ラブライブ! ~西木野真姫の幼馴染~   作:雅和

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たいっっっっへん遅くなりました!!
会社の夏休みを挟んだ影響もありますが、それ以上に二章の構成を考えるのに苦労しました。。。久しぶりの超難産物です。

では、どぞどぞ。


第二章
MUSIC-16 『A-RISE』


<other side>

 

 

 

「ん……んぅ~~!」

 

本日のノルマの最終問題である数学の回答を埋め終えて、真姫は自身の体を椅子に預けて大きく仰け反らせた。伸ばした背中から、パキパキと小気味良い音が聞こえる。

壁に掛かっている時計を見れば、後30分で日付も変わろうという時間帯だった。いつもよりも一時間は遅い。特別難しい問題は無かったので、あまり集中出来ていなかったということだろう。

ため息をひとつ落としてから、机に備え付けられているライトを切る。流石に今日はもうピアノと向き合う気力も無いし、何より音を奏でていい時間ではない。彼女はそのまま部屋の電気も落とすと、一人用にしては幾分大きいベッドに潜り込んだ。

 

「…………」

 

暗くなった自室で、天井を見つめながら思い返すのは今日の出来事。音ノ木坂のスクールアイドルによる、講堂でのファーストライブ。

自分が作曲した曲があのような形で発表されることに多少の気恥ずかしさはあったものの、それ以上に真姫は確かな高揚感を憶えた。

高坂穂乃果、園田海未、南ことりの三人のライブは、確かにまだまだ改善の余地はあるだろう。けれど懸命に、大きな願いに必死に手を伸ばすかのようなパフォーマンスは、自分の心を惹きつける何かがあった。

言葉にし難い感情。それに、敢えて名を付けるとすれば――――。

 

「羨ましい、か。…………勉強に集中できないわけよね」

 

父親が大病院の院長で、母親も同じ病院に勤める医者。言い方が悪くなってしまうが、その“既定路線”に疑問を覚えたことも、反発心を持ったこともない。

勉強が嫌いなわけではないというのも大きいだろう。地頭は良い方だと自負しているし、勉強して知識欲を満たしていくことを楽しくも思う。

そしてその傍ら、趣味程度にピアノを弾くことが出来れば満足だったはずだ。――――今までは。

 

「私はいったい、どうしたいのかしらね」

 

医者という職業が将来の目標であることに変わりは無い。両親の影響が無いとは言えないが、それでも自分の意志で決めた道だ。

でも――――と思考は続く。本当にそれだけなのだろうか、と。

 

「…………」

 

それ以上考えることを拒絶するかのように、真姫は目を閉じた。彼女たちのライブを見て芽生えた何かを、その胸に抱えたまま。

 

 

 

<other side end>

 

 

 

 

 

 

 

ライブの翌日。俺は一人、ある目的のために電車に乗って秋葉原まで来ていた。

ちなみに今日と明日の二日間は、μ'sの活動も休みとなっている。穂乃果は実家の和菓子屋の店番、海未は弓道部、ことりはバイトと、それぞれ休日とはいえ忙しいようだ。

昨日までは余裕のない中でライブという目標があったので、かなり駆け足で練習を詰め込んできた。オーバーワークを懸念していたが、これで少しの間は練習のペースも落とせるだろう。

もちろん、学院の廃校を阻止するという目標はまだ遥か先。とりあえず週明けの放課後に、今後の方針を決める予定だ。

 

「うわっ、思ってた以上に人が多いな……」

 

いつかも来たUTX学院の前。相も変わらず立派な校舎の前の簡易ステージには、まだ開演前だというのに既に多くの観客がひしめき合っていた。

ステージの前に所狭しと並べられたパイプ椅子は、見渡す限りほぼ満席状態。幾人か警備員らしき人物も動員されている辺り、その突出した人気具合が伺える。

――――今からここで行なわれるのは、スクールアイドルによるライブだ。

スクールアイドル単独のライブであることを前提とすると、普通ならば考えられないほどの集客力。だがそれが、スクールアイドルのトップともなれば話は別。

 

「A-RISE……やっぱり、凄いな」

 

まだ肝心のライブさえ始まっていないというのに、思わず口からは感嘆の言葉が漏れ出てしまう。

昨日、穂乃果たちのファーストライブを終えて、集客というのがどれほど大変かを思い知ったばかりだ。一朝一夕の努力の成果ではないと分かってはいるけど、それでも結果だけこうして目の当たりにすると凄いという言葉しか出てこない。

 

「もう少し早く出てくるべきだったか。……席空いてるかな」

 

並べられたパイプ椅子と同じ数での人数制限がされているため、こうして入場出来た時点で座れないことはないと思うけど。ただ自由席であるためか、ステージが見やすい中央付近の席はもうほとんどが埋まっている。

――――お、あそこ空いてるかな?

 

「すみません、ここ空いてますか?」

「はいぃ! あっ、ごめんなさいっ。…………ど、どうぞ!」

 

バッグだけが置かれている席が目に入ったので、一応隣の席の女の子に声を掛けてみたところ、酷く慌てた様子でバッグを自分の膝に乗せてくれた。

そこまで恐縮されると、何だか悪いことをしたような気持ちになってしまう。もうほとんど他の席は埋まっているので、許して下さい。

心の中で謝罪しながら改めてその子を見てみると――――眼鏡を掛けたその顔は、つい最近どこかで見たような気がした。

 

「(……んーー?)」

 

思わずじっと彼女の顔を見つめてしまっていた。危ない危ない。幸いにも彼女は夢中になってパンフレットを読んでいたため気付かれなかったが、下手をすると警備員に連行されるところだった。

腕時計に目を落とすと、開演まで残り30分ほど。俺は隣の女の子に倣って、入口で無料配布していたパンフレットに目を落とすことにした。

 

 

 

 

 

そうして満を持して開演されたA-RISEのステージは、まさに圧巻の一言だった。

昨日、穂乃果たちの演技を素晴らしいと思ったのは掛け値なしの本音だ。まだまだ拙い部分もあったが、彼女たちのパフォーマンスには確かな輝きがあった。

しかし、目の前のステージで躍動するA-RISEの演技は、さらにそれを上回る。その一挙手一投足から目を離すことが出来ない。動画を見て分かってはいたが、生で見る彼女たちはこれほどだったのか。

 

「あんじゅーーーーー!!」「あんじゅちゃああああんっ!」

 

各メンバーのソロパートに入ると、まずは先頭を切って歌い始めた優木あんじゅに、野太い声援が降り注ぐ。

彼女の一番の特徴は、やはりその柔らかそうな肢体と蠱惑的な表情だろう。老若問わず男を魅了する色香は、今のμ'sメンバーには出せないものだ。

 

「英玲奈さーーーーん!!」「きゃああああ! 英玲奈様ぁぁぁぁぁ!!」

 

続いて歌い始めた統堂英玲奈には、さきほどのあんじゅとは真逆の黄色い声援が飛び交った。

切れ目の長い瞳とクールな表情。日本人らしい艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、モデル並のスレンダーな長躯をキビキビと動かす様は、世の女性の憧れを具現化したような存在なのだろう。

 

そして、A-RISEのリーダーにしてスクールアイドル界の女王、綺羅ツバサが堂々と前に出た瞬間――――会場中に、怒号のような歓声が爆発した。

 

「ツバサああああああ!!」「ツバサさぁぁぁぁん!!」「ツ・バ・サ! ツ・バ・サ!!」

 

まるで会場に居る全員が叫んでいるかと錯覚するような音の波にも、ツバサは歓声に応えるように余裕のある笑みでウィンクすら見せる。

彼女の体は決して大きくない。いや、むしろ同じ年頃の女子に比べて小柄であると言えるだろう。だというのに、とてもそうとは思えない存在感と威圧感。凶暴なまでの魅力。

その立ち居振る舞いはまさしく女王だ。それでいて一切の傲慢さを感じさせず、アイドルが本来持つべき清純さをも絶妙なバランスで兼ね揃えている。

 

「(分かってはいたけど、改めて思い知らされたな……)」

 

プロと遜色ないその実力をこうして肌で感じることが出来たことが、今日の一番の収穫と言えるだろう。元々はμ'sの今後の練習の参考になればと思って来てみたのだが、今の段階ではレベルが違いすぎてとてもじゃないが参考にはなりそうにない。

単に学院の廃校を阻止することを目標としている今は、まだそこまで影響は無いかもしれない。しかしその先…………もし廃校を免れたとして、μ'sの活動も続けるのだとすれば、いずれはA-RISEにも――――。

 

「(……いや、今考えることじゃないか)」

 

ついつい考えすぎて変な方向へ思考が逸れてしまう。

今はとにかく――――スクールアイドルのトップチームのステージを楽しむとしよう。

 

 

 

 

プログラムは恙無く進行し、アンコールに応えたA-RISEが歌った、彼女たちの代表曲といえる「Private Wars」を最後に、熱狂の渦の中ライブは閉幕を迎えた。

途中からは俺もあれこれ考える余裕なんて無かった。それくらい、彼女たちのパフォーマンスに引き込まれていた。

 

「さて、そろそろ帰るかな。……ってあれ?」

 

既に会場にいた観客のほとんどは会場を後にしており、設営の係員が片づけを始めている。

俺はこの後予定も無いし、人の波が引くまで待っていたんだけど……流石に声を掛けた方がいいかな。

 

「えっと…………大丈夫?」

「――――はうぁっ!? ……あ、あれ?」

 

なるべく驚かさないように抑えた声で、その小さな肩を二度優しく叩く。

すると彼女――――ライブ前に話しかけた隣の席の女の子は、夢うつつだった表情をようやく崩し、状況を察した途端顔を赤くして慌て始めた。

 

「ああああああああの、すみませんでしたっ!」

「ああ、いや。気にしなくていいよ。……ところで、一つ聞きたいことがあるんだけど」

「……聞きたいこと、ですか?」

 

腰を直角以上に曲げて深く頭を下げる彼女に対して、俺は先ほどようやく思い出したことについて尋ねてみることにした。

きょとんとしながら上げた顔は、やっぱり見覚えがあって。でもそれ以上に、A-RISEのステージを見つめるキラキラした目が、μ'sにとっての最初の観客のものと重なった。

 

「もしかして、昨日の――――μ'sのライブに来てた?」

 

そう尋ねると、彼女――――小泉花陽(はなよ)は、驚いた顔のまま今日二度目のフリーズ状態になってしまうのであった。

 

 

 

MUSIC-17へ続く

 

 

 




というわけで、第二章開始です。
正直まだ構成が固まってはいないので、書きながら考えていきます(‵・ω・´)

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