ラブライブ! ~西木野真姫の幼馴染~   作:雅和

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今回はいつもよりちょっと長いかな?



MUSIC-22 『助言と指針』

 

 

最近は五月晴れという言葉が相応しいほど、屋上で行なうμ'sの練習にとってはこの上ない気候が続いている。

ファーストライブから丁度一週間。五月の下旬に差し掛かり、春というよりは夏を予感させるほど太陽は張り切っているが、生憎と俺の胸の内は快晴には程遠かった。

 

 

―――『だから、私の音楽はもう終わってるってわけ』

 

―――『ねえ、浩一。私は、間違ってると思う?』

 

 

昨日の真姫の台詞が、頭に焼き付いて離れない。

何も、言えなかった。いや、今考えても何と答えていいか分からない。

 

「――――い」

 

俺個人の想いとして、真姫にμ'sに加入して欲しいのは間違いない。でも、それは押しつけてはいけないものだと、自分に言い聞かせてきた――――つもりだった。

だというのに昨日、真姫が諦めたような言葉を口にした途端、感情の制御が出来なくなった。

 

「………? ――――ち先輩っ」

 

それが真姫が悩んだ末に出した答えなら、肯定して応援するつもりだった。でも結局、俺の口から出たのは彼女の決意を止めるだけのもの。それは否定でも肯定でもない、とても卑怯な言葉。

――――俺はそうして、真姫を余計に悩ませただけなんじゃないのか?

 

「浩一先輩っ!!」

「っ!?」

 

間近で出された大声に顔を上げると、そこには眉根を寄せている海未と、その奥で心配そうにこちらを窺っている穂乃果とことりの姿。

 

「どうしたんですか? 練習中に考え事なんて、らしくないですよ?」

「あー…………ごめん。ちゃんと集中するよ。よし、それじゃあ次は――――」

「考え事って、西木野さんのこと?」

「っ!」

 

話を変えるために次の練習に移ろうとした俺の声を、穂乃果の真剣な声音が遮る。

――――まったく、普段はほのぼのとしているのに、変な所で鋭い。

一瞬誤魔化そうかとも考えたが、俺は三人の目を見て思い留まり――――観念して先ほどまで頭を埋め尽くしていたことを話し始めた。

 

「そうだな。例えばだけど………穂乃果。海未やことりが、やりたいことをどうせ出来ないと諦めているとき、お前ならどうする?」

 

ぼかしたため何とも要領を得ない質問になってしまったが、穂乃果はその大きな目で瞬きを何度か繰り返した後、自信満々に答えを返した。

 

 

 

「もちろん、やろうって言うよっ!」

 

 

 

「………何か出来ない事情があるかもしれないのに?」

「それでも、本当はやりたいことなんでしょ?」

「ああ。それは間違いない」

 

断言する。それだけは真姫の幼馴染として、今の情けない俺にだって出来るから。

 

「だったら、私は諦めない! だって海未ちゃんやことりちゃんが、やりたいことを出来ないのは悲しいもん。それに穂乃果も一緒にそのやりたいことを出来れば、もっともっと楽しくなると思うっ!」

 

キラキラとした瞳で、高らかに声を上げる穂乃果の言葉の端々には、形容しがたい力があった。

それは、アイドルの結成を宣言したあの時のように。その確かな熱は、根拠などないはずなのに不思議と自信とやる気を与えてくれる。

 

「………はは、ホントに穂乃果はすごいな」

「えっ? 急にどうしたの?」

「ええ、本当に。穂乃果はこういう人なんですよね」

「うん。穂乃果ちゃんは、昔からずっと穂乃果ちゃんだよね♪」

「もー、みんないったい何なのさー!」

 

海未とことりにも笑顔で追撃され、穂乃果はわたわたと慌てだす。

照れ隠しに海未とことりにじゃれつき始めた穂乃果を眺めながら、俺は先ほどの彼女の言葉を反芻していた。

 

「(諦めない、か………)」

 

俺はどこかで、諦めていたのかもしれない。なまじ真姫の家の事情を知っているだけに、きっとアイドル活動は許されないだろうと。

そうして大人ぶって割り切って。それなのに答えを彼女に丸投げして、気に入らなければ水を差して。

 

「(ホント、アホだな)」

 

何が正しくて、何が間違っているのかなんて。そんなのはもう、どうでもいい。

 

――――俺は真姫にやりたいことをやって欲しいし、俺自身も真姫と一緒にそれをやりたい。

 

その想いを持って行動すれば、それだけで良かったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「浩一君、何かええ事でもあったん?」

「ん?」

 

翌日の昼休み。コンビニで買った異様にでかいおにぎりを頬張っていると、向かいに座って可愛らしいお弁当をつついていた希が訊ねてきた。

 

ちなみに校内唯一の男子生徒として、編入したての頃のお昼休みはスーパーボッチタイムだった。流石に、もう既に固まっている女子のグループに飛び込んでいくほど精神力が強くなかったのだ。

だが人間とは慣れる生き物で、今はクラスの女子とはだいたい話せるし、時々グループにお呼ばれもする。まあどう考えても珍獣扱いなのは気にしないことにしているけども。

その中でも、比較的一緒に食べることが多いのがμ'sの三人。幼馴染。そして目の前に居る生徒会会長と副会長コンビというわけだ。

 

「……っ。………っ」

「あー、ええよ。先に食べて。よく噛むんやで」

 

それはそれとして、生憎と俺は爆弾おにぎりという名のこいつと口の中で格闘中だ。流石に今のままでは喋れないので、何とか身振りで伝えようとしたが失敗。素直に、咀嚼に全力を尽くすことにする。

その間、希は苦笑しながら待っていてくれた。何かオカンみたいな事も言われたが。

 

「――――ふう。で、急にどうしたんだ? お母さん」

「誰がお母さんなんよ。いや、昨日と今日でえらい違いやなぁと思って」

「そう、か? そんな変わらんだろ」

「……もしかして、自覚が無かったのかしら」

 

希の横から、お手本となるような姿勢でお弁当を食していた絵里が呆れたような声で話に入ってくる。

 

「何のことだ?」

「ここ数日の貴方、明らかにいつもより元気が無かったわよ?」

「ふふ、エリチは浩一君のことを良く見てるんやね♪」

「の・ぞ・み?」

「あ、あはは。ただのスピリチュアルジョークやん」

 

スピリチュアルジョークって何だと思ったが、それ以上にそんなに分かりやすく悩んでいた自分に軽くショックを受ける。

 

「ん……悪い。心配掛けた」

「別に謝る必要は無いわよ。………それで、悩みの種はあの子たち?」

 

絵里が視線を逸らしながら静かに訊いてくる。あの子たちというのはμ'sの三人のことだろう。何だかんだと気に掛けてくれるのは彼女の優しさか。

 

「まあ………そうだな。ただμ'sの活動自体は順調なんだ。ライブが終わっても三人ともモチベーションを保ててるし、()()が撮影してネットに上げてくれた動画のおかげで、知名度も上がったしな」

「………そう」

 

視線を落として相槌を打った絵里の表情はほとんど変わらない。この反応は――――やっぱりそうだったのか。

 

「絵里だろ? あの動画を撮影してくれたの」

「――――っ」

 

絵里が顔をばっと上げ、声にならない驚きと共にこちらを見る。だが俺の顔を見て何かを悟ったのか、諦めたような溜息を一つ吐いた。

 

「ばれてるとは思わなかったわ」

「確信を持ったのはついさっきだよ。ウチの生徒が知らない誰かに動画を撮影されて、その上ネットに上げられたって言うのに、絵里は何も言わずに流しただろ? いつもの絵里なら問題にするはずだと思ってな」

「………顔に出さなかったのが裏目に出たってことね」

 

苦笑を零した彼女は、表情を真剣なものに戻して「それで?」と言葉を続けた。

 

「? 何が?」

「何がって………私が犯人だって分かって、どうするつもりなのかってことよ」

「犯人も何も、俺は感謝を伝えたかっただけだぞ?」

「え?」

 

目を丸くさせ、素で驚いた様子の絵里。普段はキリッとしているクールな生徒会長なのに――――いや、だからこそか。その表情は妙に幼く見えた。

 

「改めて、ありがとう。おかげで最高の形で外に情報を流せた」

「――――はぁ。本当にお人好しね。私があの動画を撮影したのは、評価なんてされないと思ってたから。ネットの人たちの反応を見せて、諦めさせるためよ」

「それでもだよ。結果的には良かったし………音ノ木坂の存続にとっても、彼女たちが評価されることは決してマイナスにはならないだろ?」

「………今はまだ、ね。これから先、どうなるかなんて分からないわ」

 

そう言って絵里は顔を背ける。これ以上は以前のように水掛け論になりかねないため、俺もそれ以上は何も言わない。とそこで、ずっと黙っていた希がほんわかと口を開いた。

 

「それで、もう悩みは解決したんやろ?」

「ああ、全部じゃないけど………自分の中で整理は着いた」

「そかそか。じゃあ特別に、希お姉さんが浩一君の行く末を占ってあげるやん」

 

いつの間にか弁当を食べ終わっていた希はどこからかタロットカードを取り出し、得意気な顔で布――――タロットクロスというらしい――――を敷いた机の上に置いた。

最近知ったことだが、彼女の趣味の占いは的中率が抜群に高く、学院内でもかなり有名らしい。よく同級生や下級生からも占いを頼まれている姿を目にする。

俺はそんな友達の善意を嬉しく思いつつ、特に断る理由も無いためお願いすることにした。

 

「じゃあ始めよか。簡易的なものやけどね」

 

そう前置いて、希はカードをシャッフルし始めた。その淀みない手付きはなるほど、非常に手馴れているように感じさせる。

詳しくないのでよく分からないが、カードを何度か違う方法でシャッフルしたり、クロスの上に並べたりして結果を出すようだ。そうして最終的に場に残ったのは、交差するようにして伏せられた二枚のカード。

ゆっくりと上に重ねた方のカードを捲る彼女は、普段のおどけたものや時折見せる真剣なものとはまた違った、厳かな雰囲気を纏っている。活気に満ちた昼休みの教室であるはずなのに、喧騒が遠のいた気がした。

 

「今は――――うん、悩みは本当に解決してるようやね」

「分かるのか?」

「ふふ♪」

 

意味深に微笑む彼女は、俺の質問には答えてくれず二枚目のカードに手を伸ばした。まあタロットの知識など零に等しいため、説明されてもきっと分からないだろうけど。

 

「そして、これから。カードは――――吊られた男(THE HANGED MAN)。今の状況やと………浩一君に試練が訪れるみたいやね」

「試練?」

「試練って言葉は大げさにしても、逆境とか困難とか壁とかかな。心当たり、あるんちゃう?」

「…………」

 

おそらく真姫とμ'sのことだろう。困難とも言えるし、高いハードルだとも言える。本当に良く当たるもんだ。

 

「後は、これから浩一君がどうするかの指針。このカードの山の上に左手を置いてもらっていい?」

「分かった」

「次に、今後の指針の軸となり得る人や物を、強く念じるんや」

「………」

 

指針の軸、か。当然一人しかいない。俺は目を閉じ、幼馴染の赤毛の少女の姿を頭に焼き付けるように思い描いた。

 

「――――もうええよ。そのまま、一番上のカードを引いて表にして」

 

希の声に目を開け、言われた通りにカードを引く。表にした絵柄を見た希は――――やっぱりと言わんばかりに、頷きながら微笑んでいた。

 

(STRENGTH)の正位置。ホンマに浩一君は期待を裏切らんなぁ」

「………何かよく分からないけど、良い結果なのか?」

「浩一君次第、かな。悩むより自信を持って行動するが吉ってところやね」

「悩むより、か………。うん、しっくり来た。サンキューな、希」

 

席を立つ。まだおにぎりが一つ残っているが、放課後の練習前に食べるとしよう。今はただ、この気持ちのまま動き出したい。

昼休みは残り半分。俺はこの時間に彼女が居そうな場所に頭の中で目星をつけて、急ぎ足で教室を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

MUSIC-23へ続く

 





ずっと浩一視点なのは久しぶりかも。
なお、タロットの部分はある程度独自解釈しておりますので、厳しいツッコミはご勘弁を(´・ω・‵)


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