ラブライブ! ~西木野真姫の幼馴染~   作:雅和

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本編開始です。
しばらく導入部分的な話が続きます。


第一章 『μ's結成』
MUSIC-04 『廃校問題』


「――――は?」

 

始業式から丁度一週間が経ち、周りに女子しかいないこの特異な状況にも何とか慣れ始めた頃。

数少ない男子トイレからの帰り道で、廊下にある掲示板に大きく告知されたそれを目にした俺は、思わず呆けた声を出して見入ってしまった。

――――音ノ木坂学院の廃校。

色々と文言が綴られているが、やはり目に付くのは廃校の二文字。俺は驚くと共に、どこか納得したような気持ちにもなった。

元々入学希望者の不足を理由に、今年度から共学校へと変わった学院だ。しかしその結果はと言えば、二年生以上は俺しか転入せず、男子の新入生もまさかの0人だったらしい。

この時点でこの学院に在学している男子は俺一人ということになるが、そのことについては考えないようにしている。主に精神衛生上の理由で。

ともかく、共学化してたった一年で見切りを付けるのはいくら何でも早すぎるとは思うが、俺の予想以上に学院の経済面での体力が無かったということか。

 

「しょうがない、か。………でもなぁ」

 

告知を詳しく読んでいくと、今年度のオープンキャンパスの結果如何で廃校が完全決定となることがわかった。

だがもう廃校側に大きく踏み出してしまっている現状を踏まえると、そのオープンキャンパスで受験生から余程大きな反響が無い限りは難しいだろう。

そしてもし廃校が決まった場合は、来年度以降の入学希望を打ち切ると書かれている。

つまり、真姫たち一年生はもう後輩が入学してくることがないこの学院で、三年間を過ごすことになるということだ。

――――正直、まだ転入したばかりの俺にはこの学院に対する思い入れなど無いし、どうせ後一年で卒業の身なので、廃校するとなってもほとんど影響は無いだろう。

だが、最終年度には自分たちだけが学院に通っている状態になる真姫たちのことを思えば………。

 

「何とかしてやりたいな」

 

まだ何も思いつかないし、もしかしたら不可能かもしれないけれど。

それでも俺は、幼馴染の少女のために強くそう思った。

 

 

 

 

 

とりあえず廃校に関して、生徒会長である絵里と副会長の希にも話を聞いてみた。

だが彼女たちも廃校のことを知ったのはつい先日で、詳しいことは聞かされていなかったらしい。そう言った絵里の表情が険しかったが、生徒会長として色々と思うところがあるのだろう。

また、先ほどまでは図書室に残ってこの学院に関することを色々と調べていた。学院の沿革や部活動の成績など、知識としての成果こそあれど、廃校に対する明確な案はまだ見つかっていない。

署名活動なんかは俺の頭でも思い至ったが、廃校を覆す一手には成り得ないだろう。音ノ木坂学院は国立であるものの、その性格は私立学校に近いので学院の経営はビジネス色が強く、署名があっても先立つものが無ければどうしようもないからだ。

多大な寄付金でもあれば別なのかもしれないが、金銭の話になるとそれこそ一介の学生には重すぎる。

やはり単純な解決策は、オープンキャンパスで―――いやそれまでにも音ノ木坂学院の評価を上げること。問題はその方法だが。

 

「とりあえず、今日は帰るか」

 

何とかしてやりたいとは思うが、現状では打つ手無し。

今日得た情報を頭の中で整理しながら、沈みつつある夕陽を背景に家路についた。

 

 

 

 

 

翌日。放課後に俺は単身、電車に乗って秋葉原に来ていた。

集めている漫画があるのだが、結構マイナーな漫画なので個人経営店のような小規模の書店には置かれておらず、この辺りで大きな書店がある場所が秋葉原というわけだ。

そうして首尾よくお目当ての漫画を入手し、ついでに久しぶりのアキバを物色していたところ、何やら人だかりが出来ていたので興味本位で近づいてみた。

――――この選択が、俺の今後の一年間を大きく左右するものになるとは露とも知らずに。

 

「ここがUTX学院か………でかっ」

 

まるでビルのような真新しい建物。数年前に建設された『校舎』は、秋葉原のど真ん中で異彩ともいえる存在感を放っている。

――――私立UTX学院。エスカレーター式の女子高で、その真新しさや洗練されたイメージから、近隣の女子学生に絶大な人気を誇るマンモス校。

だがその人気にはもう一つ大きな理由があり、今まさにそれがUTX学院の正面に設置された大型スクリーンの中で軽やかに踊っていた。

 

「これが、A-RISE………」

 

いつの間にかその名前が口から漏れ出ていたことすら、俺は気付いていなかった。それほど、スクリーンの中の彼女たちに呑まれていたから。

 

 

 

ここ数年、スクールアイドルと呼ばれる学生のアイドルが生まれていた。プロではない彼女たちだが、それぞれが学校の看板を背負い、アイドル活動をする。

俺も詳しい方ではないが、スクールアイドルが朝のニュースや音楽番組などでも取り上げられている中、最も有名なのがUTX学院のスクールアイドル――――すなわち、A-RISEの三人だ。

 

長い黒髪と長身、凛とした雰囲気をその涼やかな表情に潜ませる「統堂英玲奈」が、その長い手足を駆使してメリハリを利かせたダンスを披露すれば。

ゆるふわなヘアースタイルに大きな瞳、男受けする柔らかそうな肢体を躍らせる「優木あんじゅ」が、流れるように滑らかな仕草で魅了する。

そして真打ち。A-RISEのリーダーにしてスクールアイドル界の絶対的なカリスマ「綺羅ツバサ」が、その小さな体躯を感じさせない威風堂々たる挙措でその場を支配した。

 

これで素人だというのだから恐れ入る。いや、アイドル活動を通して報酬(ギャランティ)が発生していないが故の「素人(アマチュア)」であって、もしかするとその実力は――――。

 

“バサッ”

 

スクリーンに見入ってしまっていた俺の隣で何かが落ちるような音が聞こえた気がして、持っていかれていた意識をスクリーンから戻す。

そこには茶色の髪をサイドで結んだ、活発そうな女の子が衝撃を受けたように立ち尽くしていた。

 

「これだ………」

「え?」

 

微かに聞こえてきた声。反射的に聞き返してしまったけど、そんな俺に構うことなくその女の子は意気揚々と走り去ってしまった。

 

「何だったんだ、一体………ん?」

 

彼女を呆然と見送って数秒。そこでようやく俺は、先ほどまで彼女が立っていた場所に何かが落ちていることに気がつく。

拾い上げてみると、それは目の前にあるUTX学院のパンフレットだった。しかも受験者用のものらしく、内容も詳細に書かれている。

 

「さっきの音はこれか。あの女の子の落し物――――にしては、中学生には見えなかったけどなぁ」

 

高等部の受験者用のパンフレット。一応こういった類のものは、資料を請求すれば貴重品ではないのかもしれないけど。

――――ま、これも何かの縁かな。こんな道端に放置して通行人に踏まれまくるよりは、預かっておいた方が良いか。

もしかしたら先ほどの女の子が忘れ物に気付いて取りに来るかもしれないので、とりあえずもう少しA-RISEのPVを見ながら待つとしよう。

 

 

 

「結局来なかったか。どうすっかなぁ、これ」

 

手に持ったUTX学院のパンフレットを眺めつつ、俺はぼんやりとごちた。

一応日が暮れるまでは待ってみたんだが、先ほどのあの子は帰ってこなかった。かといってそのまま路上に捨て置くのも罪悪感があり、結局持ってきてしまった。

いっそのこと、交番に預けるか。しかし、言い方は悪いが「使い捨て」に出来るこれを持っていったところで苦笑されるのがオチだ。

とはいえ本人からすれば、もう一度資料請求する手間を考えれば出来れば手元に戻ってきて欲しいものでもあるだろう。

とりあえず、保留にしておくか。明日もう一度アキバに行ってみて、それで会えなかったら交番に届けよう。

そう結論付けて鞄にパンフレットを仕舞い込んだ丁度その時、昔からある老舗の和菓子屋の前を通りがかって、母親からの頼まれごとを思い出した。

 

「………そういえば、お茶請けを買ってきてって言われてたな」

 

この和菓子屋『穂むら』は、俺の家からも割と近い上に、両親が共に和菓子好きなので昔から頻繁にお世話になっていた。尤も、俺は食べる専門で実際に買いにきたことはほとんど無かったが。

俺は和菓子より洋菓子派、餡子よりクリームが好きなのだが、ここの和菓子だけは別だ。むしろ今では、幼い頃にここの和菓子を食べていたせいで、舌のハードルが上がったとさえ思っている。

久しぶりにここの銘菓、ほむまんの味を思い出して思わず緩みそうになった頬を引き締め、今時珍しい引き戸式の入り口を開けた。

 

「いらっしゃいませー!」

 

――――ん?

元気よく出迎えてくれたのは、俺と同じ年頃の女の子。まあそれ自体は、珍しいことではない。

だがその女の子が、“茶色の髪をサイドで結んだ、活発そうな女の子”であるなら話は別だ。

見覚えがある。当然だ。つい数時間前に、秋葉原で隣に居たのだから。

 

『偶然にしては出来すぎてて怖いんですけど………』

 

内心で思わず敬語になってしまうほど、あり得ない偶然。

先ほどまで俺の頭を悩ませていた問題が、一瞬で解決した瞬間であった。

 

 

 

MUSIC-05へ続く

 




あれ、あんまり進んでない……?
次回は二年生全員集合の巻。

6/14 一部改稿

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