ラブライブ! ~西木野真姫の幼馴染~   作:雅和

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また一月近く空いてしまいました。。。いや、狙ってるわけではナイデスヨ?


MUSIC-21 『花陽の来訪(後編)』

 

 

 

<other side>

 

 

 

「また、逃げてきちゃった……」

 

話は、花陽が真姫の生徒手帳を拾った頃合まで遡る。

μ'sの話題を出した花陽から脱兎のごとく逃げ出した凛が駆け込んだ先は、教室と同じ階にある女子トイレ。もう既に放課後であるからか、中には個室も含めて誰も居ない。

凛は己を責めるように一言呟くと、手洗い場の鏡に映っている自分と向き合った。

鏡に映るのは、女の子らしくない短い髪に、メリハリの無いスタイル。せめてとばかりにスキンケアは欠かしていないが、幼馴染のしっとりモチモチ肌には到底敵わない。

 

「スクールアイドル……かぁ」

 

それが学生によるアマチュアグループとはいえ、アイドルという単語にはどうしても気後れしてしまう。運動全般には自信を持っているけど、逆にそれが女の子らしさを無くしている要因の一つだとも彼女は思っていた。

 

「(………凛には無理だよ。かよちん)」

 

凛ちゃんはすっごく可愛いんだよと、必死に訴えかけてくる花陽の真剣な表情を思い出す。

一緒に見たあのμ'sのファーストライブ以来、花陽は少し変わった。具体的にどこがとは言いにくいが、少なくとも気弱で後ろ向きだった彼女はもう居ない。

それはきっと、明確な目標が出来たから。彼女の幼いころからの夢がアイドルだと知っているからこそ、再びそれと向き合った花陽の変化はとても嬉しい。

 

そして同時に、凛は自分の変化にも戸惑っていた。

 

あのとき、μ'sの演技を見て感じたのは、陸上の大会でも体験したことがないような胸の鼓動。

手を伸ばせば届きそうな、キラキラ輝く舞台。自分には縁遠いと思っていた――――いや、考えたことすらなかった眩しい世界が、目の前に広がっていたのだ。

正直、憧れた。今まで音楽番組などでアイドルを見ても特に関心を示さなかった心が、生で見たとはいえ、どうしようもなく惹かれてしまった。

 

「にゃあ………」

 

もはや口癖になっている猫のような呟きと共に、自身の胸をぎゅっと抑える。

 

「(かよちんの夢を応援したい。でも………本当に、それだけなのかな?)」

 

本当は分かっている。でも、たとえそうだとして、自分はどうするのか。どうしたいのか。

――――答えはまだ、見つかりそうにない。

 

 

 

<other side end>

 

 

 

 

 

「まったく。ほんとに浩一は……。小泉さんもいつまでも笑ってないの!」

「ご、ごめんね。こんな西木野さん、初めて見たから」

「こっちの真姫の方がいいだろ?」

 

俺の言葉に反応した真姫が照れ隠しの睨みを利かせてきたが、「はい♪」と頷いた小泉さんの笑顔に怒気を削がれたようで、溜息をついて今度こそ自分のカップを手に取った。

そういえば、いつの間にか真理さんの姿が無い。小泉さんの飲み物を用意した後で、気を遣って自室へと戻ったのだろう。

 

「ところで、結局浩一は何を調べてたのよ?」

「ああ、μ'sのランキングが急に上がってな。その原因を調べてたんだ」

「μ'sの……ですか?」

 

小泉さんが遠慮気味に聞いてくる。少しテンションが上がったように感じるあたり、アイドルだけじゃなくてμ's自体のことも好きになってくれているのだろう。

 

「そう。で、その原因っていうのが――――見てもらった方が早いか」

 

自前のノートパソコンの画面は、先ほどの動画のページから変わっていない。俺は再生ボタンをクリックしてから、二人に見えるようにPCをクルリと反転させた。

 

「わぁ……♪」

「これって……」

 

小泉さんが感嘆の声を、そして真姫が驚きの声を上げる。だがそれからの三分間は、二人とも無言で画面を食い入るように見つめていた。

 

「――――なるほどね。これがランキングが上がった原因ってこと」

 

その後、先に反応を見せたのは真姫。小泉さんはというと、キラキラした目で既に再生二週目に突入している。

 

「ああ。でも腑に落ちない点が――――」

「誰がこの動画を撮影したか、でしょ?」

 

そのくらい分かるわよ、と言わんばかりのすまし顔に、俺は両手を上げて降参の意を見せた。まあこの子なら、俺があの場でカメラを構えていなかったことも、そもそもビデオカメラ自体持っていないことも知っているからな。

 

「まあそれは、そこまで重要なことでもないんだがな」

「そうね。どちらかといえば、反響の方でしょ。ランキングがそんなに伸びたのなら、スクールアイドルのファンの人たちにとっても水準以上ではあったということかしら」

「……気になるか?」

「――――別に」

 

いつも以上に饒舌だった自分に気づいたのか、真姫は顔をふいと背けてしまう。そして話題を変えるためか、その視線の先で画面を凝視し続ける小泉さんに話しかけた。

 

「ねえ、小泉さん」

「…………」

「? ……ねえったら!」

「ぴゃいぃ――――っ!!」

 

完全にトリップしていたところに再度呼びかけられ、小泉さんは背筋を伸ばして驚きの声を上げる。そのリアクションに真姫が浮かべていた戸惑いの色は、すぐに呆れの色に変わった。

 

「はぁ……本当にアイドルが好きなのね」

「うぅ、すみません……」

「謝らなくてもいいわよ。――――それで?」

「えっ?」

「μ'sに、入りたいんでしょ?」

 

真姫のそれは質問ではなく、もはや確認に近い。まあμ'sのファーストライブの時や今の様子を見れば、誰だって分かるだろう。

 

「そんな……私なんかじゃ……」

「あなた、良い声してるし、アイドルに向いてると思うけど?」

「ううん。その、私なんかより、西木野さんの方がよっぽど向いてると思う」

「私が、スクールアイドルに……?」

 

大人しい――――悪い言い方をすれば押せば引きそうな性格の彼女から、切り返すように断言されたのがよほど意外だったのか、真姫は目を丸くして呟いた。

 

「うん。……私、放課後いつも音楽室の近くに行ってたの。西木野さんの歌、聞きたくて」

「わ、私の?」

「うん。ずっと聞いていたいくらい好きで――――だから」

「私ね」

 

小泉さんの言葉の途中で、遮るようにして真姫が口を開く。その声は、いつもよりも力が入っていて――――どこか、諦めの色を含んでいた。

 

「大学は医学部って、決まってるの」

 

目を伏せた真姫の表情は、彼女を見慣れているはずの俺でさえ背筋が泡立つほど美しい。けど、俺は幼馴染のそんな表情が嫌いだった。何かを心の内に押し込めて、無理やり割り切っているように見えて。無理やり大人になろうとしているようで。

 

「そう、なんだ」

「だから、私の音楽はもう終わってるってわけ」

 

嘆息。今度は全てを悟っているような表情で天井を仰ぎ見る。何も言わないでおこうと思っていたのだが――――流石に、もう我慢できない。

 

「真姫」

「何よ、こうい――――っ」

 

天井から視線を俺へと向けた途端、真姫の表情が歪んだ。あいにくと鏡が無いので分からないが、今の俺はそれほど酷い顔をしているのだろう。

そして聡い彼女のことだ。何故俺がこんな表情をしているか察した様子で、気まずそうに顔を背けた。

 

「――――ごめん、浩一」

「…………いや、俺の方こそ。出しゃばってすまん」

「ううん。…………嬉しかったわ」

「そう言ってもらえると助かるよ」

 

そう。俺の気持ちなんて、所詮は外野から見た身勝手なものに過ぎない。当事者である真姫が誰よりも一番分かっているのだから。

でも――――それでも、彼女があれ以上、望んでもいない言葉を紡ぐのは、どうしようもなく嫌だったんだ。

 

真姫は俺たちのやり取りに困惑した様子の小泉さんに短く謝ると、「とにかく」と話を続けた。

 

「私のことより、今はあなたのことよ」

「えっ……?」

「アイドル、やりたいんでしょ?」

「…………」

 

再度の確認。小泉さんは少しの間黙していたが――――僅かに、注意していなかれば気付かないほど本当に少しだけ、コクンと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノートパソコンの電源を落としていると、小泉さんの帰りを玄関先で見送っていた真姫がリビングに戻ってきた。

そして流れるように自然に俺が座っているソファーの横に腰を下ろすと、そのままその小さな頭を俺の肩に預けてきた。

 

「ま、真姫?」

「何よ」

「いや………どうした?」

「別に。――――たまたま、こういう気分なだけよ」

 

本当に珍しい。普段は人に弱味を見せようとしない彼女が、こんな風に甘えてくるなんて。――――それだけ、心が不安定だということか。

 

「ねえ、浩一」

「ん?」

「私は、間違ってると思う?」

「………………」

 

すぐ隣から聞こえてくる、掠れるようなその問いに、俺は沈黙しか返せなかった。

 

 

 

間違っているなんて、言えるわけがない。親の期待に応えるために、そして自分の夢を叶えるために。悩んだ挙句に答えを出した彼女を、間違っているなんて言えるわけがいない。

 

間違っていないなんて、言えるわけがない。心惹かれた世界から目を背けて、自分の気持ちに蓋をして。今もまた暗く沈んだ顔をしている彼女を、間違っていないなんて言えるわけがない。

 

 

 

「――――冗談、よ。今のは忘れて」

 

答えられずにいた俺に、困ったような笑みを一つ残して、真姫はリビングを後にした。おそらく、自室へと戻ったのだろう。

そして俺は――――しばらく、その場から動くことが出来なかった。

 

 

 

 

 

MUSIC-22へ続く

 

 

 




何か暗くて申し訳ない。
アニメだと真姫ちゃん割とあっさり加入していましたが、その辺りを深く描写していきたいです。
そろそろ二章もクライマックスかなー。

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