やはり捻くれボッチにはまともな青春ラブコメが存在しない。   作:武田ひんげん

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彼らは本番に向けて歩き始める。

陽乃の家に乗り込んで陽乃の母親とのバトルが終わり、結果はとりあえず満足行く結果に終わった俺たち。

そんな俺達は今は陽乃の部屋に移動していた。

 

「なんとか終わったな」

「そうね、その代わりに八幡が大変な事になったけどね」

「そう…だな」

 

陽乃を日本に引き止めるという目的は達成できなかったけど、陽乃はそれで満足のようだった。

それなら良かったんだけどな。

 

「あ、そうだ」

「なに?」

「お前大丈夫なのか?日本の友達とか離れるんだろ?」「ああ、大丈夫よ。友達なんていないし」

「…そうか」

 

いつも誰かに囲まれてる陽乃。でもその周りにいる人間はやっぱり友達ではなかったんだな。

 

「ねえ、大学のパンフレットみる?」

「あ?ああ」

 

一通り目を通してみる。へえー、いろんな科目があるんだな。へえー、アクセスもいいし、なかなかいいところだな。

 

「八幡」

「ん?」

「明日から学校がはじまるね」

「ああ」

「なら勉強しないとね」

「まあ、幸い偏差値は文系ならほとんど足りてるし、あとは英語を詰めないと」

「そうね。だから、私が勉強見てあげるわ」

「…すまないな」

 

ふう、明日から頑張らないとな。絶対に受からねーといけないな。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

翌日から俺の勉強会がはじまった。

久しぶりにあの空き教室にやってきた俺と陽乃。

いつもの席に座って、2人でガリガリと勉強している。

でも、陽乃はほぼ完璧というので俺の勉強を見てもらっているというと言った方が正しい。

ちなみに陽乃は、試験の過去問を解いているが、英語で書いてあるのでそこで苦戦しているようだった。

おれもとにかく英語を解いているが、実際に目の前にすると厳しいかもしれない。

 

「分からないとこある?」

「ん?あ、今のところはないよ」

 

これだけの会話しかできないほど切羽詰っている状況だった。とにかく詰め込めるだけ詰め込まないと。

 

ガラララ

 

「入るぞ」

 

平塚先生が入ってきた。でも俺たちは返事をする余裕さえなかった。平塚先生と会うのはあの京都とかに行ったとき以来だったので、様子を見に来たのだろう。

 

「どうしました?」

 

俺は出ていく気配のまったくない平塚先生の方を向いた。

 

「…比企谷、留学するというのは本当か?」

「はい」

「しかも陽乃と同じところだと聞いているが」

「そのとおりです」

「そうか。だから今こうして勉強しているのか」

「はい」

「なら邪魔してはダメだな。これで失礼するよ。

あ、それから比企谷」

「はい?」

「…ほんとにいいのか?自分の意志でいくんだな?」

「…はい」

「…わかった。では失礼するよ」

 

扉をとじて平塚先生が出ていった。そうだ、俺は自分の意志で留学するんだ。

そうだと心に決めつけて、勉強に集中した。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

今日も放課後は勉強だ。

とにかく、問題文が読めるほどにまで英語を叩き込んだ先週一週間。今週からはランクアップして入試問題を解き始めた。

 

カリカリカリカリ

 

ペンの音だけが聞こえる教室内。陽乃も同じく書いている。

やってみてわかったが、想像よりも難しくないというのが感想だ。

まあ俺がハードルを上げすぎただけかもしれないが。ただ、留学の入試問題は普通よりも簡単とは聞いていたが、俺の受ける大学は有名で、さらに受ける科は大学内でも難しいところなので覚悟はしていたが、少し安心したのが感想だ。

でも油断はできない。だからとにかく絶対受かるという自信はつけとかないとな。

 

1ヶ月後の本番まできっとあっという間だろう。だから、とにかく頑張るのみだ。

最近は家でも2時間はしている。幸い俺の弱点の数学と物理とかは試験科目にないからそこは救われた。でも、英文で書かないといけない小論文はそうとうやばい。主に家では普通の科目をして、小論文は学校でわからないところは陽乃に教えてもらいながら行っていた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

のこり一週間となった試験日。だいぶ自信もついてきて小論文も陽乃に聞かなくても書けるほどのレベルになってきた。あとはとにかく書くのみ。来週に迫った試験日に向けてとにかくガリガリと勉強していた。

あと、今週の土日からロンドンに移動することになった。旅費などはすべて向こうの大学もちということらしい。それは俺にとっては金銭的にはたすかったのだが、心理的には追い詰められている。大学が出すということは俺らが期待されているということなのだろう。それを考えてしまうと俺は追い詰められてしまった。

焦りがペンに向けられた。いつもの倍の早さで字を書いている。落ち着かないと、という冷静な判断もできなかった。

とにかく目の前の文字だけしか見えない。受からないと、受からないと、受からないと、受からないと、受から…

 

「…ちまん、八幡!」

「!?」

 

陽乃の叫び声で我に帰ってきた。と同時にまわりがかなり暗くなっていた。冬だから日は短いのだが、暗くなっていくことにまったく俺は気づかなかった。

陽乃の顔は暗くて良く見えないが、かなり心配そうだった。

 

「あ、大丈夫だ。もう暗いな、帰ろうか」

「八幡」

 

そういうと、俺に抱きついてきた。

そのまま無言で俺も抱きしめ返した。ここで陽乃も震えてることに気づいた。

 

「大丈夫よ。私もそう感じてるから。八幡だけではないわ。私も怖いのよ」

「ああ」

「だから、君だけじゃない。もう一人ではないわ。だから大丈夫よ」

 

二人は強く抱きしめあった。俺はそれがとても心地よく、そして心が落ち着いていった。

 

 

続く




次回投稿は8月19日19時頃です。

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