異世界転生にハーレムを求めて何が悪い!   作:壟断

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07:女神に応える者たち

 ダンジョンから戻った私は『青の薬舗』に今日の稼ぎを持って行ったところ、見たことのある顔ぶれが並んでいた。

 私の主神であるミアハ様と同じファミリアの団長である犬人のナーザァが居るのは当然として、その他の顔ぶれは私にとってそれなりに関係深いモノだった。

 

「……ミアハ様、ただいま戻りました」

 

 私の問いかけに店内の者たちが一斉にこちらを見た。

 ミアハ様たちはいつも通りの出迎えだが、他の面々は微妙な感じの表情を見せている。

 

「ゼノンか! 良いところに戻ってきてくれた」

 

 私のスキルに影響されなくなったミアハ様が熱い抱擁で出迎えてくれるが、背後のナーザァが銀の腕で規制が入りそうなサインを送ってきている。

 ファミリアのいつも通りな出迎えを経て、ミアハ様が現在の状況を簡潔に教えてくれた。

 

「クラネル君たちの捜索ですか……」

 

 ベル・クラネルとそのパーティーが初めて中層に挑み、他のパーティーから『怪物進呈(モンスターを押し付け)』られて安全確認ができていない。

 この流れは間違いなく全滅コースだが、ベル・クラネルたちの主神たちは彼らが生きていることを『恩恵(ファルナ)』を通して確認済みとのこと。

 

「私が16階層から戻る時にはすれ違わなかったので、おそらく縦穴から落下した可能性があります。そうなれば捜索活動は自ずと中層の深いところまで及ぶ……中層全域を捜索可能なレベルのファミリアから協力は得られていますか?」

 

 ミアハ様から説明を受けた私は、ベル・クラネルの主神たる黒髪の女神ヘスティアに問いかける。

 

「もう冒険者依頼(クエスト)の発注は済ませてあるけど、今のところ協力が得られているのは、タケミカヅチのとこの子たちだけだよ」

 

 苦虫を噛み潰すかのように私の問いに応えるヘスティアの頬は、痙攣したかのようにヒクついている。

 私が知る三大処女神の一画たるヘスティアは家庭生活の守護神だったが、この世界のヘスティアもファミリアという家族に対する想いは強いらしい。

 

「こんなことを頼むのは厚顔無恥なことだと思うけど……どうか、ベル君たちを助けて欲しい」

 

 スキルの影響で私に嫌悪を感じていながら強靭な意思で言葉を紡ぎ出すヘスティア。

 幼い見た目であろうとも神は神、ということか。

 私が知るヘスティア神も全能の神ゼウスの姉だったからな。

 不老の神は見た目より、神生経験は膨大なものになるのだろう。

 

「………っ! ……何かとても無礼なことを考えられたような気がするけ、どぉぉぉ! 君の助けが必要なんだ!」

 

 頭を下げたヘスティアが私の思考を感じ取りながらも全力で我慢しながら懇願を続ける。

 

「そこまでされずとも私は断りません」

 

 私の答えを受けてヘスティアが呆けたような顔を私に向ける。

 

「へ? だってぼくは……君を捨てたんだよ? それなのにぼくのお願いを聞いてくれるのかい?」

 

 確かに『生理的に無理』という言葉を可愛らしい女神に言われた時は、ゾクゾ……じゃなくて傷付いた気がしないでもないが、そんなことで私はこの女神を恨むようなことはない。

 

「私を捨てた神を恨んでなどいません。私はミアハ様に拾われて冒険者になることができましたから。……まあ、強い冒険者になって見返してやろう、くらいは思っていますけどね」

 

 ファミリア入りを拒絶された程度で恨んでいたら私はオラリオの半数以上の神々を恨まなければならない。

 

「ゼノン君……本当にすまない」

 

「頭を上げてください、神ヘスティア。もとより貴女に非はありません」

 

 いまだスキルの影響で頬をヒクつかせながらも深々と頭を下げるヘスティアに声をかける。

 本心を言えば、こんなに可愛らしい女神に頼りにされて嫌なはずがないのだ。

 例え他の男の為だとしても女に頼られたら男して力が入るというもの。

 それが女神からの願いだとすれば、高揚感も一押しだ。

 

「ミアハ様、ベル・クラネルたちの捜索に私も加わろうと思います」

 

「うむ。もとよりゼノンには捜索隊に加わってもらうつもりだったからな。我々の分まで頑張るのだぞ?」

 

 ヘスティア・ファミリアとはもとより懇意にしていたミアハ様は、私の参加を快諾してくれた。

 それと共にミアハ様の隣に控えていたナーザァがいくつもの瓶が詰まった箱を私に差し出す。

 

「私はいけないから……ゼノンは、ミアハ・ファミリアの代表」

 

 差し出された箱の中にあったのは回復系ポーション。

 私が採取してきた素材や稼いだ資金で作成されたオラリオでも最上級の回復薬は、このひと箱で1000万ヴァリス近い価値がある。

 それを他のファミリアのために提供するというのは、少し前までの守銭奴(ナーザァ)なら考えられなかった。

 ナーザァの心にも余裕ができたのだなと思っていた私の耳元に口を寄せて他に聞こえないほどの激励を告げる。

 

「ヘマしたら……ぶち込む」

 

「ど、何処に……?」

 

 中指を立てた銀の腕を皆の死角で私だけに見せるナーザァの瞳に嘘はなかった。

 いくらスキルの影響でもナーザァの私に対する反応は、明らかに別のベクトルだから怖い。

 ただ嫌われるだけなら構わないのだが、ナーザァの脅しはえげつないものが多いから本当に怖すぎる。

 

 先輩眷属からの餞別と激励に戦慄していた私に今度は紅眼紅髪の美しい女神が値踏みするような視線で語り掛けてきた。

 

「私からもお願いしておくわ。うちのファミリアの子もヘスティアの子と一緒にいるから」

 

「はい! お任せ下さい、ヘファイストス様!」

 

 男装の麗神ヘファイストスは、私を捨てた神の一人だ。

 ファミリアに入れてほしいと土下座した私を面接官だった【ヘファイストス・ファミリア】団長と共にそのおみ足で踏みつけてくれた。

 またご褒美をもらえるのかと思い土下座しかけた私にヘファイストスが見た目に反してかなりの重量がある包みを渡してきた。

 

「アンタがうちに依頼していた特注品だ。甚だ遺憾だが、『神の力』を使えない私では絶対に造れない最上級の品だ。最後の仕上げだけは私も手を加えたけどね」

 

 包みを開くとそこには、雷を模った神聖文字(ヒエログリフ)が刻まれた篭手と一体化した小盾が現れる。

 

「『イージス・オブ・ライトニング』――。アンタの生き汚さと『神の力(アルカナム)』が混ざった怪物さ」

 

「ありがとうございます、とコルブランドさんにお伝えください」

 

「了解。あの子は、礼よりもっと良い素材を集めてこいっていうだろうけど」

 

 手渡された神の力を宿した盾をさっそく左腕に通す。

 迷宮で手に入れた雷が結晶化したような宝石を【ヘファイストス・ファミリア】に持ち込んで作ってもらった『神力(アルカナム)』を持つ盾。

 私に対する嫌悪はあっても【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師としての矜持は何一つ褪せることがない。

 馬鹿げた希少性の素材を加工できるのは、それ相応の格を持った鍛冶師のみ。

 それは必然、オラリオ最高の鍛冶師に限られる。

 私を踏みつけていた頃のコルブラント女史を思いながら感慨深く盾の感触を確かめているとミアハ様も一つの包みを私に差し出した。

 

「私からはこれを授けよう」

 

「これは?」

 

 ミアハ様から手から渡された品は、質素な造りの首飾り。

 簡素な造りの鎖に【ミアハ・ファミリア】を示すエンブレムが刻まれたプレートが付いている。

 

「私がヘファイストスに依頼して作ってもらったお守りだ。それがあればお前の『不運』をある程度緩和してくれるはずだ」

 

 周囲に他ファミリアがいる中では、スキルという言葉を避けて言う。

 もし、ミアハ様が言うことが真実ならばこれまでの私の冒険を一変させることになる神器だ。

 不敬にもこのアイテムの効果に不信を抱いた私にミアハ様は微笑み、ヘファイストスも苦笑を私に向けていた。

 

「他のメンバーと会話もままならないなんてことになったら捜索活動にも支障がでるでしょ?」

 

 この女神は、私のスキルのことを知っている。

 ミアハ様から伝えられたのか、それとも自ら感づいたのかは定かではないが、私の境遇を知って力を貸してくれた。

 ミアハ様が手をまわしてくれたことだとしてもそれは私に暖かな何かを与えてくれる。

 

「あ、ありが「礼はいらない」……ヘファイストス様」

 

 私の感謝の意を止めたヘファイストスは、厳しい眼を私に向けて口を開く。

 

「あの子から……と私からも忠告――『私たちの作品(こどもたち)は、君を裏切らない』」

 

 女神の紅い左眼を通して赤い右眼の鍛冶師の言葉が私の耳に、心に響いた気がした。

 

「アンタの武具を見れば分かる。アンタは私たちが感じているような子供じゃないってね」

 

 ヘファイストスはそう言いながら笑みを見せる。

 

「今回は、私の子も居る。必ず、見つけてきて」

 

「……っ、必ず!」

 

 母の子を思う穏やかな笑みに私は素直な気持ちで頷くことができた。

 子思う二人の女神と私を愛してくれる主神の言葉を受け、私は今までに感じていなかった何かを胸に抱くことができた気がする。

 

 ベル・クラネルたちの捜索に俄然やる気が出てきた私は、改めて残りのメンバーに目を向ける。

 鬟の美男神タケミカヅチとその眷属の者たち。

 

「神タケミカヅチと桜花以外は、初めましてですよね?」

 

「ん? そうだったか。私から紹介しておこう」

 

 言うとタケミカヅチが【タケミカヅチ・ファミリア】団長の桜花以外の眷属たちを一人ずつ紹介してくれた。

 しかし、私の視線は桜花の視線とぶつかったままでいた。

 

「……久しぶりだな、桜花」

 

「すまない……」

 

 ただそれだけ。

 たった一言の謝罪に込められたこの男の苦悩を私は理解してやれない。

 

「お前の為じゃない。今回も……あの時もな」

 

 桜花は、間違いなくタケミカヅチが見初めた武人だ。

 その武人に私は頭を下げさせたいと思ったことはない。

 タケミカヅチがオラリオに来てすぐの頃、入団申し込みに来た私に対応したのがタケミカヅチとこの桜花だった。

 あの時もタケミカヅチ共々私に嫌悪の視線を向けて取り合わなかった。

 タケミカヅチはもとより、桜花もそれなりに整った顔立ちの男だったので当時は私も嫌っていたが、彼の人となりを知る機会があったため好ましく思うくらいだ。

 しかし、桜花は私と組むことを甘えと感じているようだった。

 ベル・クラネルたちが今も迷宮で危険な目にあっているだろう現在の状況は、彼の判断が招いたこと。

 私は今でも彼の言葉を思い出せる。

 

『主神の名を穢す』

 

 私の影響だったとはいえ、彼が私の入団を拒絶した言葉の意味はそういった趣旨のものだった。

 確かにあの頃の私は、何の取り柄もない品性下劣な凡人だったから清廉な武人であるタケミカヅチの眷属には相応しくなかっただろうからな。

 あの対応は仕方がなかった。

 今回はたまたま状況的に桜花自身が主神タケミカヅチの名に泥を塗る結果となってしまっているだけ。

 他の誰もが桜花の判断に理解を示したとしてもタケミカヅチは、その判断を自身のことのように悔いる。

 その場に居たわけでもない主神が自分の下した判断のせいで要らぬ心労を募らせ、頭を下げる。

 それはどんなに割り切ろうと思っても武人である桜花は、主神や仲間に不義を背負わせたと一人己を責め続けるだろう。

 

「必ず、無事に連れて帰るぞ」

 

「……貴様に言われるまでもない」

 

 私の確認に桜花は、揺るぎない意志で応えた。

 この武人もまた自らの主神に報いんとする男だった。

 私のような下衆に謝罪し、私の力を使うことを甘えと断じ、背負う必要のない懊悩を抱えている。

 人は誰しも限界がある。

 私はそれを知っているし、他力を当てにすることを当然と考えている。

 人は何をするにも必ず不足する部分が出てくる。

 

『己を弱いと嘆く者に強さを得ることはできない』

 

 私を最初に見捨てた神が唯一私に残した祝福。

 この言葉の意味を手にするために私は、数年の時を要した。

 それでも私は諦めることなく今日まで走り続けている。

 力尽きるその時まで一歩ずつ。

 

 

 

「これで捜索隊は、タケミカヅチのところが3人にミアハのところからゼノンが1人」

 

 ベル・クラネルたちの捜索に向かうためのメンバーとしてこの場から出せる人材は、計4人。

 それを確認するように見渡したヘファイストスの言葉に何かを思案した様子のヘスティアが私に問いかける。

 

「ゼノン君……率直に聞かせてほしい。この戦力でベル君たちを助けられると思うかい?」

 

「捜索するだけならば」

 

 女神の問いに即答しながら私は、女神の神意を想定し、しばらく間をあけて応える。

 

「彼らが居る階層にもよりますが、全員が無事に地上へ帰還できる可能性は低い。……無力な神を連れていたら間違いなく死人が出ます」

 

「……っ」

 

 神ヘスティアの御心を慮って言葉を濁すより、現実を告げることで少しでも不確定要素を削りたい。

 私一人ならベル・クラネルたちを探し出すまで中層でも十分に活動ができる。

 しかし、彼らが負傷していると仮定した場合、自力歩行が困難になっている者をつれて迷宮を上ることはできない。

 私が囮となり、桜花たちに護衛させたとしても彼らが別の場所で襲われたらどうしようもない。

 ここに尊敬すべき慈愛の心を持つ神を入れてしまえば、間違いなく犠牲が出る。

 

「神ヘスティアを連れていくならLv.1なら少なくともあと6人、Lv.2でも4人は必要だと考えます」

 

「そんな戦力を集めようと思ったら時間がかかりすぎる」

 

 私の言葉をヘファイストスが現実的ではないと告げる。

 それでもヘスティアの表情に諦めはない。

 この女神はどうしても自分の子を直接その手で抱きしめ、安全を確かめたいのだろう。

 しかし、ここに居る人脈で残りの戦力を即座に用意できる者はいない。

 いや、できないというのが正しいか。

 

「……無い者ねだりは辞めましょう。今は、一刻も時間が惜しい。神ヘスティア――」

 

 やはり連れていくことはできない、そう告げようとしたところ――。

 

「お困りのようだね、ヘスティア!」

 

 金髪の優男風の神が芝居掛かった仕草で言う。

 

「優秀な上級冒険者2名、ご入り用じゃないかね?」

 

 その後ろには、深いため息を吐きながら頭を抱えている眼鏡の女性と頭からローブを羽織り、覆面で顔を隠す女性が佇んでいた。

 また私の過去を刺激する神が一柱、現れた。




≪イージス・オブ・ライトニング≫
 椿・コルブランド作(ヘファイストス仕上げ)、特注品(オーダーメイド)
 雷を模った神聖文字が刻まれた篭手と一体化した円形の小盾(スモールシールド)。左腕用。
 材料に『神の力(アルカナム)』の結晶と思われる『神雷石』を使用して作成されたため、椿の作品でありながら最終的な仕上げはヘファイストスが行った。
 雷属性付与。
 神器の領域に足を踏み入れた第一等級武装。
 価格:10億ヴァリス(価格設定は、技術料のみ。支払は等価相当の希少素材で前払い)

神の首飾り(ミアハ・ネックレス)
 ミアハ及びヘファイストス合作。
 簡素な造りの【ミアハ・ファミリア】のエンブレム入りネックレス。
 スキル:【強欲の代償(マモーナス)】のデメリット効果を僅かに抑制する。
 これにより、高レベル者はスキル効果を判定でレジストできるようになる。
 ゼノン・ダイシン専用装備。
 価格:1億ヴァリス(等価相当の特定素材採掘クエストにて後日返済)

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