ラブライブ! ~西木野真姫の幼馴染~   作:雅和

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一ヶ月って、早いよね(遠い目)
大変遅くなりました。いやー、ドツボにハマると長い長い。

そうこうしている内に、お気に入り登録が500件突破、アクセス数も50000突破していました。
非常に励みになります。亀更新ですが、今後とも当作品を宜しくお願いします。

では、久しぶりの続きをどうぞ。


MUSIC-18 『勧誘』

 

 

 

 

 

<other side>

 

 

 

「もうっ、先生も人使いが荒いんだから!」

 

音ノ木坂学院の特別棟。人気(ひとけ)がないその廊下に響くのは、μ'sの一員である高坂穂乃果の、担任教師に対する愚痴の言葉であった。

サイドでまとめた髪をプンスカと揺らしながら、早足で廊下を進む。今日はたまたまクラス当番だったのが運の尽きで、担任教師に物理の授業で用いた教材の片づけを命じられ、こうして特別棟の端まで足を運んでいたのだ。

とはいえ教材自体は重くなかったので、それはさほど気にしていない。ただ、タイミングが悪かっただけ。

 

「今日はμ'sの練習再開日なのに~!」

 

最近の彼女が最も力を入れている活動。初ライブを終えて、二日の休養を挟んで。そうして心機一転の再開日にこれでは、確かに躓いた感が否めないだろう。

穂乃果は自身の左手首に巻いている腕時計をチラッと見て、大きくため息をついた。

どちらにしても今日はまずミーティングからなので、全員揃っている必要がある。開始時間を30分延期して欲しい旨は既にマネージャーの浩一にも連絡しているし、今更焦ってもしょうがない。

 

「…………あれ?」

 

そこまで考えてようやく溜飲が下りたのか、歩くペースを落としたところでふと、廊下の奥から聞こえてくるメロディーに気付いた。

 

「ピアノの音と………歌? しかもこれって――――」

 

それはここ一ヶ月の間に何度も繰り返して聞いて、頭に焼き付いているメロディーライン。

軽やかなピアノの音に誘われるように辿り着いたその場所は、ある程度予想していた通り音楽室だった。

 

「――――すごい。私たちと、全然違う……」

 

ドアの前に立つと、それまで以上に音を感じられる。音楽室は防音仕様のはずなのに、その圧倒的な歌声と演奏は、防音扉を貫いて穂乃果の感情を揺さぶってきた。

浩一を介して受け取った音源とはまた一味違う。あの頃はただ曲の素晴らしさに心を奪われていたが、さんざん歌の練習をしてきた今なら分かる。この生の歌声が、どれほどの高みにあるのかが。

扉のガラス部分から見えるのは、ピアノを奏でる女生徒の姿。窓から差し込む夕陽の斜光が、彼女の美しさを更に際立たせているようであった。

 

 

 

 

 

「――――ふう」

 

そんな穂乃果が見つめる先。音楽室の中では、演奏を終えた西木野真姫が微かな息を漏らして余韻に浸っていた。

ここ数日は色々と考えすぎて、普段よりも睡眠時間が少ない。

住宅街である家よりも思いっきり歌えるだろうと音楽室に来てみたものの、鍵盤に指を乗せて無意識の内に奏で始めた曲が胸のモヤモヤの原因であるという事実が余計に頭を悩ませる。

 

「(でもまあ、ちょっとはすっきりしたかも)」

 

曲のチョイスに問題はあったが、歌自体は無心で歌えた。誰かに聞かれてしまうかもしれない可能性をまったく考慮しないまま、喉の奥から、腹の底から、歌うことを楽しんだ。

――――その影響もあったのだろう。音楽室の外で、キラキラした瞳で拍手を繰り返す先輩の姿に今まで気付けなかったのは。

 

「うぇええっ!?」

「すっごい! 本当にすごいよ西木野さんっ!」

 

そしてその先輩は動揺する真姫を気にすることなく勢いよく入室すると、椅子に座ったままの彼女の手を両手で掴んでぶんぶんと上下に振った。

驚いたものの、冷静になって良く見てみると見知った顔だった。μ'sのリーダー、高坂穂乃果。明るく、元気よく――――自分とはまるで正反対な人。

 

「ちょ、ちょっと……」

「ん? あー、ごめんごめん。ちょっと興奮しちゃって」

 

そう言って軽く舌を出すと、穂乃果は素直に手を離して一歩後ろに下がった。

 

「それで、どうしたの?……ですか?」

 

ついいつもの、浩一と接しているような調子で問いかけてしまい、慌てて敬語に切り替える。

知り合いとはいえ、会って話をしたのは一度だけ。しかもその時もお互いに軽い自己紹介くらいしかしていないので、実質初対面のようなものだ。

だが穂乃果はそんなことはお構いなしだと言わんばかりに、まるで面白いものを見つけた子供のような瞳でグイグイと迫ってきた。

 

「たまたま通りかかっただけなんだけど、西木野さんの歌声に釣られて聴き入っちゃったの! すっごく綺麗な歌声だねっ!」

「そ、そう。……ありがとうございます」

 

その余りにも真っ直ぐすぎる言葉と眼差しに、肩口の髪をクルクルと弄りながら真姫は目線を逸らす。

浩一とはまた違った真っ直ぐさだ。照れも迷いもせずに、自分の感情を素直に曝け出す。――――そんなところも自分とは違うなと、真姫は内心で苦笑した。

 

「ねえ、西木野さんは、私たちのライブをどう思った?」

「……なんで私に?」

「歌を作ってくれたし……それに、さっきの西木野さんの歌を聞いて思ったんだ。やっぱり、私たちの歌はまだまだだって」

 

先ほどのテンションの高さは鳴りを潜めて、穂乃果は真剣な表情を見せた。

実際、穂乃果たち三人の歌は決して下手ではない。いや、一介の女子学生としてはかなり上手いと言えるだろう。それでも、真剣にスクールアイドルで有名になろうというからには、そのレベルで満足するわけにはいかない。

歌にせよダンスにせよ、せめて何かに秀でていないと、他のスクールアイドルとの差別化が図れないまま埋もれてしまう。特に、μ'sには時間が無いのだ。

 

「――――大丈夫よ」

「えっ?」

 

しかし真姫の口からは、自分でも意外なほど優しい言葉が出ていた。

 

「確かに歌はもっと改善できるし、ダンスもどこかぎこちない部分があった。でも、そんなことは些細な問題だわ」

 

余りにも"らしくない"自分を自覚しつつも、スラスラと溢れ出る言葉は止まらない。これは激励でも、空気を読んだお世辞でもない。あの時、あの場所で感じた、真姫の偽らざる本音なのだから。

 

「普通の人なら、あのステージで満足できたと思う。でも、貴女は違う。ずっと上を目指して、俯かずに走り続ける。そんな貴女達が――――」

 

――――私には、眩しすぎる。

続く言葉を呑み込んで、真姫は誤魔化すように咳払いを一つ挟んだ。

 

「……とにかく私が言いたいのは、自分達を信じればいいってこと。貴女は得意でしょ?」

「信じる………か。うん、ありがとう。真姫ちゃん」

 

穂乃果は自身に言い聞かせるように呟いてから、自然と口から零れた彼女の名と共に微笑んだ。

 

観客がほとんど居ない中でのファーストライブ。生来前向きな性格だと自分でも思ってはいるが、ガラガラの観客席にショックを受けなかったとはとても言えない。

会長に啖呵を切ったあの時の気持ちは決して嘘ではないけれど、どこかで不安にも思っていた。本当に、自分たちに最後までやり遂げられるのだろうかと。

それでも、あの瞬間に胸に芽生えた熱も、形にした誓いの言葉も――――紛れもなく本物だ。

だったら、それを信じるのが自分自身でなければ嘘というものだろう。と、そこまで考えてあることを思い出した穂乃果は、堪え切れないように「ふふっ」と小さく笑った。

 

「………何よ?」

「あ、ごめんね。さっきの真姫ちゃんと同じような言葉を、ライブの前の日にこう君も言ってたってことを思い出して。……流石幼馴染だなって」

「ふ、ふん!」

 

照れた様子でそっぽを向く真姫に、穂乃果は更に笑みを濃くする。

そして――――前々から密かに思っていて、今日改めて深めた気持ちを、彼女は真剣な口調で語り始めた。

 

「ねえ、真姫ちゃん。一つ、お願いがあるんだ」

「え?」

 

 

 

「――――μ'sに、入ってくれませんか?」

 

 

 

それは彼女らしい、どこまでも真っ直ぐな言葉だった。

だからこそ、受け手の心には響く。それが嘘偽りのない本心だと、否が応にも分かってしまうから。

そして同時に、それをどこか冷静に受けている自分も居ることに、真姫は内心で納得していた。

μ'sに誘われることを確信していたわけではないし、そこまで自惚れているつもりもない。ただ、ファーストライブの作曲を担当した経緯から、今後も彼女たちに関わっていくであろう予感はあった。

 

「…………」

 

真姫は、目を閉じた。もう一度、自分の心に問いかけるように。

そうして出た答えは、自分の気持ちそのものであるはずなのに――――胸に巣食うもやもやは、更に大きくなったような気がした。

 

 

 

「――――ごめんなさい」

 

 

 

 

 

 

<other side end>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、全員揃ったし、早速ミーティングを始め……たいんだけど」

 

週明けの放課後。予定どおりに今後の活動に関する話し合いを進めるつもりだったのだが……あまり見ない新鮮なその光景に、思わず言葉を詰まらせてしまう。

そしてそれは俺だけでなく、海未とことりにとっても同じなようだ。俺たち三人の視線が向かう先には、ズーンという擬音が聞こえてきそうなほど落ち込んでいる様子の、穂乃果の姿があった。

 

「あの、穂乃果? どうしたのですか?」

「穂乃果ちゃん?」

「うーーーーー」

 

海未とことりが心配そうに声を掛けるも、本人は机に額を預けて言葉にならない唸り声を上げるだけ。体調の問題では無さそうだけど……。

 

「二人は何も知らないの?」

「ええ。少なくとも昼休みはまだ何ともなかったはずですが……」

「先生にお手伝いを頼まれたときも、残念そうにはしてたけどここまで落ち込んでなかったよね」

 

穂乃果以外の三人で顔を見合わせるも、思い当たる節がなく全員が首を傾げてしまう。ことりの話が確かなら、先生の手伝いの最中に何かあったようだ。

 

「……仕方がありません。このままミーティングを始めましょう」

「え、いいのか?」

「はい。穂乃果は普段こそ悩みとは無縁ですが、一度悩みだすとどっぷり嵌ってしまうタイプですので」

「あ、あはは。否定できないかも……。後で穂乃果ちゃんには改めて話しておきます」

「まあ……幼馴染の二人がそう言うなら。でも、三人の意見が聞きたい議題もあるんだよなぁ」

 

今日話そうと思っていたのは、μ'sの今後の活動について。

先週末に行なわれたファーストライブ。準備期間を考えればこれ以上を望めないほどのステージだったが、本来の目的を考えれば決して成功とは言えない。

オープンキャンパスまではもう後二ヵ月。これからまずまず忙しくなる中で、やはり活動の土台はしっかりと作っておきたかった。

絵里や希の話では、部員が5人以上居ないと部活動の認可は下りないらしい。よって今のμ'sには、当然部室も無いし部費も出ていない。今日だってわざわざこうしてミーティングのために放課後の空き教室を借りたのだ。

部への昇格。そしてライブ前の人手の確保や、アイドルとしての魅力の幅を考えても、メンバーの増員は積極的に行なうべきだ。

もちろん、全てがそんな打算から来る案ではない――――と、休日にA-RISEのライブで出会った眼鏡の少女を思い出していると、海未から声が掛かった。

 

「ちなみに、何について話し合うのですか?」

「ああ。言ってた通り、今後の活動についてかな。俺の個人的な意見としては、まずは新メンバーを――――」

「新メンバー!?」

 

俺の言葉を遮るようにして劇的な反応を見せたのは、先ほどまで机に突っ伏してうんうんと唸っていた穂乃果だった。

その顔は驚きに満ちていたが、俺と目が合うとすぐにその表情はくっと引き締まった。

 

「こう君」

「な、なんだ?」

 

 

 

「私、真姫ちゃんをμ'sに入れたいっ!」

 

 

 

――――誰か説明をお願いします。

唐突な穂乃果の言葉に、俺は現実逃避をするようにそう思った。

 

 

 

 

 

 

MUSIC-19へ続く

 

 




アニメとは結構展開を変える予定です。
だからこそ、遅筆に磨きが掛かっているわけですが(笑)

さて、とりあえずスクフェスの真姫ちゃんイベント頑張るか(‵・ω・´)

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