異世界転生にハーレムを求めて何が悪い!   作:壟断

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03:ギルド職員とのふれ合い

 

 世界で唯一「迷宮」が存在する都市オラリオの中心部といえば、やはり「迷宮」である。

 そして、世界で唯一の「迷宮」の直上にそびえ立つ神域の建造物である地上50階建ての摩天楼「バベル」。

 現在のバベルは、迷宮からあふれるモンスターを抑える「蓋」の役割を持っていた建造物を神々が壊して作り直されたものであるらしい。

 そんな神々の遊びのような神話に語られるバベルの中にはさまざまな施設が設けられており、迷宮に一番近い一階にはギルドの施設がある。

 

 氏名:ゼノン・ダイシン

 職業:冒険者兼行商人

 人種:ヒューマン

 所属:ミアハ・ファミリア

 ステイタス:Lv2 ← New

 

 先日、ステイタス更新があったのでギルド受付で申告手続きをしていたところ――。

 

「ありえない! ありえないですよ、ダイシン氏!」

 

 提出した書類を確認したギルド職員(男)が唾を飛ばしながら叫んだ。

 

「ダイシン氏、ダイシン氏! 貴方は自分が冒険者になってどれくらいか覚えてますか? 覚えていますよね!?」

 

「ちょ、唾飛ばし過ぎ! というか、そんなに詰め寄らないでくれませんか!」

 

 ギルド受付(女性冒険者専門)の理知的な眼鏡美青年の普段見られない動揺した表情を前に私の方が狼狽してしまう。

 私が女性であれば彼のような男に顔を近づけられたら頬のひとつでも染めていたかもしれないが、幸い私は男であり、男色の気もない。

 

「私が冒険者になったのは一ヵ月くらい前ですけど? それが何か?」

 

「何か? じゃないです! じゃないんですよ!」

 

 妙なテンションで言葉を繰り返す受付男子と私のやり取りに周囲のギルド職員や冒険者たちの視線が集まるのを感じる。

 

「ダイシン氏! あなたが冒険者として登録を済ませたのは、三週間前! 三週間前なんですよ!?」

 

「だいたい、1ヵ月でしょう? ……もしかして、ランクアップの件ですか?」

 

「そうです! それです! 先日のクラネル氏が打ち立てたランクアップ世界最速記録の1ヵ月半をたった数日で抜き去って半分にしてしまったのですよ?」

 

 受付男子の大声にギルド内の空気が騒然となる。

 つい先日、神ヘスティアが運営するヘスティア・ファミリアに所属する唯一の眷属であるベル・クラネルという少年が冒険者になって1ヵ月半でLv.2になった。

 この記録は、本来であればありえないものだったらしい。

 それを今度は私が塗り替えたものだから周囲の驚きが沈黙をもって示されている。

 

「……クラネル氏はミノタウロスを倒してランクアップされたと聞きますが、貴方はいったい何を倒してきたというのですか?」

 

 興奮しすぎて息切れでも起こしたのか大きく息を吐いてから常日頃の事務的な対応に戻った受付男子は、さらに問いを投げてくる。

 どうやってランクアップしたのかなんて申告義務はないはずだが、問われて隠すようなことでもないので私はため息ひとつ吐いて答える。

 

「強そうなモンスターは何匹か倒しましたけど、一番危なかったのはアイオライトゲルだったので、アレの時にランクアップ条件を満たしたんじゃないですかね?」

 

 アイオライトゲルはその名の通り、宝石のような美しく硬質な見た目ながらスライムのような軟体モンスターだ。

 プリズムシャドウと同じように防御能力が高く、流動的な身体から繰り出される刺突攻撃は状態異常こそ付与されていないが、攻撃速度が尋常ではなかった。

 アオイライトゲルとの戦いで敏捷アビリテが限界値近くまで鍛えられたからな。

 あの時、槍衾の如き刺突攻撃を回避できたのは「眼」と「魔法」と「靴」のおかげだろう。

 ダンジョンで初めて死ぬかもしれないと感じた一戦を思い出していたところ、受付男子が肩を震わせながらうつむいているのに気付いた。

 

「……大丈夫ですか? 風邪でも」

 

「Lv1の駆け出し冒険者が! 何故、30階層付近でしか遭遇例のないLv3相当の超希少モンスターと戦ってるんですか!?」

 

 再び血圧が上昇したと思われる受付男子は顔を真っ赤にして私の襟首に掴みかかってくる。

 というか三十路一歩手前のおっさんを捕まえて駆け出しとか辞めてもらいたい。

 冒険者としては駆け出しだが、人生では手遅れなくらいの上級者だと自認しているのだから。

 

「何故って、普通に10階層で出てきましたよ?」

 

 もっとも私のスキルがあってこそのイレギュラーだろう。

 それでも階層を無視して超希少モンスターと遭遇するということがどれほど奇跡的なことか私には実感できない。

 

「ッッッ!」

 

「ちょ、受付さん? なんか全身ビクンビクンしちゃってますが大丈夫ですか?」

 

 まるで危ない薬で危ない感じになっている者のように身体をガックンガックンさせる受付男子の姿にドン引きしてしまうのは私だけではないだ……私だけらしい。

 周囲の様子を見渡してみると受付男子ほどではないが、半数近くが現実逃避的な呟きを漏らしている気がする。

 

「ぼく、おうち、かえる」

 

「あ、ちょ、受付さん!」

 

 ひとしきりビックンビックンした受付男子は、まるで暴漢にあった生娘のような絶望の表情を顔に張り付けて部屋の奥へと消え去った。

 確かに通常の駆け出し冒険者が単独で自分のランク以上の階層に足を踏み入れることは勿論、格上のモンスターと戦うことも死を意味する。

 それを成し遂げたベル・クラネルは世界最速でLv2にランクアップした。

 私は、『元の世界』の記憶から彼は成長促進系スキル、それも能力上限値を突破するようなモノを保持していると睨んだ。

 そういった能力があるとあたりを付けた私は、ミアハから『神の恩恵(ファルナ)』を得たことで発現したスキルである『強欲の代償』の能力を最大限利用する方法を考えた。

 

 私のスキル『強欲の代償』は、アイテムのドロップ・レアドロップ率向上・ドロップアイテムの質向上、レアモンスター遭遇率上昇、獲得魔石の質向上、金運上昇など。

 

 他者から一時的に嫌われるというデメリットを抜きにしてもチート級スキルであることに変わりはない。

 成長促進系の効果はないが、豊富な資金で揃えた回復・補助アイテムとレア素材を用いた最高ランクの装備を用意することが簡単になる。

 装備が充実しているので自分より上位のモンスターを相手にしても余裕をもって戦うことができる。

 さらに他の冒険者と同じモンスターを倒しても数ランク上の魔石や素材を得ることができる。

 手にした素材をミアハ・ファミリアで加工した回復薬は売れ行きは上々で、私が得た冒険報酬と合わせて元々あった莫大な借金の返済もほぼ完了。

 ミアハから悪態を絞り出すという罪を繰り返しながらもミアハから受けた恩を返すことができている。

 また物理的な運だけにとどまらず、戦闘面にも若干の補正もあるらしく、装備やアイテムで能力を向上させ、特殊魔法である『グレータースティール』を使った魔石奪取による即殺法

 

で上級モンスターも軽々と仕留められる。

 上級モンスターを倒せば、それ以上の高ランクアイテムが手に入る。

 手に入ったアイテムは売却したり、素材にしたりしてさらに装備を整えて、さらに上のモンスターを倒す。

 そして、常に格上のモンスターと戦うことで基礎アビリティの成長も促進される。

 これらを繰り返したことで私は、Lv1でも深い階層に潜ることができるようになった。

 ミアハたちの作業を真似ることで作成可能になった低級回復薬をダンジョン内で得た素材を用いて作成することでダンジョン内で自給自足も可能。

 もちろん、私が作成した回復薬はその質も中級以上の回復薬となっている。

 ただ潜ることだけを考えれば30階層にも行くことができるだろうほどに私のスキルはチートだ。

 常に自分の限界以上のモンスター倒してきたのでもっと早くランクアップしても不思議ではなかったが、私にそこらへんの才能はないようだ。

 

「申し訳ありませんでした、ゼノン・ダイシン氏。彼には十分注意しておきますので」

 

「いえ、お気になさらず」

 

 精神的に凌辱の限りを尽くされた受付男子の代わりに現れたのは、特徴的な耳と眼鏡がチャーミングな愛らしいギルド職員(女)のエイナ・チュール氏だった。

 もともと私が目当てにしていた女の子の登場にだらしなく表情が緩んでしまうのをどうにか我慢する。

 

「それで本日のご予定はステイタスの更新のみでよろしかったでしょうか?」

 

 驚かされることに耐性があるのか、魅力的なハーフエルフのエイナちゃんは周囲の者たちより早めに立ち直り、事務的な笑みを向けてくれる。

 

「かわええ……」

 

 女の子に笑みを向けてもらえるだけで幸福を得られる私は心の声を漏らさずにはいられなかった。

 

「セクハラですか? 訴えてもよろしいでしょうか?」

 

「それはさすがに早すぎる! せめて、罵倒だけで留めてもらえると「ゼノン・ダイシン氏……キモいです」 ありがとうございます」

 

 穏やかな笑みと共に吐き出される美少女からの罵倒に思わず感謝の意がでる程度に私は異性との触れ合いに飢えているらしい。

 

「とりあえず、素材回収系のクエストがあればお願いします」

 

 素材回収系クエストは、私のスキルを利用すればノルマ素材だけでなく自分用の素材やアイテムを得て、依頼者からの報酬も得ることができるお得なクエストだ。

 しかし、エイナちゃんの返答は笑顔の否定でなされた。

 

「現在受けられる回収クエストはありません。どこかの誰かさんがどんな素材でもぽんぽん持ってくるから市場に素材が飽和しているらしいですよ? 採取系ギルドに背中を刺されない

 

ように注意した方が良いですよ」

 

「そ、そうですね。十分注意することにします」

 

 笑顔で酷いことを言ってくれるエイナちゃんに私を気遣っている様子はないので彼女も漏れなく『強欲の代償』の影響を受けている。

 エイナちゃんがツンデレだったら好意の裏返しだとわかるのだが、エイナちゃんはツンデレキャラじゃない。

 それに私に好意を持っていないからエイナちゃんに出ている影響は程よい罵倒なのだ。

 例え、一時的なものであるとわかっていてもミアハのような嫌悪の言葉を美少女から浴びせられたら興奮するだけじゃすまなくなってしまうだろう。

 

「それじゃあ、私はこれで」

 

「はい、夜道や迷宮探索に行く時は気を付けてくださいね」

 

「あ、ありが「近いうちに背中を刺されると思いますから」……気を付けます」

 

 良い笑顔で忠告してくれるエイナちゃんに礼を言ってギルドを後にする。

 

「今日は浅い階層で熟練度上げでもするか」

 

 特殊魔法『グレータースティール』を使い続けたことでランクアップと共に発現した発展アビリティ『強欲』を試したいからな。

 プリズムシャドウやアイオライトゲルから得た素材でヘファイトス・ファミリアに武具作成を依頼しているから新しい階層に向かうのはそれが完成してからでも遅くない。

 ミアハ・ファミリアの借金もほぼ返し終えているのでこれまでのように荒稼ぎする必要もなくなった。

 これからは、基礎アビリティの向上や戦闘技術の基本を鍛えていくことに力を入れていこう。

 

 ランクも上がり、借金も減り、冒険者としての道も順風満帆。

 ミアハに拾われて冒険者になる前とは文字通り、天国と地獄だ。

 今頃、私を門前払いした神々がどう思っているかを想像すると少しばかり気持ちが良い。

 

「なんや? どっかで見たことあるオッサンかと思ぉたらいつかのハゲデブやないか! まだ生きとったんか?」

 

 噂をすれば影というが、想像しただけでも災厄というものは現れるのか。

 現れるならせめて神の証たる双丘があるのが良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大事なことだから言っておくが、私は ハゲ じゃない! ハゲじゃない! ハゲじゃない!

 

 大事なことだから繰り返す! 間違いだから否定する!

 

「私はハゲじゃない! ただの坊主だ! このロキ無乳!」

 

 ここに宣戦布告がなされた。


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