ラブライブ! ~西木野真姫の幼馴染~   作:雅和

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絵里は真姫ちゃんの次に好きなキャラです。
エリチかわいいよエリチ(^ω^)


MUSIC-09 『希望のカード』

「それじゃあ………話、いいか?」

「………ええ」

 

昼休み。家から持参していた弁当を速攻で平らげた俺は、生徒会室で昼食を取っていた絵里と希の元を訪れていた。

取りとめもない雑談をしながら二人が食べ終わるのを待って、一息ついたタイミングを見計らい声を掛ける。絵里もその内容は察していたのか、表情を引き締めて頷いてくれた。

 

「まず、朝は悪かった。もう少し調べてから行くべきだったな」

「………別にいいわ。まだ貴方は転入してきたばかりだもの。それより、他に言いたいことがあるんでしょう?」

 

まずは謝罪から入ったのだが軽く流された。喧嘩腰とまでは言わないが、その硬質な声音に思わず怯みそうになる。

 

「そっか。じゃあ聞かせてもらうけど――――絵里は、何に焦っているんだ?」

「っ、焦ってなんかいないわ」

「正直、今朝のあれは生徒会長の役割を越えているように見えた。言っていることは正論だったけど、あそこまで頭ごなしに否定されたら誰だって納得出来ないよ」

「………浩一は、上手くいくとでも思っているの?」

 

絵里の静かな問い。言葉は省かれているが、本当にスクールアイドル()()()で学院の廃校を免れることが出来ると思っているのかと、その厳しい瞳が言外に語っていた。

 

「思ってる。もちろん簡単に考えているわけじゃない」

「そうかしら。私にはあんなお遊びで、生徒が集まるとは到底思えないわ」

 

お遊び、と来たか。

 

「絵里が何でそこまでスクールアイドルに対して辛辣なのかは分からないけど、思いつくことは何でも試してみるべきじゃないか?」

「その結果が、やっぱり出来ませんでしたでは済まないのよ? そうなればもう、巻き返しも出来なくなる」

「何もしなくても結果は同じだろう。だったら俺はあいつらに賭けたい」

「このまま何もしないでいるつもりはないわ。今も生徒会で対策案を考えているところよ」

「もちろん、有効な案があるならそれに越したことはないな。でも、そう簡単に今の状況を好転させる手が考え付くのか?」

「それは――――」

「はいはーい、そこまで」

 

それはさっきのデジャヴュを見ているようだった。それまでずっと黙していた希が、苦笑しながら割り込んでくる。

 

「一日に二回も仲裁することになるとは思わんかったわ」

「あー………悪いな、希。絵里もその、ごめん。ちょっと熱くなった」

「いえ、私の方こそごめんなさい………。でも――――」

 

俯く彼女に罪悪感が押し寄せる。何かワケ有りのようだし、無理に聞きだすつもりはない。

 

「とにかく、今日はここまでにしよう。話し合えて良かった」

 

お互いに納得はし合えなかったが、その考えは理解できたと思う。ひとまず今はこれで充分だろう。問題を先送りにしているだけかもしれないが、今後の展開次第でお互いの考えが変わる可能性もある。

まずは一月後のライブ。そこで結果を出すしかない。――――とそこまで考えて、俺は生徒会室に来たもう一つの理由を思い出した。

 

「っと、忘れるところだった。昼休み中で悪いけど、これを提出したい」

「これは………講堂の使用許可申請書?」

 

午前中に超特急で仕上げた申請書を絵里に渡す。それには日時や代表者名の欄はあるが、申請理由を書く欄は無い。しかし、今までの話の流れからして何を行なうかは明白だろう。

 

「日時は新入生歓迎会の放課後、ね」

「ああ。――――絵里、まずはチャンスが欲しい。学院内だけのライブであれば、まだいくらでも後戻りは出来るだろ?」

「あと一月しかないけれど、本気なの?」

「逆に言えば、その頃にはある程度モノになっていないとオープンキャンパスには間に合わない」

 

言葉をいくら重ねたところで、今のままでは説得力など無い。ならば、アイドルらしく歌とダンスで表現すればいい。――――彼女たちの、本気を。

 

「………わかったわ。どちらにせよ申請書に理由を書く欄が無い以上、生徒会では審査できないもの」

「はい、しょーにん」

 

絵里が諦めたようにそう言った次の瞬間には、希が俺が持ってきた申請書に生徒会長の承認印を押していた。なんか軽くね?

そんな親友の行動に呆気に取られたような顔をした絵里が、「まったく」と顔を綻ばせて苦笑する。

 

「はは、サンキューな、希。それじゃあ、俺はもう行くよ。まだまだしなきゃいけないこともあるし」

「ええ。応援は出来ないけれどね」

「じゃあこっちも、生徒会の仕事頑張ってとは言えないなぁ」

 

最後にそんな軽口を交わして、生徒会室を出る。希が場を和ませてくれたおかげで、お互いに今日のことを引きずることは無いと信じたい。

 

「さて、午後の授業も頑張りますかね」

 

とりあえずは肩の荷が一つ下りたような、そんな気分で俺はのんびりと教室に向かって歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

<other side>

 

 

 

「エリチは頑固者やね」

「――――はぁ。それくらい分かってるわよ」

 

浩一が出て行った後の生徒会室。

開いている窓辺に寄って、風を感じるように目を閉じながらそっと漏らした希に対して、絵里は一つため息をついてからそう返した。

 

「………希」

「ん?」

「何も聞かないの?」

「聞いて欲しいん?」

「――――相変わらず意地が悪いわね。今のは忘れてちょうだい」

「ふふっ」

 

まるで全て分かってるとでも言わんばかりに慈愛の笑みを浮かべる希に、本当に自分と同い年なのだろうかと軽く疑いを持つ。

それに引き換え自分は、意地を張って私心で仕事をして――――まるで感情を制御できない子供のようだ。

 

「浩一君は、ええ人やね」

「………否定はしないわ」

「素直やないなぁ」

「本心よ。でも――――浩一とスクールアイドルっていうのは、似合わないと思うわ」

 

時々ふざけたりもするが、基本的に思考が大人びていていつも冷静な彼と、華やかだがどこか軽い印象があるアイドルはどう考えても結びつかない。

 

「それにはやっぱり、理由があったんちゃう?」

「理由?」

「そ。エリチだって、彼が何の考えも無しに彼女たちに力を貸してるとは思ってないやろ?」

「それはまあ………」

「それにな――――」

 

希は言葉を一度切り、どこから取りだしたのか、カードの束を机の上に置いた。

それは絵里にとっても最早見慣れたもの。神田明神で巫女のバイトも務める彼女は、同学年の間では非常によく当たるタロット占いでちょっとした有名人だ。

 

「カードが告げてるんよ。何度やっても、同じ結果をね」

 

その時、開けっ放しだった窓から前触れもなく突風が吹きこんだ。室内を蹂躙するように吹き荒れ、机上に置いてあっただけのタロットカードも風に煽られてバラバラと四方八方に散っていく。

そんな中、まるで何かに導かれるように一枚のカードが舞い、その結果を見せつけるように真っ直ぐと、生徒会室の壁に張り付いた。

 

一連の奇跡のような出来事は、彼女に希望という名の思いを抱かせるには――――いや、確信させるには充分すぎた。

WHEEL of FORTUNE《運命の輪》の正位置。運命や転機を意味し、正位置であれば好転、出会い、飛翔を示す。

 

「(スクールアイドル――――ウチの夢、みんなの希望)」

 

まるで、何かを願うように。何かに誓うように。

彼女は制服のポケットに入れていた、たった三文字を書いただけの手紙にそっと触れるのであった。

 

 

 

 

 

MUSIC-10へ続く

 

 




少し短いですが、キリが良いのでここまで。


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