やはり捻くれボッチにはまともな青春ラブコメが存在しない。   作:武田ひんげん

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決戦前にすこしひと休みしてもいいはずだ。

「でも、いったいどうするの?」

「どうって、乗り込むんだよ」

「どこに??」

「お前の両親のところに」

 

陽乃を救うために俺は決意したんだ。だから一番効果的な陽乃の両親に会って直接説得してやる、と言おうとしたが、良く考えたらそれは俺の勝手な考えで向こうの都合は全く考えていないことに気づいた。

 

「えーと、そういえば明日両親っているのか?」

「え?ああ、正月まではいるわよ」

「そうか」

 

ならよかった。これで心置きなく行ける。

 

「ねえ、ホントに明日行くの?」

「当たり前だろ」

「…わかったわ。でもうちの両親一筋縄では行かないわよ。特に母」

「…そうなのか」

 

たしかにこの陽乃を操作できるんだからそれだけ大物だってことか。こりゃ俺もなにか作戦とか立てないとな。

 

「具体的にはどういう風に母を説得するわけ?」

「それはその、考えて…あるぞ」

「…絶対考えてないでしょ」

「…はい」

 

たしかに若干勢いで言ったから考えてなかった。…いや結構勢いか。

 

「とりあえず、二人で考えましょ」

「そうだな」

 

俺達は一時間ほど話し合った。どうすれば説得できるかとか、どうすれば陽乃の気持ちが伝わるのかとか。

一時間立つと、さすがに小町が帰ってくるのでお開きとすることにした。

 

「じゃ八幡、また明日ね」

「ああ」

「…がんばろうね」

「もちろんだ」

 

それじゃと最後に言って帰っていった。2人で話し合って朝の9時に駅前集合ということにした。さて俺は明日に向けて早く寝ますかね。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

ピピピッ

 

目覚まし音が鳴った。俺はそれを一瞬で止めた。なぜなら目覚ましをセットしていた7時よりも一時間早く起きたから。

今日は朝からドキドキして目が冴えてしまった。ああ、今日か。陽乃の運命は俺にかかってるんだ。

そう思うとやる気がでてきた。と同時に不安感も出てきた。もし陽乃の両親を説得できなかったらどうしようと。

まあ昨日二人で話し合ったし、そうなりそうな場合は手はあるんだけど。

とりあえず、顔をもう一回洗ってこよう。

いや、8回目か。

 

 

顔を洗って、服装も自分の中で一番しっかりしている服の制服着て、よし、準備できた。

あとはこの玄関の扉を開けるだけ。ふう、よし、いこう。

俺は待ち合わせの駅前に向かった。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

駅前にやってくると、あ、もういる。だってまだ約束の30分前だぞ。

 

「よう」

「あ、八幡、おはよ」

 

いつもは余裕の表情を見せている陽乃も珍しく緊張していた。

 

……。

 

二人のあいだになんとも言えない緊張感が漂っている。

そうだ、これから陽乃の両親の元に行くんだ。それに俺初めていくけど大丈夫かな?でも、なんか聞けないな。雰囲気的になんか聞きづらい。

 

「八幡」

「ひゃい?」

 

それだけに、突然話しかけてきた陽乃に対しての返答を噛んでしまった。

 

「なに八幡、緊張してるの?」

「…お前もだろ」

「あら?わかった?」

 

言葉では余裕綽々みたいな感じでいってるけど、手震えてるぞ。

 

「あら?あ、手が震えてるね」

「ああ」

 

俺はこんな状況にも関わらず変なことを考えてしまった。もし今この手を握ったらどうなるのだろうと。

どんな反応をするのだろうと。でも今から決戦だってのにそんなことをしてていいのかよ…。したとして陽乃はどう思うのか。でも、握ってみてー。

そして俺が出した結論は、

 

ギュッ

 

「キャッ?」

 

手を握ると陽乃が普段聞くことができない可愛い声を出した。

 

「え?なんで手を握ったの?」

 

まだ余裕をかまそうとしている。ちょっと俺はさらにいじめたくなった。

 

ギュッ

 

「へ?へ?」

 

そっと、抱きしめた。いやー、なんか小鹿みたいに震えてるなー。きっと想定外もいいとこ想定外の動きをしてきたからさすがの陽乃でも動揺しているのだろう。

 

「な、なんで急に抱きしめたりしたのかな?」

「…」

 

俺は無言のまま抱きしめ続けた。なんだか周りからの目が痛い。そりゃ、朝からこんな熱々なことをしているんだからな。ん?あつあつ?

はっ!俺今してることって結構恥ずかしいことじゃん!陽乃の反応が見てみたいがために抱きしめてみたけど、良く考えたらこれって…。

そう思うと、急に恥ずかしくなってきてぱっと離してしまった。

 

「え?ねえ八幡、どうしたの?」

「え?あ、いや、そのな…」

 

すると、陽乃はハハーンと言うような目でこっちを見て

 

「どうせ、私が震えてたから、抱きしめたりしたらどんな反応するかーとか思ってたんでしょー?」

「う…」

 

全てあってる。そんなに俺って分かり易いやつなのかなー?

そういってると、

 

んっ

 

「????」

 

キスをしてきた。ちょちょちょい!ここ駅前!しかも朝!めっちゃ人見てる!

 

「ぷはあっ!」

 

息ができひん…。

 

「これは、お返しよ」

「はあ、はあ、ひゃい…」

 

くそう、陽乃いじったら倍のイジリで返してくるのか…。くそう、今度から気をつけよ。そうじゃないとこうなるんだ。

てか俺達これから戦いが待ってるのにこんなことしてるひまないだろ。

というか、ここでじっと二人で九時までいるより、集まった段階で出発しとけばよかったのじゃないか?

 

「わたし達こんなことしてる暇なかったね。じゃ、いこうか」

「あ、ああ」

 

ああ、やられちゃったよ。脳内では冷静な判断できても実際に口開くとまだあの感触がのこってるよぉー。

大丈夫かな?俺。

 

 

 

続く




次回投稿は8月15日の19時頃です。

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