やはり捻くれボッチにはまともな青春ラブコメが存在しない。   作:武田ひんげん

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卒業式は始まりの場所。彼らはそこから未来に進んで行く。

合格。

この言葉を待っていた。ホントに嬉しい。努力が報われるとはこのことなのだろう。

あの合格発表から数週間。

俺達三年生は卒業式を迎えた。

 

~組、比企谷八幡。

 

「はい」

 

俺の名前が壇上から呼ばれた。俺は壇上に向かって歩いていく。すると周りから、コソコソ声で

 

「あいつが留学するやつか?」

「え?陽乃様だけじゃないの?」

「聞いたか?あいつ陽乃さんと同じところに留学するつもりらしいぜ」

「うわ、ムカつくー」

 

まあ予想はしていたけど、やっぱり噂ってのは広まるのが早いな。

俺は壇上に上がって卒業証書を貰い、自分の席に戻っていった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

~組、雪ノ下陽乃

 

「はいっ!」

 

陽乃が呼ばれ、壇上に上がるべく軽やかに歩いていく。

 

「陽乃様よー!すごい美しいわー」

「ほんとすげーよなー、留学とか!」

「陽乃様すごいです!尊敬します!」

 

俺と反応違いすぎやしませんかね。180度違うぞ。

もうコソコソ声どころか、普通に喋ってるやついるし。

先生が静かにしなさいと、注意してもなかなか静まらなかったが陽乃が壇上に上がっていくと、今まで静かだった奴らは勝手に静かになった。

壇上を歩いている陽乃はまるでランナウェイを歩いているかのような華やかさを持っていた。決してオーバーに言ってるわけではなく、ほんとになにかオーラをまとっていた。

 

卒業証書を貰う動作一つ一つもなにかオーラを感じる。

そのまま陽乃が自分の席に戻るまでの間、異様な静けさが体育館内に渦巻いていた。…やっぱあいつすげーな。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワ

 

長い卒業式が終わり、最後のHRがおわったあと、体育館の外では卒業に感極まって友達同士で泣きあっている奴、笑いあっているリア充グループ、思い出のある先生と泣きあっている奴、ひとりでに泣いてる奴…って、平塚先生…。

 

「先生?何やってるんですか?」

「あ、いや、この子達も旅立ちなんだなと思ったら…うっ…」

「ちょ、先生…」

 

この人はほんとになんだかなー。こんなにいい人なのになんで彼氏ができないんだろ…げふっ!

 

「…失礼なこと考えるな」

「すいません」

 

泣いててもそういうことに対するのは相変わらず鋭いな。

 

「あら静ちゃん、泣いてるの?」

「ああ」

 

陽乃が一人でやってきた。てっきり取り巻きがついてくるかと思ったけど、取り巻きは周りにいなかった。

 

「ちょっと遅れちゃった。あの子達がなかなか離してくれなくて」

「お前も大変なんだな」

 

人気者は辛いな。よかった人気者じゃなくて。

 

「そうだ君達、もう明日なんだろ?」

「…うん」

「そうか。なんだか寂しくなるよ、君たちが居なくなると」

 

すこし涙目で平塚先生はしみじみと言ってきた。

俺はそんな先生に言いたいことをいうことにした。

 

「あの、ほんとに先生お世話になりました。いつも先生に助けてもらってほんとに嬉しかったです」

「うむ。比企谷も変わって私は嬉しい限りだよ」

「静ちゃん、ほんとにありがとね。ほんと生徒思いのいい先生だよ!ありがと」

「陽乃もほんとに変わったな。ホントに嬉しいよ」

「あ、そうだ静ちゃん、写真撮ろうよ!ほら、八幡も!」

「はいはい」

 

陽乃はデジタルカメラを取り出して、近くにいたおじさん先生に頼んで写真をとってもらうことになった。

 

 

「ほら、八幡端に寄っていかない!」

「俺は端が良いんだが…」

「ダメよ、八幡は真ん中」

「どっちかって言うと陽乃の方が主役っぽいから真ん中いけよ」

「まったく君たちは…」

 

俺と陽乃の掛け合いを笑いながら見守る平塚先生。こういう掛け合いもいつもの通りだ。

 

結局俺が真ん中で、陽乃と平塚先生が俺の横に並ぶという構図になった。てか腕組んできてるんですけど陽乃さんや。というか、ドサクサに紛れて平塚先生まで…。

 

「はい、撮りますよー」

 

長らくお待たせしたおじさん先生が間延びした声でいうと、さらにキュッと腕に力を入れてきた。…うーん、はずかしい…

 

カシャ

 

「はい、撮れましたよー」

「ありがとうございます!」

 

おじさん先生からカメラを渡された陽乃が画面を見ていた。

 

「あ、うまくとれてるよー」

「ほう、どれどれ…おお、なかなかいいじゃないか」

「ねえねえ八幡もみてよー」

「はいはい」

 

と、写真を見てみると……う、なんというか、俺が真ん中ってのも違和感あるし、それに両サイドにいる二人がすごく密着してて、俺が思ってた以上に密着してて恥ずかしいな…。

 

「女の子二人にこんなに密着されて嬉しい? 」

「…はずかしいよ。というかもう一人は先生だろうが」

「む、それは比企谷、私が女じゃないとでもいうのか?」

「い、いやそういうわけではなくてですね…」

「はあー、やっぱ年齢差かー。お前があと数年早く生まれてればよかったのになー。はあ、やっぱ年齢差がなー」

「ちょ、先生何言ってるんですか?」

 

何言ってるんだよこの教師は。ちょ、なんか変な感じになったじゃないか。大体教師なのにそんなこと生徒の前でいうなよ。勘違いしちゃうだろ。

 

「八幡は私のものだもんねー。ね、八幡」

「お、おう」

 

陽乃が俺の腕にくっついてきた。思わず俺の顔が赤くなった。

 

「まったく、そういうのは私の前でするなといってるだろ」

「そんな先生も早く彼氏見つけてくださいよ」

 

な、何行ってんだ俺!アホかアホか!言ったあとに気づいたわ。俺なに自分から喜んで地雷踏みに行ってんだよ!恥ずかしくてすこしパニックになってたからってこれはないわー。

怯えながら平塚先生の方を向くと、

 

「…そうだな、私も早く見つけなければな」

「え?」

 

そこには怒っていない、なにか澄んだ目をしていた平塚先生がいた。…そうか、平塚先生も成長したんだな…。

 

「じゃ、静ちゃん、私達そろそろ帰るね。準備しなくちゃ」

「そうか。もうお別れか…」

 

恐らく皆思っているだろう。楽しい時間はあっという間に過ぎるのだと。

こうしてお別れの時が近づいていると。

 

「君たちはもうここの生徒ではなくなるが、こっちに帰ってきた時はいつでも寄ってくれ」

「うん、こっちに来たら真っ先に静ちゃんの所に行くよ!」

「私はこれから君達がどんどん成長していくのが楽しみだよ。まあ成長過程を見守ることはできないのが残念だけどな。ははっ、母親とはこういう気分なのかな 」

「きっとそうだよ。静ちゃんは私達のお母さんだよ!」

「ええ。俺達の恩人です」

「ははっ、なんだかむずがゆい気分だな。でも嬉しいよ」

 

平塚先生はまた泣き出してしまった。それどころか陽乃も、そして俺も泣き出した。俺なんかここまで全く泣いてないから卒業式初泣きだな…。

 

「ふふっ、皆泣いてるね。私こういうことで泣いたの初めてかも」

「俺もだ」

「私もだよ」

「「「ハハハっ」」」

 

ここには楽しい笑い声が響いていた。なんか楽しい。そうか、これが青春なんだな。ボッチの俺には青春なんて存在しないと思ってた。だけどあの時、職員室で陽乃と出会ってから、あの作文を見られてから、俺の運命はすっかり180度変わってしまったんだな。ほんとに人生何があるかわからないよ。あんまり諦めるものじゃないな人生って。

 

そのあと俺たちはしばらく泣いたあと、

 

「じゃ、静ちゃん、私達は帰るね」

「ああ、がんばってこいよ!」

「うん!」

「先生も頑張ってください」

「バカ、人の心配せんでいいよ。じゃ、がんばれよ!」

 

俺たちは慣れ親しんだ学校から、平塚先生の元から去っていった。これが巣立ちってやつなんだな。

これから俺達は故郷日本を離れ、遠い異国の地で新たな生活が始まる。まったく文化も違う、そんな異国に行かなければならない。

平塚先生もいない、身内もいない、周りは外国人ばっかり、俺達にはこれからそんな生活が待っている。

それでも俺は、陽乃が居れば、それだけで安心出来る。

ちらりと陽乃をみると、ニコリと笑った。

そう、俺はもう一人じゃない。大事な人が近くにいる、そして互いに支え合える、それ以上の幸せなんて俺には必要ない。

俺は自ら陽乃の手を握った。陽乃は一瞬の驚きを見せた後、安心した表情を見せた。きっと陽乃にも不安があったのだろう。でも何度もいうけど、一人じゃなくて、二人なんだ。俺達二人で、お互いを支え合いながらこれから生きていく。

 

 

 

終わり

 




ついに終わりました!お疲れ様でした。いやー、長かったなー。
よく続きましたね、42話+番外編1話も書きましたよ。
当初の予定じゃ15話で終わる予定だったのが、いろいろあって計43話も書くことになるとは、本当に驚いています。そして台風も直撃して驚きました。
今まで応援してくださった方、この作品を見て下さった皆様、本当にありがとうございました。



さてこれからの予定ですが、近日中に新たな作品を書く予定です。どんな作品かはお楽しみに!
それからこの作品の続編を書くかもしれません。まだ書くか迷っているのですが、書くことになったら随時お知らせします。

それではみなさん、もう一度言いますが本当に作品を見て下さってありがとうございました!




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