12月は師走というだけあって、めちゃくちゃ忙しかったです。
久しぶりの更新の割には内容が進んでいない。。。
「――――確かに上がってるな………」
真姫の家のリビング。持参したノートパソコンの画面表示に眉を顰めながら、俺は不可解な現象にポツリと独り言を零した。
画面に映るのは、スクールアイドル専用の特設サイト。そこではWeb投票によるランキングも実施されており、μ'sの登録もそのグループ名が決まった時点で登録していたのだが。
「ここまで急激に上がってるってことは、やっぱり何かあったんだろうなぁ」
後頭部で両手を重ね、リビングの天井を仰ぐ。
登録した時はもちろん、数日前までは当然のごとく上位1000位にすら入らない、ランキング圏外だったというのに。たまたまチェックした穂乃果に興奮気味に報告されて実際に見てみたら、いつの間にか700位台までその順位を上げていた。
特別なことは何もしていない。強いて言えば、校内で行なったファーストライブだろうか。だがそれも、音ノ木坂校内で行なわれただけのものなので、当然のごとくネット上で人気を博する要因には成り得ない。
「んーーーー」
「悩んでいるみたいね?」
「おっと、ありがとうございます。っていうか、休みの日にお邪魔しちゃってすみません」
「いいのよ、私だって未来の息子とお話したいもの」
「は、ははは……」
ミルクティーを差し出してくる真姫の母親―――真理さんの茶目っ気たっぷりな冗談を、何とか笑顔で受け流す。西木野総合病院でも人気の女医さんは、楽しそうにニコニコと笑みを浮かべていた。
ちなみに、まだ真姫は帰っていない。おそらくいつものように音楽室で軽く流してから帰ってくるつもりなのだろう。
俺も本来ならネットくらい自分の家で見るのだが、我が家のWi-Fiは調子が悪くて修理に出しているため、ネット環境が無い。なので、昼休みに真姫にメールで頼んでみたところ、『ママが今日は休みのはずだから、言っておくわ』ということで。
まあ、俺一人で来ても問題ないくらいには、お互いの家に行くということは幼馴染として日常的なことだ。いや、日常的なことに戻りつつある、と言った方が正確か。
「それって、例のスクールアイドルの?」
「ええ。急にランキングが上がっていたので、どうしてかなって」
真理さんにも、俺がスクールアイドルのマネージャーをしていることは軽く説明していた。
画面を覗き込んでくる真理さんの問いに答えつつ、相変わらずA-RISEが一位であるそのランキングのページから、それぞれのグループに対する応援メッセージのコーナーへ移動する。
ランキングの圏外同様、数日前まではμ'sのページは真っ白だったわけだが、今は10件近くメッセージが付いているようだ。
俺は湯気を燻らせるミルクティーを一口啜りながら、メッセージに目を通していく。
『ライブ動画見ました。すごくかわいかったです!』
『初ライブ、素晴らしかったです。今後に期待大』
『動画を見てファンになりました。これからも応援しています!』
「(…………ライブの、動画?)」
メッセージにはどれも好意的なものが並んでいたが、憶えのないその単語に思わず首を傾げてしまう。
最後のメッセージにはご丁寧なことにURLまで貼られていた。少し考えてからリンク先に飛んでみると、そこはコメント可能の有名な大手動画サイトで。
「――――そういうことか」
ノートパソコンの画面の中で、軽やかな前奏と共にことりが、海未が、穂乃果が踊り始める。
"START:DASH!!"。
3分程度のその動画には、μ'sのファーストライブの様子が収められていた。
動画を見終わり―――謎の感動からついつい何度も繰り返し見てしまったが―――俺は再度頭を悩ませていた。
ランキングが急に伸びた理由は分かった。あまりこういう言い方をしたくはないが、μ'sの三人なら容姿だけでもこの人気は納得がいく。
問題は、誰がこの映像を撮影したか。
本来ならマネージャーである俺の仕事なのだろうが、失念していた。というよりは、発想そのものがなかった。
最初は内から――――つまり音ノ木坂学院から徐々に広まっていけばと思っていたが、この前のライブでは観客数からそれが見込めなくなった。こうして外へと拡散できたのは僥倖と言えるだろう。
色々と手伝ってくれた穂乃果達のクラスメイトの三人は、それぞれの持ち場で忙しかったはずだし、そもそもこちらからは何も依頼していなかった。
「…………考えてもしょうがないか」
別に犯人捜しをしようという気はない。むしろお礼が言いたいくらいだ。
目的が分からないのは怖くもあるが、音ノ木は元女子校ということもありセキュリティはしっかりしている。外部からの侵入者ということはないだろう。
俺はブラウザを閉じようとしたところで、ふと思い直してμ'sの動画のURLを携帯にコピーし、穂乃果達三人に送信した。自分たちの歌と踊りを客観的に見られる良い機会だ。約一名、めちゃくちゃ恥ずかしがりそうだが。
"ピロン♪" "ピンポーン"
送信完了の効果音とまったく同時のタイミングで鳴ったのは、この家のインターホンだ。流石に俺が出るわけにもいかないので、真理さんがソファから立ち上がって応対に向かう。
「はい、西木野です」
「あ、あのっ。私、真姫さんのクラスメイトの、小泉花陽といいますっ」
「――――えっ?」
聞こえてきた声とその名前に、俺は思わず立ち上がっていた。
<other side>
「ただいまー。………?」
自宅の玄関のドアを開けた真姫は、自身の靴を脱ぎながらも、目に映ったそれに動きを止めることとなった。
その内の一足には見覚えがあった。男物で、学生にしては相応の値段であるその靴は、幼馴染が愛用しているメーカーのスニーカーだ。
しかしもう一足は、どこからどう見ても女物。母の友達かとも思ったが、それにしては可愛らしすぎる赤いローファー。
「誰が来てるのかしら?」
もしや、浩一が音ノ木坂の女子生徒を連れ込んだ? …………いや、あの朴念仁に限ってそれは無いか。そもそもここは彼の自宅ではなく、幼馴染である自分の家だ。
けれど、もしそれが事実だとしたら――――潰そう。物理的に。どこをとは言わないが。
相当物騒なことを考えながらも、そんなことはあるわけがないとどこか楽観的な気持ちのまま、真姫はリビングのドアを開いた。
「よっ、おかえり」
「え、えっと……お邪魔しています」
「…………」
いつも通りの軽さで片手を上げる幼馴染と、一際大人しい印象を受けていたクラスメイト。
そんな二人が紅茶を片手に向かい合わせで座っている光景に、真姫はいつもの驚きの声すら出せずに固まっていた。
<other side end>
「そうだったの。……その、わざわざ届けてくれてありがとう」
「う、ううん。どうせ暇だったから……」
数秒ほど放心していた真姫だったが、小さくため息をつくとキッチンへと向かい、真理さんに淹れてもらった紅茶を片手に俺の隣のソファーチェアーに腰を下ろした。
足を組んで、ソーサーを持ちながら優雅に紅茶を口に含むその姿は、毅然としていてとても様になっている。一方、お礼を言われたのに恐縮してしまっている小泉さんは、遠慮からかあまり紅茶には手を付けていないようだ。
「しっかし、廊下に生徒手帳をねぇ。相変わらず真姫はドジっ子だな」
「ちょっと待ちなさい。誰がドジっ子なのよ」
「そりゃ6歳くらいのとき、俺と鬼ごっこをすれば必ず何もないところで転んで泣きべそを掻いていた――――」
「潰すわよ?」
「はっはっは。……いや、まじすみません調子こきました」
笑って誤魔化そうとしたが、冷たく睨んでくるその目に殺気が宿っているような気がしたので即座に謝る。
必死に拝むように頭を下げていると、クスクスと堪え切れない笑い声が聞こえてきたため、頭を上げて真姫と同時にそちらを向いた。
「あっ、ご、ごめんなさい。二人とも、すごく楽しそうだったからつい……」
「誰が楽しそうなのよっ」
「マキ・ニシキノじゃね?」
「何を英語っぽく言ってるのよっ! しかも棒読みだし!」
「ちなみに俺はすっげー楽しい!」
「私をからかってるからでしょっ! あーーーもーーー!!」
「…………あの」
若干キャラが崩壊しつつある真姫と、それを見て傍目にもめちゃくちゃ良い笑顔を浮かべているであろう俺。
そんな俺たちを見ていた小泉さんが、おずおずと口を開き――――思わぬ爆弾を投下した。
「お二人って、お付き合いされているんですか?」
「にゃっ――――!?」
「…………」
普段の彼女からは想像も出来ないような奇声を発したのは、顔を真っ赤に染め上げた真姫。対して俺も、小泉さんの言葉があまりにも予想外すぎて思わず口を噤んでしまう。
そして無意識に相手を求めた視線は、一寸の狂いもなく同じタイミングで重なった。まるで
「ちょっ、なっ…………うぇぇ!?」
ますます顔を紅潮させて慌てまくる真姫を見て、ようやく俺の方は落ち着いてきた。自身の言葉で固まってしまった俺たちを見て、こちらもあわあわと慌てていた小泉さんに、顔の火照りを冷ますように冷静な声を心掛けて言葉を返す。
「いや――――付き合ってはないよ。さっきも説明したように、俺たちは家が隣同士の幼馴染なんだ」
「そ、そうですか。えっと、すみませんでした。変な質問をしちゃって。西木野さんも」
「べっ……別にこれくらい、何の問題ないわ。ええ」
真姫が震える手をどうにか動かしながら、テーブルの上の紅茶を持ち上げて先ほどまでのように一口啜る。
むしろ問題しか無かったような。とは流石に突っ込めない。今回に限っては藪蛇になりそうだし。
――――ただ、これだけは突っ込んでおこうか。
「えっと、真姫?」
「何よっ!?」
「いや……その紅茶、俺のなんだけど」
「…………」
再び無音で見つめ合う俺たちの正面では、小泉さんが顔を背けて小刻みに震えていた――――。
MUSIC-21へ続く
やっぱり二人の掛け合いは書いてて楽しいなー。
次回はもう少しシリアスになる予定。