ラブライブ! ~西木野真姫の幼馴染~   作:雅和

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真姫ちゃん、誕生日おめでとおおおおおおおおおお!!
ってことで、誕生日記念話を投稿します。

※時系列的には本編のMUSIC12~13の辺りです。



番外編
MUSIC-EX1 『約束の証』


 

 

 

 

 

――――神田明神の石段の上から眺める夕暮れの街並みは、子供の目にもとても神秘的なものに映った。

いつもの場所。いつもの時間。そして、いつも隣に居る女の子。

 

「…………」

 

だが隣に並んで座る幼馴染の顔には、いつもの笑顔は見られなかった。悲しげに唇を噛みしめながら、真っ赤になった瞳で沈みゆく夕陽を睨みつけている。

彼女のそんな表情なんて見たくない。しかし俺が何か慰めの言葉を言ったところで、説得力など皆無だろう。おそらく俺も、彼女と同じような表情をしているはずだから。

 

「浩兄」

「……ん?」

「本当に、行っちゃうの?」

「……うん」

「……どうしようも、ないの?」

「…………」

「ごめん、何でもない」

 

消え入るような声でそう言うと、彼女は胸に抱いていたお気に入りのぬいぐるみにぎゅっと顔を(うず)めた。

俺だって当然、残れるものなら残りたい。でも今それを言葉にしようと思ったら、きっと自分の感情を抑えられないから、沈黙で返すことしかできない。

親の転勤による引っ越し。世の中にはとてもありふれた話ではあると同時に、まだ小学生の身である俺には抗う(すべ)が無く。

そしてその日は――――もう明日に迫っていた。

 

「きっと帰ってくるよ」

「……嘘よ。すっごく遠いもの」

 

拗ねたようにぽつりと漏らす彼女の赤髪を、精一杯気持ちが伝わるようにと優しく撫でる。

 

「じゃあ、言い直す。絶対に帰ってくるから。信じて待っててくれ」

「…………信じる。だから絶対に、絶対に帰ってきてね?」

 

彼女は涙目でこちらに向き直ると、ずいっと抱いていたぬいぐるみを差し出してきた。

 

「これって……」

「浩兄に預ける。私のお気に入りの子なんだから、いつか絶対に返しに来ることっ」

「――――分かった」

 

彼女の涙を吸っていつもより重くなった約束の証を交わすと同時に、真姫の顔がくしゃりと歪む。

ぶつかるような勢いで俺の胸に額を預けて嗚咽を漏らし始めた彼女に、俺は何も言葉を掛けてあげられなかった。

――――俺自身、涙が零れ落ちないようにすることで精いっぱいだったから。

 

 

 

 

――――――――。

――――。

――。

 

 

 

 

 

 

「――――いい加減、起きなさいっ!!!」

「うおおおおっ!!?」

 

爆撃でも受けたかのような轟音と衝撃に目を開くと、茜色の世界は朝の陽射しに照らされた自室へと様変わりしていた。

 

「え? 何? どういうこと?」

 

とりあえず上下逆さまの世界は、俺自身が頭と両肩で三点倒立のような形を取っているかららしい。頭頂部がカーペットの床に着地していることから、ベッドから転がり落ちたのだと推測できる。地味に痛い。

では何故、朝っぱらからこんな状況になっているのか。逆さまの視界を巡らせると、ニーソックスを纏っている綺麗な足が見えた。

 

「お目覚め?」

 

その声に視線を上げる――――と、顔よりも先に短いスカートの中身が見えてしまった。うむ、これは不可抗力だな。今の俺の体勢から考えれば、どうしようもないことがお分かり頂けるだろう。白ですか、いいですね。

 

「おはよう、真姫」

「……? ――――っ! どこに向かって、挨拶してるのよっ!!」

「ぐふぅっ!!」

 

ようやく俺の視線の先に気付いた真姫の美脚によって鳩尾を蹴り込まれた俺は、強制的に二度寝へと洒落込む羽目になってしまった。

 

 

 

 

 

「改めておはよう、真姫! いやぁ、いい朝だな!」

「…………」

「あ、ははは…………あの、真姫さん?」

「……変態」

「ぐはぁっ!!」

 

幼馴染で年下の少女からの「変態」は心に響く。世の中にはご褒美だと捉える人もいるだろうが、俺はまだその境地に達していない。

 

「はぁ……。とりあえず、さっさと着替えて下りてきなさいよ? リビングで待ってるから」

「待っててくれるんだな」

 

呆れながらもちゃんと待っていてくれる真姫をニヤニヤしながら見ていると、彼女はプイと少し赤くなった顔を背けて、俺の部屋を後にした。

 

「――――しっかし、また懐かしい夢を見たもんだな」

 

あまり長く待たせすぎると真姫の機嫌が急降下してしまうため、着替えをしながらぼんやりと呟く。

もしくは、今日という日がそうさせたのかもしれない。着替えの仕上げにネクタイを軽く結び終えた俺は、チカチカと青いLEDを点滅させる携帯を手に取り、画面に映る今日のスケジュールを指でなぞった。

 

「…………うしっ、気合い入れるか!」

 

今日――――4月19日は、俺にとっても特別な日なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

<other side -MAKI->

 

 

 

「真姫ちゃん、どうだった?」

「何とか起きました。もうすぐで下りてくると思います」

 

浩一の部屋からリビングに戻ってくると、彼の母親である美里さんがキッチンから声を掛けてきた。

見た目がとても若々しい彼女は私にとって、幼馴染の母親というよりは優しくて頼りになるお姉さんといったところだ。ウチの母もそうだけど、とても高校生の子供が居るとは思えない。私の制服を着ても違和感無いんじゃないかしら。

私は子供の頃から美里さんに凄く懐いていたようで、再会した後も自分で驚くくらい自然に接する事ができている。それは過去の記憶からか、彼女の裏表の無い性格からか、はたまたその両方か。

ともかく、こうして朝の弱い年上の幼馴染を起こしに来られる程度には、瀬野家との距離感も戻っていた。

 

「私だと苦労するんだけど、やっぱり真姫ちゃんが起こすと違うのね~♪」

「うぇ!? そ、そんなことっ」

「照れちゃって。可愛いわ♪」

「うぅ…………」

 

これも毎度のやり取りなのだけど、一向に慣れない私は赤面して食卓に着くことしかできない。

美里さんはとても優しい人なのだけれど、昔から悪戯好きだった。そういう子供っぽい姿からは、化粧品を扱う会社で部長として辣腕を揮っているとはとても想像が付かない。

 

 

 

食卓に美里さんお手製の朝食が並ぶ頃、ようやく幼馴染が下りてきた。美里さんと挨拶を交わしつつ、私の隣の席へと腰を下ろす。

いつもならこの場に着いた後でもゆらゆらと眠そうに舟を漕いでいるのだが、今日は淀みない所作でトーストにジャムを塗っていた。

 

「今日は珍しくちゃんと起きてるじゃない」

「そりゃ、あんな豪快な起こし方をされたらなぁ。その後で見えた光景も刺激的だっt――――」

「あら浩一駄目よネクタイはちゃんと締めないとしょうがないからこの真姫ちゃんが締めてあげるわ」

「おまっ、そんな棒読みで、ちょ、締まってる! 完全に首まで締まってるから! ギブギブ!」

 

人の記憶って意図的に消せないのかしら。などと危ないことを考えながらネクタイを操っていた私の耳に、美里さんの楽しげな声が飛び込んできた。

 

「そうやってネクタイを締めてあげるのを見てると、新婚さんみたいねぇ」

「っ!?」

「煽って、ないで、止めてく、れっ……」

 

瞬間赤くなる私と、徐々に青くなっていく浩一。瀬野家の朝は、今日も賑やかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう…………」

 

終業のチャイムが鳴り、本日の授業の終わりを告げた。解放感に満ちた教室で、先ほどまで開いていた教科書もそのままに、頬杖を突いて窓の外へと視線を向ける。

いつも通りの一日だった。浩一と一緒に登校して、予習で既に理解している授業を復習がてら真面目に聞いて、文庫本を読みながら昼食を取り、少々の眠気と戦いながら午後の授業を受ける。

本当に、いつも通り。とても今日という日が――――私の誕生日とは思えないほどに。

 

「浩一も、いつも通りだったわね」

 

朝起こしに行って、そのまま一緒に通学してきたけれど、雑談だけで特に話題には上らなかった。私から言うのも、何か催促しているようで嫌だったし。

あの能天気な顔が、ポーカーフェイスに非常に長けていることを私は知っている。わざとそういう態度を取っていたのか、それとも――――本当に忘れているのか。

前者であって欲しいと願いつつ、しかし抜けている部分もある彼が忘れている可能性も否定できないものがある。ふぅ、ともう一度嘆息してから窓の外から視線を切ろうとした瞬間、視界の端に見過ごせないものが映ってきた。

 

「(あれは………浩一と、副会長?)」

 

それはまさに待ち合わせの現場、という様子だった。校門にもたれ掛かっていた浩一に副会長が駆け寄ると、浩一も気安い感じで片手を上げて、一言二言交わしてから並んで校門を出て行く。

 

「(…………そう、よね。浩一にだって付き合いがあるわけだし。幼馴染がどこで何をしていようと……私には、関係無いわ)」

 

じくじくと疼く胸の痛みを無視して、無理やり視線を教室の中へと戻す。もう既にチャイムから時間が経っているからか、教室内にはほとんど生徒も残っていなかった。

学院指定の鞄を肩に掛け、席を立つ。今日はまっすぐ帰るつもりだったけど、予定を変更して音楽室へと足を向けた。――――今はただ無性に、ピアノを弾いていたかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

“――――コンッ”

 

「……ん」

 

何かが聞こえたような気がして、私はゆっくりと目を開いた。

まず飛び込んできたのは、痛いほどの眩しさ。目を細めて焦点を合わせると、眩しさの正体が自室の電灯だと理解できた。

 

「いつの間にか、眠ってたのね」

 

ゆっくりと体を起こしつつ壁の時計を確認すると、ちょうど夕方の6時を過ぎた頃だった。二時間ほど寝ただろうか。パパとママは今日も仕事で不在なので、昼寝を咎められることもない。

 

“コン、コンッ”

 

「? はい」

 

制服のまま眠ってしまったようで、立ち上がってスカートの皺を伸ばしていると、ノックの音が聞こえてきた。先ほど夢現のまま聞こえたのはこれだったのね。

でも誰なのだろう。パパか、ママか。それとも――――。

 

「真姫、入るぞ」

「……浩一」

 

――――隣の家の、幼馴染か。

 

「珍しいな。寝てたのか?」

「そうみたいね。……じゃなくて、何で居るの?」

 

寝起きであまり頭が働かない。戸締りはしたはずだし、浩一がこの部屋に来る事はかなり珍しい。

 

「真理さんに合鍵を預かってな。それより、行くぞ」

「行くって、どこに――――ってちょっと!」

「いいからいいから」

「私制服のままなんだけど!」

「大丈夫大丈夫」

「意味わかんない!」

 

手を引かれて、部屋の外へと強引に連れ出される。

握りしめられた右手から体温が上がっていくような気がしたけど、きっと気のせいね。そうに違いないわ。

 

「と、ちょっと待っててくれ」

「え?」

 

玄関先まで下りてくると、浩一は突然手を離して踵を返した。余りの急展開に怒る気さえ失せて、深い溜息と共に彼の帰りを待つ。

「お待たせ」と言って1分足らずで帰ってきた浩一は、再び私の手を引いて玄関へ。そのまま外へ出ると―――流石に靴はゆっくり履かせてもらったわ―――、歩いて十数歩の距離にある隣の家へ。

 

「さ、上がった上がった」

「もう、本当に何なのよ……」

 

自由すぎる幼馴染には後でたっぷりと文句をぶつけるとして、彼に背中を押されるがまま瀬野家のリビングのドアを開ける。

――――瞬間。

 

 

 

「「「「ハッピーバースデー!!」」」」

 

 

 

4つのクラッカー音と共に目に飛び込んできたのは、テーブルに所狭しと並べられた料理の数々。中央に鎮座した、まだ火が灯されていないホールケーキ。そしてクラッカーを持っているのは――――。

 

「パパ、ママ……。美里さんに、おじ様まで」

 

今日は仕事だったはずの両親と、瀬野家の夫婦。後ろを振り返ると、浩一がしてやったりという表情を浮かべていた。

 

「…………はぁ、そういうことね。気付かない私もどうかしてたわ」

「寝起きで頭が働いてなかったのが幸いしたかな。おかげで真姫の驚き顔という貴重なベストショットが撮れた」

 

ほれほれと楽しそうにスマートフォンの画面を見せてくる浩一に軽く殺意が芽生えるが、前方の4人を待たせるわけにもいかないと握りこぶしをぐっと抑える。

 

「パパとママは、仕事じゃなかったの?」

「なに、娘の誕生日くらい帰ってくるさ」

「とか言ってこの人、今年は帰れるって凄く嬉しそうにしてたのよ?」

「お、おいっ」

 

ママのネタばらしに焦るパパ。今までの誕生日も、半分くらいは帰って来られなかった。二人は大病院の院長と女医。命を預かる職場で、それがしょうがないことは分かっていたけど、実際にその気持ちを見せて貰えるとやっぱり嬉しい。

 

「だーっはっは! 院長様も、娘の前じゃ型無しだな!」

「うるさいぞ、誠一! お前は精神面で息子以下だろう!」

「んだと、誰が子供だ!」

「お前だお前!」

「「二人とも子供よねぇ」」

「「んぐっ……」」

 

お互い妻の言葉に押し黙ってしまうパパとおじ様。普段はまるで性格が違う二人なのに、こういうときは妙に気が合っているというか。普段は冷静で厳格なパパのあんな姿を見るのは、それこそ七年ぶりだわ。

 

「久しぶりだよな、こういう空気も」

「―――ええ、本当に」

 

私の内心を悟ったかのようなタイミングで向けられた台詞に振り返れば、浩一が懐かしそうに目を細めていた。

お互いの―――特にパパとママの予定が合わず、再会後も互いの家族が全員揃うことはなかった。それが、今日という日に叶うなんて。

 

「浩一」

「ん?」

「ありがとう」

「――――ああ」

 

今日はとても――――とっても、楽しい夜になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、こんなに近くなんだから送って貰わなくても平気なのに」

 

自室への階段を上りながら呟く。上気した頬は、きっと先ほどのパーティーの余韻が残っているからだ。

 

「……そういえば、さっきの言葉って」

 

ふと、誕生日プレゼントの事を思い出す。両親と浩一の両親からは貰えたのだけど、肝心の幼馴染からは特にアクションが無かった。

流石に何も用意していないということはない……と思いたい。きっとまたサプライズでも仕込んでいるに違いないわ。

 

「疲れてるからって、いきなりベッドにダイブなんかするなよ?――――ね。なるほど、部屋に戻ったらベッドの上のプレゼントとご対面ってわけ」

 

パーティーの前にこの家から連れ出されたとき、浩一は忘れ物だと言って二階に戻って行った。おそらくあの時に、私のベッドの上にプレゼントを置いたのだろう。

さっきは不覚を取ったけど、もう驚いてあげないんだから。

 

「さて、どんなプレゼントが―――――――えっ?」

 

言葉が途切れる。驚かないと決めたはずなのに、それでも。

 

「これ―――こんな、こんなの……ずるいわよ」

 

フラフラとベッドに近寄って、それを持ち上げる。忘れるはずも、間違えるはずもない。これは、あの日の、約束の証。

 

「…………っ!!」

 

感極まってそれ――――小さなころお気に入りだったぬいぐるみを抱き締めると、そこで初めてぬいぐるみが包装された直方体の箱を抱えていることに気付いた。

 

「まったく………気障すぎよ」

 

丁寧に包装を解くと、箱の中から出てきたのは金細工のネックレスだった。

浩一にしてはセンスの良いそれを付けて、ぬいぐるみを抱き、鏡に自分の姿を映し出す。鏡の中では、普段見慣れた私が、見たこともないような幸せそうな笑みを浮かべていた。

 

「――――ありがとう、浩兄」

 

感謝の言葉と共に、自然と出た幼いころの呼称。それを聞いていたのは、胸に抱いた約束の証だけだった。

 

 

 

 

 

 





ということで真姫ちゃん誕生日記念話でした。日付的にギリギリでしたが(汗)

今回は初めて真姫ちゃん視点で書いてみました。やっぱり難しい。。。
ちなみにネックレスは、アニメ一期の合宿編で真姫ちゃんが付けていたもの――――と脳内補完しておいてください(笑)

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