「まさか・・・」

『や、大和・・・』

「里子提督!?」

『此処は・・・何処なの? 何故、全艦隊が出撃を・・・』

 

彼女が最悪の展開に気付いた時は、すでに手遅れだった。

現時点で殆どの艦娘たちは、白き少女と初めて会った時から現在までの記憶を消失していた。

混乱する艦隊の中で、残る2人にもそれが容赦なく襲い掛かる。

 

「は、はううううっ!?」

「電ちゃ・・・い、いやあああああああああああっ!!」

 

大和と電の頭に不快なノイズが鳴り響く。

それは大切にしていたものを無理やり消される感覚だった。

 

「タムケダ。クレテヤル・・・」

 

静観していた空母棲姫が無防備になった大和へ向けて、巨大な3連装砲を発射しようとする。

未だにノイズに悩まされる駆逐棲姫が、その卑劣な攻撃に感付いた。

 

「ヤメテェェェェェェッ!!!」

 

彼女は持てる限りの速度で移動し、未だに苦しむ大和を庇いに向かう。

駆逐の姫は両手を拡げて、空母棲姫の砲弾を全て受け止めた。

 

「くぅ・・・えっ!?」

 

苦しみから解放された大和が、目の前で起きた爆発を目撃する。

何が起きたのか分からずにいると、そこには自分を庇うように立つ駆逐棲姫の姿があった。

 

「な、何故、姫級が・・・」

 

彼女は倒れそうになる駆逐の姫を、無意識で後ろから抱きつくように支え持った。

その身体はあちこちにヒビが入り、白い肌は所々に赤い血が付いていた。

 

「どうして・・・」

「・・・メ、ンナ・・・イ・・・」

「?」

 

大和は息も絶え絶えになる駆逐棲姫の小声を聞き取る。

 

「・・・ゴ、メンナサイ・・・テ・・・ト、ク・・・ヤク・・・ソクヲ・・・マモレ・・・・・・ナク、テ・・・」

 

彼女はその聞き取った言葉から、頭痛と共に何かを思い出す。

 

「痛っ・・・何、これ・・・何かが・・・・・・」

 

 

彼女の脳裏にあるものが映り込んだ。

 

それは暗い海の中で自分に向かってくる物体。

 

知っているはずのその正体が思い出せなかった。

 

唯一、分かっているのは・・・真っ白に輝く程の白い姿。

 

 

「・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・てい、とく?」

 

「提督・・・提督ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・だれ?・・・」

 




次回:あなたの声がする・・・カエ・・・

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